作品タイトル不明
165話 ふくろう、揺れ動く
……ふくろうの女は、夢を見ていた。
それは、在りし日の夢。
自分が生まれて間もない頃、精霊界の森の中にて。
【なー、おまえ。ルルのことどう思ってる?】
唐突に自分に話しかけてきたのは、頭の中から聞こえてくる、女の声。
それはこの体の、前の持ち主である女性……カルラのものだった。
『わたしを捨てたクソ女』
憎しみを込めて、ふくろうは吐き捨てるように言う。
彼女は生活に使う薪を拾いながら、カルラと会話する。
【即答かよ。まあ気持ちはわからんでもない。生んですぐに捨てる親がどこにいるんだって話しよな】
『そうだよ! ひどすぎるよ! わたし……何にもわからなくて、なのに産んだ本人は捨てるし! カルラさんがいなかったら、わたしは死んでたよ!』
ふくろうが今日まで生き延びられたのは、カルラという姿なきもう1人の自分がいたからだ。
彼女が生き方を教えてくれた、寂しい時の相談役になってくれた。
ルルイエが生みの親ならば、カルラは育ての親と言えた。
【まーあいつそういうとこあるからさ。ごめんな】
『……どうして、カルラさんが謝るんですか?』
【あいつはほら、アタシの親友だからよ】
『親友……? あんなクソ女が?』
【そ。あいつは紛れもないクソ女だけど、アタシの友達なんだ】
ふくろうは立ち止まって、首をかしげる。
『カルラさんのような、素晴らしい人が、なんであんなのと友達なんですか?』
【ルルは、アタシたちの住んでいた精霊使いの里では、神さま的な存在だったんだよ。んで、そのお世話をするのが、里長の子供、つまりアタシの役割だった。昔っからあいつの面倒を見てたのさ、アタシは】
子供の頃から一緒だから、次第に仲良くなっていったらしい。
【だからあいつのことは、よーく知ってるよ。どうしようもなくバカでアホで無知でわがままだよな】
『でも……友達なんですよね』
【ああ、そうさ。ま、ケンカ別れしちまったけどよ。アタシは今でも友達だって思ってるよ】
ケンカの原因に興味はあった。
だが、そこまで踏み込んで良い物か迷ってしまい、結局聞けずじまいだった。
『あの女が、 親友(カルラさん) の死体を利用し、新たな命を生み出したとしても……ですか?』
死んだカルラの肉体に、命が吹き込まれてできた生命体……それが、ふくろうの女の正体だった。
【ま、そういうことやるやつだって知ってるからさ。それにまあ気持ちもわからんでもない。あいつさ……すっっっごいさみしがり屋なんだよ】
『さみしがり屋……?』
【そ。さみしがり屋でかまってちゃん。だから誰かがそばに居てやらんといけないのさ。けどあいつ度を超したわがままだろ? だから誰もがあいつから遠ざかっちまうんだ】
ふくろうは驚いた。
自分の肉体を好き勝手にいじった 張本人(ルルイエ) に対して、カルラは嫌悪感も覚えていなければ、憎しみを抱いていない様子であった。
【なぁ、おまえ。もうすぐさ、アタシは消えちまうんだ】
『な、なんでですかっ。ずっと一緒にいてください!』
【そうしてやりてーのも山々なんだが、今のアタシは、この肉体に残った残留思念、ま、幽霊みたいなもんだ。この体におまえの魂が完全に定着すれば、いずれ消えちまうだろうよ】
『そんな……あなたまでいなくなったら、わたしは……』
ぐすぐすと涙を流すふくろうに、カルラは優しく言う。
【アタシの意識が消えちまっても、おまえの体はアタシの体だ。悲しむこたぁない。鏡を見ればアタシがいるんだからよ】
『…………』
【でだ。ふたつお願いしたい。1つはアタシの可愛いベイビー・エレンのことだ。あいつを守ってやってくれ】
『もちろん、この命に代えても。それで、二つ目は?』
【それは……】
☆
神々が着実に終焉に向けて準備を進めている、一方その頃。
「ふくろう様、ふくろうさまー?」
ふと目を覚ますと、目の前には守護天使のひとり、サンダルフォンがいた。
小柄な眼鏡少女が首をかしげている。
ここは、ふくろうが用意した、精霊界の中にある【 研究所(ラボラトリー) 】だ。
「大丈夫ですか? うなされていましたがぁ……」
「ええ、平気です。ごめんなさい、うたた寝していました」
「無理もないですよぉー。2重スパイなんて、気の張る仕事ですからね」
ルルイエの味方の振りをしてはいるものの、ふくろうはエレンサイドの人間だ。
勇者神に味方するのは、ひとえに、カルラとの約束があるからだ。
「ところで、何の話しでしたっけ?」
「【人間化薬】の進捗についてですよぅ」
この研究所で作られているのは、精霊となったエレンを、元の人間に戻す薬。
その制作を主目的に、ラボは創設された。
無論そんなことすれば、精霊王はすぐに取り壊すだろう。
ゆえにこの場所は、ルルイエの目が届かぬよう、結界によって守られている。
ふくろう、そして精霊アドラの協力を経て、こうしてサンダルフォンは研究に没頭できている次第だ。
「人間化の薬、進み具合はどうですか?」
「とても順調ですぅ……。エレン様の血と、アドラ様の知識。……そして、神々の書庫から、ふくろう様が秘密裏に盗み出してきた、書物の数々によって順調に作成されていますですぅ……!」
神々の書庫には、あらゆる本が眠っている。
そこの鍵を使って、ふくろうは内部に侵入し、調剤に役立つものを拝借してきたのだ。
今、神々は魔竜の制作に取りかかっているため、警備がざるだったことも運が良かった。
「人間化薬は、完成はしますけど……。でも作ったとして、世界が滅んでは意味がありませんぅー……」
「そうですね。【星食みの魔竜】。あんなものを神々が作るなんて……」
「エレン様だけで、勝てますかねぇ?」
「……難しいでしょうね。アドラ様との特訓で、確実に強くなっているとはいえ」
神々との戦いは勝つ見込みはある。
だがあの魔竜は文字通り、規格外の存在だ。
太刀打ちするためには……【彼女】が必要となる。
「ルルイエは凹んでるんですよねぇ……あれ、使い物になるんですかぁ……?」
「…………」
ルルイエの居場所は知っている。
様子を見に行ったことがある、が……酷い物だった。
暗く、狭い空間に引きこもり、一晩中泣いているのだ。
泣きながら、ごめんなさいと謝り続ける姿を見て……ふくろうは衝動的に、演技を忘れそうになった。
『ざまぁ見ろ!』と。『今まで好き勝手やった報いだ!』と。
彼女に罵声を投げつけてやりたかった。
謝るくらいなら、最初からあんなバカなマネはしなければ良かったのに……と。
なによりルルイエは、自分を捨てた、憎らしい相手である。
その女が、深い深い悲しみにとらわれている姿を見て……。
彼女は、どうリアクションを取れば良いのか……わからなかった。
「これからどうしますぅ?」
「やることは変わらないわ。あなたは引き続き、エレン様の人間化薬の開発に注力してください」
「ふくろう様はぁ……?」
「わたしは……」
と、そのときだった。
「ふーくろーちゃん♪ 僕とお話しよー♪」
研究室に入ってきたのは、白髪の男神、クトゥルーだった。
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エレン、さみしいよ……会いたいよ……けど……怖いよぉ……。
エレンに嫌われたくないよ……怖いよぉ……でも……さみしいよ……会いたいよぉ……
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