軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

163話 精霊王、悪事を兄から暴露される

精霊王ルルイエによる極大魔法を止めたのは、勇者神エレンだった。

トーカの街、エレンの前にて。

「酷いよ! ルルイエさん! こんなことするなんて!」

エレンは涙を流しながら、上空にいるルルイエを見上げる。

精霊となったことでエレンは、人間が持つ感覚を失った。

それでも……涙を流していた。

よほど、深い悲しみが彼を襲ったのだ。

彼女は……困惑していた。

なぜ、エレンが泣いているのか。

なぜ、エレンが怒っているのか。

今まで自分に好意を向けてくれたエレンが、突然、こんな悪感情を向けてくるようになったのか。

精霊の王たるルルイエには……全く理解できなかった。

「え、エレン……? まずは、話し合おう。ね? どうして君は泣いてるの? 何に、君は怒っているの……?」

ルルイエはエレンに尋ねる。

彼女は、焦っていた。

冷静さを欠いていたから……こんな、間の抜けた質問をしてしまったのだ。

「そんなこともわからないの!? ルルイエさん……!」

「え? え? え?」

わからない、一ミリも理解できない。

なんで今ので、エレンがさらに怒っているのか、全然さっぱり、これっぽっちもわからなかった。

「ルルイエさんが無関係な人に、こんな酷いことする人だったなんて!」

体を消し飛ばされ、精霊核だけとなったランを見て、エレンは涙を流す。

傷付いたティナ、倒れ伏すカレン、そして……アスナとそのお腹の子供。

エレンが怒っているのは、彼女たちか弱き、罪のない人間を、ルルイエが理不尽に殺そうとしたからだ。

……しかし、事ここに至っても、ルルイエはそんな簡単なことすら、理解できていなかった。

「ち、違う! それは違うよエレン! 誤解なんだ!」

「誤解って……?」

ルルイエは大汗をかきながら、アスナ達を指さして叫ぶ。

「こいつらが! 僕から大事なエレンを奪ったんだ! 人の物を勝手に奪った盗人なんだよこいつらはぁ……!」

彼女はアスナ達を悪者にして、自分を正当化することで、エレンの機嫌を取ろうとした。

「こいつらは盗人! 悪人なんだ! だからペナルティを与えることにしたんだ! そう! 今まで葬り去ってきた悪人達と、同じように……!」

……ルルイエは、自分が最大の悪手を打ってしまったことに、気づいていなかった。

「だから僕は悪くないんだよ! 悪には罰を与えるべきだろ!? ねえ!?」

「……ルルイエさん」

エレンは、悲しい顔を、ルルイエに向ける。

「……ペナルティって、なに?」

「え? ……………………あっ!」

ルルイエは、遅まきながら気づいた。

そう、今まで行ってきたペナルティの数々を、エレンは知らない。

なぜなら、それらはすべて、精霊王が勝手に行ってきたこと。

エレンに刃向かってきた悪人に、裁きを勝手に下してきた。

……それは、エレンがあずかり知らぬことで、ルルイエが意図的に、エレンに気づかれぬよう行ってきたことだ。

……それが、バレてしまった。

他でもない、精霊王の口から。

「ねえ、ルルイエさん。ペナルティってなに? 今まで葬り去ってきた悪人達と、同じように……って?」

ルルイエはその場で逃げてしまいたい気持ちでいっぱいだった。

失敗した! という焦る思いがルルイエの頭の中をいっぱいに駆け巡る。

「あの……違うんだ……これは……その……」

「ルルイエさん」

「あの、あのね……だから……後で……そう! 後でちゃんと説明する! 今は……ね? 良いじゃないかそんなこと!」

「ルルイエさん!」

びくんっ! とルルイエは、体を萎縮させる。

親に叱られる子供のように、彼女は震えていた。

「ちゃんと説明して。今、ここで」

「だ、だからぁ……あとで説明するからぁ~……」

今すぐこの場から逃げてしまいたかった。

冷静になって、事実を隠蔽し、彼の機嫌を回復させるためのストーリーを万全に用意する。

それからまた再び、エレンの説得を試みたかった。

……だが、エレンは彼女の失言を、聞き逃さなかった。

「……ずっとね、不思議だったんだ」

エレンがぽつり、とつぶやく。

「ぼくが居ないところで、ルルイエさんは何をやってるんだろうって……」

……それは今まで、触れてこなかった部分のことだ。

「結構な頻度で、ルルイエさん居なくなるじゃない? 特に……ぼくが敵と戦った後、必ず姿が見えなくなる」

「ちが……ちがうんだよ……! 聞いてくれ! それは……」

「ねえ、ルルイエさん。ぼくが悪人と戦った後、どこに行って、何をしていたの?」

「違うんだよ! 誤解なんだ!」

「さっき言ったみたいに、悪人達にペナルティを与えてたの?」

「違うんだって! 聞いてくれよ! お願いだから!」

ルルイエはエレンに近づいて、彼の肩を掴む。

「僕はそんなことしていない! 悪人にペナルティなんてしてないよ!」

「……本当に?」

「ああ本当さ! さっきのはちょっとあせって変なこと口走っただけだよ!」

……ルルイエはまたも、失言をしてしまう。

彼女の中で、ようやく、エレンが何にキレているのか少しだけ、理解した。

ようするに、エレンに黙って、いろいろしていたことを怒っているのだと。

悪人へのペナルティ行為を、エレンの許可無くやったこと。

それを許せないのだと、ルルイエは考えたのだ。……全くもって、見当違いだというのに。

「彼女たちに対しての攻撃は……その、焦っちゃって。ほら、彼女エレンの子供を身ごもってるでしょ? だから、悔しくって、嫉妬しちゃって、ヤキモチ焼いちゃって。だからちょっと当たってしまったんだ。そこは反省する、大人げなかったよ!」

ルルイエは必死になって言葉を重ねる。

エレンの怒りを、悲しみを、一秒でも早く納めて、また前みたいに、良好な関係を築けるように……。

と、そのときだった。

「嘘はいけないよ、ルル」

彼らの上空から、1人の男が舞い降りてきた。

白い髪に赤い眼。

憎たらしい微笑を浮かべている。

それは、鏡写しのように……ルルイエそっくりの男神。

「クトゥルー!? どうしておまえがここに!?」

突如として現れた兄の登場に、ルルイエは困惑した。

「おいおい実の兄との久しぶりの再会なんだぜ? もっと他に言葉があるんじゃないかな? ねえ、血を分けた【双子の妹】よ」

「双子……そうか。ルルイエさんのお兄さんって……そういう……」

クトゥルーはニヤニヤと笑いながら、エレン達に近づいてくる。

「な、何の用だよ!? 今は大事な話の最中なんだよ! どっかいってよ!」

「大事な話の最中だからこそ、ボクがきたんだよ。ごめんねエレン。ルルは嘘をついている」

「嘘……?」

「君がさっき言ったように、ルルは君がいない場所で数々のペナルティを行ってきたんだ。それがバレるとマズいと気づいた彼女は、それを隠蔽しようとしたんだよ」

「あぁあああああああああああ!!!」

ルルイエは今すぐに、兄クトゥルーを始末したかった。

血を分けた兄、ということはつまり、彼もまた【精霊王の片割れ】ということ。

つまりどういうことか?

精霊達の眼を、彼もまた持っているのだ。

クトゥルーが余計なことを言う前に殺したかった。

だが殺してしまえば、それは、クトゥルーの言葉が真実であると証明してしまう。

どうする、どうすれば……!? と焦って言い訳を考えても、もう遅かった。

「教えよう、エレン。これが、真実さ」

パチンッ! とクトゥルーが指を鳴らす。

その瞬間、彼らの前に、光の球が出現する。

球は映像を映し出した。

……それは、転生者たちの末路だった。

「君に挑んできた転生者たちは、元の世界へと戻された。その姿のままね。そしてとある転生者は最愛の母と再会し、そしてその手で母を殺してしまった」

「あ、ああ……」

「守護天使達は可哀想だね。まっとうな人間として生きようとしたのに、彼女が全員残らず不幸にしてしまった。メタトロンの哀れな末路なんて涙無しでは語れないよ」

「あ、あぁああああああああ!」

光の球に映し出されるのは、ルルイエが行ってきたペナルティの数々だ。

人間も、魔族も、天使も、転生者も。

みんなルルイエの手によって、ペナルティを与えられ……みな苦しんで死んでいく。

「可哀想にね。彼らは罪を償う機会も与えられず、ペナルティという名の、ただの自己満足のせいで死んで行ってしまった……全部ルルの暴走のせいでね」

「うわぁあああああああ! み、見ないで! 見ないでよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

ルルイエは光の球を全部かき消そうと魔法を使う。

だが次から次へと、彼女が行ってきたペナルティの映像は、湧き上がってくる。

「…………」

エレンはその全てを見せつけられて……その場に膝をついた。

「君が悲しむ必要は無い。全部ルルが勝手にやったこと。誰が悪いのか……これでわかっただろ?」

「うるさいうるさい! 消えろ馬鹿兄貴ぃいいいいいいいいいいいいいい!」

ルルイエは渾身の破滅の魔法をクトゥルーに放つ。

兄クトゥルーの体はズタズタに引き裂かれて、その場に倒れ伏す。

だがフッ……と煙のように消え去る。

『よく考えるんだエレン。ボクの言葉、彼女の言葉、どちらが正しく、真実なのかを』

クトゥルーが消え去り、あとにはエレン達と、そしてルルイエが残される。

「違うんだ……エレン。聞いて、ね?」

すがりつくように、ルルイエがエレンに言う。

「あのね。違うの」

「……何が違うの?」

「とにかく……違うの。誤解なの。あれはね、正しい行いなの」

「……みんなを、苦しめることが?」

そうだ、と言いかけて……ルルイエは言葉を止めた。

エレンが、本当に、心から……悲しそうな顔をしていた。

ルルイエを見る目は……実に、悲しげだった。

「……ごめん、ルルイエさん」

きびすを返すと、エレンは立ち去ろうとする。

ふくろうに念話を送り、転移魔法を使って、アスナ達を先に、精霊界へと転送する。

「ま、待って! どこ行くのエレン!?」

ルルイエは彼の腕を掴んで、必死になって言う。

だがエレンはその手を振り払い、立ち去ろうとする。

「ごめん」

「ごめんってなに!? ねえエレン! 話そう! ね! もう一度ちゃんとゆっくり話そう! 誤解を解こう!」

「……ごめん。ひとりにしてくれないかな」

ガツンッ! と頭をハンマーで殴られたような衝撃が走る。

ひとりにしてくれないかな。

彼はそう言った。

つまり……彼は、ルルイエのもとを、離れようとしている。

「嫌だ……」

ぽつり……とルルイエがつぶやく。

「嫌だ嫌だ嫌だあああああああ!!!!」

ルルイエは泣きわめきながら、エレンを捕まえようとする。

だが蹴躓いてしまい、その場で倒れる。

「嫌だ! 待って! エレン!」

エレンの足を、がしりとルルイエが掴む。

「お願い聞いて! 全部誤解なんだ!」

「……じゃあ、クトゥルーさんが見せた映像は、全部嘘っぱちだって言うの? なんでそんなことするの?」

「そ、それは……あ、あれは! クトゥルーのやつが! 僕たちの関係を破綻させようとして見せたんだよぉきっとぉお!」

「……映像の真偽については、言わないんだね。……ううん、言えないんだ。真実だから」

「ちがうよぉ~……なんでそういうことになるんだよぉ~……」

エレンはルルイエの手を払って、彼女を見下ろす。

その目には大粒の涙が浮かんでいた。

「……ルルイエさんは、こんな弱っちいぼくに力をかしてくれて、悪と一緒に戦ってくれる……優しい人だって、信じてたのに」

「エレン……待って違うのほんと違うの違うんだってほんと違う違う違うんだよぉ!」

「……ごめん。何が違うのか、今のぼくにはわからない。……少しだけ、考える時間をください」

エレンは不死鳥の大翼を使って、その場から消える。

「エレン……?」

ひとり取り残されたルルイエは……呆然とつぶやく。

「……嫌だ」

自分が、エレンに見捨てられた。

その事実が、じわりじわりと……脳内に伝わっていく。

「嫌だ嫌だ嫌だよ……」

いつも無邪気な笑顔を、自分に向けてくれたエレン。

大好きで大好きでたまらない、この世界でただひとりの……愛すべき精霊使いの少年から……。

「嫌だ! 嫌だぁあああああああああああああああああああああああああ! あぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

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くくく……あっはっはっは!

いやぁ傑作だねぇ。

【ルル】のやつあんな赤ん坊みたいにワンワン泣いてさぁ!

あーあ、いい気味だ。

今まで散々、精霊王の力で好き勝手やってきた報いを受けたね。

さてさて……これで終わりだと思っているのかいルル?

足りない、全然足りないよ?

僕が受けた屈辱は、こんな物じゃ全然足りないんだ。

君にはもっと深く絶望してもらわないと。

その上で、僕は君から【全て】を奪う。

え、なんで奪うのかって?

昔からよく言うだろ?

兄より優れた妹なんて……いちゃいけないんだからさ。

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