作品タイトル不明
45話 とある鍛冶屋の栄枯盛衰
テイマーのエレンが、鍛治師マリィのもとで指輪を買ってから、1週間後。
朝。
鍛冶屋【セレスティア】の主人アンダードッグは、忌々しい気持ちで、目を覚ます。
窓を開けると、店の前に行列ができていた。
それは、当たり前の風景のはずだった。
「…………くそっ!」
アンダードッグが着替えて1階に降りていく。
だが店の中には、1人たりとも、客がいなかった。
「おい店員! そこのチミぃ!」
「はっ、お、おはようございますアンダードッグ様」
レジの前でボケッとしていた男が、店主に気づいて、ペコペコと頭を下げる。
「客はどうしたのかね!」
「どうした、といわれましても……今朝はまだひとりも来ていません」
ギリッ、と歯がみするアンダードッグ。
デカい図体をゆらしながら、店の外に出る。
行列ができていた。
……ただし、その列は、眼前の店のなかへと続いている。
「お、おさないでくださーい! まだまだたくさんあるのですー!」
ドワーフの小娘が経営している鍛冶屋【インフェリア】。
長蛇の列が店の外までできており、冒険者や商人やらが並んで居るではないか。
一方で、アンダードッグの店には、誰も見向きもしない。
「見る目のない連中だ! あんな小娘の作ったものの、なにが良いというのかね!」
アンダードッグは店に戻る。
店番していた男に尋ねる。
「チミ、ちょっとあの店を偵察してきなさい」
数時間後。
偵察を終えて、店員が帰ってくる。
「とてつもなく性能の良い武器や防具、アクセサリーがそろっていました。値段は適正価格なのですが、クオリティが段違いです」
店員は試しに、ロングソードを買ってきたようだ。
アンダードッグは剣を手に取る。
彼もまた職人。
手に取るだけで伝わってくる。
その剣の凄まじい仕上がりに、身震いをする。
「くそ! 信じない! ミーより優れてるなんて! 絶対信じない!」
……結局、その日も向こうは大繁盛。
一方でこちらは客がひとりも来なかった。
アンダードッグはひとり、私室で焦った表情でつぶやく。
「このままではいかん……あの娘が手に入らないじゃないかぁ!」
あのあどけない少女に、彼は欲情していた。
金に困っていると聞いたときは、手を差し伸べるふりをして、内心でにやりと笑っていた。
「借金を返されるまえになんとかせねば!」
そのとき、こんこん、と部屋のドアがノックされた。
「あのぉ、アンダードッグ様。本日分の日当の支払いを……」
先程の店員が入ってきたのだ。
「今忙しいのだ! あとにしてくれたまえ!」
店員は、ぺこっと頭を下げてでていく。
その表情は冷酷なものだったが、アンダードッグは気づかない。
「今日も大繁盛だったね、マリィ!」
「はいなのです! これもエレンさんのおかげなのですー! ありがとー!」
窓の外を見やると、店の外で、エレンと仲間達が集まっていた。
「1週間もお店手伝って貰って、もーしわけないのです……」
「良いって、気にしないで。困っている人を助けるのが冒険者だから!」
エレンは微笑むと、マリィの肩をたたく。
「あう……エレンさん……」
熱っぽい視線を、マリィがエレンに向ける。
それを見たアンダードッグは、部屋の家具をめちゃくちゃに殴り飛ばす。
「あの女はミーのだ! ここまでどれだけの金と労力を払ったと思っているんだね!」
げしげし、と家具を蹴飛ばしていく。
「あの子の親父を暗殺ギルドに高い金払って殺させて、サクラをやとって評判を下げまくってまでして、よーやく手に入るところだったのに!」
マリィに襲いかかった不幸は、全部この最低男の仕業だったのだ。
「このままでは借金を返し、早晩あのガキとくっつく……そうは、させないよぉ……」
にちゃぁ、とアンダードッグが邪悪に笑う。
深夜。
彼はこそこそと、マリィの店の前までやってきた。
「この遅延式発火魔法陣をセットしておく。近くに爆弾もおまけで置いておこう……」
店の前に箱を置いて、準備完了。
「マリィ~……うひひっ……今行くよぉ……」
店の鍵は、闇取引されている高額なマジックアイテムで無理矢理こじ開けた。
彼はマリィのいる作業場へと忍び込んだ。
夜も遅いというのに、彼女は真面目に、明日の武器や防具を作っている。
「ノームさん、ありがとうなのです。あなたのおかげで、まりぃ鍛冶師として頑張れてるのです」
えへん、とノームがマリィの頭の上で胸を張る。
「それに……エレンさんのおかげ……優しくて……かっこよくって……ああ、好きなのですぅ~……」
次の瞬間、アンダードッグは、マリィを押し倒した。
「ひっ……!」
「うひひひっ! マリィ~……いとしのまりぃ~……」
アンダードッグは、麻痺の毒が塗ってある針を、少女の首に刺す。
「あ……ああ……」
くたっ、と力の抜けたマリィに馬乗りになって、アンダードッグがズボンを脱ぐ。
「他の男に取られるくらいなら、ミーが今チミの初めて貰うよぉ~……」
「い、いや……たす、けて……」
「ひゃーっひゃっひゃ! 助けがくるわけないだろぉ!? さぁて、いただきまーす!」
そのときだった。
ボッ……! と彼の目の前に、炎が立ち上ったのだ。
「ぎゃっ!」
炎は人の形へと変貌し、そこにいたのは、さっき帰ったはずのエレンだった。
「き、貴様ぁ! どこから入ってきたぁ!」
エレンは不死鳥の大翼を使ってテレポートしてきたのだが、答える義理はなかった。
「嫌がる女の子を襲うなんて最低だぞ!」
「う、うるせぇえええええ!」
アンダードッグは、近くにあったハンマーを手に取って殴りかかる。
「チミが来てからすべておかしくなった! 消えろ! 疫病神ぃいいい!」
ハンマーを振り下ろす。
だがエレンはその攻撃を紙一重でかわし、すきだらけの土手っ腹に蹴りを食らわせる。
「ほげぇえええええええ!」
アンダードッグは凄まじい勢いで吹っ飛んでいく。
壁をぶち破り、店の入り口のガラス戸を壊した。
そのまま自分の店の出入り口をも突き破り、どさりと地面に倒れる。
「もう二度とマリィにその汚い顔を見せるな! いこう、マリィ!」
エレンはマリィとともに、炎となって消えた。
「ち、くしょぉー……くそぉー……」
体が痛くて、動けないでいた……そのときだ。
どがぁああん! とアンダードッグの店の中から、激しい爆発音が聞こえたのだ。
「なっ!? そ、そんなバカなぁあ!」
マリィの店にセットしたはずの爆弾が、なんとアンダードッグの店の中にセットされていたのだ。
炎が店を焼く。
そして運の悪いことに、まるで測ったようなタイミングで、局所的な嵐が起きたのだ。
ごぉおお、っと炎が瞬く間に広がっていく。
「店が燃えるぅ! なぜだぁ! どうしてこうなったぁ!」
「てめぇの自業自得だろうが」
倒れ伏し動けないアンダードッグを、冷ややかな目で見下ろすものがいた。
先程の店員だ。
「貴様の仕業かぁ!」
「前から気にいらなかったんだよぉ! 安い金で奴隷みたいにコキ使いやがって!」
店員が歯をむいて笑う。
「店の金を全額盗んだからよぉ。あとは火事っつーことであんたもろとも証拠隠滅すれば万事オッケーて寸法よ」
「き、汚いぞぉ……!」
「今まで散々汚い手段をとっていたあんたが、どの口で言うですかぁ〜?」
ふんっ、と小馬鹿に笑って、彼が店から出て行く。
「ま、待て! ミーを助けろぉ!」
彼は振り返ることなく店を出て行く。
「店が! ミーの店が! 燃える! 嫌だ! うわぁああああああ……!」
……その後。
アンダードッグは奇跡的に一命を取り留めた。
しかし強姦未遂で、あの店員共々逮捕されるハメとなった。
不運の重複は偶然の産物では無く、すべては精霊の王が下したペナルティ。
エレンと敵対したがゆえに招いた、悲劇だったのだ。