軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

169話 精霊王、対話を拒む

勇者エレンから嫌われてしまった、と思っている精霊王ルルイエ。

彼女がいるのは、精霊界の奥地にある、巨大樹の洞だ。

幾十にも重なった黒い殻のようなもののなかに、ルルイエは結界を張って、丸くなっている。

「ごめんね……エレン……ごめんね……」

どれだけ涙を流しただろうか。

もう自分でもわからないくらい、ルルイエは泣き続けた。

それでも……彼女はここから出ることはしなかった。

ふくろうに手を引かれても、である。

『ルルイエさん!』

びくんっ! とルルイエは体を萎縮させる。

魔法で外の様子をうかがうと、エレンが、大樹の前までやってきていた。

「エレン……」

愛しい彼が会いに来てくれたことが、嬉しい反面……怖かった。

彼の本心を知るのが怖かった。

もしも、彼が自分を拒んでしまったら?

「ルルイエさん」

『帰って……!』

彼女の口から出たのは、自ら彼を遠ざけるセリフだった。

ルルイエはエレンに嫌い、と言われたくなかった。

彼の言葉を聞きたくなかった。

「ルルイエさん、この間は、ごめんね。冷たいこといって……傷付いたよね」

エレンが頭を下げる。

だがルルイエは、彼に背を向けて、耳を閉じて、丸くなっていた。

『聞きたくない! 何も聞きたくないよ!』

「ルルイエさん……」

『どうせ君も! 僕に酷いことを言うんだろ! 怖いとか! 重いとか! 僕を嫌うんだろ!』

今まで拒絶され続けてきた弊害か、ルルイエは誰かに嫌われることを、最も恐れていた。

愛するエレンから、嫌われる。

それは死を宣告されるような物だ。

……だから、聞きたくなかった。

会いたくなかった。

本当は会いたいし、彼をギュッと抱きしめたいけれど。

……彼から拒まれたら、嫌われたら、きっと辛い思いをしてしまうから。

だから、会いたいのに、会いたくないのだ。

「ルルイエさん、ぼく、もっとあなたのことを知りたいんです」

エレンは何度も対話を試みようとする。

だがすでにルルイエは、魔法による通信を遮断していた。

エレンの声が届かない結界の中で、胎児のように丸くなり、耳を塞ぐ。

必死になって彼は、ルルイエに話しかけるも、しかし無反応。

「どうしよう……こうなったら、直接乗り込むしかないか」

エレンは意を決して、結界に近づこうとする。

だが結界に触れようとした瞬間、バチンッ! と強く電流が走った。

侵入者を拒む強力な電撃だった。

『もう帰って! どうせ僕にさよならを言いに来たんでしょ! 僕のことなんて嫌いなんでしょ!?』

「違うよ、ぼくはルルイエさんのことを知りたいんだ!」

ルルイエは自分の言いたいことは言うくせに、エレンからの言葉は一切をシャットダウンしていた。

『僕は君が好きなんだ! なのに君は僕を拒んだ! 僕は嫌だよ! 君に嫌われたくない! だから君に会いたくない! 君に嫌いだと言われたくないんだ!』

エレンは、彼女が文字通り殻にこもっていると思った。

かたくなになりすぎていると。

「……待ってて、ルルイエさん」

エレンは結界に触れる。

運命を破棄する力は、ルルイエと合体していないと使えない。

この結界を破ることは、今のエレンでは不可能だ。

それでも……彼は結界に触れる。

バチバチッ! と肉が焼ける音。

「くっ……!」

エレンは激しい痛みに耐えながら、結界を力尽くで破ろうとする。

痛みで泣きそうになる、けれどエレンは涙を流さない。

「るる、いえさん……待ってて……! ぼくは……君に……会って……仲直りが……したいんだ……!」

だが結界はあまりに強力だった。

侵入者が深いところへと入ろうとしたので、自動的に、さっきよりも激しい電流が流れる。

「ぐっ! ぐあぁあああああああ!」

ばちんっ! と大きく弾かれて、エレンは後ろへ吹っ飛ぶ。

ドスッ……! と森の幹に頭を打ち付けて、その場に崩れ落ちる。

『え、れん……?』

エレンの悲鳴は聞こえるはずがない。

だが、かつて心と体をつなぎ合わせていたからか、彼の危機を第六感で悟ったのだ。

ルルイエは外の様子を魔法で見やる。

「あ、ああ……あぁあ……!」

手を黒く焦がし、頭から血を流す……エレンの姿だった。

「エレン! エレン! えれぇえええええええええええええええええええん!」

ルルイエは青ざめた顔で、気を失っているエレンを見やる。

「そんな……なんで……なにが……なんで……?」

と、そのときだった。

「あーあー、やっちゃったねぇ、ルル」

「クトゥルー……」

双子の兄クトゥルーが、エレンの隣に立っていた。

「可哀想に、この子は君に会おうと、君が張った超強力な結界を無理矢理破ろうとしたんだ」

「そ、んな……じゃあ……エレンを傷つけたのは……」

「そ、君だよ。あーあ、これは終わったね。君はエレンの心だけでなく、体まで傷つけてしまったんだ」

「あ……ああ……」

「これじゃあ関係修復はもう無理だろうね。終わりだよ。君は完全にエレンから嫌われたよ。残念……!」

ルルイエは自分の髪の毛をかきむしりながら、首を振る。

「違う……違う違う違う……! 僕は……エレン、君を傷つけるつもりはなかったんだ……」

「ばーか、事実きみはエレンを傷つけたんだよ。可哀想に。エレン君はもう二度と目を覚まさないかもしれないよぉ?」

「いや……いや……いやぁあああああああああああああああああああああ!」

ルルイエは泣き叫ぶ。

自分を支えていた物が、崩れ去っていく音がした。

先ほどまでは、エレンに嫌われているかもしれない。

でも、もしかしたら、優しい彼なら許してくれるかも知れない……という淡い期待を胸に抱いていた。

事実そうだったのだが、しかしルルイエはエレンを傷つけてしまった。

大好きで、愛しい彼を、自分のせいで傷つけた。

その自責の念と、そしてなにより、エレンから完全に嫌われてしまった。

その事実が……ルルイエの心を、壊してしまったのだ。

「エレン……エレン……えれぇえ……ん」

そのときだった。

ぽわ……とルルイエの体から、何かが這い出てきた。

それは7色に輝く、【鍵】だった。

極光の輝きを放つ鍵は、ルルイエの体から漏れ出る。

結界の外へと出ると、クトゥルーは口の端をつり上げる。

「さぁ……! 霊王の力よ! 前の主は所有権を放棄した! 今こそこの手に収まれぇええええええええ!」

クトゥルーの呼び声に呼応するように、霊王の力たる鍵が、彼の手元へとやってくる。

「ひゃははは! そうだぁ……! その力を持つにふさわしいのはこのボクだぁ!」

と、そのときだ。

「下がってろ三下」

突如、クトゥルーの頬を、誰かが蹴りつけたのだ。

「ふぎゃっ……!」

2,3回バウンドして、クトゥルーが鍵から遠ざかる。

「誰だァ……! 未来王の顔に泥をつけた愚か者はァ……!」

クトゥルーの眼前にいたのは、赤い眼をした女だった。

「貴様はふくろう! なぜボクの邪魔をする!?」

するとふくろうは、ハンッ……! と小馬鹿にしたように笑う。

「うっせーポッと出の雑魚が。【アタシ】の大事な子らを傷つけてんじゃねえぞぶっ殺すぞ?」

そのしゃべりかたは、ふくろうのものではなかった。

まるで、別人がふくろうの肉体を使って、操っているようだ。

「ったく、見てらんねーな」

ふくろう(仮)は倒れるエレン、そして結界の中からルルイエを取り出す。

ふたりを脇に抱えて、空中にホバリングする。

「貴様ぁあああ! 霊王の力を返せ!」

「やーだよ。これはあんたみたいな雑魚が持ってて良い力じゃないんだよ」

「くそ! イグ! そいつらを殺せぇ!」

クトゥルーの影から小柄な人物が出現し、ふくろうに肉薄する。

だがふくろうはその動きを完全に見切り、イグの腹部を蹴り飛ばす。

「アタシに触れて良いのは、だーりんとエレンとルルだけなんだよ!」

その瞬間、クトゥルーとイグの体に、強大な雷が落ちる。

「うぎゃぁああああああああ!」

その隙を突いて、ふくろうはエレンとルルイエを連れて脱出。

イグは身を挺して、クトゥルーを守っていた。

「イグ! おいイグ! 鍵は!? 霊王の力は!?」

「申し訳……ございません……」

イグの手に収まっていたのは、半分に折れた鍵だった。

ルルイエから出てきた霊王の力、残り50%。

その半分、つまり25%の力。

「クソ役立たずが! これでは100%の力が出ないではないか! この屑! のろま! ウスノロ!」

窮地から救ってくれたというのに、クトゥルーはイグに対して感謝の言葉を述べなかった。

「ふんっ! まあいい。これでボクは霊王の75%の力を手に入れた。やつらが何をしようと、ボクの勝利だ」

にやりと笑い、クトゥルーは霊王の力を取り込む。

「くくく……いい、いいよ! 体から力があふれ出てくる……! 100%じゃないのが惜しいくらいだ!」

彼は全能感に酔いしれる。

だから、逃げたふくろう(仮)たちの行方を気にしなかった。

「霊王の力を手に入れた。あとは魔竜を完成させるだけ……! 終焉は近いぞぉ! はーっはっはっははぁああああああ!」

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ったく、ルルのヤツめ。強情なんだからよ。

うちのベイビーが頑張って歩み寄ろうとしているのにさ。

やれやれ、これじゃ安心して成仏もできやしねーじゃねーか。

しゃーねーな。

このお母様がなんとかしてやるか。

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