作品タイトル不明
168話 精霊王、回顧する
……ああ、また失敗した。
僕はいつもそうだった。
『ルルイエ、おまえの愛は重いんだよ』
そう言って、初恋の人は僕を捨ててどこかへ行った。
『君、怖いんだよ』
そう言って、僕の前の旦那は出て行った。
まだ腹に子供が居る僕を捨てて。
……いつだって僕はやりすぎてしまう。
誰かを好きになると、それ以外が見えなくなってしまう。
好きな人に喜んで欲しい。
そう思って行動した結果、いつもやり過ぎてしまう。
初恋の人は僕の家庭教師のひとだった。
母親のためにお金を稼ごうとするひとだった。
だから僕は巨万の富を与えた。
金銀財宝、金になる物を世界中から集めて彼に与えた。
こうすれば彼は喜んでくれるだろうと思った。
けど、重すぎると言って僕の前から出て行ってしまった。
前の旦那は許嫁というやつだった。
僕は彼が好きだったけど、向こうは僕が好きではなかった。
他に好きな女がいたが、僕との結婚でご破算になったといった。
どうやら幼馴染みというやつだったらしい。
その女はまた別の男と結婚したそうだ。
僕は彼が喜ぶと思って、その女と男を別れさせた。
男が女に報復しないように精霊達に24時間監視させた。
女を妾として王宮に置くことにした。
これで彼が喜んでくれると思った。
けど女は僕に恐怖して自殺した。
彼は僕が彼女を殺したのだと罵詈雑言を吐いて、後追い自殺した。
……いつだって、そうだ。
初恋の人だけじゃない、婚約者も、大好きだった使用人も、父も、母も。
……みんな僕に恐怖していた。
僕の持つ、霊王の力に。
『へぇ、あんたが精霊王かい?』
そんなある日、僕の元に、一人の女の子が現れた。
男の子みたいに勝ち気で、にやりと、いつも挑むように笑っている子だった。
『……きみ、だれ?』
『アタシはカルラ。あんたのお目付役さ! よろしく!』
その子は精霊使いの里長の子供だった。
『…………』
『ほら、よろしくだよ! よーろーしーく! まったく、礼儀のなってない精霊王様だな』
『……君、僕が怖くないの?』
『はぁ? なにそれ』
『……僕のウワサ、聞いてるんだろ』
『あー? しらねーなぁ、そんなもの』
カルラはニッと笑うと、僕に手を伸ばす。
『アタシはあんたと友達になりにきただけだよ!』
みんな僕の霊王の力を恐れる中で、カルラだけは例外だった。
僕を怖がらず、普通に接してくれた。
『……よろしく、カルラ』
その日から僕とカルラは友達だった。
年も離れていて、種族も違う。
けれど彼女とは馬が合った。
彼女となら、ずっと一緒に居ても良いかもと思った。
僕を支えてくれる、唯一の人だと思っていた。
……けれど。
『……いま、なんていったの?』
ある日のこと。
美しく成長したカルラが、僕の前に、男を連れてきたのだ。
緑色の髪が美しい、美丈夫だった。
『アタシ、こいつと結婚することになった』
『……ちょっと待ってよ。聞いてないよそんなこと』
僕は焦っていた。
カルラが、僕の友達が……他の男に取られてしまうと。
『そういや言ってなかったな。すまん。あ、それからアタシだーりんの子供孕んでるんだ』
『ふ、ふ、ふざけるな!』
僕に黙って男を作っていたことも、僕に黙って子供を作っていたことも、許せなかった。
『そんなこと許してない! 僕の許可無く、どうしてそんな勝手なことしたんだよ!』
僕は大事な人が誰かに取られてしまうと、心から焦っていた。
『……君、よくも僕のカルラを取ったな……万死に値する! 今すぐ殺して……ぶべっ!』
僕の頬を叩いたのは、カルラだった。
『いったいなぁ! なにするんだよ!』
『バカヤロウ。王様のくせに、なに臣下を殺そうとしてるんだよ、ルル』
精霊王(ぼく) を恐れず、頬を殴ってきたのは……後にも先にも、カルラだけだった。
僕を対等に扱ってくれている。
そのことが嬉しかったけれど……悲しかった。
今殺されそうになった男を、守るための行動だったと思うと……。
『い、今すぐ別れろ! これは命令だ!』
『嫌だね』
『どうして!?』
『 人間(アタシ) が、おまえの人形じゃねーからだ』
『ふざっけんな! 君は僕の物だ! 僕の大事な大事な人だ! 髪の毛一本だって他のだれにも渡してなるものか!』
僕が声を荒らげても……カルラは怯えることをしなかった。
『カルラ、ここで選びなよ! 僕とそいつ! どっちが大事か! どっちが自分の【もの】にふさわしいか!』
カルラは、少し、悲しそうな顔をしていた。
きびすを返して、僕の元を立ち去ろうとする。
『ま、待ちなよ! まさか……そんな何物でも無い男を選ぶとか言わないよね!?』
『悪いな、ルル』
カルラが選んだのは僕じゃなくて、ポッとでの 精霊(おとこ) だった。
『人間は物じゃない。そんなこともわからないやつとは……付き合えない。少し冷静になれ』
『~~~~~! ああそうかい! 絶交だ! 君なんて絶交だ! 二度と僕の前に現れるな!』
『…………』
『あーあ知らないぞ! 僕に嫌われたヤツらがどうなるか知ってるだろ!? この先不幸が君を襲うけどね! あーあ! 後悔するのは君だよ! ここで謝っておけば良かったって、ずっと後悔していくよ!』
カルラは悲しげな顔をしていた。何かを哀れむようなそんな顔だった。
『ルル』
『なんだよ!』
『またな』
……それが、カルラと交わした、最期の言葉だった。
その後、精霊使いの里に襲撃があって、カルラが戦死したことを聞いた。
……まただ、と僕は悲しみに暮れた。
僕が好きになった人は、みんな、例外なく……僕の前から永遠に居なくなってしまう。
カルラが死んで、僕は深い深い悲しみとともに決意した。
もう、誰も好きなる物か。
……僕が好きになった人は、みんな僕を裏切って、立ち去っていく。
僕は……もう二度と……。
そう思っていた。
けど……僕に天使が舞い降りたんだ。
エレン。
カルラの息子で、とても可愛い、男の子が。