軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

87話 愚かな王様、愚かな大臣

テイマーのエレンが、魔王軍幹部を撃退した。

その知らせは冒険者ギルドマスターを伝い、エレン達のすむ国の国王の下まで届いた。

国王【グォーディス】は、執務室にて、ふぅ……とため息をつく。

「お父様、いかがなされたのです?」

グォーディスの前に立つのは、第一王女【ナタリア】姫だ。

短く切った黄金の髪。

スレンダーな体つきに、青いドレスが良くに似合う。

「なに、新たな【勇者】となりうる人物が見つかったとの知らせが来てな」

ふぅ、吐息をつきながら、憂い顔でグォーディスが言う。

「まぁ……! 素晴らしいことではありませぬか!」

一方でナタリアは晴れやかな表情で言う。

「どのような御方ですのっ? オロクァのような粗暴な勇者でないといいのですが……」

ナタリア姫は、父が選んだ前勇者オロクァにたいして、あまり良い感情を抱いていなかったのだ。

勇者にあるまじき凶暴性を秘めた男に、国の行く末を任すことをかなり不安がっていたのである。

「……エレンという特S級の冒険者だ。強いだけでなく弱きを助け、悪事を許さない正義漢だそうだ」

「まぁ! まぁまぁ! 素晴らしい人ではありませぬか! なぜお父様はそんなにも浮かない顔をしているのですか?」

はぁ……とグォーディスは深くため息をつく。

と、そのときだった。

「国王陛下、お呼びでしょうか?」

「おお、カバイゴス、待っておったぞ」

入ってきたのは大臣の【カバイゴス】。

グォーディスの右腕的な存在だ。

「ナタリア、仕事の邪魔だ。立ち去るが良い」

「お父様、先ほどの質問にお答えください。どうしてエレン様のような素晴らしい人が勇者となるのに、そんなにも不満げな……」

「いいから出て行け! 政治もわからぬ小娘の分際で、父に意見などするな!」

ナタリアは納得がいってないような表情になるが、しかし公務の邪魔をしないよう、部屋から出て行く。

「姫はなかなかに鋭いでございますね」

「ふんっ! 勘のいい子供は嫌いだ。やりにくいったらありゃしない」

カバイゴスは苦笑すると、報告書類をグォーディスに提出する。

そこにはエレンの身辺調査の結果が記されていた。

「……大臣、どう思う?」

「率直に申し上げますと、エレン・バーンズは非常に【使い勝手の悪い】勇者、でございますね」

はぁ、とグォーディスはため息をつく。

「我が国は勇者を選出し、魔王軍と正面切って戦っております。ゆえに、他国から多大なる援助を受けているのが現状です。しかし……」

「マズい、マズいぞ。非常にマズい。このエレンとかいうガキは、困ったことに力も正義感も強すぎるのだ」

報告書によると、エレンは単独で、魔王軍幹部クラスを容易く葬り去ったとある。

「少なくとも幹部クラス以上の強さをエレンが持っていることは確定です。下手すれば魔王すらも凌駕するやも……となれば年内に魔王を倒すという展開もあり得ます。困ったことです」

「そう! そうなのだ。そんなに早く魔王を倒されては困るのだよ、まったく……!」

「その者が魔王を倒すことで、他国からの援助が受けられなくなりますからねぇ……せっかく甘い汁を啜っているというのに……」

深々と、国王と大臣はため息をつく。

「その点で言えばオロクァは優秀でした。あの殺戮マシーンには正義感はなく、好き勝手暴れることができればそれでいいという男でしたからね」

「そう、いちおうは魔族を殺しているから、他国への言い訳も成り立つし……つくづく、惜しい男を亡くしてしまったわい」

カバイゴスが報告書を2冊取り出し、国王に提出する。

「残り2人の特S級冒険者達のリストです。どちらもエレンには戦闘面で劣りますが、利己的な性格をしており、エレンより御しやすいかと」

グォーディスは満足げにうなずく。

「なるほど、ではそやつらを勇者に据えることができれば、また甘い汁をすすれるというわけだ」

「ええ、邪魔者を排除する手立ては、すでに考えております……」

くくく、とふたりは邪悪に笑う。

「今どき、正義感を持った勇者など、時代錯誤なのだ。今は己の欲に忠実な、愚かな勇者がもとめられているのだよ……」

「国王陛下のおっしゃるとおりでございます!」

と、そのときだった。

「お父様! どういうことですの!?」

乱暴にドアを開けると、ナタリア姫が入ってきたではないか。

「なんだ貴様、まだいたのか?」

不愉快そうにグォーディスが顔をしかめる。

「お父様と大臣との会話を聞きました! なんて酷いことをなさっておられるのですか!」

「酷い? どこがだナタリア?」

「どこがって……魔王討伐をワザと遅らせ、他国からの援助で私腹を肥やそうとなさってましたよね!?」

「それの、どこが悪い?」

グォーディスの開き直った表情に、ナタリア姫は言葉を失う。

「金はあって困ることはないだろう? 魔王退治に資金が必要なのは事実なのだ」

「しかし! 長引かせる必要がどこにありますか! そのせいで民達が長く苦しむハメとなるのです!」

バンッ……! とナタリアは王の執務机をたたく。

「エレン様がいれば驚くべき早さで世界に平和が訪れる! とてもいいことではありませんか! ならばエレン様に魔王討伐を依頼すべきです!」

「はぁ~~~~~~~~………………まったく、このバカ娘が。調子に乗るなよ。おい、大臣」

カバイゴスはうなずくと、腰の長剣を抜く。

「な、何をするのですか! わたくしはナタリア、王の娘に剣を向けるというのですか!」

「ええ、それが国王陛下の下した命令ですからねぇ~」

大臣は剣の 才(スキル) を持ち合わせていた。

ヒュッ……! と剣を振ると、ナタリアの背中を浅く傷つける。

「あっ……!」

「おや、外れてしまいましたかぁ。まあ今度は外しませんけどねぇ……」

ニヤニヤと笑いながら、カバイゴスがナタリアに近づく。

彼女は大臣を見据えながら、後退する。

「こんな非道……神が黙っているとお思いですか、カバイゴス! お父様!」

「くっくっく、この世に神などおらぬわ……! もし本当に存在するなら、なぜ私は無傷なのだぁ~……?」

「悪人がまかり通っている時点で、神などいないのですよ、ナタリア姫」

2人の邪悪の前に、ナタリアは泣きそうになる。

信じていた父と大臣が、ここまで腐っていたとは……。

ナタリアは部屋の隅へと追い詰められる。

「秘密を知られてしまった以上、その娘は生かしてはおけぬ。大臣、殺せ」

「仰せのままに……!」

カバイゴスが剣を振り上げた、そのときだった。

ピタリ……と、大臣が動きを止めたのだ。

「……………………え? ど、どうなっていますの?」

ナタリアはあたりを見渡す。

まるで、時間を止められたかのように、すべての動きが停止していた。

そのときだった。

『神はいるよ』

止まった空間のなかで、脳内に女の声がする。

「だ、誰ですの……!」

『細かいことは気にしなくていい。神は実在する。君が望めば会わせてあげる。どうだい?』

正直何が起きているのかさっぱりだった。

しかし今は絶体絶命。

わらをも掴む思いで、ナタリアは叫ぶ。

「会わせてください!」

『了解した。君を彼の元へと導こう』

その瞬間、ナタリアの体が消える。

別の場所へと、転移させられたのだ。

時間停止が解ける。

「なっ!? ナタリア姫がいなくなった……ですとぉ!?」

大臣の視点では、一瞬で王女が消えたように見える。

「なにぃ! 探せカバイゴス! ナタリアを消すのだ!」

「ハッ……! 畏まりました!」

カバイゴスは慌てて部屋を出て行く。

「アレらは生かしてはおけぬ。そうそうに殺さねば」

……その様子を、部屋の隅、空中に浮かんでいる【彼女】がしっかりと見ていた。

「エレンへの敵対行動と認定するよ。愚かな王、それにスゴイバカな大臣くん。君らへのペナルティは、この精霊王がちゃんとくだしてあげるからね」

一部始終を見ていたルルイエが、そうつぶやくのだった。