軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

162話 精霊王、邪魔者を排除しようとする

勇者エレンがクトゥルーと出会っている、一方その頃。

トーカの街にある、エレン宅にて。

アスナ達は庭先で、和やかにお茶をしていた。

そこに突如現れたのは、精霊王ルルイエ。

「あなたは……たしか、ルルイエさん、でしたね?」

口火を切ったのはアスナだった。

「そうだよ。エレンの 相棒(パートナー) の、精霊王ルルイエさ。はじめまして」

「こちらこそ、初めまして。わたしはアスナです。いつもエレンがお世話になっています」

ビギッ! と精霊王の額に血管が浮かび上がる。

その瞬間、ドゴォオン……! と遠くで雷が落ちる音がした。

「あら? 何かしら今の?」

「……さぁね。雨でも降ってるんじゃないか?」

「大変だわっ。お洗濯もの入れないと」

「ああ、うん。それは後にしてくれないかな。すぐに用事は済むからさ」

「用事?」

ルルイエはうなずくと、アスナを真っ直ぐに見て言う。

「単刀直入に言おう。君、エレンの元から消えてくれないかな?」

一瞬の静寂。

それは、その場に居たティナ、そして精霊のカレン、ランたちが理解するまでの時間。

「消え、る……? どういう、ことですか?」

困惑するアスナに、ルルイエは淡々とした口調で言う。

「文字通りだよ。エレンの前から居なくなってくれないかな?」

「おっしゃる意味がわからないのですが……」

「ああもう、理解力に乏しいね君。じゃあもっとハッキリ言うよ。エレンと別れろ。そして僕のエレンの前に、二度と姿を現すな」

ルルイエの顔には、明確な敵意、そして不快感があらわになっていた。

「エレンは僕だけのものだ。人間だったときは、まあ人間の女も愛玩用に必要かなと思って、そばに置くことを許してやったんだ。けど状況が変わった。今彼は精霊となった。僕と結婚できる姿にね。となれば僕とエレンは結ばれなければならない」

カップにお茶を注いで、ズズ……と啜る。

「エレンは精霊王の夫となるんだ。僕だけの男にね。となるともう君らは邪魔なんだよ。消えてくれないかな?」

「ちょっとあんた! いきなり来て何その言い方!?」

今まで黙って聞いていたティナが、憤怒の表情を浮かべて、ルルイエのそばまでやってくる。

「金が欲しいならいくらでもくれてやる。ツラの良い、性格のいい男と結ばれるように運命を操作してやっても良い。けれどエレンは駄目だ。彼は僕の、精霊王の 番(つが) いとなるべき存在。君らのような精霊でもない、ただの人間達が触れて良い存在じゃあないんだ。だからもう近づくな」

「言いたい放題いいやがって! あんた何様!?」

ギロッ、とルルイエがティナをにらみつける。

「きゃぁあああああああああ!」

ティナは凄まじい勢いですっ飛んでいき、屋敷の壁に激突する。

「ガハッ……!」

「ティナ!?」

アスナが立ち上がり、ティナのもとへ駆けつけようとする。

「座れよ、話の途中だぞ」

「う、動けない……なに、これ……?」

精霊王。

彼女はこの世全ての奇跡を司る存在。

絶対的な力を持つ、圧倒的強者。

アスナの体は無意識に、ルルイエの言葉を聞いてしまう。

従わねば死ぬと、本能で悟っているからだ。

「えっと……名前なんだっけ、君。まあどうでもいいや。おまえと、あとそこで転がってるエルフ女、悪いことは言わない。僕の機嫌が良いウチに、さっさとエレンと手を切るんだ」

ルルイエにとってアスナもティナも、取るに足らない、まさに路傍の石に等しい存在。

名前を覚える価値もない、と思っている。

そんな無価値の存在が、エレンというこの世で最も価値のある存在を独占していて居ることが……腹立たしくてしょうがないのだ。

「消えろよ。目障りなんだよおまえ達」

「母上!」「ルルイエ様!」

精霊から人の姿へと変化した、 不死鳥(カレン) 、そして 神狼(ラン) が、彼女たちの前に立ち塞がる。

ランはアスナを連れて距離を取り、カレンはルルイエの前で、火矢を放つ構えをとる。

攻撃態勢を取られているにも関わらず、ルルイエは椅子に座り、お茶を啜っていた。

「母上、あなた様の横暴は、さすがに見過ごせません」

「横暴? なにそれ。僕は当たり前のことを言ってるだけじゃないか。エレンは僕のものだ。 他人(ぼく) のものを勝手に取るな。一般常識だろ?」

「エレンは誰のものでもありません!」

「いいや、エレンは僕のものだ。僕だけが彼を愛して良いんだ。僕だけが彼を独占して良いんだ。僕だけものだ」

「エレンを! そんな物のように扱うのはやめてください! 母上は彼を侮辱している!」

ふぅ……とルルイエはため息をつく。

それだけで……カレンは倒れた。

「カレン!? 貴様! カレンに何をしたぁ!」

ランが風の刃を作り出し、ルルイエに殺気を向ける。

「別に、ちょっと五月蝿かったから眠ってもらっただけだよ。さすがに自分の子には手を出さないよ。そんなことしたらエレンに嫌われちゃうじゃないか」

「……あなたは、間違ってる! あなたは冷静になるべきだ! あなたはティナ様を傷つけ! アスナ様を殺そうとしている! そんなことして若様が何も思わないと思っているのか!?」

「何も思わないんじゃない? だってそいつらなんかよりも、エレンは僕のことずっとずっと、ずぅううううっと愛してるしね」

うっとりした表情でルルイエがつぶやく。

恋する乙女の目をしていた。

……つまりは、今の彼女は、エレンだけを信じる盲目な女だった。

「最初はちょっと悲しむだろう。けど次第にその悲しみは薄れていくさ。ほら、ペットの犬が死んでも、1年くらいすればもう忘れて泣かなくなるだろ?」

「アスナ様とティナ様は! 愛玩動物などではありませぬ! この方々は若様の大切なお人!」

「ばーか。わかってないなぁ。僕こそが、エレンにとって唯一無二の存在なんだよ」

いいかい、と出来の悪い生徒に教える、教師のように、ルルイエが言う。

「あす……あす……なんだっけ名前? そこの人間も、エルフも、代わりのきく存在だ。そこらへんにウジのように沸いている。けれど 精霊王(ぼく) は違う。僕の代わりは誰も居ない」

自分の体を抱いて、熱っぽく、ルルイエがつぶやく。

「彼を支えてあげられるのも、彼に力を与えられるのも、僕だけだ。そこの2人がエレンに何を与えられる? なにもないだろ? エレンの愛をもらうにふさわしい存在は僕だけ」

「愛は決して! そんな損得勘定で与えたりもらったりする物ではございません!」

はぁ……とルルイエが呆れかえったようにため息をつく。

「カルラからエレンの護衛を任され、見事15年間守り切った忠誠心に免じて、殺さないでやったというのに……。そんなに死にたいのか?」

ぶわ……! と凄まじいまでの魔力が、殺気とともに、ランに押し寄せる。

「あ……あぁ……」

ランは完全に戦意を喪失し、その場にへたり込む。

体をガタガタガタ……と震わせ、身動き一つ取れない。

「ラン! 大丈夫なの!? ラン!」

「アスナ……さま……にげ……て……」

ティナは大けが、カレンは昏睡、そしてランは戦意を完全にくじかれた。

この場において無事で居るのは、もっとも戦力の無い……アスナだけ。

「どうして……」

「ん?」

「どうしてこんな酷いことを、するの!?」

アスナが怒りをあらわにして言う。

だがルルイエの感情は微塵も動かない。

彼女にとってアスナやティナ……そして、ランやカレンでさえも、路傍の石に等しいからだ。

「酷い? 別に何もしてないだろ。ほら、誰も死んでないし。本気出せばここにいるやつら全員皆殺しにするのなんて容易い。僕って優しいよね」

「どこが!? こんなか弱い女の子達をッ傷つけて、平然としてる! あなたは酷いひとです!」

「僕の優しさを理解しない、君たちが悪いんじゃないか。いいかい、最後のチャンスを与えよう」

ルルイエは立ち上がって、アスナに近づく。

ランはそれだけでみるみる顔を青くして、気を失いそうになる。

だが、それでも、ランはアスナを守るように、彼女の前に立つ。

「エレンの前から消えろ。そこらに転がっているヤツらを連れて、二度と僕とエレンの前の現れるな。そうすれば、幸せな人生が送れるようにしてやる」

裏を返せば、逆らえば酷い目に遭わせると言っているのだ。

それを実現できるのが、精霊王ルルイエ。

圧倒的な力を持ち、運命さえも指先一つで変えることのできる存在。

「断ります! わたしたちはみんな、エレンと離ればなれになるつもりはありません!」

ふぅ……とルルイエはため息をつく。

「人間は愚かだ愚かだと、常日頃から思っていたけど……ここまで馬鹿だとはね」

ルルイエは、アスナに手を伸ばす。

「その人に……触るなぁああああああああああああああああ!」

ランが気合いで立ち上がると、風の刃を手に、ルルイエに斬りかかる。

だがその刃が届く前に……ランはバラバラになって倒れた。

「ラン! らぁあああああああああああん!」

「あ……すな……さま……」

しゅぅう……と音を立てながら、彼女のバラバラになった体が消えていく。

やがて、からん……と音を立てて、美しい翡翠の欠片が残った。

「あなた自分が何をしたのかわかってるの!? エレンの大事な相棒を殺したのよ!?」

「精霊は精霊核……そこの結晶が壊れない限り死なないよ。少しすれば元に戻るさ。……それより君、今、なんていったの?」

ルルイエは静かなる怒りを携えて、アスナに近づく。

「エレンの大事な相棒? おいおいおいおい、勘違いするなよ。それは、僕だ」

ガシッ……! とルルイエはアスナの首を片手で掴む。

「ガハッ!」

「エレンの相棒は僕だ。間違えるなよ人間」

「間違ってるの……は! あなたよ……!」

圧倒的な存在を前に、臆することなく、アスナは敵を見て言う。

「もし本当に……あなたがエレンの相棒なら! 彼が……こんなふうに、他者を傷つけることを、許すわけがないって、わかって当然です!」

「はぁ? 馬鹿なの? エレンは散々馬鹿で無知な悪党どもを懲らしめてきたじゃないか。それと一緒だろ、これは正しい行いだ。きっとエレンも許してくれる」

「全然違う! あなたがやっているのは、ただの幼稚な暴力よ!」

「幼稚……だと……?」

アスナは強く言う。

この場において、生殺与奪の権利を、精霊王に握られているというのに。

「そうよ! あなたはただ、エレンを自分の物にしたいだけ! お気に入りの玩具を取られて駄々をこねる赤ん坊と一緒! そんな幼稚で思いやりのない人に、エレンは……大事な旦那様は譲らないわ!」

アスナは魔力で身体強化し、ルルイエの腕を払う。

体勢が崩れたところに、アスナは回し蹴りを喰らわせる。

ドガッ……! とルルイエが蹴りを食らって怯んだ隙に走り出す。

落ちているランの精霊核、そしてカレンを回収。

その場から急いで離れて、ティナのもとへ。

「大丈夫!?」

「アスナ……」

治癒魔法を使ってティナの治療を行う。

折れている骨を修復し、痛みを緩和させる。

「逃げるわ! 立てる!?」

「……無理よ。あんなの、勝てっこない」

カチカチ……とティナが歯を鳴らす。

アスナは見た、ルルイエから湧き上がる……圧倒的な魔力を。

「……殺す」

怒髪天のルルイエからは、竜よりも魔族よりも、誰よりも膨大な魔力が湧き上がっていた。

一歩一歩、近づいてくるだけで、伝わってくる殺意によって、体がバラバラになりそうになる。

それでも、アスナは毅然とした態度で、彼女たちの前に立ち塞がる。

「今すぐ消えろ。そこの赤子ごと、消し飛ばされても良いのかい?」

「そんなことは……させない!」

アスナは両手を広げ、倒れ伏すエレンの女達を守るように立つ。

「わたしは守る! みんなを…… 旦那(エレン) が大事にしている彼女たちを!」

「僕のエレンを……旦那と呼ぶなぁああああああああああああああああああああああああ!!!!」

ルルイエは右手を持ち上げる。

空には極大魔法の魔法陣が、10……100……いや、万を超えて存在していた。

ルルイエは彼女たちだけじゃない、エレンの大事にしている家も、町も、無関係の人々も……みんな消し飛ばすつもりだった。

「死ねぇええええええええええええ!」

無数の極大の魔法が、アスナ達に降り注ぐ。

それはもはや、逃れられない死の定め。

それでも……アスナは逃げなかった。

怯えもしなかった。

そう、なぜならば。

ガラスが粉々に砕け散るように、極大魔法の全てがかき消える。

「エレン!」

アスナ達の目の前に居るのは、精霊界から戻ってきた勇者神……。

エレン・バーンズ、その人だった。

「良かった……間に合って……」

エレンは安堵の涙と供に、アスナに抱きつく。

「大丈夫? 平気? お腹の子は?」

「みんな無事よ」

エレンは傷付いたティナ、倒れ伏すカレン、そして……精霊核だけになったラン。

その全てを見て、そして……青ざめた顔のルルイエを見やる。

「や、やぁエレン。修行はどうしたんだい?」

「……ルルイエさん」

「だ、駄目じゃないか修行の途中でこんなところで油を売ったら。ほら、早く帰った方が」

「ルルイエさん!」

びくんっ! とルルイエは、まるで大人に怒られた子供のように、体を萎縮させる。

「……あなたが、やったんですか?」

「ち、ちが……違うよ! 僕は……」

「あなたが、やったんですね?」

「ち、違うんだ! 誤解! 誤解だよ!」

ルルイエは駆け足でエレンに近づいて、彼の肩を掴む。

「あのねエレン、違うんだ。話を聞いてくれ。こいつらときたら、僕のエレンをあろうことか奪おうと……」

だが、その手を、エレンはバシッ! と払いのける。

「え、えれん……?」

「……ルルイエさん。信じてたのに。あなたのこと……」

ブルブルと肩をふるわせる。

彼の顔に浮かんでいたのは……怒りだった。

それは、今まで、たくさんの悪を前にしたとき、彼が浮かべていた物と……同じもの。

「酷いよ! ルルイエさん!」