軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

129話 カダス、人間達から報復を受ける

精霊王ルルイエに、圧倒的な力の差を見せつけられた、邪神カダス。

その1ヶ月後。

とある田舎町にある、教会の中にて。

「うう……はぁっ! はぁ……! はぁ……! はぁ……!」

カダスは目を覚まし、荒い呼吸を繰り返す。

「はぁ……! はぁ……夢か……」

脂汗を拭っていると、部屋のドアが開く。

「きみ、大丈夫? うなされていたみたいだけど……」

「ああ……大丈夫だ、シスター。迷惑かけたな」

彼がいるのは、辺境町にある小さな教会。

カダスはルルイエの手によって、この街へと転送された。

「酷い顔よ。嫌な夢でも見ていたの?」

「……ああ。最上級の悪夢だった」

シスターが心配そうに、カダスに近づいてくる。

木製の粗末なベッドだったが、清潔なシーツが引かれている。

彼女はカダスの額の汗を、ハンカチで拭う。

「昔の夢だ……最低の、な」

精霊王に、圧倒的な力を見せつけられ。

信じていた主に、ボロ雑巾のように捨てられた。

心身ともに疲弊していた彼を救ったのは……シスターだった。

彼女は捨てられていたカダスを拾い、献身的な介護を行った。

結果、彼は心を取り戻していた。

「大丈夫よ。もう悪夢は終わったの」

きゅっ、とシスターがカダスを抱きしめる。

じんわりと、彼女のぬくもりが、ささくれだった彼の心を癒す。

「……これが、人間のぬくもり、か」

「んー? どうしたの?」

「いや……なんでもない」

カダスは起き上がり、シスターとともに、部屋を出る。

「おにーちゃーん!」

たたっ! と小さな子供たちが、カダスに抱きついてきた。

彼らは教会が保護している孤児たちだ。

「おにーちゃんあそべー!」「あそんでよー!」

「…………」

カダスは子供達の純粋無垢な笑みと、邪気のない暖かな魂の波長に、心癒される。

シスターと、そして孤児達との日々が、今のカダスの心の支えだった。

「こら、この人は今からご飯なんだから、あそぶのはあとねー」

「「「はーい……」」」

残念そうに孤児達が離れていく。

「あいつらの……親はどこにいるんだ?」

シスターは悲しそうな顔で言う。

「いないわ。3年前の暮れにね……村を焼かれたの。大人達は大半が死んだわ」

彼女は暗い表情で言う。

「……私の両親も、そのときに【殺された】わ」

「……誰だか知らないが、ひでえことしやがる」

知らず、カダスの拳に、力が入る。

彼は怒っていた。

心から、この優しい少女や孤児達の両親を殺した【誰か】に……憤っていた。

「約束する。罪のない村人を殺しやがった、そのクソ野郎を見つけたら、必ずおれがぶっ殺してやる」

「あなたにできるの、そんなこと……?」

にかっ、とカダスは笑う。

「ああ。任せな。こう見えて腕っ節は強いんだぜ! ……だからもう、そんな悲しい顔をするな」

カダスはシスターの涙を、指で拭う。

「……ありがとう、名も知らぬ、優しい人」

ふふっ、と笑って、シスターがカダスに抱きつく。

……ああ、と彼は思う。

「人間って……良いものだったんだな」

今まで散々見下し、殺し尽くしてきた人間達。

カダスが知らなかった。

彼らの優しさを、ぬくもりを。

邪神の力を奪われ、初めて彼は知ったのだ。

……だが、遅すぎたのだ。

朝食を終えた後、シスターは言う。

「今日は【隣村の子ども】たちが、月に一度、この教会にミサにやってくるの」

「へぇ。じゃあおれもその手伝いをするよ」

「うん、お願いね」

カダスはシスターとともに、礼拝堂へと向かう。

少し勇気を出して、シスターの手を握る。

すると彼女は少し目を丸くするが、微笑んで、手を握り返した。

「おれ……人間になれて良かったよ」

「なーにそれ、まるで前は人間じゃなかったみたいな口ぶりじゃない」

苦笑しながら、シスターが礼拝堂の扉を開く。

その先には、隣村の子供達がいる……。

そして……。

「じゃ、邪神だぁああああああああ!」

「え……?」

村人のひとりが、カダスを指さして叫ぶ。

「ほ、ほんとうだ! 邪神カダスだ!」

「えれんさまが倒したはずなのに、生きてやがったんだー!」

……そう。

そこにいたのは、前々回、カダスが襲った村の人たちだった。

子供達はエレンの活躍とともに、1月前、襲ってきた邪神の顔をハッキリと覚えていた。

力をなくし、邪神でなくなったことなど……村人達は知らない。

「邪神……カダス……」

シスターが暗い表情でつぶやく。

「ち、ちが……ちがうんだ……これは……」

だが、彼女は憤怒の表情を浮かべると、思い切りカダスの顔を殴り飛ばす。

「ふげっ……!」

がたんっ! と激しい音を立てて、カダスが礼拝堂の椅子に突っ込む。

「な、なにするんだよ……?」

「黙りなさい! 邪神カダス!」

シスターの目に宿っていたのは、明確な憎悪の炎だった。

「おまえが3年前に焼いた、村の娘よ! よもや、忘れたとは言わせないわッ……!」

……忘れていた。

邪神(カダス) は、完全に失念していた。

3年前、自分が彼女たちの両親を殺し、村を焼いた張本人だったことを。

それは当然だ。

なぜなら当時のカダスは、人間なんぞ毛ほども興味がなかったからだ。

……それに、当時はそれこそを虫を潰すかのように、大量に人間を殺してきた。

殺した人間の顔など、いちいち覚えていなかったのだ。

ちなみにシスターはカダスを、この一ヶ月間邪神と認識できていなかったのは……無論、精霊王の手引きによる。

ルルイエは認識阻害のスキルを使っていたのだった。

「おかあさんとおとうさんのかたきだ!」

シスターは教会に飾ってあった燭台を手に、カダスに殴りかかる。

「や、やめ……やめてくれ……! おれは……もう邪神じゃないんだ!」

「黙れ! おまえがわたしから幸せを奪ったことは事実だろうがッ……!」

涙を流しながら殴られる。

……ついさっきまで、愛し愛され合ったなかだというのに。

自分に、優しくしてくれていたというのに……。

「エレン様の敵はわれわれの敵! 皆のもの! この邪神を倒すのだ!」

「「「おう!」」」

子供達の付き添いでやってきた村人達が、カダスを囲んで、ボコボコに殴る。

「や、やめ……やめてくれ! 悪かった! 反省してる!」

「もう遅いんだよ! あんたがいくら反省したところで、大事な人たちは帰ってこないんだ……!」

……彼らの言葉が、今になってカダスの心をかき乱す。

邪神時代、尊敬すべき主はいても、大事な人はいなかった。

だがシスターに拾われ、教会の子供達と暮らすうちに、大切な物たちができた。

それらを理不尽に奪ったときの悲しみを……今のカダスは、理解できた。

……奇しくも、人間になったことで、カダスはようやく人間の感情を理解できたのである。

「ごめん……なさい……ごめんなさい……」

ボロボロと涙を流しながら、カダスは後悔する。

「理不尽に人間達を殺してごめんなさい……何も考えず大切な人たちを殺してごめんなさい……」

だがシスターも、村人達も絶対に許さない。

しばらくカダスは、彼らに殴られ続けた。

……そして。

気づけばカダスは、磔にされていた。

教会の外で、バチバチと火にあぶられていたのだ。

「地獄に落ちろ! この悪鬼め!」

「この屑! 人でなし!」

自分が大事に思っていたシスターや孤児達から、罵倒の言葉を投げかけられる。

邪神のときだったなら、これらの言葉に、心を痛めることはなかった。

……だが、人間となって、初めて彼らの怒りと悲しみを理解した。

「あ……あぁ……あぁああああああああああああああああああああああ!!!!」

火で体をあぶられる痛みよりも、大切な人たちの大切な人たちを奪ってしまった後悔。

そしてなにより、自分の心の支えであった人間達から、凄まじいまでの憎しみを向けられていることに対する……罪悪感。

「シスター! 許してくれ……! みんな! 許してくれぇえええええええ!」

……だが、いくら謝っても彼らがカダスを許すことはない。

「さっさとくだばれ邪神! おまえが死んだ後もずっとずっと呪い続けてやる!」

体が火にあぶられ、灰になっていく。

自分の心を癒し、人間の素晴らしさを教えてもらった彼女から……忌み嫌われ、呪われながら……最期を迎えようとしている。

「……なんでぇ? どうして、こんな目に合わなきゃ、いけないんだよぉ~……」

『それはね、ぜーんぶ自業自得だよ』

精霊王の声が、どこからか聞こえる。

『君が最初から、人間達の命を大切にしていれば、こうして誰からも恨まれることなく、幸せな最期を迎えることができたんだよ』

くすくす、とルルイエが嘲笑する。

『バイバイ、愚かなるカダスくん。ほら最期は大好きなシスターを見て死になよ。もっとも、彼女は君のこと蛇蝎のごとく嫌っているけれどね、今』

最期の一瞬まで、愛した人たちから恨まれ続け……カダスはその短い短い【人生】に幕を閉じたのだった。