軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

外伝 第三十話 迷いと甘言

魔竜ゲイブリグスの討伐を成功したことで、あたしたちの生活は激変した。

ラドクリフ家の嫡男ジャイルは、あたしたちが討伐した魔竜ゲイブリグスの角をフレデリック王へ献上し、新たにインバハネスに領地を授けられることになったそうだ。

そして、討伐者となったあたしたちはフレデリック王から直接の褒詞を授かり、ラドクリフ家の口添えもあり、王都の冒険者ギルドで最年少の白金等級冒険者に任命された。

普通なら実績を十分に積み、昇格査定にも半年以上はかかると言われてた白金等級への昇格が、たったの二週間で決定され、徽章授与の式典が王都の広場で行われ、あたしたちは冒険者の頂点に登りつめていた。

あたしたちは、定宿を王都の最高級宿に変更し、魔竜ゲイブリグス討伐で負った傷やその後の手続き等で疲れた身体を癒している。

「アルフィーネ、それで新しい依頼だけど――」

「しばらく休養。ラドクリフ家は結局ケチったけど、それでもかなりの依頼達成料を支払ってくれたし、まだ休みたい」

魔竜ゲイブリグスの討伐でかなりの無茶をして、フィーンを失いかけた恐怖から、白金等級の依頼を受けるのを躊躇する自分がいた。

もしかしたら、魔竜ゲイブリグスの討伐以上に難しい依頼を持ち込まれるかもしれないし。

そうなった時、今の自分の腕でフィーンを守れる自信がない。

自分の剣の腕だけでは、倒し切れない敵が出てくるかもと自覚したことで、不安と苛立ちが心の底から湧き上がる。

いつの間にか爪を噛む癖が再発するようになっていた。

「アルフィーネ、また爪を噛んでるって! それ、やめなってずっと言ってるよね?」

あたしが爪を噛むと、すぐにフィーンが止めさせてくる。

あたしが自分の爪を噛むときは、強い苛立ちを感じてるって分ってるからだ。

「分かってるって! ほら、やめたでしょ! しばらく休養するから、そのつもりでよろしく!」

「白金等級冒険者だから、冒険者ギルドも多少はわがままを認めてくれるけど――。ずっと依頼を受けないわけにもいかないんだよ」

「分かってるって言ったじゃん! 今日はお休み!」

あたしはベッドに潜り込むと頭から布団を被り、これ以上フィーンの話は聞かないと意思表示した。

できれば、危険な依頼を受けずに安全な場所で、それなりのお金がもらえるようになりたい。

危険な依頼をいくつもこなし、お金持ちになってもフィーンがいないんじゃあ、何の意味もない。

なにか白金等級冒険者の地位を利用して、他にできる安全な仕事ないかな。

フィーンはしばらく何か言っていたが、あたしが頑固なことを知っているため、諦めて部屋の外に出ていった。

休養期間は一か月ほどになり、さすがに依頼を受けなければ、冒険者ギルドからもチクチクと小言を言われるようになった。

仕方なく、依頼料は低くてもできるだけ安全なことが確実視される依頼をこなす日々が続いている。

「ふぅ、今日もこれで終わりっと」

「フィーン、この後鍛錬するから付き合いなさいよ!」

「ああ、分かってるって」

依頼を達成し、報酬の換金を終えて戻ってきたフィーンを連れ、外に出るとすぐに宿に帰り、中庭で剣の鍛錬を行う。

少しでもフィーンの腕が上がれば、あたしが援護しなくても戦えるようになるはず。

もっと、フィーンを鍛えないと。

白金等級の依頼を受けるたび、失敗してフィーンの命が失われるのではという不安が付きまとい、最近はずっと苛立ちから爪を噛む癖を直せないでいる。

そして、フィーンへの剣術の鍛錬も激しさを増していた。

「ま、まいった! アルフィーネ、そろそろ限界だって!」

「ダメ、それじゃあ、いつまで経ってもフィーンが強くなれないもん! ほら、まだ終わってないから立って!」

いつの間にか、剣の腕が上がらないフィーンに対しても苛立ちを感じ始めている。

こんなにあたしが一生懸命にやってるのに、相変わらずフィーンの危機感は薄いままだし。

肩で息をして剣を杖にして地面に座り込んでいるフィーンを無理やりに立ち上がらせる。

「ほら、剣を構えて!」

「アルフィーネ、もう、無理だって、身体が動かないんだよ……」

フィーンはそれだけ言うと、意識を失って仰向けに地面に倒れ込んだ。

「ご、ごめんフィーン! だ、大丈夫! だ、誰か! 誰か来て!」

疲労で意識を失って倒れたフィーンを介抱していると、背後から声がかかった。

「アルフィーネ殿、剣の鍛錬に精が出ておりますなぁ。相棒のフィーン殿もお疲れのようだ。おい、フィーン殿を宿の部屋にお連れしてやれ」

声の主はジャイルだった。

御付きの騎士たちが、気を失ったフィーンを抱える上げると、宿に向かって歩き出した。

その場に残ったあたしに、ジャイルが距離を詰めてきた。

「お久しぶりですなぁ。アルフィーネ殿」

「その説はお世話になりました。何か、あたしに御用でしょうか? 討伐依頼なら、フィーンを通してください」

あたしの手を取って貴族の挨拶をしようとしたジャイルに対し、半歩下がって手を取られないようにした。

こいつに関わるとろくなことにならない。

また、自分の領地を増やすため無茶な討伐を依頼してくるつもりだろうか?

「そのような些末なことを頼みに来たのではありませんよ。以前も申し上げたが、わたしはこのハートフォード王国に新たな時代が到来したことを認めさせたい。そのために貴方のお力をお借りしたいのですよ。アルフィーネ殿」

にこやかな笑みを浮かべたジャイルは、魔竜ゲイブリグスの討伐前にしていた話をふたたびあたしの前でした。

正直、あたしには関係ない話だし、関わり合いにはなりたくないのでお断りしたい。

今はできるだけ依頼を受けず、安全に生活を安定させられる仕事を探すのが先決だしね。

貴族のボンボンの酔狂な遊びに付き合ってる暇はない。

「すみませんが、あたしは今色々な依頼を受けてて忙しくて――」

ジャイルはこちらの返答を無視するように口を開いた。

「実はアルフィーネ殿を第三代の『剣聖』に推挙しようと考えております。剣の腕はたしかであり、王都の領民がずっとその存在を忌避していた『魔竜ゲイブリグス』を、王都の民のために成し遂げた人格者でもある。これは前の二代の『剣聖』殿に引けを取らぬとわたしは思っておりますぞ」

ジャイルは何やら浮かれた様子で、あたしを『剣聖』に推挙したいと申し出ていた。

だいぶ頭がヤバいのかもしれない。

あたしが『剣聖』になれるわけないじゃん。

剣の腕が魔竜ゲイブリグスに通じるのか試したかっただけだし、あとお金が欲しかっただけだ。

他の『剣聖』と並び称されるほどのことはしてない。

大人たちがこぞって英雄と持て囃す辺境伯ロイド様ですら、固辞したというのに、あたしが叙任されるわけがない。

「ご冗談を、先ほども申しましたがあたしは忙しいのでこれにて――」

きびすを返そうとしたあたしへ、ジャイルはなおも口を閉じることなく、自らの考えを話していく。

「冗談など、わたしは申しませんよ。ラドクリフ家の力を使えば不可能はない。そして、新たな『剣聖』殿には貴族入りをしてもらい近衛騎士団の剣術指南役をしてもらおうとも思っております」

貴族入りと剣術指南役……って、言ったわよね……。

それってもしかして――

ジャイルの言葉できびすを返そうとした足が止まった。