作品タイトル不明
167話 祖父との会話
ぼくはルルイエさんの本性を知った。
それから幾日かたったある日、ぼくは実家の、ジョエルおじいさんの元へとやってきた。
「おかえりエレン」
「ただいま、おじいさん」
玄関先で出迎えてくれたおじいさんの腰に、ぼくは抱きつく。
こうしていると、少しだけ気分が楽になったきがした。
「ごめんねおじいさん、急に帰ってきて」
「何をバカなことを。ここはおまえの家なのだ。いつ帰ってきてもよいのだよ」
大きな手でおじいさんがぼくの頭をよしよししてくれた。
うれしくなって、ぎゅっともっと抱きつく。
ややあって、リビングにて。
ぼくはおじいさんの煎れてくれた紅茶を飲む。
「美味しい……」
「そうか良かった。これは精霊たちの使う薬草を使った紅茶なのだ。精霊もまた味が楽しめると思ってな」
「! おじいさん……気づいていたの?」
「ああ。アドラ君が人間の味覚を持っていなかったことを思い出してな」
父さんを、精霊を知っているからこそ、ぼくの体の変化に気づけたんだって。
「親に隠し事とは、大人になったのだなエレン」
おじいさんは微笑みながら紅茶を啜る。
「怒らないの?」
「なぜ怒る? 隠し事の一つや二つくらい、大人にはある物だ」
「そういう……もの、なのかな……」
脳裏をよぎるのは、先日のルルイエさんとの出来事。
クトゥルーさんから見せてもらった、ルルイエさんが行ってきた、悪人達への制裁の数々。
ぼくは戸惑ってしまった。
あんなことを、彼女がしていたなんて。
そして、隠していたなんて……。
「エレン。なにか悩みがあるのだな」
「おじいさんには、かなわないな」
まるで心の中を覗かれているような気がした。
「ダテに歳はくっとらんよ。話してごらん」
「うん……友達とね、ケンカしちゃったんだ」
要所要所はぼかしつつ、ぼくはおじいさんに伝える。
ルルイエさんとの出会い、一緒に戦ったこと。
そして知ってしまった……彼女の秘密のこと。
悪に裁きを与える。
それは必要なことだろうけど、彼女のやっていたのは……明らかにやり過ぎだった。
「なるほど、友達の知らなかった一面を知ってしまい、当惑しているのだな」
「うん……そんなことする人だったなんて、知らなかったから」
「そうだな……だがそんなことは、よくあることだぞ」
「え……?」
おじいさんは微笑みながら言う。
「どんな相手でも、見えない部分という物が存在する。正面から見えるものがその人の全てではない。一面だけを見てその人をこうだああだと、断定するのはよくない」
「おじいさんも……そうなの?」
「ああ。こう見えて若い頃はSランク冒険者を志し、無茶をしたこともあったんだぞ。Fランクのくせに功を焦って竜を退治に向かったりしてな」
「そ、そんな危ない、無茶してたの、おじいさんが? 知らなかった……あっ」
おじいさんは優しく微笑むと、ぼくの頭をなでる。
「誰しも過去があって今がある。見えてない部分が基礎となって、今ここに存在している。それはルルイエさんに限った話しではない」
おじいさんの言っていることは正しい。
そうだよ、その人の生い立ち全てを、最初から理解することは不可能なんだ。
ぼくはルルイエさんの何を知っているって言うんだ。
優しくて、賢い、精霊王のお姉さん。
それ以上をぼくは知っていなかった。
知ろうとしなかったじゃないか。
「おじいさん、教えて? ぼく、友達とケンカしたことなんて一度もなかったから、こういうとき、どうすれば良いかわからないんだ」
「なに、簡単なことだよ。心の声に耳を傾けるのだ」
「心の、声?」
「自分に問いかけるのだ。その子と、今後どうなりたいのか。これからどうしたいのか。そうすれば……自ずと答えが見えてくる」
おじいさんは決して、何が正しいと、答えを押しつけてこない。
あくまで、ぼくに考えさせようとしている。
「ぼくは……」
どうしたい?
自分に問いかけて、返ってきた答えは……知りたいという気持ちだった。
「ぼくはルルイエさんのこと、もっと知りたい。どうして、あんなことしたのか。ちゃんと知りたい」
「うむ。ならば行くが良い。こんなじじいと油を売っているのではなくてな」
ニッ、とジョエルおじいさん笑って言う。
ぼくは強くうなずいて立ち上がる。
「ごちそうさま! ありがとう! おじいさん……大好き!」
おじいさんに抱きついてぼくが言う。
「いつでも帰ってきなさい。ここはおまえの家だ。いつまでも待っているからな」
「うん!」
ぼくは不死鳥の翼を広げて、その場を後にするのだった。