作品タイトル不明
151話 ふくろう、病床の精霊王の世話をする
【彼女】は夢を見ていた。
『失敗だ……! くそっ! なんで!? どうして!?』
目の前で泣き叫んでいるのは、白髪の美女ルルイエ。
全ての奇跡を司る冷酷なる邪神が……大いに取り乱していた。
『なんで!? 肉体は同じなのに! どうして!? ねえ、カルラ! 僕だよ! ルルイエだよ……!』
『……だ、れ?』
ふくろうは本気で、目の前の女を知らなかった。
気づいたら、彼女はこの世に生まれていた。
それより前の記憶はない。
『…………』
ルルイエの顔から、スッ……と表情が消える。
『失敗だ。こいつはカルラじゃない。カルラの器に入った……別の魂だ』
『え? え?』
『……もう良い出来損ない。消えろよ』
『え……?』
精霊王の瞳には、もはやふくろうの姿は映っていなかった。
生まれたての彼女に対する興味を、完全に失っていた。
『精霊使いの一族は滅んでしまった……僕は、これからいったい誰を愛すれば良いんだ……』
トボトボと歩くルルイエに、ふくろうは手を伸ばす。
『……待って。わたしは、だれなの? ねえ、教えて……?』
だが精霊王が振り返ることはない。
『待って……だれか……わたしは……だれなの……ねえ……』
一人きりなったふくろうは、訳がわからずに泣き叫ぶ。
なぜ生まれたのか、その意味も、自分が何者かもわからない。
その後、数日間はうずくまったままだった。
当然だ、彼女は赤ん坊同然なのだ。
ご飯の食べ方も、この世界での生き方も、何もかも。
教えてくれるべき母が、そこにはいないのだから。
『……だれか、たすけ……て……だれ、か……』
伸ばした手を掴むものは居ない。
精霊王もあの日から一度も、ふくろうのもとを訪れることはなかった。
『だれか……だれか……』
と、そのときだった。
【呼んだ?】
ふと、頭の中に、女性の声が響いた。
【いやぁ、びっくり。アタシ死んでなかったんだ。うわーすげー生きてる……っていえるのかなこれ?】
『だ、れ……?』
脳内に響くこの声が、最初幻聴かと思った。
【おうおう、人に名前を聞くときは、まず自分から名乗るもんだぜ】
『……わから、ない』
【え?】
『……なにも、わからないの』
ふくろうは自分が生まれたばかりであること。
突然この世界に産み落とされたこと。
自分を生んだ精霊王は、なぜか自分に興味を失せて、捨てていったと。
【マジかよ! ルルの馬鹿野郎め。ほんとあいつっていっつも身勝手なんだから!】
『知り合い……?』
【ま、ちょっとしたね。それより、わかった。アタシが色々教えてあげる】
力強いその人の言葉に、抜けていたふくろうの体に、力が戻っていくような気がした。
【まずはご飯をくいなさいな。近くの森に食べられる果物があるからそれを取って。大丈夫! 君は死なない。アタシがいるからね。なんつって】
『……だれ、なの?』
【だから人の名前を……って、そっか。生まれたばっかりだったね。ごめんなごめん】
彼女は咳払いをして言う。
『アタシはカルラ。よろしく赤ちゃん!』
☆
「うーん……ううーん……」
ふと、ふくろうは目を覚ます。
そこは勇者エレンの自室だ。
精霊王ルルイエは、エレンのベッドに横たわり、うんうんと唸っている。
「……眠ってしまったのね」
ふくろうは自分の目をこする。
精霊王がうなり声を上げている。
その額に、氷嚢が乗っていた。
「愛しい彼に愛の告白で倒れるとか、お馬鹿な人ですね」
やれやれ、と呆れたようにため息をつく。
「ハッ……! エレンはどこ!? 僕のエレンは!?」
「そこは、ここはどこ私はだれ? ではないのですか、ルルイエ様」
苦笑しながら、ふくろうはベッドの横に座る。
「なんだふくろうか。エレンは? ねえエレンは?」
「エレン様はお風呂でございます」
「なにぃ……! けしからん! 風呂場に突入せねば!」
ベッドから抜け出そうとする精霊王の肩を掴んで、ベッドに押しつける。
「何をしに行くのですか?」
「離せ馬鹿! エレンの裸体をなめ回すように見るんだ!」
「そんなの精霊の目を通して、毎回勝手に盗み見ているでしょう?」
「そりゃそうだけどさ」
ナチュラルに盗撮していることにして、もはやふくろうは突っ込まなくなっていた。
言ったところでこの女が、言うことを聞くとは思えない。
「で、何があった?」
ふくろうはことの顛末を話す。
天使との戦いを経て、エレンの告白(無自覚)を聞いたルルイエが倒れたと。
「ふへ~♡ そうだよぉ~♡ エレンからぁ~♡ 告られちゃった~♡ きゃっ♡」
いやんいやん、とルルイエが体をよじる。
だらしのない顔で、よだれを垂らしながら、でへへと笑う。
「僕はエレンのものだってぇ~♡」
「それは良かったですね」
文脈から察するに、愛の告白でないことは明白だったが、ふくろうは黙っていた。
ふくろうの使命は、この女のスパイだ。
この精霊王という厄災に気に入られることが、彼女に与えられしミッションである。
「ねえ新しい下着もってきて。びしょ濡れでさ」
「汗でですか?」
「え、違うよ」
「それ以上は深く聞きません」
そそくさと新しい下着を持ってくる。
「着替えるノめんどくさい。おまえ、履かせて」
「かしこまりました」
従順な奴隷のように、ふくろうはルルイエの命令に絶対逆らわない。
あれをしろと言われたらそのとおりに。
エレンに楯突いたものを殺せと言われたら、仰せの通りに。
端から見ればただの、ルルイエの駒にすぎないだろう。
だがそれはすべて、ルルイエの副官というポジションでいるための演技だ。
……彼を守るため。
彼女との約束を守るために。
ややあって。
「はーん♡ エレンの匂い~♡ エレンのベッド~♡ エレンの枕~♡」
ルルイエはエレンのベッドでゴロゴロと転がる。
「おまえもわかってるじゃん。病気だっていう大義名分があれば、エレンのベッドに寝かせてもらえるもんね」
ここに運んだのはふくろうだ。
エレンにベッドを使わせてもらえるよう頼んだのも。
そうすればルルイエは喜び、より信頼を獲得できるだろうと。
「エレン様不在時に、なぜベッドに侵入しないのですか?」
「バッカ、そんなことして、偶然エレンにその姿を見られたらどうする? 僕はね、彼の前では頼れる神秘的なお姉さんキャラで通してるんだから」
「ええ、そうですね」
どの口が言うか、という言葉をごくりとふくろうは飲み込んだ。
と、そのときだった。
コンコン……と部屋の扉がノックされる。
「ルルイエさん、お加減どうですか?」
勇者エレンが部屋に入っていた。
倒れた精霊王を気遣って、様子を見に来たらしい。
「こほこほ……すまない、エレン。迷惑をかけたね」
ルルイエは一瞬で布団に潜り込み、髪を整え、顔に付着したよだれを拭いていた。
先ほどまでのだらしのない顔から一転、今は儚げな美女のように、弱々しく笑っている。
すべてはエレンからよく見られたいという欲求があるゆえに、彼女は本性を隠しているのである。
「風邪って聞きました。大丈夫ですか?」
「だいぶ良くなったよ。ありがとう。ごめんね、この部屋使わせてもらって、すぐでていくから」
よろよろと立ち上がろうとするルルイエ。
もちろん演技だ。
たとえ今日隕石が落ちてきて世界が滅びるとしても、彼女は頑としてベッドの上からどかないだろう。
「無理しないで! ゆっくり寝ててください」
「そうかい……申し訳ないね……」
こほこほと咳き込むルルイエだったが、口元がゆるみかけているのを、フクロウは見逃さなかった。
「精霊でも風邪引くんですね」
「そ、ソウダネー」
本当は風邪でなく、エレンからの愛の告白に心臓麻痺を起こして倒れた、なんて口が裂けてもルルイエは言わない。
そんなハシタナイ女に思われたくない、とのこと。
見上げた根性だと、敵ながら感心するふくろう。
「無理しないでくださいね。そうだ、おかゆ作ってきます?」
「うひゃ……!」
「うひゃ?」
「こほこほ……ありがとう。作ってきてくれるかい?」
「わかりました!」
こくんとうなずいて、エレンが出て行く。
バタン、と扉が閉まった瞬間……でへへとルルイエが緩みきった笑みを浮かべる。
「おかゆー! エレンお手製のおかゆー! やったー! うひゃぁあああああああああああ!」
コロコロとルルイエはベッドを転がる。
ベッドから落ちると、びょんびょんと元気いっぱいにジャンプしていた。
「元気になって何よりでございます」
「あ、おまえまだ居たの? 帰って良いよ」
「ええ、では失礼いたします」
ふくろうは笑顔を保ったまま、頭を下げて、きびすを返す。
パタン、と扉を閉めて、ふくろうは吐息をつく。
「あれ? ふくろうさん、どうしたんですか?」
おかゆを作ったエレンが、部屋の前まで戻ってきていた。
「もうお作りになられたのですか」
「うん。ほら、精霊の体って、人間の何倍も早く動けるじゃない?」
「……左様でございますか」
悲痛なる表情を浮かべると、ふくろうは【障壁】を貼る。
これは、精霊の目をごまかす特殊な障壁だ。
「エレン様。なぜルルイエにそこまでするのですか?」
「え? だってルルイエさんにはいつもお世話になっているし。病気の時は誰かに看病して欲しいものじゃない?」
ふくろうはエレンの目を見て……思う。
この勇者は、本気で、ルルイエに対して、本気で心配しているようだった。
その赤い目は透き通っている。
ふくろうと違って、精霊王への憎悪は見て取れない。
困っている人を、放ってはいけない。
これは、彼の 性分(キャラクター) なのだ。
「ルルイエに、恨みを抱いていないのですか?」
「え……?」
心からエレンは、困惑している様子だった。
「……失言でした。忘れてください」
パチン、と指を鳴らすと、障壁が解除される。
「時間を取らせて申し訳ございませんでした」
「ううん、あ、そうだ! ルルイエさんの看病、ありがとうございました!」
……エレンもルルイエと合体することで、精霊に近づいていることは承知している。
それはつまり、自分が精霊という、人外の存在になる原因が、ルルイエにあるということを知っているということだ。
それでもなお、彼はルルイエに対して、悪感情を抱いていない。
「……わたくしとエレン様では、人としての格が違いすぎます」
そうつぶやいて、ふくろうはその場を後にするのだった。
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ふへへへ~ん♡
エレンの看病のおかげで~、めっちゃ元気になったよぉおお!
寝込んでいるお嫁さんのために看病+おかゆ作ってくる+ふーふーしてあーんだもん! そりゃ元気にもなるもんさ!
いやー! これはもう完全に夫婦だね!
熟年夫婦! あとは男女の営みだけか!
子供いっぱいいっぱいほしなぁ~。100人? いや、1000人は欲しい!
不可能じゃないよ、だって精霊は不滅の存在だもん!
長い時間があるんだもん、いーっぱい子作りしようね!
よし! 元気もりもりメガMAXだ!
さて天使へのペナルティやるかな。
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