作品タイトル不明
135話 邪神達、主に見放され勇者に縋るがもう遅い
勇者エレンによって、インスマスを初めとした邪神達は撃退された。
数時間後。
エレンが気を失ったことで、邪神達は命からがら逃げ延びていた。
王国内のとある森の中にて。
「おいインスマスのじじい! 話が違うじゃねえか!」
インスマスは仲間達から、叱責を受けていた。
「ふくろうから力をもらえれば、エレンに勝てるんじゃなかったのかよ!?」
「あんだけイキって連れてきたくせに、やつの力も、たいしたことなかったじゃねえか!」
うぐうぅ……とインスマスが歯がみする。
「ま、まだ我らは負けた訳じゃあない! そうだ、もっとだ! もっと強い力を得られれば、必ずエレンに勝てる!」
事実あと一歩のところまではいけたのだ。
「そうね、もっと力があれば……!」
「ふくろう! おいどこにいる! 出てこい! さっさと力を寄越せぇええ!」
だが邪神達が声を荒らげても、あの女性が現れることはなかった。
……代わりに、森の奥から、目を光らせたモンスターが現れたのである。
「なんだぁ……? 【 赤熊(ブラッド・ベア) 】だと?」
「低級モンスターが、われらに何のようだ?」
赤い毛皮の巨大な熊が、邪神達を取り囲む。
そう、ここは彼らのテリトリーだったのだ。
「ぐぅう!」「ぐがう!」「がぉおおお!」
熊たちが邪神に襲いかかってくる。
「ふんっ! バカな畜生どもが。われら邪神の力を思い知れ!」
インスマスを含めた、7名の邪神達が、おのおの力を解放させる……。
だが……。
「なっ!?」「どうなってるの!?」「邪神の力が、でねえだとぉ!」
熊たちが襲いかかり、邪神達の体にかみつく。
「うぎゃああ!」「ひぎぃいい!」
邪神達は困惑した。
自分たちは神であり、こんな低級モンスター程度では傷すらつけられない存在。
「どうなってるのぉおおお!?」
「神格が落ちて、肉体レベルが人間まで成り下がっているんだ!」
さぁ……と邪神達は顔を青くする。
「う、うわぁああああ! に、にげろぉおおおおおおお!」
邪神達は応戦することなく、一目散に逃げていく。
その背後を熊が襲ってくるという恐怖に怯えながら、ひたすらに森の中を追いかけ回された。
ややあって。
「ぜぇ……! はぁ……! く、くそぉ……なんだって、こんな目に会わなくてはならぬのだぁ~……」
インスマスたちは全身から出血しながら、荒い呼吸を繰り返す。
「どうして……こんな目に……」
と、そのときだった。
「それはね、愚かな君たちから力を剥奪したからだよ」
「「「じゃ、邪神ルルイエ!」」」
木の上に優雅に座っていたのは、白髪の美女ルルイエだ。
「邪神って、おまえらほんと失礼だね。こんなに愛嬌のある邪神がこの世に存在すると思うかい?」
ニコッと笑う精霊王。
「「「…………」」」
「笑えよ。……やれやれしゃれの通じない連中だ」
インスマスがルルイエの前に出ていう。
「は、剥奪したというのはどういうことだ!?」
「言葉通りだよ。君たちの持っていた力を全て奪ったんだ。邪神の力も、奇跡の力も、何もかもね。今の君たちは単なる一般人だよ。ユゴスちゃんたちと同様ね」
さぁ……と青ざめた顔になる。
「だ、だがどうした! 失ったのならばまた取り戻せば良い!」
「「「そ、そうか……!」」」
インスマスの言葉に、希望が宿る。
「ふーん、どうやって?」
「ふん! 貴様は知らんだろうがなぁ! われらには協力者がいるのだぁ!」
勝ち誇った笑みの邪神に、ルルイエがそっけなくつぶやく。
「協力者って、こいつのこと?」
ルルイエの隣に、微笑をたたえながら佇立する美女がいた。
「「「ふ、ふくろう!」」」
「……ごきげんよう、邪神の皆さん」
ふくろうがルルイエの隣に立っていることに、戸惑う邪神達。
「ど、どういうことだぁ!?」
「鈍いなぁ。こいつ、僕と 同様勇者(エレン) の 信者(ファン) だから」
「……ええ♡ ルルイエ様とエレン様ラブです♡」
邪神達は愕然とする。
ようするに、ふくろうは精霊王(と勇者)の仲間だったのだ。
「な、ならばなぜ我らに協力したのだふくろうぅううう!」
「……まあ強いて言うなら、余興、でしょうか」
「余興……だと……?」
ええ、と静かにふくろうがうなずく。
「……力を与えられ、調子に乗ったあなたちはエレン様に挑むでしょう。ピンチを迎える勇者、そこから覚醒、からの逆転劇」
にっこり、とふくろうは笑う。
「……こうすることでエレン様の強者感が演出でき、民衆はさらに、勇者エレンを永遠にたたえることでしょう♡」
「ま、君にしてはそこそこいい演出だったんじゃない? エレンと合体できたしね……ぬへへへ♡」
朗らかに笑い合うルルイエとふくろうを前に、邪神達は怒りで震える。
「つ、つまり……我らを利用した、ということか?」
「……そういうことです♡ 踏み台ご苦労様♡」
怒りと屈辱で、邪神達の怒りは最高潮に達していた。
「我らを侮辱ししやがってぇえええええええええええええええ!」
だが高いところに居る精霊王も、ふくろうにも、手が届かない。
何度もぴょんぴょんとジャンプしながら拳を振る。
「あっは、無様だね。まるで木登りできない犬畜生みたいだ」
「くそっ! この! 降りてこい邪悪の化身達が!」
「君がそれ言うなよ。けどいいの? そんなに騒いでると……血に飢えた獣たちが襲ってくるけど?」
ベアたちが血のにおいと、騒ぎを聞きつけて、インスマスたちのもとへとやってきた。
「ぐるぅううう……ぐがぁあああああ!」
「「「ひっ……!」」」
彼らは自分たちの脆弱性を理解した。
今の状態でベアに喰われれば……死んでしまう。
「い、いやぁああああああ!」
邪神達は三々五々散らばって逃げる。
だがベアはひとり、またひとりと邪神にのしかかって、牙を剥く。
「ひぃいいい! たすけ、たすけてくれぇえええええ!」
だがすでにルルイエもふくろうもおらず、インスマスはただ逃げることしかできない。
しばらく夜の森を駆け足で逃げる邪神達。
そこへ……主たるイグが、立ち塞がる。
「「「い、イグさまぁあああああ!」」」
ざしゃっ、と邪神達は助かった……と安堵の笑みを浮かべる。
「た、助けてくださいイグ様!」
「…………」
だがイグは黙って立っているだけだ。
助けようというそぶりを一切見せない。
「愚かで哀れな【元】同胞どもよ」
元、を強調して、イグが言う。
「貴様らはもう邪神ではない。われの配下でもない。消え失せろ」
「「「そ、そんなぁ~……」」」
そこへベアがやってきて、邪神達にのしかかる。
「ぎゃぁああああ…………!!!」
邪神がひとり、またひとりと喰われていく。
「絶対的な強者のはずの邪神の最期が、熊なんぞに食われて死ぬのか。……まことに、惨めなものだ」
「あ、主さまぁ~……たすけ、たすけてくださぃ~……」
泣きわめきながら、元邪神インスマスは、助けをもとめる。
「主の意に背いて、エレンを殺そうとして……申し訳ございませんでしたぁ……これからは、あなた様とともに、エレン様にお仕えいたしますぅ~……だからぁ~……」
イグは冷たい目で、インスマスを見下ろしながら言う。
「もう遅い。熊に喰われて死ね」
牙が首に突き刺さり、激しく血を吹き出す。
「い、いやだ……いやだぁ~……」
どんどんと体から血が抜けていく。
体に力が入らず、生命がこぼれ落ちていくのを感じた。
「た、たすけてぇ~……たすけてください、勇者様ぁ~……」
邪神達は熊に喰われながら、必死になった勇者エレンを呼ぶ。
今の彼らは人間に成り下がっている。
主(イグ) からも、 協力者(ふくろう) からも、 精霊王(ルルイエ) からも見放された。
残る希望は、人民の命を救ってくれる勇者のみ。
しかし、いくら助けをもとめても……エレンは現れてこない。
「ばーか、来るわけないだろエレンが」
死にゆく邪神達を、木の枝から見下ろしているのは、エレン信者の3名だった。
「エレンは善良なる人間の味方なんだよ。君たち、今まで人間をどれだけ殺した? 今更善良な一般人ぶっても命乞いしても、遅いんだよ」
「……さすがルルイエ様、おっしゃるとおりでございます」
「エレン様のことを一番よく理解なさっている。見事ですなルルイエ様」
……その瞬間、邪神達は理解した。
あの 邪悪の権化(ルルイエ) に刃向かったこと自体が、間違いだったのだ。
エレンは関係ない、ルルイエと敵対した時点で、自分たちの負けは確定していたのだ。
「ごめんなさい……もう人は襲いません……エレン様ぁ……どうか、この悪魔どもを倒し、我らをお救いくださいぃ~……」
惨めな声で命乞いをしても、都合良くエレンが現れることはない。
……結局、邪神達は、ただの熊に喰われて死ぬという、なんとも惨めでむごたらしい死に方で、人生の幕を閉じたのだった。