作品タイトル不明
157話 守りたい命
ぼくが父さんと修行するようになってから、数ヶ月が経過した。
季節は春を迎えようとしている。
ぼくはアスナさんと一緒に、トーカの街の外をお散歩していた。
「最近めっきり暖かくなってきたわねー」
「そ、そうだねー」
ふたりならんで、河原を歩いている。
立ち並ぶ木々は花で色づいている。
「今度みんなでお花見でもしましょうか」
「うーん……でもアスナさん、外に長い時間いるのは危ないよ。だってもうお腹大きくなってきてるんだし」
アスナさんの妊娠が判明してから、結構な時間が経っている。
もうすっかり彼女のお腹は、ぽっこりと膨らんでいた。
「ちょっとくらい運動した方が良いってお医者様も言っていたし、平気よ平気♡」
「だめだめ、何かあったらぼく悲しいよ」
「大丈夫よ♡ なにかあっても勇者様が守ってくれるもの。ねー?」
アスナさんは自分のお腹をよしよしとなでる。
「ふんふん、なるほど……ベイビーはパパがいれば安全だって言っているわ」
「あはは、それは良かった」
河原においてあったベンチに、ぼくたちは座る。
おんなじように河原を散歩したり、お花見したりしている人たちがチラホラ見える。
「最近、世の中も変わってきたわね。一般人が普通に、街の外を出歩けるようになった」
この世界のどんな街も、外を壁で覆われている。
外にはモンスターが平然とうろついており、危ないからだ。
けれど、最近はモンスターを見かけることも少なくなってきた。
それどころか魔族や魔神など、人類に敵意を向けるやからもめっきり見なくなってきた。
「エレンのおかげね」
「え、なんで?」
「悪い人は勇者神様がみーんな倒してくれるって。あちこちの街で、みんなそう言ってるわ」
ちまたでは勇者神教なるものがあるらしい。
「ぼく、なんだか知らない場所で、とんでもないことになってるんだけど……」
「でもそのおかげで、魔の物たちは勇者神を恐れて出なくなった。世界は平和になったのでした。めでたしめでたし。じゃない?」
確かに、悲しむ人が減ったのはとても良いことだと思う。
もうエレンの姿で外を出歩けないけど、騒ぎになるし。
「パパが神さまって知ったら、この子も大きくなったときびっくりして腰を抜かすかもねー」
「……そうだね」
神々の動きがピタリ止まってから、4ヶ月ほど。
あと8ヶ月すれば、神々との最後の戦いが始まる。
そこで勝てるように、ぼくは必死になって剣を覚えている。
日に日に強くはなってるけれど……もしも……と悪いイメージがよぎってしまう。
「大丈夫よエレン」
「アスナさん……」
アスナさんは、完全ではないにしろ、ある程度事情を知っている。
ぼくがまもなく大きな戦いに巻き込まれることを。
「あなたは強いわ、誰よりも。きっとあなたがわたしやこの子、そして世界のみんなの明日を守ってくれるって。わたし、誰よりも信じてるから」
ね……とアスナさんが微笑む。
「だからそんな怖い顔しないで」
「うん、ありがとうっ」
ぼくはアスナさんと寄り添う。
「赤ちゃんあとどれくらいで生まれるの?」
「んーあと数ヶ月かしらね。エレンは男の子と女の子、どっちがいい?」
「どっちでも! きっとアスナさんに似てカッコいい子に成長するよ!」
「わたしはエレンに似てて欲しいなぁ、どっちでも可愛い子に育つと思うし」
ぼくらは互いに笑い合う。
「さわっても良い?」
「もちろん。ほら、パパですよー」
アスナさんの膨らんだお腹に触れると、かすかに動いてる気がした。
人の暖かなぬくもりを……けれど、ぼくは今、感じ取ることができない。
精霊は温度を感じることができないんだ。
「エレン」
「なぁに?」
「……あなたが大変なこと、ちゃんとわかってるわ」
え……? とぼくはアスナさんを見やる。。
彼女には精霊化のことは話していない。
だから、知っているわけがない。
「多くは言わなくていい。あなたがわたしを心配させまいとしていること、ちゃんとわかってるから」
「アスナさん……」
「でもね、辛くなったら隠さなくて良いのよ。わたしたち、家族なんだから」
アスナさんがぼくの頭を、よしよしとしてくれる。
……ああ、そうか。
ぼくの異常に、とっくに彼女は気づいていたんだ。
そうだよね、こうしてふれあうことも多いんだし、体温がないことにも気づくよね……。
それでも、彼女はぼくを信じてくれている。
勇者としてではなく、お嫁さんとして、旦那さんを。
「ありがとうアスナさん、ぼく頑張るよ」
「うん、がんばって♡」
ぼくらは空を見上げる。
……そこには、分厚い曇天が広がっていた。
「冬からずっと、雲がかかってるわね」
「うん……」
神々との休戦が決まった日から、この世界の空には分厚い雲で覆われることになった。
ふくろうさん曰く、神々が【見られてはいけない何か】を隠し、ぼくに近寄らせないための結界なのだという。
終焉令(ラグナロク) のときに、何か使われる兵器ではないか……とのこと。
「また青い空、みたいな」
「大丈夫、必ず取り戻すよ。みんなの明日も、青い空も」
ぼくはアスナさんのお腹に触れる。
生まれてくるこの子のために、がんばるんだ!
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…………………………ふーん。
…………………………仲良いね。
…………………………オシドリ夫婦だね。
…………………………いーもん。
…………………………羨ましくないもん。
…………………………クソが。
…………………………あの女。
…………………………ムカつく。
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