作品タイトル不明
142話 ユゴス、異世界に転生し報いを受ける
勇者エレンの攻撃によって、ユゴスは死亡した。
……そして、現在の彼女はというと。
「【優子】。起きて、優子」
「ん……」
ふと目を覚ますと、目の前には俳優もかくやというほどの、美形が自分を見下ろしていた。
「大丈夫、優子。うなされていたけど?」
「優子……だれ? アタシは……ユゴス……?」
彼は苦笑すると、ユゴスの頭をなでる。
「何寝ぼけたこと言ってるんだ。君は優子。僕の可愛いフィアンセじゃないか」
……ああ、と優子、否、ユゴスは思い出す。
「ごめんなさい。悪い夢を見ていたようだわ」
エレンからの一撃を食らったユゴスは、気づけば赤子になっていた。
彼女は別の世界、すなわち、現代日本へと転生していたのだ。
初めはエレンやルルイエに対する復讐心が燃えたぎっていた。
しかし途中からどうでも良くなった。
いくらあがいたところで、復讐相手にはもう二度と会えない。
現代日本の、平凡な女として生まれたユゴス。
今の彼女には世界を渡るすべもなければ、邪神の力も持っていない。
どうやってもエレン達の世界に戻れないのだ。
ならばどうしてか手に入った二度目の人生を、楽しもうと思ったのだ。
「どんな夢を見ていたんだい、優子?」
ユゴスは立ち上がって、部屋の中を見渡す。
そこは超高級マンションの最上階。
平凡な家庭に生まれ、平凡に育った優子は、街で偶然【金持ちの御曹司】と出会い、見初められた。
「異世界の女神やっていた夢よ。ほら、ネット小説でよくある、日本人を別の世界に送り込む神さまだったのアタシ」
彼はぽかん……としたあとに、苦笑する。
「僕は優子のそういう夢のあるところ好きだよ」
「もう、からかわないでよ」
ふたりは微笑んで、抱き合ってキスをする。
この御曹司と出会ってから、人生が好転しだした。
それまでは何の変哲のない家庭に生まれ、平凡な見た目にコンプレックスを抱き、派手さのない地味な仕事に就いていただけの女だった。
それが【突如現れた】金持ちの男と出会い、最高の人生へと変わった。
高い服も鞄も、ユゴスがねだれば全てが手に入った。
彼と隣を歩いているだけで、他の女達からは羨望と嫉妬のまなざしを向けられる。
邪神時代、そして転生後も苦労を強いられてきたユゴスにとって、今彼と過ごす時間は、まるで楽園のひととのきのようだった。
「あたし……幸せすぎて怖いわ。こんなに幸せで良いのかしら」
彼との情事の後、ユゴスはキングサイズのベッドに横たわりながら、彼を見上げていう。
「どうしたんだい、優子?」
「何の苦労もなくこんな幸せな状況を手に入れることができて……なにか裏があるんじゃないかって疑ってしまうの」
彼は目を丸くすると、微笑んで頭をなでる。
「考えすぎだよ優子。裏って何さ。僕の君への愛に裏も表もないよ」
「うん、知ってる」
ふぅ……と悩ましげに吐息をつく。
「まるで異世界転生小説を読んでいるようだわ」
前の世界では苦労を強いられていたが、転生後は勝ち組の人生を送る。
金持ちの彼氏を捕まえ、しかも彼は性格がとても良く、さらにもうすぐ結婚秒読み。
絵に描いたようなシンデレラストーリーだ。
「優子は本当にそういう小説が好きなんだね」
「よして、あんな幼稚な小説なんて好きじゃないわ。ああいうのは、現実にうまくいっていない、底辺の輩が読むような代物よ」
ふんっ、とユゴスは小馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
「特別でない人間が、転生しただけで、何の苦労もなく幸福を手にできるわけないじゃない。そう思わない?」
「…………」
「どうしたの?」
「いや……その通りだと……思うよ」
彼は静かに微笑み返す。
……その肩が、【微妙に震えていた】ことに、ユゴスは気づかなかった。
翌日。
ユゴスは美形彼氏を引き連れて、繁華街の大通りを闊歩していた。
高い衣服に身を包み、となりには金持ちの男を引き連れる。
世の女達からの嫉妬の視線が実に心地よく、見せつけるように彼とイチャつきながら歩く。
「ほんと、幸せすぎて怖いくらいだわ。悪くないわね、異世界ライフも」
にんまりと笑ってユゴスが言う。
「あたしが送り込んだクズどももこういう思いをしていたのかしら」
彼女が言っているのは、ユゴスが日本から異世界へと送り込んだ物たちのことだ。
彼らには二つと無い強力な力を与え、あの星に送り込んでやった。
その後の彼らの顛末は知らない。
興味も無い。
「だってあたしは今最高に幸せだからね!」
ぎゅっ、とユゴスが彼を抱きしめる。
「…………」
「どうしたの?」
彼は一瞬、冷たい目でこちらを見ていた。。
「ううん、なんでもないよ。ほら、行こうか」
彼らが横断歩道を渡ろうとした……そのときだ。
「きゃー!」「危ない! トラックが!」
「…………え?」
ユゴス達のもとへ、暴走したトラックが襲いかかってきた。
「ひっ……!」
ユゴスは顔を引きつらせる。
隣に立つ彼の腕をギュッと掴む。
だが……ドンッ! と誰かに突き飛ばされた。
「え?」
信じられないものを見る目で、ユゴスは自分を突き飛ばした犯人を見た。
それは、金持ちで、イケメンの……自慢の彼氏だった。
彼はグニャリと歪んだ笑みを浮かべていた。
「んなっ! どうし……」
がんっ! と強い衝撃が襲ってくる。
暴走トラックはユゴスと激突する。
彼女はクルクルと宙を舞いながら、ごしゃり! と頭から地面に落ちた。
「いやぁあああああ!」「人が! 人が引かれたぞぉ!」「誰かぁ! 救急車ぁ!」
突然の事故に、周りは蜂の巣を叩いたみたいな騒動となる。
ユゴスは一歩も動けぬ状態のまま、呆然と空を見上がる。
「なん……で? どう……して……?」
「よぉ、ユゴス。久しぶりだなぁ」
トラックから降りてきた人物に、見覚えがあった。
「は、【ハジメ】……?」
それは、かつて自分が利用した、転生者のひとりだった。
「久しぶりじゃねえか、元気そうだなぁおい」
実のところ彼は転生後に、また日本に戻ってきたはずだった。
だが彼は異世界人の姿のままだったこともあって、この世界での居場所を失った。
最愛の母を殺し、銃刀法違反で捕まっていたはず……。
だが、脱獄してきたのだ。
目の前に居る、自分をこんな目に遭わせた相手に、復讐するために……。
「どうして、こんなことするのぉ!?」
「んなの簡単だよ。人生をメチャクチャにしたてめえに、復讐するためだぁ!」
ぞろぞろと、自分の周りに見覚えのある人物達が集まってくる。
全員が、彼女の送り込んだ元転生者たちだ。
「くそっ! おい! 誰かこの不審者達を捕まえろよぉ!」
だが、誰ひとりとしてこちらを見向きもしない。
誰も心配して、駆け寄ってこない。
「なんでよぉ! 無視しないでよぉ!」
「そりゃ無理だぜユゴスさんよ。周りに対してあんだけ幸せアピールしてイキってたんだ。事故って動けなくなったあんたを見て、みんなざまぁ見ろって思ってるぜぇ?」
ハジメの言うとおり、誰もが地に倒れ伏すユゴスを見て、薄ら笑いを浮かべている。
「くそ! おい! 誰かぁ! 誰かぁ!」
するとユゴスの彼氏が近づいてくる。
「早く救急車呼べよ! 何ボサッとしてるんだよ!」
「ばーか。誰が呼ぶかよクソ女」
今まで優しかったはずの彼氏が、一転してくしゃり、と表情を歪ませる。
「無様だなぁおまえ」
「な、なによ……あんた。どうしちゃったのよ……? 急に人が変わったみたいに」
彼氏はくくっと笑って言う。
「変わってねえよ。僕を忘れたのかいユゴス。酷いじゃないか、皇帝の息子、皇子グスオだよ」
「ぐ、グスオ!? あ、あんたも転生していたの!?」
そう、この2人は誰かの手によって、同じく地球に転生していたのである。
その誰か、とは……言うまでも無かった。
「ルルイエ……ルルイエぇえええええええええええええええええええええ!!!」
彼女は理解した。
自分を幸せの絶頂に導き、元転生者に復讐させた。
それは全部、ルルイエのシナリオだったのだ。
「滑稽だったよ、君ってば……ぷっ! その幸せがぜーんぶ偽物だったんだって知らずに、調子に乗っているんだから」
彼の歪んだ表情を見れば、 優子(ユゴス) に愛情を一ミリも抱いていないことは明白だった。
「幸せごっこは楽しかったかい?」
「う、うがぁあああああああああ!」
「ぷすすっ、サルみたい。さ、諸君。散らばりたまえ。そろそろ警察が来る」
元転生者たちはうなずく。
「あ、あたしをこれからどうするの?」
「どうもしないさ。ただ……君にはこの先、生き残ってもらう」
ハジメが邪悪に笑っていう。
「あばよクソ女神。あんたはこれから先ずっと、おれら転生者の影に怯えながら生き続けるんだ」
「僕も君を支え続けてあげるよ。君に偽物の幸せを与え続けてあげる。僕の元を離れるかい? あのときエレンに殺され死んだ異世界人達は、大量にこちらに来ていることを知っているかい……?」
「そ、そんな……まだ……いるの?」
救急車が到着し、隊員が救護カートを押してやってくる。
ユゴスを抱き起こして、そこに寝かせる。
「よぉ、久しぶりだなぁユゴスさんよ」
隊員のひとりが、耳元でそうささやいた。
「あ……ああ……」
「この現代日本において、おまえを堂々と殺すことも法でさばくこともできない。……しかし、われら異世界の民たちは、いつだっておまえを不幸にも幸福にもできる」
「せいぜい、震えているがいいさ。自分の周りにいるやつが、果たして異世界人なのかどうかって怯えながらよ」
この先、自分に良いことがおこったとしても、それは復讐を誓った異世界人であるかもしれない。
この先に起きる不幸は、すべて復讐心を持った転生者のしわざかもしれない。
そうかもしれないし、そうでないかもしれない。
ユゴスに、その判断はできない。
ただ……わかっていることはひとつ。
「あは……あははは! あははははははっ!」
……これより先に待っているのは、心安まることのない生き地獄だということ。
「殺してぇえええ! あたしを殺してよぉおおお! 元の世界に戻してよぉおおおおおおおおおお!」
「そんなことさせないよ。最新鋭の医療を受けさせてあげるからさ♡」
「いやぁあああああああああああ!」
========
ま、死んだとしても、二度と元の世界には戻れないんだけどねー。
次の転生先は虫けらだってさ。
良かったね♡
========