作品タイトル不明
76話 魔王の子供
ぼくたちが森で、魔族の女の子を保護した。
それから数日後の朝。
トーカの街にある、緋色の翼が所有する家にて。
「おはようエレン♡」
ぼくが起きると、すぐ目の前に赤髪の美女がいた。
「カレン! 熱は下がったの?」
「うむ! 心配してくれてありがとうのう。やはりおぬしは優しくて素晴らしい子じゃ♡」
ここ数日、彼女は夏風邪を引いて寝込んでいたのである。
ポンッ、と元の不死鳥の姿に戻って、ぼくの肩に乗った。
『む? ……エレンよ。ここ数日、妙な人物に出会ってないか?』
「妙? うーん……どうだろう。アーシアちゃんとルルイエさんくらいかなぁ」
『……なるほど、そうか。道理で濃い精霊の香りをさせるはずじゃ』
カレンが小さくつぶやく。
『エレンよ。おぬしのそばを離れてすまなかった。もう安心じゃ。わしがそばにいれば、な』
「? うん、これからもよろしくね。でも、無理は駄目だよ。体調不良の時はちゃんと言うこと」
『うむ、わかった。やはりエレンは優しくて最高のマスターじゃ♡』
ぼくはカレンを乗っけて、部屋を出る。
『……だから、エレンは譲らぬぞ。母上』
ややあって。
リビングへ行くと、アスナさんとティナが朝食をとっていた。
「みんな、おはよう!」
笑顔でぼくに挨拶をしてくる。
「アーシアちゃんも、おはよう」
「は、はい……おはようございます!」
ぺこぺこ、と彼女が頭を下げる。
「ここでの生活には慣れた?」
「は、はい! おかげさまで! あの……本当にありがとう、ございます!」
彼女は魔族だ。
頭の部分から、山羊のような角が生えている。
先日、他の魔族に襲われているところを、ぼくが助けて、うちに置いているのだ。
話を聞くと孤児であるらしく、帰る家がないんだって。
だからパーティ・ハウスに居候しているんだ。
「何日もいさせてもらって、申し訳ないです……」
「気にしなくて良いわ。困っている女の子は放っておけないもの」
「そうだよ! いつまでもいていいんだよ!」
ぼくらに言われて、じわ……とアーシアちゃんが涙を流す。
「ど、どうしたの?」
「うぐ……ぐしゅ……ふええ……こんなに優しくされたの、生まれてはじめてでぇ~……」
くすんくすん、と彼女が涙を流す。
アスナさんがよしよし、と頭をなでる。
ほどなくして。
「それで、森の中であったこと、話してくれる気になった?」
魚人の魔族にアーシアちゃんは襲われていた。
でも魔族が魔族を襲うなんて、おかしな話だ。
「実は……あたし、特別製なんです。半分、人間なんです」
「半分人間……なるほど、【半魔】なのね」
ティナが言うと、アーシアちゃんがうなずく。
「ティナ、半魔って?」
「人間と魔なるもののハーフのことよ。魔族達の間では、忌み子ってことで、差別の対象になってるのよ」
「だからアーシアちゃん、あの魚人魔族に襲われてたんだね」
「え、ええ……でも、それだけじゃないんです。あたし、実は……」
と、そのときだった。
『若様、強力な魔族の気配です! 外に!』
カッ……! と激しい光が窓から差し込む。
ドガァンッ! と激しい爆発が起きる。
「きゃっ……!」
爆発が収まるが、家は無傷だった。
「ふぅ……大丈夫、みんな!」
『攻撃の瞬間、瞬時に犬っころのスキルで風のバリアを張って守ったか。あの爆発を防ぐとは、さすがエレンじゃ』
ぼくたちは武器を持って、家を出る。
「ひっ……! せ、【セブンス】……」
アーシアちゃんが、青ざめた顔で上空を見上げる。
そこにいたのは、浅黒い肌に、角を生やした魔族の男だった。
「よぉ……アーシア。元気そうじゃあねぇかよぉ……」
セブンスは彼女を見下ろしていう。
「知り合いかい?」
「は、はい……腹違いの、お兄さんです……」
たしかに彼も魔族だし、アーシアちゃんのお兄さんなのかも。
けど……彼女は、震えていた。
「君は何をしに来た? 妹を迎えに来たのっ?」
ぼくが言うと、セブンスはきょとんとした表情になる。
「ブッ……ぶくくっ……ぶぎゃはははは! こりゃあ傑作だぁ! え? おれさまが半魔のゴミを迎えに来るだぁ? 笑わせるじゃあねえか! ぎゃはぎゃはっ!」
アーシアちゃんはキュッと唇をかんで、うつむく。
どう見ても、兄妹の感動の再会って感じではない。
「じゃあ何をしに来たの? いきなり攻撃してくるし、君の目的はなんだ!」
「んなの決まってるだろ。そこの半魔のガキを、殺しにきたんだよ」
セブンスはビシッと彼女を指さす。
「そんなことさせないわ!」
たんっ……! とアスナさんが地面を蹴って、空中にいるセブンスに肉薄する。
「せやぁあああああ!」
剣聖のスキルによる、超高速の斬撃。
ビタッ……! とセブンスは刃を指でつまんでいた。
「そ、そんな!? 今の一撃を止めるなんて!」
「おっせえよババァ!」
バキンッ、とミスリルの剣を指でつまんで壊し、そのまま蹴りを食らわせる。
「きゃっ……!」
「アスナさん!」
ぼくは彼女が落ちてくるところに走って行き、抱きかかえる。
「大丈夫!? ケガは!?」
「だ、じょーぶよ……ガハッ……!」
アスナさんが血を吐く。
すぐさま不死鳥の炎で癒す。
いつもなら瞬時に治るけど、時間が掛かる。
蹴っただけでこの重体だなんて。
「ティナ、気をつけて! こいつ結構やるよ!」
「アスナになにすんのよ! 【 火炎連弾(バーニング・バレット) 】!」
エルフの強力な火の魔法が、空中の魔族めがけて飛んでいく。
「フッ……!」
セブンスは息を吹きかけた。
ただそれだけで、炎はかき消された。
「嘘……ミスリルの杖で強化された魔法を……ただの吐息で消すなんて……」
治療が終わると、アスナさんは気を失う。
ダメージが深刻だったみたいだ。
「弱ぇ弱ぇ弱すぎる! この【特級魔族】のセブンス様に、その程度でかなうとでも思ってるのかぁ!?」
「特級魔族ですって!?」
ティナが目を見開いて叫ぶ。
「魔族の5つの階級、その上位に当たる公爵(?)級魔族。特級はそのさらに上の存在!」
「つまり……規格外に強い相手、ってこと?」
にぃ……とセブンスが笑う。
「ぎゃははは! よく知ってるじゃあねえか! そのとおり! おれさまは規格外の存在なんだよぉ! なにせ【魔王の息子】だからなぁ!」
魔王の、息子、だって……?
なら強くて当然か……って、え!?
「じゃ、じゃあ……アーシアも……?」
「そのとおぉり! そこのザコもいちおうは魔王の血を継いでいる。ま、ザコもザコだけどよぉ!」
アーシアが青ざめた顔でうつむく。
「ごめんなさい、エレンさん……」
「ううん、気にしないで」
ぼくは真っ直ぐに彼女を見やる。
怯えて、怖がっている。
そうだ、魔王の娘とか、関係ない。
ぼくは困っている人を助けるんだ。
「大丈夫、君を守る」
「ハッ……! 威勢が良いじゃねえかガキぃ?」
くくく、とセブンスが邪悪に笑う。
「おとなしくその女差し出せば、てめえの命だけは助けてやっても良いぜ?」
「なんでアーシアを狙うんだ!」
「そりゃ次期魔王の座がひとつしかねえからよぉ。おれら王子たちは争ってるんだよ、そのたったひとつの席を巡ってなぁ!」
右手を振り上げる。
彼の手のひらに、小型の太陽と見まがうほどの火炎の球が出現する。
「そいつをこっちに寄越せ」
「断る!」
「あーそうかよぉ! じゃあ死ねぇええ!」
ブンッ……! と彼が火炎球を投げてくる。
彼女が目を閉じて、身体を震わせる。
「ぼくは……守る! 冒険者だから……!」
バッ……! と手を前に出す。
「【 契約破棄(リリース) 】!」
その瞬間、火炎球が、突如として消し飛んだ。
「なっ!? なにぃいいいい!?」
セブンスが驚愕の表情を浮かべる。
「そ、そんなバカなことがあるか!? 特級魔族の炎だぞ!? てめえ、何者だ!」
ダンッ……! とぼくは地面を蹴る。
不死鳥の翼を生やして飛翔する。
「ただの……人間だ!」
「それをたかが人間ごときが消せるはずがねえだろぉ!」
セブンスは翼を広げると、ぼくめがけて突っ込んでくる。
風神の剣を取り出して、その胴体を一刀両断する。
「ば、バカなァ……! こ、このおれさまが……こんなガキにぃ!?」
空中で真っ二つになった彼は、しかしまだ生きていた。
「ち、ちきしょお! これで勝ったつもりになるなよ、アーシアぁああ!」
怒りの表情を彼が浮かべていう。
「王子同士での殺し合いは始まってるぜぇ? てめえが死ぬのは果たしていつかなぁ!?」
「そんなこと……ぼくがさせない!」
セブンスはぼくをにらみつける。
「てめえは殺す。次あったとき、絶対だ!」
そう言って、彼は転移して消えていったのだった。
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精霊使いへの敵対行動を感知しました。
第7王子セブンスにペナルティを実行します。
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