軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

85話 魔王軍幹部、動く

ぼくが勇者オロクァを撃退してから、数日後。

早朝。

トーカの街郊外の、草原にて。

「やぁ! たぁ! せやぁ!」

ぼくは手に持った【それ】を使って、素振りをしていた。

純白の刀。

シミ1つ無いその美しい刀身。

「ふふっ、やはりエレンには【聖剣】がよく似合うね!」

素振りしているぼくを、そばで美女が見ている。

高い身長。

黒いドレスに、真っ白な長い髪の毛。

彼女は精霊王ルルイエさん。

「ルルイエさん……本当にこれ、ぼくが持ってていいものなの?」

「もちろんだよ! その剣は使い手を選ぶんだ。所有権はオロクァから君に移った。つまり君の剣だ」

オロクァが使っていたモーニングスター。

彼を倒した際、持ち手の部分だけが残された。

それを拾ったところ、今のこの純白の刀へと形状を変化させたのだ。

「さながら【神子の聖剣】といったところかな」

「でも……人のもの勝手にもらうのはよくないよ。勇者だって剣がなきゃ困るだろうし」

するとルルイエさんは感極まったような表情になると、ぼくに飛びついてきた。

「ああ! エレン! 君はなんて! なぁんて優しい子なんだぁ! 良い子! とっても良い子良い子だよぉ!」

わしゃわしゃ、とルルイエさんがぼくの頭をなで回す。

彼女の大きな乳房が顔に当たって、柔らかくて気持ちが良い……。

って、駄目だ駄目だ!

女の人に失礼だぞ!

ぼくはぐいっと手で押して彼女から離れる。

「聖剣の話だったね。剣は自ら意思を持っているんだ。君が選ばれたってことは、剣が君の方がふさわしいと判断したんだよ。だから気にせず使いたまえ」

剣が選んでくれたなら、使うべきかな。

それにオロクァに持たせると、また多くの人を傷つけてしまう。

「わかった。ぼくが使うよ」

ぶんぶんっ、とぼくは素振りをする。

「僕のエレン、どうして朝練なんてするんだい? 精霊の神子の力は絶大さ。君が望めば世界だって手に入る。なのになぜ素振りなんてするの?」

「だって神子の力は、結局ルルイエさんからお借りしてるものだから。それは本当の意味での自分の力じゃない。だから、自分の力をきちんと身につけないとって」

「うう……♡ エレー……ン♡ んもぉ~♡ ちょう良い子! 大好き♡ 好き♡ 好き♡ 好き~~~~♡」

またルルイエさんが、ぼくに抱きつこうとしたそのときだ。

ヴン……と、ぼくらの前に、ゲートが開いたのだ。

「ゲート!? ま、魔族か!」

ぼくは聖剣を手に持って、ゲートを見やる。

そこから出てきたのは背の高い魔族だ。

彼らが膨大な魔力を体に秘めていることが、伝わってくる。

「ごきげんよう、新たなる勇者よ」

眼鏡をかけた魔族が、ぼくに話しかけてくる。

「勇者……? ぼくはエレン、冒険者だぞ」

「聖剣の使い手となったのですから、あなたが勇者ということになるのですが……まあいいです。初めまして、エレン」

すっ……と慇懃に頭を下げる。

「ワタクシは魔王軍最高幹部、【七大罪】。その一人、【ラース】と申します」

「七大罪……ラース……。魔王軍、最高幹部だって!」

こくり、とラースがうなずく。

「魔王様にお仕えする7人の最高幹部を【七大罪】というのです」

「最高幹部が……いったいぼくに何のようだ!」

ジッ……とぼくを、そしてルルイエさんを見て、ほぅ、と感嘆の吐息をつく。

「その身に秘めたとてつもない力……魔王様が欲しているのですよ」

「魔王が……ぼくを?」

「ええ。ワタクシは今日、あなたをスカウトに来たのです」

「スカウト……だって?」

バッ……! とラースがぼくに手を差し伸べる。

「その強大な力、魔王様の元で存分に振るってみるつもりは……」

「断る!」

何をふざけたことを言っているんだ、こいつは!

「魔王の仲間になれってことだろ! そんな気は毛頭ない!」

「魔王軍に入れば、その絶大な力と合わせて、この世界を支配することも可能ですよ?」

「そんなことぼくは望まない! この世界は誰のものでもない!」

やれやれ、とラースは呆れたように首を振る。

「交渉決裂ですか。強い力を持っていても、やはりまだ子供。損得勘定ができないようですね」

「損得でぼくは冒険者をやっているわけじゃない! おまえたちみたいな、人の生活を理不尽に脅かす悪を倒すために、剣を振るうんだ!」

ふぅ、とラースが吐息をつく。

「まあいい。力尽くで君に言うことを聞かせるとしましょう。出でよ、我が部下達」

ぱちんっ、とラースが指を鳴らす。

草原に、無数のゲートが開く。

中から出てきたのは、数え切れないほどの魔族の群れだ。

「こんなにたくさんのゲートを……一度に出すなんて」

「ははっ! どうです我が1000の軍勢! しかもワタクシの権能【憤怒】は、彼らの力を特級にまで底上げできる! 対してきみは1人で、さて何ができるのかな?」

ぼくは聖剣を握り直す。

特級魔族1000体相手に、ひとりで立ち向かえるだろうか。

仲間を呼んだ方が……いや、そのあいだに街を襲われたら駄目だ。

「エレン、だぁいじょうぶだよ♡」

後ろから、ルルイエさんが抱きしめてくる。

柔らかな胸の感触と、甘いにおいが、ぼくの心を静めてくれる。

「君は最強だ。こんなザコ、君一人で倒せるよ」

彼女は微笑むと、ぼくの背中を押す。

「精霊王ルルイエが敵対行動と認定した。よって我が力、エレンに限定譲渡する」

その瞬間……ぼくの体から、凄まじい力があふれ出す。

オロクァ戦で見せた、精霊の神子としてのパワーだ。

草原に魔力の暴風が吹き荒れる。

「なっ!? なんて莫大な魔力……! 魔王様に匹敵する……いや、それ以上の力だと!?」

ラースが青ざめた顔で言う。

「皆のもの! やつを殺すのです! この化け物は放っておいてはいけません!」

特級魔族1000体が、草原を走り出す。

「さぁ行ってエレン」

ぼくはうなずくと、手に持った聖剣を振り上げる。

「たぁああああああああ!」

聖剣を振り下ろすと、尋常じゃなく巨大な斬撃が走る。

魔力を帯びた斬撃は、前方へと飛翔すると、魔族達の大群と激突。

激しい爆音を鳴らしながら、地面ごと魔族達を消し飛ばした。

「なにぃいいいい!?」

「今ので200は消し飛んだかな。さぁエレン。存分に暴れておいで♡」

たんっ……! とぼくは地面を蹴る。

一瞬で魔族達の懐まで潜り込む。

「やぁ! たぁ! せやぁ!」

剣を振るたび嵐が巻き起こる。

魔族達がまるで木の葉のように容易く吹き飛んでいく。

「ひぃいいいい!」「なんだこいつめちゃくちゃ強いぞ!」「に、逃げろぉおおお!」

特級達が恐れをなして、ぼくから逃走する。

ラースは焦った表情で、彼らとともに撤退する。

「くそっ! 想定外だ! 特級をまるでスライムのように容易く倒していくなんて!」

ゲートをラースが開く。

「逃がすか! 閉じろ!」

ぼくが言うと、ラースが開いたゲートが消滅する。

「そんなバカな!? 最高幹部のスキル使用権限を、乗っ取るだと!? あり得ない!」

行き場をなくした魔族達に、ぼくは聖剣を向ける。

「おとなしく降伏しろ!」

「く、くそ! おいおまえら何をビビっている! 全員で殺せ! エレンを殺せぇ!」

だが特級たちは、完全に戦う気力を無くしていた。

「む、無理ですよぉ……」「あんな尋常じゃない魔力と力を見せつけられたら……」

「ええい! 愚か者どもが! こうなったら無理矢理にでも戦わせてやる!」

ぱちんっ! とラースが指を鳴らす。

すると残っていた特級達の体が、ボコボコと膨れ上がっていく。

「ワタクシの権能は無理矢理力を上げることができる! やつらの力を限界を超えて引き上げた! あと1分の寿命だが、死ぬ前にエレンをぶち殺しやがれぇ!」

力を無理矢理に底上げされ、異形と化した魔族達が、ぼくに襲ってくる。

「……あと1分で死ぬだって。命を……なんだと思っているんだ!」

「いいんだよぉ! 弱者の命なんて所詮ゴミクズ! ワタクシに利用されて散るなら本望だろうがぁ!」

異形となった特級達が、こちらに向かって走ってくる。

「……ぼくは、おまえみたいな自分勝手な奴が大嫌いだ」

バッ! とぼくは魔族達に手を向ける。

「何をする気か知らないが、こいつらはワタクシのスキルによって改造された命! きみを殺すまで絶対に足を止めない!」

「【 契約破棄(リリース) 】!」

その瞬間、聖なる炎があたりに広がる。

魔族達を包み込むと、彼らの姿が、元に戻った。

「そんなバカなぁああああああああ!?」

愕然とした表情で、ラースが戻った魔族たちを見やる。

「魔王軍最高幹部の憤怒の力を打ち消したというのか!?」

「ふふっ、バカなやつ。今のエレンは、どんな力だって無力化させられるんだよ。ああ、さすがエレンだ♡ 素晴らしい力だよ……♡」

戦意をなくした魔族達。

ぼくは手を広げる。

ゲートが出現すると、彼らを元の世界に帰した。

「無数のゲートすらも……自在に操れるのか! なんて力だ……!」

「おとなしく帰れ。そして、二度と人間界に来るな!」

ぼくが言うと、ゾクッ! とラースが背筋を震わせる。

「こ、この……ゴミがぁあああ! 魔族に命令するなど思い上がるなぁあああああああああああ!」

ラースが殴りかかってくる。

ぼくは聖剣を持って、彼の胴を払う。

「うぎゃぁあああああああああ!」

聖なる魔力に飲まれながら、彼が吹っ飛んでいく。

空の彼方へと、ラースは消えていった。

「ふぅ……」

「ああ! 見事だったよエレーン!」

だきっ! とルルイエさんが笑顔でぼくに抱きつく。

「魔王軍幹部相手すら、赤子の手をひねるかのごとき大・活・躍! やはりエレンはすごい! つよい! 最高だ!」

ぴょんぴょん、とルルイエさんが飛び跳ねる。

「けど……魔王軍幹部に、狙われちゃった」

「ふふっ、大丈夫だよエレン。君がいれば全く問題ないさ。さて……」

ルルイエさんはぼくから離れると、ぱちん、とウインクする。

「僕はちょっと出かけてくるね♡」

「どこいくの?」

「ちょっと……ゴミ掃除、かな」

ふわ……とルルイエさんは浮き上がると、空の彼方へと消える。

「……まったくしぶといなぁ、魔族ってヤツは。ペナルティ、しっかり与えないとね」