作品タイトル不明
194話 削りあい【後編】
勇者エレンを追い詰めても、なかなか倒せぬことに、クトゥルーは焦りを感じていた。
「クソッ……! なぜだ! なぜ倒れないんだくそぉ!」
上空でクトゥルーの拳と、エレンの剣とがぶつかりある。
触れれ勝確の拳を、しかしエレンは回帰の力を使って中和する。
時間を破壊し瞬間移動しても、動作を読まれて先回りされる。
「くそっ! くそっ! 死ね死ね死ね!」
力でただ押してるだけのクトゥルーでは、やはり決定打に欠ける。
だがそれでもエレンが無傷というわけではない。
「くっ……!」
『エレン、これ以上は危険だ。君の体は今人間のそれとなっている。霊王の力は負担が大きすぎる』
「だいじょうぶ……! ぼくは……倒す。ぼくが倒れる前に!」
忌々しいことに、エレンの持つ精霊王の力が、自分を追い詰めていた。
自分が手にした最強の力、同じ力を持っていて、自分の方がその割合が多い。
だというのに圧勝できない。つまり使用者の技量に問題がある。……端的に言えば、クトゥルーが雑魚だから追い詰められているのだ。
「くそ……! 霊王の力さえ……ルルさえいなければ……ハッ!」
戦闘の途中で、クトゥルーは気づく。
一発逆転の策を思いついたのだ。
「くくく……かかか! イグ! イグぅうううううう!」
クトゥルーは距離を取って、部下である邪神の名を呼ぶ。
「少しで良い! 時間を稼げ! その命に代えてもぉおおお!」
その瞬間、邪神イグが現れ、エレンの前に降り立つ。
「どいて!」
「させない」
接近しようとするエレンに、イグが体を張って止める。
「どうしてどいてくれないの!?」
「それが……我が主たるクトゥルー様の命令だから」
邪神の魔力の波動がエレンを包む。
だがこんなものは、回帰の力ですぐに浄化できる。
エレンは接近して、霊王の鍵でイグを斬りつける。
「回帰の力を、使わないのか……甘い勇者だ」
ガシッ、とイグが決死の覚悟でエレンを捕縛する。
「離してよ!」
「できぬ。どうしてもというのなら、私を殺せ……!」
エレンは逡巡する。
だが、世界を守るためだと、霊王の力を解放した。
「ああ……優しいな勇者エレン……だが……」
霊王の力に飲まれて、消えかけながらイグが言う。
「その優しさが、逡巡が、貴様の敗因だ」