軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

67話 コミガスの末路

テイマーのエレンによって、大天使ウリエルの使用権限を剥奪された。

話はその数時間後。

ふらつきながら、コミガスは森の中をさまよい歩いていた。

「くそぉ……くそがぁ……ちくしょうぅ……」

そのときだった。

木の陰から、すぅ……っと何者かが現れた。

黒いフードを目深にかぶった人物。

「……酷い有様でございますね」

「【ふくろう】てめえ……てめぇこの野郎ぉおおおおおお!」

コミガスはフードの人物、ふくろうに殴りかかろうとする。

だが運の悪いことに、木の根っこに偶然足を取られて、つまずく。

「ぷぎゃっ!」

そして運の悪いことに、倒れた先に石が置いてあった。

顔面を強打し、コミガスは前歯を失う。

「うぎゃぁああ! 自慢の白い歯がぁああああ!」

痛みと絶望でコミガスは転げ回る。

「……なるほど。完全に 運(ツキ) に見放されています。やはりエレン、恐ろしい子です」

ふくろうが静かに近づいて、コミガスを見下ろす。

「……【付与】した精霊の力が完全に失われていますね。さすがはエレン。【本物】は別格です」

「な、なにをごちゃごちゃ言っているんだ……!」

「……失礼。エレンの素晴らしい力に、ある種感動していたところです」

ふくろうの言っていることが1ミリたりとも理解できなかった。

「……さて。コミガス。先ほどは随分とお怒りになられていたご様子ですが、何かあったのですか?」

「なにかあったではなぁい! このペテン師が!」

立ち上がり、コミガスはふくろうを指さす。

「よくも天使の権限を与えるなどと嘘を吹き込んだな!」

「……嘘なんてとんでもない。きちんとウリエルは使役できていたでしょう?」

「しかし途中から言うことを聞かなくなった! 詐欺だ! インチキだ!」

「……やれやれ。無知蒙昧の愚か者は、これだから困ります」

ふぅ、とふくろうが首を振る。

「……それは私の与えたスキルを、エレンが消し去ったのですよ」

「スキルを消す、だと……? バカな! そんなことができる人間など聞いたことがない!」

「……あるのですよ。彼の機嫌ひとつで奇跡を容易く起こし、嫌われるとスキルを失う」

「そんなの……まるで神ではないか!」

肩をふるわせて、ふくろうが言う。

「……神ですって? これは異な事をおっしゃる!」

倒れ伏すコミガスに、覆い被さるように、ふくろうが顔を近づける。

「……神なんてチンケな存在よりも、エレン・バーンズは遙か高みに位置していますよ」

「お、おまえ……その顔……」

ふくろうは立ち上がり、フードをかぶり直す。

「……顔を見られては都合が悪いのですよね」

「わ、私を殺す気か!?」

まさか、とふくろうがきびすを返す。

「……あなたへのペナルティは、彼らが実行してくださるみたいですよ?」

スッ……とふくろうが天上を指さす。

夜の空に、何かがいる。

無数の星々と思われたそれは……天使だった。

「ひっ……! な、なんだあの数の天使はぁああああああ!?」

「……あなたへの報復活動でしょうね。大天使を無理矢理従わせ、奴隷のように働かせたのですから。さぞ神はお怒りなのでしょう」

スタスタ……とふくろうが歩み去って行く。

「お、おい待て! 待てってば!」

立ち上がるが、しかしまたも運の悪いことに、石に足を取られて転ぶ。

「……精霊に嫌われたあなたは、この先一生運に恵まれることはないでしょう。ああ、でもそうか」

ふくろうはフードの奥で、邪悪に笑う。

「……あなたの一生、ここで終わるんでしたっけ」

それだけ言うと、ふくろうは音もなく立ち去っていった。

「待て! 待ってくれぇええ! 私を助けてくれぇええええ!」

無数の天使達が、地上へと降りてくる。

まばゆい純白の光は、しかし強烈すぎてコミガスの目を焼きそうになる。

「あぁああああ! 神様申し訳ございませんぅうううううううう!」

コミガスはその場にひざまずいて、頭を地面にこすりつける。

すぅ……っと天使の軍勢から、ひとりの大天使が降りてきた。

6枚の翼を生やす青年。

「 我(おれ) の名は【ザドキエル】。7大天使がひとり。神の御命令により、教えに背く愚か者を排除しにきた」

さぁ……とコミガスの顔色が青くなる。

「か、神の教えに背いたことなど一度たりともありませぬ! 本当でございます!」

ずりずり、とコミガスは頭を地面にこすりつけながら、必死に訴える。

「天導教に入信し、今日まで亜人種どもを懸命に駆逐して参りました! 1日も欠かさず、蛮族どもをこの世から排除するために、神の御命令に必死に従って参りました!」

バッ……! と顔を上げて、ザドキエルを見上げる。

「こんなにも熱心な信者を、神はお見捨てになるというのでございますか!」

大天使はスッ……と手を上げる。

その瞬間、背後に控えていた天使たちが動き出す。

手に持っていた光の矢が、コミガスの右腕を吹き飛ばす。

「あぁああ!? あぁあああああああ! 腕がぁあああ! 腕がぁああああああ!」

止めどなくあふれる血を、必死に抑えようとする。

「誰の許可を得て 我(おれ) を見上げる? 人間ごときが、おこがましいにも程があるぞ?」

「もうじわげ……ございまぜん……」

布で傷口をぎゅっとしばり、震えながら、コミガスは頭を下げる。

死の冷たいイメージが、脳裏を埋め尽くす。

「おい 塵芥(ごみかす) 。貴様の間違いを正してやろう」

「まち……がい……?」

「そうだ。なに、単純な間違いよ」

すぅ……と天使達が近づいてくる。

コミガスの片腕を取って、飛び上がる。

「ひぃいいいいいいい!」

「貴様の間違い。それは、神にとって人間などどうでもいいということだ」

ザドキエルは浮上し、コミガスの顔をわしづかみにする。

「我ら天に住まう一族からすれば、人間も亜人もみな等しく路傍の石に等しい。そもそも人間以外を殺せという教えは、貴様らが神の教えを拡大解釈して作った……妄言だ」

ぷちん、と何かが切れた音がした。

「うひゃ……うひゃひゃひゃひゃぁあ! ば、妄言! 妄言だってぇえええ!?」

頭が壊れてしまったかのように、ゲラゲラと激しく笑いながら言う。

「私が固く信じていた神の教えが妄言だったとは! あはははっ! あははははははっ!」

神のために、コミガスは必死になって亜人どもを排除してきた。

神のために、尽くしてきた。

しかしその神の使いから否定された。

身も心も捧げてきた相手から、違うと言い渡されたのである。

「耳障りだ。そのゴミを処分しろ」

天使達が、遙か上空からコミガスを落とす。

「ひゃははははぁ! やったぁ! やっと神のもとへいけるぅうううう! 神様ァアアアア! 亜人をこんなにたくさん殺したんだよぉお! だから天国につれってってぇえええ!」

グシャッ! とトマトを踏み潰したかのように、コミガスは簡単に潰れた。

「痴れ者が。亜人を何十何百と虐殺したのだ。向かう先が天国のはず無かろうが」

フンッ、と小馬鹿にしたようにザドキエルは言う。

「貴様が行く先は、地獄に決まっているだろうが。この大量殺人鬼め」

ザドキエルは人差し指をコミガスの死体に向ける。

ピチュンッ! と高出力のレーザーが、一瞬で死体を蒸発させた。

肉体は消滅し、コミガスの魂は地獄へと落ちていく。

神の教えだと信じ込み、亜人たちを殺しまくった男の末路がこれだった。

「……しかし我ら天使の軍勢を、的確に、一瞬でこのゴミのもとへ送るとは。神の力ではない、何か別の力が働いたな。……いったい、誰の仕業だったのか?」

大天使すら感知できない、【運命】すら操るほどの強い力。

それは精霊王の力。

奇跡を作り出し、自在に操る最強の能力。

そう、すべてはエレンという、精霊王の寵愛を受けし少年に刃向かったが故に。

こうしてコミガスは知りたくもない真実を知り、ゴミクズのように処分されるに至ったのである。