作品タイトル不明
166話 ふくろう、クトゥルーから提案される
精霊界にあるラボラトリーにて。
ふくろうのもとを訪れたのは、男神クトゥルーだった。
「ひぅ~……」
サンダルフォンはすっかり萎縮して、ふくろうの背後に隠れる。
「何のようですか? 帰ってください」
「つれないな~。僕が神々の所有する書庫の鍵を渡したから、研究が進んだんじゃあないか」
前回の訪問時に、この男は鍵を手渡してきた。
それを使ってふくろうは天界へと侵入し、こうして書物をゲットした次第。
「ま、悪い話しじゃないからさ。とりあえずお話だけ聞いてよ」
ラボの椅子に、勝手に座るクトゥルー。
一方でふくろうは警戒し、立ったままだ。
「お茶も出てこないのここ?」
「用件を言え」
「はいはい。じゃあ手短に。ルルとエレン君を仲直りさせるのは辞めておきなさい」
突然のことに戸惑うふくろう。
彼は気にせず続ける。
「ルルが居なくともエレン君は神々を殺せるからね」
「しかしあの魔竜は倒せないです」
クトゥルーが神々の裏で手を引いてることを、ふくろうは知らない。
ただ、この神が信用できない男である、ということは承知している。
「そこで僕の出番だ。ルルの代わりを僕が努めてあげるよ」
「どういうことですか?」
「ルルのヤツがこのまま凹んでくれれば、精霊王の力は僕に委譲される。ルルの代わりにエレンと霊王の姿になれば、魔竜を倒せる」
精霊王の力があれば倒せるなら、なにもルルイエがいなくてもいいという理屈だ。
「霊王の力は心の中にある。心が壊れればそれが漏れ出て、器を求めて僕の元へと転がってくる。双子の僕の元へね」
血を分けた兄妹、しかも双子だ。
器の形はとてもよく似ている。
ゆえに霊王の力は収まりやすい。
「ルルのヤツ今絶賛マインドクラッシュ中だろ? このまま立ち直らなければいいずれ死ぬぜあいつ」
「し、死ぬって大げさですよぉ~」
サンダルフォンの言葉に、クトゥルーが首を振って言う。
「いいや、死ぬね。断言しても良い。100%今のままなら、何もせずともルルイエは自死を選ぶさ」
ニコニコと笑いながら言うクトゥルーに、ふくろうは嫌悪感を覚えた。
……そして、そのことに、自分自身驚いていた。
「ふくろうちゃん、君にお願いしたいのはね、ルルに余計な手出しをしないで欲しい。それだけなんだ」
「……あなたは、それでいいんですか? 妹が死ぬというのに」
「別に。言ったろ、僕は君たちの味方だって。つまりはルルの敵ってことだよ。僕もあの横暴な女には辟易しててね。始末したくて仕方が無かったんだ」
朗らかに語るクトゥルーの姿に、寒気を覚えるふくろう。
「どうだい?」
「お断りします。論外です」
「おや? 即答だね。そんなにルルが好きなのかい?」
ふくろうは……気づいたら行動していた。
拳を握りしめて、クトゥルーの顔面を強打していた。
「ちょっ!? ふくろう様!?」
「ひどいなぁー。なにするんだよー」
拳を受けてもしかし、クトゥルーはピンピンしていた。
まるで見えない何かに阻まれているような感触。
結界でも張っていたのだろう。
「どうしたの? 何怒ってるんだい?」
「別に。わたしもあの女は嫌いです。ですが、それ以上にあなたが嫌いで、なにより信用なりません」
ボタボタ……と血を手から流しながら、ふくろうが言う。
「ふくろう様! 血が出ております!」
サンダルフォンが治癒の魔法を施す一方で、クトゥルーは真面目そうな顔で見やる。
「そうか……君、結局ルルサイドの人間なんだね。まあそうだよね。生みの親を憎めない気持ちもあるものね」
「っ! うるさい! 消えろ! おまえとは手を組む気はない!」
「図星突かれて真っ赤になるとか、可愛いところもあるもんだね」
風の魔法でクトゥルーを切り刻む。
だが魔法が当たる前に、彼は消えてしまった。
『ま、時間もうちょっとあるし、よーく考えておくことだよ。ばいばーい』
後に残されたふくろうに、治療を終えたサンダルフォンが尋ねる。
「う、生みの親って……?」
「……気にしないでください。あなたは、自分のなすべきことを。いいですね?」
「は、はいぃ……」
ふくろうはその場を後にする。
やってきたのは、ルルイエが引きこもっている異空間だ。
「ルルイエ様」
「……ごめんねえエレンごめんねごめんね」
何もない真っ暗な空間で、彼女は膝を抱えて涙を流している。
「ルルイエ様。エレン様に、会いに行きましょう」
自分でそう言ったことに対して、ふくろうは驚いていた。
選んだのはクトゥルーではなく、エレンとルルイエとの和解だった。
それはすなわち、このまま心を壊していくルルイエに、救いの手を差し伸べると言うことだ。
「……やだ」
「どうして?」
「……嫌いって言われたら、怖い」
まるで子供のように……否、実際に幼稚な精神を持つルルイエに、ふくろうはため息をつく。
「エレン様はお優しい方です。きちんと訳を話して、ごめんなさいしましょう。そうすれば」
「やだ……今回で、嫌われちゃったよ。完全に……エレンは、僕が嫌いなんだ……」
ぐすんぐすん、とルルイエが鼻を啜る。
「エレンを怒らせちゃった。もう終わりだ。絶対許してくれない」
「そんなの、わからないじゃないですか」
「わかるもん。エレンのことは全部わかってる僕だもん」
「……なら、なぜ仲違いするようなことをしたのですか?」
「だって……それは……エレンに好かれたかったから……」
ルルイエの手を引いて、彼の元へ連れて行こうとする自分に、ふくろうは戸惑いを深める。
脳裏に、クトゥルーの言葉が蘇る。
ーー生みの親を憎めない気持ちもあるものね。
違う! と心の中で、大声で反発する。
これは演技なのだ。
ルルイエに信用してもらうための、演技だ。
……そう、自分に【言い聞かせる】。
「ルルイエ様。エレン様の元へ行きましょう」
「……やだ。怖いもん」
「そのままではいつまで経っても仲直りできないですよ」
「……それも、やだよぉ」
ぐすんぐすんと涙を流す。
両手で耳を覆って、ダンゴムシのように丸くなる。
……説得は無駄だと諦めて、ふくろうはきびすを返す。
「……ふくろう」
「なんですか?」
「……おまえ、意外と優しいんだね」
「…………」
ふくろうは従者の仮面をかぶって、うやうやしく頭を下げる。
「ルルイエ様と、エレン様に仕えるのが、わたしの使命ですから」
その場から退散し、ふくろうは唇をかみしめる。
「……何やってるんでしょうね、わたしは。あの女の敵であるはずなのに」
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はいはいクトゥルーちゃんですっと。
いやぁ、なかなかふくろうちゃんは口説くのは難しそうだなぁ。
ま、いっか。
別にここで協力を得られようがそうでなかろうが、僕の計画に狂いはないしね。
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