作品タイトル不明
170話 母カルラ
ぼくはゆっくりと、意識を覚醒させる。
たしか、ルルイエさんと対話しにいった。
けれど結界に阻まれて、気を失ってしまったんだっけ。
「う、うう……こ、ここは……?」
知らない部屋だった。
とても豪華な、それでいて、暖かな部屋だった。
暖炉とソファ、それと巨大なベッド。
一見すると、どこかの高いホテルのようだった。
けれど奇妙なものがいくつかあった。
「なんで、ホテルの中に……シャワールームがついてるんだろう?」
全面の壁は、曇りがかったガラス張りになっている。
その向こうはシャワールームとなっていた。
ベッドは丸く、そして大きい。
ふたりは余裕で寝れそうだ。
「うう……ちょっと突然すぎて話しが見えてこないや」
と、困惑していたそのときだった。
「おー、息子よ。起きたかー」
シャワールームのドアが開くと、出てきたのは……赤い眼をした大人の女性だった。
「ふ、ふ、ふくろうさん!?」
ぼくの協力者ふくろうさんが、すっぽんぽんの状態で出てきた!
わ、わ、わー!
「ケガなくてよかったよ。治癒魔法ってどうにも苦手でな」
「かくして! 見えちゃうからっ!」
「あーん? なんだ息子よ、こんなので顔真っ赤にしちゃうのか~? 純情だなぁ~?」
さっきから何を言ってるだろう!
ふくろうさんがオカシイ……。
「ちょっちまってな。今着替えるからよ」
パチンッ、と指を鳴らすと、一瞬で衣服を纏う。
「すごい……ルルイエさんみたい」
「なはは、お母様は世界最高の精霊使いだからよ、ルルと同じことができるのさ」
「お母様……?」
ふくろうさんは微笑むと、ぼくを正面から抱きしめる。
……そのとき、とてつもなく、懐かしい気持ちになった。
そう、ぼくはこの暖かさを知っている。
体じゃない、魂の温かさ……とでもいうのかな。
遙かの昔に、こうして抱いてもらったことがある。
「……母さん?」
「おうよ、アタシはあんたのお母様、カルラ母ちゃんだぞ。久しぶりだな、エレン?」
ややあって。
「なーんだエレン、もっと感動の再会! おかーさーん! 息子よー! 的なリアクションがあっても良いんだぜ~?」
ぼくたちはソファに座っている。
正面の母さんは、ふくろうさんそっくり……。
「ええっと、その……記憶にある限りは母さんも父さんもいなかったから……その……ごめんなさい」
どうしても、他人行儀になってしまう。
「ま、しゃーねーな。エレン……おまえ、立派になったなぁ」
ニッ、と母さんが笑って、ぼくの頭をなでる。
確かに、ぼくと母さんは初対面だ。
けれど……彼女に触れるたび、思い出す。
とても昔、ぼくがまだ幼子だった頃に、抱っこしてもらったり、なでてもらったことのある、記憶が。
「ええっと、母さん。どうしてここに?」
「ま、時間ねーから手短に話す。ここはアタシがルルの力を借りて作った、異空間だ」
「異空間……」
母さんもまた精霊使い、精霊の王たるルルイエさんの力を借りて、空間を一つ作ったんだ。
「すごい……でも、なんでそんなことを?」
「そりゃおまえ、ルルと仲直りするためには、ふたりきりの空間が必要だろ?」
「え?」
母さんが指さすベッドの上には、ルルイエさんが仰向けに眠っていた。
「ど、どうしてここに? 凄い強い結界のなかにいたのに……」
「お母様が結界に入ってふたりを連れ出したのさ」
「す、すごい……母さん、本当にすごいや!」
「わはは! お母様をほめても何も出ないぜっ」
世界最高の精霊使いを自称するだけ会って、母さんは本当に凄い。
霊装(合体)しなくてもルルイエさんの力を使えるし、精霊の張った結界をすり抜けるなんて。
「さて、じゃあエレン。今からとても真面目な話をします。よーく聞くように」
「は、はいっ」
ぼくは母さんの前で、正座をする。
「現状、君たち2人は心がバラバラの状態だ。これでは来たるべき厄災に打ち勝つことは不可能」
「バラバラ……そう、ですね」
ぼくはルルイエさんのこと何も知らないし、彼女はぼくを拒んでいる。
「霊装……精霊との合体には、ふたりの心をぴったりに会わせる必要がある。けど今のふたりではそれができない。ならばどうすればいいか」
「うんうん」
「簡単だ。セックスだ」
「うんう……うん?」
な、なんか変なこと言わなかった……?
「あの……母さん? 今、なんて?」
「おまえらちょっとセックスしろ」
「え……ええぇええええええええええええ!?」
な、何を言ってるんだ!
何を!? せ……え、ええぇ!?
「なーに恥ずかしがってるんだよおめーも15ならわかるだろ? 性行為だよ、エッチとも言うな」
「し、知ってるよ……! だってぼくは……その……」
「ほ? ほうほう……なるほど、ふくろうから聞いたぜ。おまえ女を孕ませたんだってな。なーんだなら話早いじゃん!」
ばしばし、と母さんが背中を叩く。
「いやあの……母さん! ふざけたこと言わないでよ!」
「エレン。アタシはちーっともふざけてないさ」
実に真剣な表情で、母さんが言う。
「おまえ、ルルの望み知ってるか?」
「ルルイエさんの……望み?」
前に一度、寝ているところに、襲われそうになったことがある。
そのとき、ルルイエさんはこう言っていた。
「ぼくとの……赤ちゃん?」
「そ。ルルはおまえの赤ん坊が欲しいんだよ」
「どうして……?」
「それは、アタシじゃなくてルルから聞きな。ピロートークでよ」
母さんがふざけてるのか、本気なのか……よくわからないや。
「エレン。おまえらはお互いなーんもわかっちゃ居ない。何が好きで、何が嫌いか。どういう歴史を辿って今があるか。よくよく話し合う必要がある」
けど、と母さんが続ける。
「今のおまえらじゃ、間が持たないだろ。そこで男女の営みですよ。やってりゃ間も持つってもんだ。お互いの心も体も知れて、しかも気持ちよくなれて、さらにルルの望みまで叶う。ほら一石二鳥どころか、四鳥じゃねーか」
母さんが言うと、妙な説得力が増すから不思議だ。
「でも……奥さんが居るのに、他の女の人とその……するなんて……」
「エレン。良い言葉を教えよう。偉い人はこう言いました。【バレなきゃ浮気じゃないんだよ】って」
「最低だ! 最低だよそれ!」
「ま、冗談として……だ。現実問題、今の心も体もバラバラな状態じゃまともな霊装化は無理だ。おまえの負けはすなわち、世界の滅亡に繋がっている」
そうだ。
神々とまともに戦えるのはぼくだけ……。
いや、霊装をまとった、ルルイエさんと合体したぼくだけなんだ。
「エレン、おまえ、ルルって何者だと思う?」
「何者って……ぼくに力を貸してくれる恩人で、強くて優しいお姉さん」
「ばっか。なんもわかっちゃいねえ。いいかエレン。ルルはな……女なんだよ。とっても純粋な乙女さ」
母さんの言いたいことが、よくわからなかった。
性別の話しをしている……わけじゃないことくらいしかわからない。
「おまえはルルを特別視しすぎてる。神聖な存在かなにかだとな。けど違うんだ。こいつもまた、1人の恋する乙女なんだよ。悩みもするし性に対する欲だってある。そのことをおまえはまるでわかっていない」
言われてみれば……たしかにそうかも。
精霊という、神秘の存在。
その王様だから、ぼくなんかが想像できない、凄い人だって……。
そうだ、それ以上、考えていなかった。 ぼくは、勝手に自分で作った、ルルイエさんしか見ていなかった。
「おまえが思うよりもルルは普通の女だよ。そのことを理解するのが、男として、おまえがなすべきことさ」
「男として……」
「そこでセックスですよ。男女の営みをすることで、嫌でも性差を理解できる。ルルが生身の女だってことを体で理解できるだろう」
……そう言われると、合理的な気がしてきた。
母さんはほんとなんか、ふざけてるのかわからないけど……ぼくらのことを考えてくれていることは、わかった。
「エレン、外のことは気にするな。アタシがふくろうとなんとかする。おまえはルルと仲直りすることに集中しな」
ぽんぽん、と母さんが頭をなでてくる。
「母さん……どうして、そこまでしてくれるの?」
彼女は目を丸くすると、至極当然のように、こういう。
「アタシがあんたの母親で、ルルの親友だからさ」
それ以上の言葉はいらない、とばかりに、母さんが微笑んでいる。
無条件で助け合う。
家族って……親友って……そういうものなのかな。
「そんじゃエレン、この【セックスしないとでれない部屋】を見事突破して外に出ておくれよ」
「ちょっ!? 母さん! なにそのふ、フケツな部屋の名前!?」
「わはは! シンプルイズベストと言うじゃあないか! ではなエレン、ルルをヨロシク!」
母さんはそう言って、部屋唯一のドアを開けて外に出る。
バタン! と扉が閉まると同時に、消滅した。
「ええと……本当に、せ、その……あれを、しないと出れない……の? ルルイエさんと? ぼくが……?」
『おー、その通りだぜ。あ、ちなみにアスナとティナから了解は得たぜ?』
母さんの声がどこからか聞こえる。
『外と少し時間の流れが異なるのさ。んでアスナに頼んだらおっけーだって』
「ちょっと待ってなんて説明したの!?」
『世界のピンチを救うためには、エレンとルルがセックスしなきゃいけない。頼む、許してくれって』
「えぇえええええええ!? なにそのまま説明してるのさ!」
『それ以外に説明しようがないだろ。ほら、お膳立てしてやったぞ。あとは……がんばれ、 親友(ルル) 』
ぼくは背後を振り返ると、顔を真っ赤にしたルルイエさんが……立っていたのだった。