軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

152話 メタトロン、人間社会になじめず孤独死

勇者神エレンによって、メタトロンをはじめとした、8人の天使は敗北した。

その1週間後。

とある街のレストランにて。

翼を失ったメタトロンたちが入店する。

「さっさと料理を出せ! こちらは腹が減っているのだ!」

出てきた給仕に、不遜な態度を取る。

給仕は表情を表に出さずに対応する。

「8名様でございますね」

「そうだ。さっさと案内しろ屑が。わしらを誰と心得る? 神の使いであるぞ!」

だが、今の彼らは、とてもじゃないが神の使いとは思えない格好をしていた。

ボロボロの布。

風呂には数日入っていないのか、体中に汚れが目立った。

「失礼ですがお客様。お金をお持ちでしょうか?」

「ふん! なぜわしらが金を払わねばならぬ!」

メタトロンの言葉に、残りの天使たちも続く。

「そうよ! 神の使いなのよ!」「人間程度に払う金など1ゴールドたりともない!」

はぁ……と給仕はため息をついて言う。

「帰れ」

「なっ!? わ、わしら天使になんという態度を! 無礼であるぞ!」

「はいはい、そういうのは精神科の医師に相談してください。金がない以上、あんたらに出す料理はない」

給仕はこの天使たちを、頭のおかしい人間だと思ったらしい。

「ふざけるな! 翼もない人間の分際でそんな態度が取れるな! 貴様らは所詮神の被造物であるんだぞ!」

「そういうのいいから。出て行け。しっし」

野犬を追い払うかのように、給仕は天使たちを店の外に追い出す。

「二度と来るかこんな店!」

「天使から金をふんだくろうとするなんて! つぶれてしまえこんなところ!」

悪態をついた後、彼らは店を後にする。

「メタトロンよ、これからどうする?」

「ど、どうすると言われても……」

胴を切断された彼らは、命からがら、その場から逃げおおせた。

天使は人間と違って、斬られたくらいでは死ぬことはない。

だが人間に負けたことで神々の不興を買ってしまった。

その結果、天使としての権利を剥奪され、翼を失い、天界を追放されたのである。

人間として生きなければならくなった彼らは、長い時間森をさまよい歩いた後、ようやく人里に到着した。

だが待っていたのは非情な現実。

金がなければどんなサービスも受けられないのだ。

ややあって。

夜になり、天使たちは街の外に居た。

「どいつもこいつも金金金! 金がなければなにもしてくれないのか……!」

メタトロンは吐き捨てるように言う。

彼らは生まれたときから天使であった。

ゆえにナチュラルに上から目線の態度を取る。

そんな彼らが、人間の世界になじめるわけもなく……。

結果、レストランも宿屋も追い出され、こうして街の外で野宿をしていたのだった。

「腹が減ったな……」

天使のひとりがそうつぶやく。

「魚でも捕るか?」

「バカ言うな! 天使が魚をとるだと? 天上人としてのプライドを忘れたのか!?」

メタトロンが弱気になった天使を殴りつける。

「け、けどよぉ……腹減ってもう死にそうだぜ?」

「ふんっ! 軟弱者が! この程度の飢えで死ぬとかほざいているのではない!」

「で、でも……」

「五月蝿い! 天使が魚など捕ってはずかしくないのか! この愚か者!」

はぁ……と天使のひとりがため息をつく。

「もう、あんたにはついてけない」

「なんだと!?」

すっ、と弱音を吐いた天使が立ち上がって、きびすを返す。

「おれ、あんたたちとはここで別れるよ」

「なっ!? 何を言ってるんだ!」

「食べなきゃ死ぬしな。じゃあなメタトロン」

彼らの元を離れ、森へと向かう天使。

「ふ、ふん! ば、ばかが! あーあ、堕ちたもんだな天使のくせに! 魚を捕って食うとか畜生の所業ではないか!」

これで天使は7人。

翌日になっても、彼らは街で不遜な態度をとり続けた。

結果、どこにも入れてくれず、誰からも相手されず……再び街の外へと追い出された。

「ん? おい、ふたり足りないぞ? どこいった?」

「……街で働くってさ」

「なんだとぉお!?」

5人となった天使たち。

メタトロンは驚愕の表情を浮かべる。

「なぁメタトロン。もうやめようぜ、人間として生きるべきだよ」

「人間の下で働くというのか!? ふざけるな! 誰がそんなこと……死んでもやるもんか!」

「けどよ、どうすんだよ。もう何日飯くってない?」

「そ、そんなの関係ない! 心頭滅却すれば飢えなど……」

ぐぅう……と激しくメタトロンの腹が鳴る。

「もう肩肘張るのやめとけって。おれらも、おまえも、人間として生きるほかないんだよ」

「う、うるさいうるさいうるさぁあああああああああああああああい!」

血走った目で、天使達を見渡す。

「勝手にしろ馬鹿どもが! 尊厳を捨ててまで生きようとする醜い豚どもめ! わしは! 天使として誇りを持って生きてやる……!」

「……呆れた」「……馬鹿丸出し」「……もういい、ほっとこ」

残っていた天使たちは、みな街へと向かって消えていく。

おのおの、冒険者や娼婦として働くことになった。

……ただひとり、メタトロンを除いて。

それから、さらに時間が経過した。

人間社会になじめないメタトロンは、街の薄暗い路地に居た。

「…………」

もはや飢えも渇きも限界を迎え、その場から一歩もメタトロンは動けない。

「…………」

一歩、表通りに出て、物乞いでもすれば……あるいは……とは思う。

けれど彼の高すぎるプライドは、彼にそんなことをさせなかった。

「くそ……くそぉ~……」

じわ……と涙がうかび、ぽろぽろとこぼれ落ちる。

「どうして……わしが……こんな……惨めな思いを……わしは……天使なのに……」

「馬鹿だねぇ君」

天使の前に現れたのは、白髪の美女ルルイエだった。

「なん……だ……貴様……」

「エレンの妻さ。なんつってなんつって♡」

きゃっ♡ と体をくねらせるルルイエ。

「あのガキの……関係者が……なんのようだ?」

「別に。ただ助けを呼んでも無駄だよって教えてあげよーと思ってさ」

ふんっ、とルルイエが鼻を鳴らす。

「エレンの耳はね、困っている人の声を全て拾う。それは君も例外ではない。けど君ら天使の声は届かないようにしておいたからさ」

「だ、だれが……あんなガキに……!」

「あー、そ。じゃもう飢えて死ねよ。他の連中と一緒にさ」

「ま、て……どういう、ことだ?」

ふっ、とルルイエは小馬鹿にするように、せせら笑う。

「エレンに楯突いた元天使は、適当な理由をつけて僕が始末したよ」

「なっ!?」

「冒険者になったヤツはダンジョンの罠に殺された。漁師になったヤツは川で溺れて死んだ。ま、そんな感じで偶然を操作して始末させてもらったよ。天使って思ったより脆いんだね」

奇跡の体現者ルルイエにとって、運を操作することは容易い。

そうやってエレンには向かった天使達は、至極あっけなく死んでいったのだ。

「残りは君だけ。ま、でも僕が手を下すまでもないね」

口元を手で押さえて、ルルイエが言う。

「自分の高いたかーいプライドに殺されて死ぬんだよ。あわれだね~」

「こ、このぉ……」

殴りかかろうとするが、しかし腹が減りすぎて、それもできない。

ぺたりと地面に横たわり、見上げることしかできない。

フッ……体から体温が急に無くなった気がした。

「限界かな? じゃ、バイバイ。哀れな天使様」

ルルイエが居なくなり、メタトロンはひとりになる。

いよいよ死ぬのだと、体感でわかった。

「だ、だれかぁ~……だれかぁ~……」

メタトロンは弱々しく言う。

「おねがいだぁ~……金を、飯を、めぐんでくれぇ~……」

死ぬ間際になって、ようやく彼は、天使としてのプライドを捨てた。

「頼むうぅ~……飢えて死にそうなのだ~……おねがいだ、なにかめぐんでくれぇ~……おねがいだぁ~……たのむぅ~……」

だが、もう遅すぎた。

その弱々しい声では、表通りの人間達に聞こえるはずがない。

這いずって人々の輪の中へいこうとも、動く体力が残っていない。

「おねがいだぁ~……だれでもいいから~……たすけてくれぇ~……かみさまぁ~……」

……だが最期にすがりついた神も、彼に何も施してくれはしなかった。

メタトロンは栄養失調で、気を失い、そのまま絶命したのだった。