作品タイトル不明
77話 魔王子、人間たちに逆襲される
テイマーのエレンが、第7魔王子を退けた。
場所は変わって、ここは人間界に存在する、魔王の領土。
現在、人間の世界に魔王は侵攻してきている。
奈落の森と呼ばれる大森林を挟んで向こう側に、魔王城はあった。
魔王城の大会議室にて。
第7魔王子セブンスは、他の王子たちと顔を突き合わせていた。
会議室には、6つの鏡が円テーブルを囲っている。
そこにはそれぞれ、王子たちの姿が映っていた。
『で、セブンスよ。話とは何だね?』
眼鏡をかけた第1王子ファウストが、鏡ごしにセブンスを見やる。
六人の兄弟たちの視線が、一気に集まる。
「アーシアのことだ。ちょっとイレギュラーな事態が起きててよ、情報を共有しておいてやろうと思ってな」
セブンスはエレンのことを話す。
「あの出来そこないの妹には、とんでもねえ強い人間の護衛が付きやがった。いくらアーシアが弱いからって、安易に手を出すと痛い目みるぜ」
『ははっ! バカじゃないのセブンス? 人間が特級魔族にかなうわけないだろ~?』
鑑の向こうから蔑んでくるのは、第2王子セコンズだ。
『まったくである。おぬし、自分がアーシアに負けたのが恥ずかしくて、話をでっちあげているのであるか?』
禿頭の巨漢、第3王子サードがため息をつく。
「ちげえよ! マジなんだって!」
『顔真っ赤にしちゃてはっずかし~☆ ちょ~だっさぁい☆』
けらけらと笑うのは、美しい顔の一見女性に見える第4王子フォース。
「とにかく! おれさまは忠告したからな。アーシアは確かに一番弱いし、手始めに殺そうとする気持ちもわかる。が、不用意に手を出して返り討ちに会うのは馬鹿だぜ」
はぁ、と王子たちがため息をつく。
『忠告痛み入る、セブンスよ』
『仕方ないから弟の助言に従ってあげよっかなーっと』
『うむ、そうだな。アーシアは後回しにするのである』
『ま、別にいいけど~☆』
王子たちがうなずいたのを見て、内心でセブンスはしめしめと笑う。
(バカな王子どものことだ、おれの忠告なんて聞くわけがねえ。そんであのアーシアの護衛の化け物に返り討ちになりやがれ。よしんばあいつらが勝ってもただですむわけがない。戦力が削れれば御の字よ)
ようするに、王子をエレンにぶつけて、どちらかの戦力を削るという意図があったのだ。
セブンスのたくらみに気づいたものもいれば、そうでないものもいた。
いずれにしろ、王子たちはエレンという人間に対し興味を抱いた。
特級魔族、魔族の頂点に立つ猛者たち。
彼らの眼がエレンに向く、それはすなわち彼の身の危険につながる。
砂粒ほどの危険の芽であっても、精霊王が黙っているはずがない。
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精霊使いへの敵対行動を感知しました。
第1~7王子の 魔核(イビル・エレメント) を剥奪します。
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王子たちの通信を終えたセブンスは、城のなかを歩いていた。
「しばらくはバカ兄貴たちの動向をうかがいつつ、力を蓄え、あのエレンとかいうガキへの復讐にそなえるか」
セブンスがやってきたのは、地下に存在する【食糧庫】だ。
「だせ! ここから出してくれ!」「息子にあわせてくれー!」
目の前に広がるのは、鉄格子でできた地下牢。
魔族にとって食糧とは、つまり人間たちのことだ。
人間界で拉致してきては、こうして牢屋に入れて、腹がすいたタイミングで食べるのである。
彼はひとつの牢屋の前にやってきた。
「よぉ、サルども。元気か?」
牢屋に入っているのは、同じ村から連れてきた村人たちだ。
しかし全員が大人。
不自然に子供がいないのである。
「連れて行った子供たちはどこへやったんだ! 教えろ!」
村のリーダー格らしき青年が、セブンスをにらんでくる。
「サルが、おれさまに命令するんじゃあねえ。ま、おれさまは優しいからよ、特別に教えてやってもいいぜぇ?」
セブンスはパチンッ、と指を鳴らす。
魔法陣が牢屋の中に展開する。
亜空間に収納されていた【それら】が、転送されてくる。
「な、なんだこの骨は!?」
地面に散らばるのは、無数の人骨。
そのサイズは大人と比べて小さい。
「こ、これ……ま、まさか……!」
さぁ、と村の青年たちが青ざめた表情になる。
「ひひひっ! そのまさかだよぉ! 美味かったぜぇ、おまえらのガキはぁ!!!」
村の子供達だけを先に連れて行き、セブンスが食べたのである。
「子供は肉が柔らかいしよぉ! なによりガキどもの悲鳴が最高だ! おかあさんおとうさんって、みじめに鳴く姿が本当に最高だぜぇえ!」
位の高い魔族たちにとって、人間は家畜だ。
そして愛玩動物でもある。
人間の命をもてあそび、恐怖や絶望を味合わせることを、至上の悦びとする。
「あぁああ!」「坊やぁ! 坊やぁああああ!」
子供を失い村人たちは嘆き悲しむ。
その様を見てセブンスは快楽を覚えていた。
ただ食べるのではなく、こうして人間たちを絶望させてから食料とする。
それがセブンスの食に対するこだわりだった。
……もっとも。
それは彼が種として絶対的な強者の立場にあったからこそできたことだ。
彼は知らない。
知らず虎の尾を踏み、全てを奪われていることを。
「くそぉ……くそぉおおおおお!」
リーダー格の青年が、涙を流しながら、セブンスに憎しみの感情を向ける。
「殺してやる!」
「よ、よせやめろ! 相手は特級魔族だぞ!?」
村人たちがリーダーを引き留めようとする。
みなわかっている、相手は尋常ならざる化け物であることを。
だが子供を理不尽に奪われたという怒りは、理性を奪い、人を獣に変えてしまう。
「はっ! かかってこいよサル。もっとも、おれさまにダメージ一つ与えることなんてできないけどよぉ! ぎゃーっはっはぁあ!」
「このぉおおおおお!」
振り上げたこぶしが、セブンスの頬に突き刺さる。
実にあっさりと、魔族は村人に殴り飛ばされた。
「ぶべぇええええええええええ!」
ぐるんぐるんと回転しながら、セブンスは地面に倒れる。
「え? ど、どうなってるんだ……?」
殴った本人も、そしてセブンスさえも、今起きたことが理解できなかった。
「ば、バカな!? たかが非力な村人ごときが、おれさまに触れることすらできないはずなのに!?」
「よくわからねえが……てめえをぶち殺すことができるようだな!」
リーダー格が殺意をたぎらせながら、セブンスに近づいてくる。
「ちょ、調子に乗るなよサルが! 死ね! 【 煉獄業火球(ノヴァ・ストライク) 】!」
しかし炎の極大魔法が、発動することはなかった。
「なぜだぁ!? どうなって……ぐぇええええ!」
リーダーが馬乗りになって、セブンスの顔をぼこぼこに殴る。
「おら! 死ね! 死ねぇえええ!」
「や、やめ、やめろおぉおおおおお!」
村人たちは困惑から覚めると、リーダーと一緒になって、セブンスに暴力を振るう。
命を奪われた子供の代わりに、敵である魔族を殺そうとする。
「子供達のかたきだ!」「死ね! 死ね!」「くたばれこの悪魔ぁ!」
本来ならば彼らの攻撃なんて微塵も効かない。
だが今のセブンスは、魔族の力の源を奪われている。
つまり、人間と同格の存在にまで、弱体化させられている。
「な、なんで!? どうじで!? どうじでだよぉおおおお!」
数による暴力の前に、セブンスは手も足も出ない。
彼はなぜ、人間ごときにされるがままになっているのか、理解していない。
さもありなん、今回は弱体化の理由を知らないほうが、よりセブンスが苦しむと精霊王が考えたからだ。
ややあって。
「…………」
セブンスだった肉塊は、牢屋の隅に転がされていた。
全身を殴打された彼は、骨がおれ、肉が膨れ上がり、とても人前に出れないような無残な姿となっている。
「う、うう……」「坊や……坊やぁ……」
村人たちは子供を失った悲しみに、さめざめと涙を流す。
いくら元凶を痛めつけたところで、死んでしまった子供らは帰ってこないのだ。
「ちくしょう……神様、どうか……子供たちを、返してください……」
リーダーが涙を流しながらそういった、そのときだった。
「神に祈る必要はないよ」
村人たちの前に、赤く光る粒子が集まる。
それはひとりの、美しい女性の姿へと変化した。
「だ、だれだ!?」
「僕はルルイエ。冒険者、エレン・バーンズの愛の奴隷さ」
突然のことに、村人たちは困惑する。
「エレンって……たしか強くて有名な、冒険者だっけ?」
村人のなかの一人がそういうと、精霊王はテンション高く言う。
「そう! そうそうそうだよ! 超強くて超かっこいい、エレンのことだよ! いやぁ、君はよくわかってるねえ!」
超上機嫌な精霊王、その一方で村人たちの困惑は増すばかりだ。
「その、エレンさんの奴隷さんが、何の用ですか?」
どうやら愛の奴隷という言葉を、村人は単なる街で売られている奴隷と判断したようだ。
「村人たちよ、子供を奪われ、さぞ心を痛めただろう。けれど安心するんだ、君たちの子供をよみがえらせてあげよう!」
なにを言ってるのだと、その場にいる全員が思った。
「僕には奇跡を起こす力がある。君らが望めば死者すらも復活させてあげようってこと」
「ほ、本当か!?」
リーダーの言葉に、精霊王はうなずく。
「僕のエレンはとても慈悲深い子なんだ。君たちがエレンに祈るのなら、僕は奇跡を体現してみせよう。どうする?」
突如現れた謎の女を、信用するほうがどうかしている。
しかし今は、他に頼れるものがいない。
突如牢屋に現れたこの女が、超常の存在であることはわかっていた。
「お願いします、エレン様!」「子供を生き返らせてください!」
村人たちが必死になって祈りをささげる。
神ではなく、精霊に愛されし少年に。
「おめでとう、君たちの望みは、しっかりと届けられた」
ぱちん、とルルイエが指を鳴らす。
精霊の力は奇跡を起こす力。
死者を復活させるという離れ業も、精霊王にとっては容易いこと。
聖なる光が周囲を包む。
遺骨に降り注いだその力は、不死鳥の 力(スキル) 。
みるみるうちに、遺骨から肉が、臓器が、皮膚が、再生されていく。
そして、そこにいたのは、死んでいった子供たち。
五体満足で、彼らは親の前に立っていた。
「坊やぁ! 坊やぁああああああああ!」
「ママぁあああああああああ!」
村人たちは子供の復活に、涙を流して歓喜する。
二度と離すまいと、子供達を力強く抱きしめる。
「ありがとう、ありがとう、エレン様の奴隷様!」
村人たちが、ルルイエに頭を下げる。
「感謝は僕のエレンにささげるんだ。いいね?」
「「「ありがとう、エレン様ぁああああ!」」」
その後、閉じ込められている村人を、ルルイエは開放する。
セブンスに子供を殺された被害者は多数いた。
そのすべてを、精霊王は復活させる。
「ありがとうエレン様ぁ!」「エレン様ぁ! 一生感謝しますぅう!」
とらえられていた村人たちは、すっかりエレン信者になっていた。
満足げに、ルルイエがうなずく。
「さぁ、村人たちよ。君たちは自由だ! 村に帰って幸せに暮らしなさい。ただし! エレン・バーンズへの深い感謝を忘れないこと!」
「「「わかりました!」」」
精霊王はにこりと笑って、部屋の隅に転がっているセブンスを指さす。
「さぁ、君たち。あとはすべての元凶を殺すだけだ。ほら、武器を授けよう。好きに使いなさい」
ルルイエが指を鳴らすと、村人の手にはこん棒や剣などが握られる。
「や、やめ……て……やめてくれぇえええええ!」
全身を強打され、動けないセブンスを、村人たちが取り囲む。
大人も、子供も、老人も、その場にいた村人たち全員が武器を持っている。
「さぁみんなでこの悪党を殺すんだ! 正義の味方、エレンの代わりに悪を倒すのは、君たちだ!」
「「「はい!」」」
村人たちは手に持った武器で、殴り、切り付けた。
今まで受けたうっぷんを晴らすかのように、そして、自分たちを助けてくれたエレン・バーンズに恩を返すために。
精霊の力で強化した武器は、やがてセブンスの命を奪う。
「どうだい、自分を見下した非力な人間に、一方的に嬲り殺される気分は。最高だろう?」
ルルイエはスカートのポケットから、7つの魔核を取り出す。
それは魔王子たちの精霊核だ。
「僕のエレンにあだなす愚か者は、絶対にゆるさない。絶対にだ」
ぐっ、と力を入れる。
魔王子たちの魔核は、粉々になって散る。
「エレン、僕は君の正義感が強いところが大好きだ。だから君が喜ぶように、正義を執行するよ。ほら、悪を滅ぼしたよ。ほめてくれるかい、ねえ?」
精霊王は、まるで恋する乙女のように、うっとりとつぶやくのだった。