作品タイトル不明
144話 新しい命
ぼくが 霊王形態(キング・フォーム) を身につけてから、数ヶ月が経過したある日。
季節は冬。
しんしんと降り注ぐ雪の中、ぼくは魔族を切り伏せる。
「ひぃいいいいい! 勇者神さまぁああ! もうしませんぅううううう!」
魔族が逃げ去っていく。
「ありがとうエレン様!」
街道を歩いていた馬車を、魔族が襲っていたのだ。
商人の一団が、ぼくに頭を下げる。
「しかしエレン様、よくぞこんな山奥まで来ていただけましたね」
「たしかにわたしら、助けてと叫んだのですが……」
ぼくは商人達に言う。
「最近、聞こえるようになったんです。困っている人たちの声が」
「な、なんと! すごい! まさに神の名前に恥じない素晴らしいお力ですな!」
「あ、あはは……そうですね……それじゃ」
ぼくは宙に浮いて、びゅんっ! と商人さんたちのもとを離れる。
『エレンよ』
「どうしたの、カレン?」
ぼくの体内から、相棒である不死鳥の少女カレンの声がする。
『うむ……その、おぬし、少し働き過ぎではないか? それに、霊王形態を使いすぎている気が……』
『何を言ってるんだい! この形態でないと困っている人の声が聞こえないじゃないか! ねえ! それは困るよねぇ!』
「うん、そうだね……」
最近は家の外に居るとき、ずっとこうしている。
『し、しかしエレンの体に障るのではありませぬか、母上?』
カレンはルルイエさんの娘さんなのだ。
『心配なっしんぐ! 霊王形態は常に治癒魔法を発動させている! いつでも疲れ知らずな体をお届けさ!』
「カレン。大丈夫だよ。ぼくは、自分の意思でこの力を使ってるんだ」
霊王の姿になれば、ぼくはたくさんの困った人の声が聞こえる。
そのぶんだけ、人を助けることができるんだ。
『……エレンよ。おぬし』
「あ! もうお家につくよ!」
よいしょ、とぼくは着地する。
トーカの街の自宅にて。
「ただいまー!」
「おかえりなさいエレン」
家に帰ると、ハーフエルフのティナが出迎えてくれた。
「って! ちょっとあんた! なんて格好してるの!」
「え? ぼく何か変?」
ティナが青い顔して、ぼくのほっぺに触る。
「あんた! こんなに冷たくなって! 今外大雪じゃない! そんな薄着ででちゃってもう!」
そう言えば、部屋着である半袖シャツのままだった。
「マフラーも上着も着ずにでかけるなんて! 風邪引いたらどうするの!」
「大丈夫だよ。最近ずっと体調が良いんだから」
「ばかっ! 無理しないでよ! ほらこっち!」
ぐいぐいとティナがぼくの手を引っ張って歩く。
廊下を抜けると、リビングへとやってきた。
大きな薪ストーブの前では、アスナさんがソファに座っていた。
「エレン! あなたそんな格好で出かけたの!?」
アスナさんもまたびっくりして、ぼくに近づく。
抱きしめて、よしよしとしてくれた。
暖かいぬくもりを……うん。
「ほら、暖炉にあたりなさい」
「ありがとう、アスナさん」
ぼくはパチパチとはぜる火の前に座る。
「手がこんなにかじかんで……もうっ! エレン、人助けもいいけれど、もっと自分を大切にしなきゃだめよ?」
「ごめんね」
よく見れば、ぼくの手の先は真っ赤になっていた。
けどすぐにすぅ……っとしもやけが直る。
「しもやけに効く軟膏取ってきたわよ……って、なんだ、治癒魔法で治したのね」
ティナがホッ……と安堵の吐息をつく。
「う、うん! そうだよ!」
「まったく、無茶しないでよね。あんた、もうお父さんになるんだから」
「うん! ……って、え? な、なんのこと?」
ティナがあれ? と首をかしげる。
「なぁに、アスナ。言ってなかったの?」
「帰ってきたら言おうかなーって思っていたのよ」
暖炉の上には、写真立てがある。
そこには、ウエディングドレスに身を包んだ、アスナさんとティナが移っていた。
ぼくたちは、先日結婚したのだ。
「どういうこと?」
「実はー……ふふっ、じゃーん♡ 子供ができたのよっ♡」
「え……えぇえええ!? こ、子供っ!? だ、だだだれとだれの?」
もうっ、とアスナさんが呆れたように言う。
「エレンとわたしの子供に決まってるじゃない」
「わっ、わっ、わぁ……! す、すごいや! アスナさん! すごいよ!」
ぼくはお嫁さんであるアスナさんに、ぎゅっと抱きつく。
彼女は微笑んで、ぼくの頭をなでてくれた。
「ぼく……お父さんになるんだ」
『おめでとうございます、若様!』
『うむ、エレンよ。おめでとう!』
ランにカレンといった、精霊達がぼくの前に現れて、祝福してくれる。
「ありがとう! えっと……あれ? ルルイエさんは?」
『うむ……母上はちょっと所用でな。出ておる』
そっか……ルルイエさんにも報告したかったのに。
『ぐす……若様……立派に……立派になられて……ふぇええええん……』
ぐすぐす、とランが鼻を鳴らす。
「ありがとう、ラン。きみがぼくをいつも守ってくれていたから、ここまでこれたんだよ」
『わかしゃまぁ~……ふえええん……』
よしよし、とランをぼくは抱きしめて言う。
「しばらく旅はお預けね。アスナのことは、アタシたちがちゃんと面倒見てるから」
今、トーカのこの家には、ティナ以外にも聖女のクレアさんたちがいる。
最近のぼくは、声が聞こえるたびに、ひとりで悪人の元へ向かっていた。
その方が早いからね。
「エレン、ひとりだからって無茶しすぎちゃだめよ。今日みたいに、出かけるときはちゃんと厚着すること。わかった?」
「うん、わかった!」
ぼくたちは微笑んで、ちゅっ、とキスをする。
「……ふんっ。いいなーなんて思ってなんかないんだから」
「ごめんねティナ。ティナも大好きだよ」
二人目のお嫁さんに、ぼくはキスをする。
「も、もうっ。人前で恥ずかしいことしないでよねっ。ばかぁ~……」
ぴこぴこっ、とティナが嬉しそうに、耳を動かす。
「……みなさん、コーヒーができましたよ」
クレアさんがお盆を持って、ぼくらのもとへやってくる。
「ありがとう!」
ぼくはお礼を言って、お盆の上のマグカップを、素手で掴む。
「……えっ?」
ぎょっ、とクレアさんが目を剥いている。
ごくごく、とぼくは一気に飲み干す。
「ぷはー! ありがとう! ちょうどのどが渇いてたところなんだ!」
やっぱりのど渇いているときは、冷たいコーヒーに限るね!
「……ええと、エレン様? それは……アイスコーヒーじゃ……」
「さっ、そろそろ夕飯にしましょうか」
アスナさんの提案に、ぼくはうなずく。
「今日はエレンのおじいさん直伝、おいしいカレーを作ったわ」
「…………」
「どうしたの、エレン?」
「え!? ううん! なんでもないよ! わ、わー! カレー楽しみだなぁ……!」
ぼくは笑って、アスナさんといっしょに、キッチンへと向かうのだった。
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……………………ふーん。
……………………子供、ね。
ま、いいよ。
別に。人間の子供なんて、エレン以外どーでもいいし?
それより! もう着実に進んでいるじゃあないか!
うんうん、これはもう僕も妊娠秒読みってやつかなっ!
今のうちにー、マタニティグッズとか取り寄せておこーっと!
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