作品タイトル不明
47話 元イケメンの因果応報
テイマーのエレンが、魅了使いアーフォスを退けてから、1週間後。
「くっそ……ようやく退院か……」
朝。
アーフォスはのそりと【重いからだ】を起こして、ため息をつく。
今日まで、彼は治療院(病院のようなもの)に入院中だった。
エレンとの戦闘で大けがを負い、その治療を行っていたのだ。
「一週間なにもやることなくて退屈だったよ……ほぼベッドから動けず、食っちゃ寝生活が続くとか……太ったらどうするんだっつーの」
アーフォスはベッドから降りる。
ぎしっ、とスプリングがきしんでいた。
ちょうど、おばさんのナースが入ってくる。
彼女が自分の担当であり、この1週間つきっきりで面倒を見てくれた。
「今日で退院ですね、アーフォスさん。良かったですね」
けっ、とアーフォスは悪態をつく。
「おいババア! ここのパジャマ【きつすぎだ】。ったく、サービスの悪い治療院だ! 二度と来るもんか!」
彼は着替えると、おばさんナースを突き飛ばして、外に出る。
こんな女趣味ではないので、魅了はもちろん【使っていない】。
治療院を出たあと、彼は冒険者ギルドを目指す。
「あのエレンとかいうクソガキめ! よくも僕に恥をかかせやがったな……復讐してやる!」
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精霊使いへの敵対行動を関知しました。
アーフォスへのペナルティを実行します。
→スキル【解呪】を限定付与します。
※自分が魅了をかけた女性のみスキルが発動します。
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ギルドへと向かっていると、正面から背の高い美しい女が歩いてきた。
彼女は治療院で少し見かけたことがある。
たしかあそこで働いていた女医だ。
「復帰第一号にはちょうどいい女だな」
エレンとの戦闘時、スキルが正常に稼働しなかった。
しかしアーフォスは愚かにも、【スキルが不調だっただけだ】と誤解したようだ。
……真実は、精霊王の手によって、彼が持っていた魅了スキルが永久に奪われただけなのだが。
「やぁそこのお嬢さん。こんにちは」
女医の前に、アーフォスは立ち塞がる。
「……なに、ナンパ? 悪いけど私急いでるの。また今度ね」
ふいっ、と彼女が自分の脇を通り過ぎていく。
「そんなツンツンした女を屈服させるのも楽しいんだよなぁ」
下卑た笑みを浮かべて、彼は女医の手を無遠慮に掴む。
「まぁ待てよ。こんなイケメンに声をかけてもらえるんだ、光栄だろう?」
【かつての】アーフォスは【美容スキル】のおかげもあって、とても美しい容姿をしていた。
しかし……。
「ぷっ! くすくすっ! い、イケメンって……その顔でよく言うわね」
「なっ! し、失礼だぞ貴様ぁ! もう許さん! 【アーフォスが命じる、僕の性奴隷になれぇ!】」
しーん……。
「なにそれ? きんもっ。その顔で言うとギャグ通り越してもはや不愉快ね。このブサイク」
女医はアーフォスに冷ややかな目線を送ってくる。
「どうなってやがる!? スキルがまだ不調なのか!?」
「それじゃあねブサ面。イケメンに転生して出直してきな」
かつかつ、と女医が立ち去っていく。
【その指にペアリングがあった】けれど、アーフォスは気づかなかった。
「ま、待てよこの野郎! ブス女!」
ガッ! とアーフォスは女医の肩をつかみかかる。
「誰がブサイクだって!? この美男子に向かって失礼だぞ!」
「……はぁああ。あんた鏡みたことないの、可哀想だから貸して上げる」
女医はハンドバッグから、手鏡を取り出す。
鏡面に映った自分の姿を見て……アーフォスは絶望の表情を浮かべる。
「う……うそだ……なんだ……この……醜い姿は……」
かつての整った顔など、微塵も残っていない。
顔も体もぶくぶくに太り、腫れぼったい一重まぶたに、たらこ唇。
髪の毛も後退していることから、20歳は年老いたように見えた。
「なんで……どうなってるんだ……おいどうなってるんだよぉ!」
「し、知らないわよ。触らないでキモいわよあんた」
アーフォスは知らない。
彼の美しい姿は、【美容】スキルによって形作られていたことを。
スキルが消滅した以上、彼の美しさは失われたのだ。
「嫌だ……こんなの僕じゃない……僕はもっと美しかった! なぁ! そうだろうなぁ!」
がしっ、と女医の肩を掴んで揺する。
「きゃっ! ちょ、ちょっとやめてよ!」
「うるさい! 僕に抱かれたいだろ!? なぁ!」
「ひっ……! だ、誰かぁああああ! 助けてぇええええええ!」
女医の叫び声が、町中に響き渡る。
騒ぎを聞きつけて、騎士がかけつけてきた。
「く、くそっ!」
「あの男です! 捕まえてください!」
騎士に追われながら、必死になってアーフォスは逃げる。
飼育された肉牛のごとく太ってしまった彼は、よだれを垂らしながら無様に走る。
……やがて、彼は路地裏へとたどり着いた。
「ぜえ! はぁ! ち、チクショウ! どうなってやがるんだ!」
その場にへたり込み、ガリガリと頭をかく。
「魅了は使えない! 容姿も激変! 呪われてるとしか思えない! くそっ! ちくしょう!」
と叫んでいたそのときだ。
「でさーエレン君がねー、今度ごはんいこうって」
「やだー♡ いいなぁ♡ アタシもつれてってよぉ♡」
「やぁーよぉ、エレン君はわたしのものなんだからぁ~」
路地裏に、女冒険者達が通りかかった。
見覚えのある女たちだ。
そう、先日エレンの元へ行ったときに、連れていた子たちである。
ちょうどいい、彼女らにかくまってもらおう。
「おいお前ら! 待ちやがれ!」
アーフォスが怒鳴りつける。
「いま騎士に追いかけられてる。おいてめえら、僕をかくまいやがれ」
冒険者達は立ち止まって、こちらを振り返る。
「うわ……なにこいつきっも」
「しかもくっさ……」
全員もれなく、アーフォスに不愉快な顔を向ける。
「なっ!? ど、どうなってる……魅了スキルが使えなくても、前にかけた魅了効果はしばらく持続するはずだぞ!?」
しかし彼は知らない。
エレンの炎によって、彼女たちの魅了は解かれているのだ。
「やだ……こわっ」
「えー……きも。近寄らんとこ」
そそくさと、女冒険者達が立ち去っていく。
「なんだなんだよ! どうなってやがるんだよぉ! 急にこんな不幸が連続して起こりやがって!」
自分の身に起きていることを、彼はさっぱり理解できない。
だが全ては因果応報だ。
今まで調子に乗ってきた分のツケが巡ってきたのである。
……そう、今までの、全て……だ。
ガツンッ……!
「いってぇええ!」
突如として誰かに、背後から頭を殴られた。
「な、なに……しやがる……!」
振り返ったそこには、複数人の男女がいた。
女には、全員見覚えがあった。
彼女たちは、自分が魅了をかけて心を操った女たち。
だが男の方は知らない。
「アーフォス、やっと見つけたぞ。よくもおれの女に酷いことしてくれたじゃあねえか」
男達が、ぽきぽき……と指を鳴らしながら近づく。
そう、彼らは魅了の被害に遭った女性たちの、夫や彼氏たちだ。
先程の女医の彼氏もいる。
「てめぇ人の女に手を出して、ただで済むと思うなよ……?」
「お、おい! 雌豚ども! 僕を守れぇ!」
だが、誰ひとりとして、命令を聞かない。
「なぜだぁああああああ!?」
さもありなん。
先ほどのペナルティによって、アーフォスは解呪スキルを無自覚に発動させた。
魅了の呪いが解けて、正気に戻った女達に、命令は届かない。
「うっせえ! おい被害者諸君! 全員でこいつをボッコボコにすんぞ!」
「「「おう!」」」
あっという間に、アーフォスは取り囲まれる。
「ひぃい! ひぃいいい! 許してぇええ! もうしないから許してよぉおおおお!」
だが彼らの怒りは、その程度の懺悔で収まるものではなかった。
ボコッ! ドゴッ! と彼らはアーフォスに暴行を加える。
決して殺しはしない。
彼らは皆鬱憤を晴らしている。
それが終われば騎士に突き出すつもりだから。
「うぎゃぁああああ……!!!」
その後ボコボコになり、顔はさらにブサイクに変形してしまった。
騎士に捕まり、牢屋にぶち込まれる前に治療院に運び込まれた。
自分の面倒を見てくれたのは、あのおばさんナースだった。
しかし唯一自分に優しくしてくれた女性である彼女ですらも、アーフォスに愛想を尽かしていた。
すべては身から出たさびであり、誰も同情してくれないのだった。