作品タイトル不明
70話 薬師の少年
ぼくが特S級の冒険者を騎士に引き渡して、数日が経過した。
ある日の休日。
『若様とお散歩お散歩♪ FU~♪』
神狼のランを連れて、トーカの街の近くの森までやってきていた。
『犬っころ、おぬし最近犬っぷりに拍車がかかっておるな。後れを取ることもままあるし』
『が、がーん! わ、若様……私は使えぬただの駄犬ですかぁ……?』
しゅーん、とランが尻尾を垂らす。
「そんなことないよ。ランはいつだって役に立っている、ぼくの相棒さ!」
『あーん♡ 若様~♡ 大好きでございますぅ~♡』
ぶんぶんぶん! とランが尻尾を振る。
『完全に犬ではないか。神狼が聞いて呆れるわい』
『なんだと焼き鳥……む! 若様、血のにおいがします!』
嗅覚に優れるランが、明後日の方向を見やる。
「なんだって? いこう!」
ランに乗って森を駆け抜けると、人の声が聞こえてきた。
「待てこのガキ!」
「おれらから逃げられると思うなよ!」
『どうやら子供が複数人の大人に追われている様子です』
ある程度まで距離を詰めた後、ぼくは不死鳥の翼で飛び上がる。
そして現場へと到着した。
「なんだぁ……てめえ……?」
柄の悪い連中が、武器を持って複数人立っている。
「あの……あなたは……?」
見たところ12歳くらいの猫の獣人だった。
背中から血を流していた。
致命傷ではないものの、とても痛そうだ。
「ぼくはエレン、冒険者だよ。ケガしてるじゃないか。治療するよ」
スッ……とぼくは彼の後ろに回る。
「あ、あのっ! それよりも……!」
「おれらを無視するとは良い度胸じゃあねえか、がきぃ?」
柄の悪い連中が、ぼくをにらみつける。
けど全然怖くなかった。
気にせずに不死鳥の癒やしの炎で、彼を治療する。
「無視すんじゃねえ!」
「ちょっと黙ってて。今治療中だから」
ぼくが振り返って言う。
ぞくりっ、とチンピラ達は背筋を震わせてたじろぐ。
「な、なんだよこいつ……」
「よくわかんねえけど……すげえプレッシャーを感じるぜ!」
癒やしの炎は獣人くんの傷をみるみるうちに治した。
「うん、これでよしっ。さて……と」
ぼくは立ち上がって、チンピラ達を見やる。
「こんな小さな子によってたかって酷い事するなんて、恥ずかしくないの?」
「う、うるせえ! てめえ調子乗るのもいいかげんにしろよ!」
チンピラ達が武器を手に取る。
「【神風】!」
ぼくは右手を前に向ける。
神狼のスキルを発動させ、突風を発生させる。
「ぐへっ!」「がはっ!」
『今のエレンの強さは特S級。貴様ら雑兵なんぞ脅威にすら思わぬよ』
『さすがです若様! 強すぎます!』
倒れ伏すチンピラ達が青ざめた顔で言う。
「や、やべえぞこいつ……」
「ちくしょう! 撤退だ!」
ダッ、とチンピラ達が逃げていった。
ふぅ、と吐息をついてぼくは獣人くんに近づく。
「もう大丈夫だよ!」
「うう……ありがとう、ございました! なんとお礼を言っていいやら……」
ややあって。
ぼくたちは一息つくために、レジャーシートを広げてお茶にする。
「【パルム】くんはどうしてあの人達に追われてたの?」
獣人の少年、パルムくんは事情を説明する。
「実はボク、とある商会で薬師として働いていたんです」
『薬師? なんじゃそれは?』
『薬草を加工しポーションを作るスキルを持った職業のことですね』
「商会って、どこで働いてたの?」
「アコギ商会です」
『なかなか大きな商会ではないですか。王都に本店を構えているらしいです』
ランは忍びでもあるので情報通なんだ。
「でも……そこの商会の方針が、ひどいんです」
「どういうこと?」
パルムくんは腰のポシェットから、薬瓶を取り出す。
『ポーションですね。この赤い色だと、上級ポーションかと』
「お店で高く売っているやつだよね、これ」
ふるふる、とパルムくんが首を振る。
「それ、ただの水なんです」
「えっ? こんなにポーションっぽいのに?」
『若様。ここは私が』
蓋を開けて、ランに瓶の口を近づける。
『ただの色水です』
「そんな……じゃあ、アコギ商会はただの色水を上級ポーションって触れ込みで売ってるの?」
「はい……上級ポーションだけではありません。他のポーションや解毒薬すらも」
なんてことだ……。
「それじゃあ、モンスターから毒を受けたとき、その解毒薬を飲んでも……死んじゃうじゃないか!」
「はい……現に、もう何人か被害が出てるみたいです……」
『しかし解せぬな。そんなこと続けてたら商会としての評判を落とすだけではないか?』
「全部が粗悪品じゃないんです。それとアコギ商会なら大丈夫だろう、ってブランドイメージがあるので……」
「信用してる人たちに、只の水を売りつけるだなんて……最低だ! ゆるせないよ!」
そのときだった。
『若様、近づいてくる影があります』
「ひっ……! き、きっとアコギ様だ……」
ぞろぞろと大人数で、こちらにやってくる。
身なりの整った太った男が、ぼくらを見やる。
「探したぞパルム。さぁ、屋敷に戻るんだ」
『この男がアコギ商会のトップ、アコギです、若様』
「い、いやです! ボクは戻りません! ボクが作りたいのはみんなを笑顔にする薬なんです! 色水じゃない!」
フンッ……とアコギが鼻を鳴らす。
「青臭い理想を並べよって。ポーションなんてただの商売道具、売れれば、儲かればそれでいいんだ」
「そんなことない!」
ぼくはアコギをにらみつける。
「ポーションはぼくたち冒険者達にとって命を助けてくれる命の水だよ! それを、自分の利益のためにただの水を売るなんて! 最低だ! 恥を知りなよ!」
「なんだこの生意気なガキは……? おい、こんなやつに本当に負けたのか貴様ら?」
アコギの背後には、あのチンピラたちがいた。
「だ、旦那、なめてかからないほうがいいですぜ? あいつ、やべー強いっすよぉ」
「ふんっ! まさか。こんな貧相なガキが強いものか。おい、お前達、このガキを殺せ。口封じだ。パルムは連れ帰る。こいつにはまだまだ働いて貰わねば困る」
ぞろぞろと、武装したチンピラ達がぼくらを取り囲む。
その数は50。
「や、やめてください! ボク、帰ります! だから無関係のエレンさんは殺さないで!」
ふるふる、とぼくは首を振る。
「大丈夫だよ、パルムくん。君が帰ることはない」
「ハッ……! 威勢の良いガキだ! おい、殺……」
せ、という前に、ぼくは神風を使う。
「「「ぬぅわぁああああああ!」」」
今ので大半のチンピラ達が吹き飛ぶ。
ガタイのいい男たちが残る。
ぼくは 神狼(フェンリル) のスキル【疾風迅雷】を使って身体を強化。
高速で接近し、その勢いのまま殴りつける。
「がっ!」「ぐげっ!」「ガハッ……!」
みるみるうちにアコギのやとったチンピラ達が倒れていく。
「なんて速さ……目で追えぬだとぉ!?」
「す、すごい……エレンさん、すごい強いです!」
ほどなくして。
「50人を相手に、たったひとりで……瞬殺だと……?」
愕然とした表情で、アコギがつぶやく。
「おとなしく罪を認め、パルムくんを解放しろ!」
「く、くそっ! こうなったら……!」
アコギが懐に手を入れる。
ランが誰よりも早く動いて、彼の腕にかみつく。
「ぎゃっ……!」
『若様、爆発する魔法薬です!』
ぽいっ、とランが宙に放り投げる。
ぼくは 吸血鬼(アビー) の影スキルで、影を伸ばし、それを絡め取ると、影の中に収納した。
「す、すごい……なんて華麗な連携だ」
『フッ……当然です。若様と私は長年連れ添ったパートナーですからね!』
アコギに近づいて、ぼくは言う。
「みんなを騙していたこと、きっちり罪をつぐなってもらいますから」
「く、くそぉ! このぉ!」
破れかぶれで、アコギが殴りかかってくる。
ぼくは拳を避けて、カウンターを頬にぶちこむ。
「ほげぇええええええ!」
くるくると宙を舞い、ドサッとアコギが倒れる。
気を失っている間に、影スキルで拘束する。
「もう大丈夫だよ!」
「ありがとう、エレンさん! ありがとう!」
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精霊使いへの敵対行動を感知しました。
商人アコギへのペナルティを実行します。
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