軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

外伝 第二十九話 喪失への恐怖

フィーンがひん曲がった盾を取り換えつつ、魔竜ゲイブリグスの攻撃を凌ぐ。

あたしは、注意がフィーンに向いていたので、隙を突いて、魔竜ゲイブリグスの後方に回り込むと、鱗を割るため刺突を繰り出す。

「クッ! 反則でしょ!」

こちらに気付いた魔竜ゲイブリグスの尻尾が動き、刺突を繰り出そうとしたあたしごと地面を薙ぎ払っていった。

「カハッ!」

地面を数度転がると、岩肌に背中を打ち付けて停まる。

「アルフィーネっ!」

「だ、大丈夫だからっ!」

フィーンには大丈夫って言ったけど、あんな攻撃は何発も耐えられない。

身体が引きちぎれそうなほど痛むんだけど。

本当に一瞬の隙を突くことでしか、あいつには近づけないか。

痛む身体を無理やりに起き上がらせ、剣を構える。

攻撃したことで、魔竜ゲイブリグスの意識はこちらにも向けられるようになった。

「ウボォオオっ!」

怒りを露わにした魔竜ゲイブリグスの身体から、熱気を帯びた陽炎が立ち昇る。

周囲の温度はすぐに肌がひりつくほど高くなった。

魔竜ゲイブリグスの喉元が赤熱してる!?

まさか!?

「フィーン、避けなさい!」

嫌な予感がして、フィーンに回避するよう声をかけた。

「ウボォオオオオオオっ!」

咆哮とともに口を大きく開けた魔竜ゲイブリグスが可燃性の分泌液と火種を吐き出した。

「うわっ!?」

出ないはずの炎の息が復活してる!

さっきの喉元の赤熱が関係してるのかも!

炎の息をかわしそこねたフィーンが、盾で受け止めると、すぐに原型を失って溶けた。

「フィーン! ぼうっとしないで動きなさい! 炎の息が復活した以上、止まったらやられる!」

「あ、ああっ!」

「次に喰らったら承知しないからねっ!」

「ああ、分かってる!」

フィーンは溶けた盾を投げ捨て、魔竜ゲイブリグスの攻撃から身をかわすことに専念した。

くそ、計算外だわ。

炎の息が復活するなんて……。

早いところ仕留めないと、こっちがやられる!

再び、魔竜ゲイブリグスが大きく口を開くのが見えた。

炎の息は吐き出させないっ!

炎の息を止めるため、斬り込もうとした瞬間、あたしの視界の外から急に尻尾が現れ、身体に激痛が走った。

「あぁっ!」

「ア、アルフィーネ! クソ、前に出る! 俺が前に出る!」

尻尾の攻撃を受け、痛みで霞む視界の先には、剣を構えて魔竜ゲイブリグスと対峙するフィーンの姿がかすかに見えた。

フィーン、そんな攻撃じゃ、ゲイブリグスの餌になっちゃうよ。

こ、こんなことになるなら、魔竜ゲイブリグスの討伐なんて受けるんじゃなかった!

お金が稼げても、フィーンが死んじゃったら何の意味もない!

あたしはやっぱり馬鹿だ!

二度目の攻撃を受け、身体は悲鳴をあげ続け、剣を杖代わりになんとか立ち上がる。

目の前では前衛のフィーンが魔竜ゲイブリグス注意を集めるため、剣を振り回していたが、固い鱗に阻まれ、効果は全く出ていない。

こんなところでフィーンを失うわけにはいない。

フィーンが魔竜の餌になる場面が思い浮かび、背中がゾワゾワするのが止まらない。

不安から心臓がギュッと掴まれる感覚が身体を支配した。

大丈夫、息を整えて。

落ち着けあたし。

次の一撃で絶対に仕留めるんだ!

「アルフィーネ! まだか! そろそろ、厳しいんだがっ!」

魔竜ゲイブリグスから、剣を振るうフィーンへの攻撃が厳しさを増していく。

「フィーン、しっかりして! あんたが崩れたら勝てるものも勝てないんだから!」

待っててフィーン、今、勝てる剣筋を見てるからっ!

もうちょっとで見えるからっ!

絶対に死なせはしないから!

脳裏にいくつも見える魔竜ゲイブリグスの行動予測から、最善の一撃を加えられるものを必死で選び出す。

「そんなこと言われても、もうげんか――」

その間もフィーンは魔竜ゲイブリグスの攻撃にさらされ続け、その身体に傷がドンドンと増えた。

フィーン、あたしが攻撃に集中できるよう、囮に専念してくれればいつも通り勝てるから!

もう少し、もう少しで見えるからっ!

魔竜ゲイブリグスの鉤爪が、フィーンの鎧の肩口を引き裂いた。

絶対に、絶対に死なせないから!

集中する度合いが深まると、世界の時間の進みが一気に遅くなる。

そして、剣筋の予測は通常の何十倍の量が脳裏に浮かび上がってきた。

その中で、たった一つ、魔竜ゲイブリグスを仕留められる攻撃が見えた。

これだっ! これならいける!

あたしは痛む身体に鞭を打ち、もう一振りの剣を引き抜くと、一気に駆け出す。

「待たせたわね! フィーン!」

「アルフィーネ!?」

フィーンの肩を足場に空中に飛び上がる。

「次で仕留めてくる!」

「ば、馬鹿! そんなの無理!」

「あたしを誰だと思ってるの! 剣ってのは、こういうふうにも使えるのよっ!」

飛び上がって目の前にあった魔竜ゲイブリグスの鼻先に予備の剣を思いっきりつき込む。

剣は鼻先の鱗のない部分を貫通して、突き立った。

これで、足場ができた!

足場さえあれば、あとは鱗割りの要領で――。

突き立てた剣の上に立つと、魔竜ゲイブリグスの頭部に向けて、全力の刺突を連続で突き込んでいく。

十、二十、三十、まだ割れないもっと早く、もっともっと突き込まないと!

「はぁああああああああっ!」

さらに刺突の速度を増し、鱗に傷を与えていく。

百を超えたところで鱗が割れ、皮膚の中の骨が剥き出しになった。

「これでとどめっ!」

渾身の力を込めて、剣を振り下ろすと、魔竜ゲイブリグスの頭蓋骨は砕け散り、脳髄が周囲に飛び散った。

「グァアアアア!」

生命活動を止めた魔竜ゲイブリグスがゆっくりと膝から地面に崩れ落ちる。

「ふぅ、何とか倒せたわね。さすが、魔竜と言われてるだけあって皮膚も固くて面倒だったわね。せっかく、新調した剣もボロボロだし、あーあ、また買い直しだ」

フィーンも無事みたいだし、本当によかった……。

本当によかった。

もう、こんな無茶な討伐はやらないし、やらせない。

白金等級に上がったら、簡単で稼げる依頼しか受けないでいいや。

難しい討伐依頼は、あたしよりも剣の腕が劣るフィーンを失いかねないし。

自分の目論見の甘さから彼を失いかけた恐怖が脳裏にこびりついた。

「はぁ~、さすがにちょっと疲れたかも」

限界まで酷使した身体は、立っているのも辛いと悲鳴をあげているものの、フィーンに心配させるわけにはいかないため、わざとらしく疲れた素振りを見せて木にもたれかかって座る。

身体は地面に座り込んだ瞬間、根が生えたように動くことを拒否してきた。

「フィーン、後の処理をよろしくね」

「分かった。まぁ、とりあえず、お疲れ」

フィーンに後を任せたあたしは、その場で体力を使い果たし、意識を失って眠り込むことになった。