作品タイトル不明
194話 削りあい【中編】
勇者エレンの折れぬ姿に、クトゥルーは苛立ちを感じていた。
「死ね! 死ねぇええええええ!」
クトゥルーが時間の流れを破壊した、超高速の一撃を放つ。
時間を破壊されている間、エレンの意識はないはず。
だがエレンは攻撃のモーションを先読みし、それを紙一重で避けてみせる。
衝撃波は森を、大地を破壊する。
だがエレンは回帰の魔力を使い、傷付いた大地を癒し、人々を守りながら、互角に戦っている。
……これが何を意味するのか。
エレンが防御を捨て、攻撃に特化すればクトゥルーをも凌駕するということ。
カルラ戦のときと状況は似ている。
破壊者たる自分は、守るべきものが何一つないため、攻撃に専念できる。
だが勇者は違う。
人の、星の命を背負って戦っている。
「なのに……なぜだぁ! なぜ勝負を決められないんだよぉおお!」
クトゥルーの放つ強烈な打撃。
破壊の魔力が籠もった攻撃を、エレンは回帰の力を纏った剣でさばく。
一瞬で接近し、胴を払ってくる。
「くそがぁ……!」
攻撃を避けることができなかった。
守っていて、なおこの強さ。
驚嘆に値する。
「くそ……くそくそ……!」
『どうした兄上、メッキが剥がれてきているぞ?』
「やかましいぃ!」
妹もまた、精霊王の本来の力を発揮できていない。
彼女が持っているのは、25%程度の精霊王の力だ。
残る力は超未来神たる自分が持っているはず。
今も大地を引き剥がすほどの衝撃を込めた、打撃を放った。
だがそれをエレンは、攻撃の軌道を見切って、最小限の力で受け流す。
最小限の力で、最大の効果を発揮する。
エレンは今日まで世のため人のために戦い続けてきた。
そして、力にあぐらをかくことなく、修練を積んできた。
積み重ねの差。
それが、彼我の実力差が拮抗している理由であった。
「くそ……! どこまでも、僕の邪魔をしてくれる……! えれぇえん!」