軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

164話 ユピテル、新たな支配者に全てを奪われる

勇者神エレンと、精霊王ルルイエが揉めている、一方その頃。

遙か上空に存在する、神々の世界。

天界では、急ピッチで工事が行われていた。

「こ、これは……いったいなんなのだ……?」

神々の長である神、ユピテルは……眼前に広がる【それ】を見て、目を剥いていた。

神々、そして天使が【作っている】のは……巨大すぎる建造物。

そのあまりの大きさに、全容を把握しきれていない。

だがあくせくと神々は、一致団結して、何かを作り上げようとしている。

「お、おい! 何をやってるのだおまえら?」

近くで作業をしていた神々に、ユピテルが尋ねる。

「うわ、まだ居たんだこいつ」「さっさと引退すれば良いのに」

神々のユピテルを見る目には、多分に失望が含まれていた。

さもありなん、前にルルイエが天界に乗り込んできて、1年の猶予を要求してきたとき、ユピテルは無様をさらしてしまった。

その結果、神々から呆れられてしまったのだ。

「良いからさっさと答えろ!」

「やーだよ」「消えろよ老害」「お呼びじゃないんだよ」

誰もユピテルを敬うことはせず、次々に罵声を浴びせる。

「ほんと指揮官が無能だと困るわー」

「それに比べて【あいつ】はほんとできる男だよなあ」

「年若いけど、才能ありまくりだし、超有能。ほんと、【あいつ】と比べたらユピテルなんてゴミ屑同然だよなぁー」

ユピテルは【あいつ】とやらと比較され、馬鹿にされていた。

「そいつが仕切ってるのか! 誰だそいつは!?」

と、そのときだった。

「ボクだよボク、おじーちゃん」

「なっ!? く、クトゥルー!」

白髪の男神、クトゥルーがひらひらと手を振りながら近づいてくる。

「「「クトゥルーさん、お疲れ様でっす!」」」

神々がいっせいに、クトゥルーに頭を下げたのだ。

「なっ!? ど、どうなっているのだ……!」

ユピテルは目の前の出来事に目を丸くする。

作業をしている他の神々が、みなクトゥルーに頭を下げているのだ。

「みんなお疲れ。だべるのもいいけど、ちゃんと手を動かしてねー」

「「「はいっす! 失礼します!」」」

神々はまるで 天使(つかいぱしり) のように、クトゥルーの命令に喜んで従う。

「どう、なっている……クトゥルー! 貴様は、一番年若い神ではなかったか!?」

「あー、うん。まあそういう設定にはなっているね。けどもうそれ遅いよ」

「遅い、だと?」

「ボクはこの神々の統治者……まあ端的に言えば神々の支配者となったんだよ」

「なっ!? なんだとぉお!」

驚愕するユピテルを見て、クトゥルーが実に愉快そうに笑う。

「見ればわかるでしょ? みーんなボクを頼りにしている。この【タルタロス】もそう、ボクが命じて作らせたんだ」

「た、タルタロス……?」

聞き覚えのない単語に、ユピテルは戸惑う。

「流行遅れのおじいちゃんのために、特別に教えてあげるよ。【イグ】くん」

クトゥルーがそう言うと、背後に控えていた小柄な人物が前に出る。

「だ、誰だこいつは?」

「イグくん。もともとは邪神達の主だったんだけど、ルルのもとに仕えていたんだ。けどルルを見限ってボクについてきた。非常に優秀な副官だよ」

「もったいなきお言葉でございます、クトゥルー様」

知らぬことが次々と起きて、ユピテルは困惑しきりだった。

「イグくん。転移を。タルタロスが見える場所まで」

「かしこまりました」

邪神イグは転移の力を発動させる。

一瞬で遙か上空へ……この星の外へと転移する。

「なぁ!? なんだこの……馬鹿でかい……竜は!」

そう、この星を包み込んでいたのは、分厚い雲ではない。

よく見れば、灰色の巨大な竜が、星を包み込むようにして存在しているのだ。

「あれが【星食みの魔竜タルタロス】。大きさはこの星の地表を包み込むほど。体から放たれるビームは、完成したら地上をあっという間に火の海に変える。最終的にタルタロスは地上を焼き滅ぼして、そして喰らう」

「く、喰らう……星を喰うのかこの竜は!?」

「そそ。人類まるごとぶっ殺し、星をぶっ壊し、そして新世界を創造するんだ」

「新世界……だと……?」

クトゥルーは実に晴れ晴れとした顔で言う。

「そう! すべてがボクの思い通りに動く、新たな世界だよ! 人も、動物も、この星で起こる自然現象も、奇跡も、すべて! ボクが考え、ボクが思い描いたとおりに動く! まさに理想郷……!」

愕然とした表情で、ユピテルはクトゥルーを見やる。

一方でイグは、滂沱の涙を流していた。

「素晴らしい世界……やはり、仕えるべき主人は、あのルルイエとかいう女ではなく、あなた様でした……クトゥルー様、あなたに一生ついて行きます」

「いいよ、ボクは使える駒は大好きだ」

にっこりと笑うクトゥルーに、ユピテルは苦言を呈する。

「そんな世界が認められるわけなかろうが!」

「認められるさ。ボクが作る新人類たちは、みんなボクに感謝するよ。だって彼らが願ったことを、ボクは全てかなえてあげようと思うんだ」

「どういう……ことだ?」

「ボクが作る新世界では、誰もがボクに依存する。足が動けない子供が居れば、彼に動ける足を与えよう。みんながみんなクトゥルーに感謝する。ボクを頼り、ボクの言うとおり動く……そう、ボクが与え、ボクが動かす、ボクのための箱庭。それが新世界さ!」

イグは涙を流したまま拍手をする。

「素晴らしい世界でございます! 支配者たるクトゥルー様の前では、誰も争わず、誰も不幸にならない! なんて美しい世界なんだ……!」

ユピテルは、クトゥルーの言うところの、新世界のあまりのひどさに、絶句していた。

「どうだい、素晴らしいだろう?」

「……そんなもの、間違っている」

「ばっかでー。人間を一掃して新しく作り直そうとしていたおじーちゃんがなんか言ってますよ」

ユピテルが強く首を振る。

「わしは! あくまで今の人類が間違っているからリセットしようとした! リセット後の人類に干渉する気はない! そもそも神は人間の世界に不干渉が当たり前なのだ!」

あくまで命を乗せる箱を作るだけ。

中を満たすのは、そこで生きる人間達の仕事だと神は思っている。

「古いなぁ、古くさいよおじーちゃん。そんな運任せじゃ世界から争いも不幸もなくならないよ?」

「それもまたこの星で生きる人々には必要なものなのだ!」

「あー、ウザい。古くさい。これだから老害は……やれやれ。もういいや。イグくん、転送して」

クトゥルー達は天界へと戻る。

「クトゥルー様だ!」「クトゥルー様ぁ!」

神々、そして天使たちは、転移してきたクトゥルーに笑顔を向ける。

「いやぁおじいちゃん助かったよ。君が無能っぷりをさらして、内部分裂を起こしてくれたおかげでさ。こいつらの心の掌握は容易いものだったよ」

そう、クトゥルーの目的は、神々を手中に収めて、星食いの魔竜を作らせること。

「多くの神々による力が必要だったからね。咬ませ犬ごくろーさん」

「き、貴様……! こんなことしてみろ! エレンと精霊王が黙っていないぞ!」

もはやユピテルは、この邪神クトゥルーを排除できる、唯一の存在であるエレンたちに味方するほか無かった。

だがクトゥルーの余裕は保たれたままだ。

「問題ない。精霊王はそのうち勝手に自滅していき、全てを失う。そのときボクの手には、【精霊王の力】の全てが手に入る」

「なるほど、ルルイエが力を失えば、その力を借りているエレンもまた力を失うということですね! すごい! さすがクトゥルー様!」

イグはもはや、エレンやルルイエを完全に見限っていた。

「神々が勝てば、新世界が創造される。万一エレンが神々に勝ったとしても、タルタロスが完成すれば星は消え失せ、エレンは守るべき世界を人々ごと失う」

勇者神と神々の戦い、 終焉令(ラグナロク) の勝敗など、どうでも良かった。

どちらにしろ、クトゥルーは新世界を手にできるのだから。

「し、しかしエレンが神に勝利し、星食いの魔竜すら討伐したらどうするのだ?」

「ハッ! そんなのあり得ない。この魔竜を殺せるのは、精霊王の力だけ。つまりエレンが 精霊王(ルル) と和解することが前提条件となる」

「和解したらどうするのだ?」

小馬鹿にしたように、クトゥルーが笑う。

「馬鹿じゃないの? あれだけ関係がこじれたんだぜ? 万の一つも、絶対に、あの2人が和解することはあり得ないのさ」

クトゥルーは心の底から楽しそうに笑う。

「あの正義バカのエレンくんが、ルルのやってきたことを許すわけがない。このままルルのバカはエレンに嫌われドンドンと心を病んでいき、最終的には自分で死を選ぶと思うと……あー! 今からそうなる姿を見るのが楽しみでならないなぁ!」

「傑作でございますなぁ……」

イグが追従笑いを浮かべる。

「ルルが精霊王の力を失えば、次の精霊王はボク! 妹の分際で、ボクをさしおいて精霊王の力を受け継いだあの小憎たらしいバカが自滅する様を! ボクは高笑いしながら見守ってあげるよ! そして全部が終わった後、その力で新世界を作るんだぁ!」

楽しみでならない、といったふうに笑うクトゥルー。

「なぜ……手の内を全てさらすのだ?」

「んー? だってこの場で全てを失う君には、もう関係ないことじゃん?」

ガシッ、とクトゥルーはユピテルの頭を掴む。

「なっ!? なにをする!?」

「要らなくなったものをぽいするだけだよ」

その瞬間、クトゥルーの右手が光り輝く。

「うぎゃぁああああああああ!」

ユピテルが苦悶の表情を浮かべるが……眼から光が失せて、その場で膝をつく。

「おぎゃー! おぎゃー! おぎゃー!」

彼は地面に倒れ込み、赤ん坊のように泣き出す。

「クトゥルー様、いったいなにを?」

「生まれてから今日までの記憶全てを消し飛ばした。今の彼はただの赤ん坊さ」

「すごい……もうそんなことができるのですね!」

「ああ、ルルの壊れた心から漏れ出した、精霊王の力。10%でこの 奇跡(ちから) だよ」

「素晴らしい……やはり、未来の精霊王……【未来王】にふさわしいのはあなた様です、クトゥルー様!」

イグにおだてられ、クトゥルーはにんまりと口の端をつり上げる。

「未来王クトゥルーか。良い響きだ。よし、新世界ではそう名乗ることにしよう」

「未来王様! わたくしイグはあなた様に一生ついて行きますぅう!」

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……さみしいよ、エレン。かなしいよ、エレン。

ごめんね。ごめんね。ごめんね。

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