軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

71話 悪徳商人、身を滅ぼす

テイマーのエレンの活躍により、薬師の少年は救出された。

話は一週間後。

騎士の詰め所から、商人アコギは出所した。

「トンデモナイ目に遭った……くそっ……くそぉ……」

情けない声で、素寒貧の彼は悪態をつく。

この一週間の出来事を振り返る。

まずエレンの手により、彼は騎士の元へと連行された。

従業員パルムの内部告発により、ポーションの不正販売が暴かれる。

権力を使って内々で処理しようとしたが、【なぜか】口止めするまもなく不正が広く知れ渡ることとなる。

これにより商会に多くの冒険者達が押し寄せ、クレームを入れてきた。

さもありなん。

ポーションは彼らの命綱だ。

それがただの水だったのだ。

もし窮地に粗悪品を使わされたら、今頃命を落としているだろう。

冒険者の怒りももっともだった。

各地の店舗に大勢の冒険者が詰め寄り、損害賠償請求をしてきた。

結果、莫大な額の慰謝料を冒険者達に支払うハメとなる。

またそれがきっかけに、彼が行ってきた余罪が芋づる式で暴かれることとなる。

闇に葬ったはずの出来事も、【なぜか今になって】証拠や証人がでてきて、罪を暴かれた。

保釈金等を支払った結果、彼の元から凄まじいスピードで金がなくなっていった次第。

「なんてことだ……資金は枯渇、従業員には逃げられ、支店は次々と潰れる……なぜこうも不幸が連鎖するのだ……!」

当然だ。

アコギは 精霊使い(エレン) の不興を買ったのだ。

彼の持っていた【豪商のスキル】は剥奪された。

スキルの恩恵により金持ちでいられたのだ、それを失えばどうなるかなんて容易く想像がつく。

「くそが……最低だ……くそぉ」

そんなふうに屋敷へと戻る最中、小さな薬屋を見かける。

「ポーションをくれ!」

「おれは解毒ポーション!」

大勢の人たちが、薬屋の前で列を作っている。

窓から顔を覗かせる。

「どうぞ! ありがとうございましたっ!」

獣人の薬師パルムが、笑顔でポーション入りの紙袋を、冒険者に手渡す。

「ここのポーションすげー品質が良いって評判なんだよなぁ」

「マジか! じゃあおれも買おうっと!」

次々と人が、パルムの薬屋の前に集まっていく。

「くそぉ……パルムのヤツめぇ……ひとりだけ上手くいきやがって……」

パルムの元々もっていた薬師としての実力が奏功していた……だけではない。

「次のかた……あ! エレンさん!」

パルムが輝く笑顔を向ける。

そこにいたのは、エレンだ。

「こんにちは、パルムくん。大繁盛だね!」

「はいっ! エレンさんのおかげです! 宣伝してくださり、ありがとうございます!」

エレンは特S級の冒険者。

彼が懇意にしているというだけで、凄まじい宣伝効果を持つ。

……もっとも、パルムの店が繁盛しているのは、エレンの知名度のおかげだけでは決してない。

精霊達がパルムに【商売繁盛】のスキルを付与し、幸運を運んできているのだ。

……逆に、エレンに嫌われたアコギからは【商売繁盛】のスキルが剥奪された。

エレンに嫌われたことは、精霊に嫌われたことと同義。

数々の不運は、自業自得ではあるものの、エレンに楯突いたことでさらに自分の首を絞めるハメとなったのだ。

「ちくしょう……あのガキ、最近特S級になったばかりの、冒険者だったのか……ちくしょう……あのとき抱き込んで、宣伝に利用していれば今頃……」

しかも実は、アコギは特S級冒険者コナス・オータンの 出資者(パトロン) だった。

資金を出す代わりに、宣伝に協力して貰う手はずとなっていた。

だがエレンによってコナスの悪事が暴かれ、逮捕された。

それによって宣伝役を失ってしまっていたのである。

「ああちくしょう……もっと金以外に関心を向けていれば、今頃エレンを手にいれさらに商会は大きくなっていたのに……」

今更悔いても全てが遅い。

彼は地位も名誉も失った。

「だが……まだ最後の希望が、ある」

歯ぎしりしながら、アコギはその場を離れる。

最後の希望。

それは……。

「わしにはな、魔法麻薬の原材料となる薬草園があるのだ……! それを闇ルートで売れば……!」

そう、まだ彼には最後の、秘密の花園がある。

麻薬の原材料となるこれは、闇市でそれはそれは高く売れる。

「覚えてろよエレン・バーンズ。わしはすぐに再起を果たす……先祖代々から受け継がれた豪商のスキルの力があればあっという間に元通りだ……!」

無論、豪商のスキルがあれば……の話だ。

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精霊使いへの敵対行動を感知しました。

商人アコギへのペナルティを実行します。

→火属性極大魔法【 煉獄業火球(ノヴァ・ストライク) 】をアコギ所有の麻薬畑に落とします。

→成功しました。

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「うそ……だろ……」

アコギがやってきたのは、辺境にある自分の所有する麻薬畑だ。

否、麻薬畑の【跡地】だ。

「跡形も……なくなっておる……」

べしゃっ、と彼はその場に力なく膝をつく。

葉っぱ数枚で金貨がザクザクと手に入った、夢の植物。

それが文字通り、夢幻であったかのように、跡形もなく消し飛んでいたのだ。

麻薬畑と知らぬ近隣住民に話を聞いた。

「ありゃあすごかったわぁ。空から炎が降り注いでよぉ、畑がきれーさっぱり消えたんだ!」

「あんな大火事みたことねえ! しかも不思議なことに、畑だけピンポイントに焼けてたんだぁ!」

「天から急にだ! ありゃあ驚いた。まるで神様が天罰でも起こしたのかと思った」

麻薬畑の跡地に、アコギが大の字になって倒れ伏す。

「ふへ……ふひゃひゃひゃひゃ……!」

たったいま、資産の全てを失った男は、絶望のあまり壊れてしまった。

「ぜぇんぶぜぇんぶなくなちゃいましたぁあああ! あぁあああああああ!!!!」

彼の慟哭は、辺境中に響き渡る。

そのときだった。

「いたぞ! アコギだ!」

がちゃがちゃ、と騎士達が鎧をならしながら、倒れ伏すアコギの元へ行く。

「貴様を麻薬不正所持の罪で逮捕する! おい、引っ捕らえよ!」

騎士達に麻薬のことがバレたのも、無論精霊王がアコギに下したペナルティだ。

彼は財産の全てを失った上で、なおかつ不正所持の罪で騎士に逮捕されることとなった。

「なじぇだぁ……どうじで、こんな目に……」

そのときだった。

「それはね、君が僕の大事なエレンを傷つけたからだよ」

「ふへぇえ……?」

アコギの耳元に、誰かがささやく。

力なく見上げると、騎士のひとりが笑みを浮かべていた。

その騎士は男だった。

しかし、声は【女】のそれだ。

「エレンを……きずつけたからぁ……?」

「ああそうさ。僕はね、彼が好きでたまらないんだ。……だから、彼にあだなす敵は、みーんな不幸にしてあげるの」

くすくす、と騎士が愉しそうに笑う。

その騎士の目はうつろで、まるで誰かに意識を乗っ取られているかのようだった。

「さて、アコギ。君はエレンを傷つけた。僕は絶対に容赦しない。君は今後の人生、ずっとずっと苦しむことになる」

「おまえは……いったい……?」

「僕かい? 僕はね……【精霊王】。この世すべての奇跡を司り、人々に幸福をもたらす存在さ」

じょぼぼ……とアコギが失禁する。

「あびゃ……あびゃびゃぁ……」

「理解したようだね。そうだよ、君は精霊王に嫌われたんだ。君の将来がお先真っ暗なことを理解したんだね。賢い子だ、実に」

さわ……っと精霊王がアコギに触れる。

彼女の怒りがアコギの魂を愛撫する。

その、あまりに強大で凶悪な力をまえに、彼は心神喪失を起こす。

彼の髪の毛が抜け落ち、そしてガリガリに痩せ細る。

「お、おいどうした!? 急に!? おい! アコギ!」

糸の切れた人形のようにぐったりとするアコギに、騎士達が慌てて詰め寄る。

そのなかの騎士のひとりから、精霊達が抜け落ちる。

「あ、あれ……? おれはなにを……?」

その精霊達は空中で集まり、やがてひとりの女性の姿へと変貌する。

「エレン、愛しのエレン……今日もまた君を傷つけた男を破滅に追いやってあげたよ」

恋する乙女のような表情で、精霊王はつぶやく。

彼女の姿を誰も視認していない。

廃人になったアコギを見て、くすくすと笑う。

「エレン、エレンや……待っているよ、君が僕に感謝をしにやってくるときを……♡」

彼女の身体が燃え上がる。

火の粉となった精霊王は、空へと還っていったのだった。