作品タイトル不明
外伝 第十六話 旅立ち
「これは、少ないが当座の生活資金だ。持っていきなさい。それとこっちは道中の食糧。あと向こうに行ったら、孤児院の先輩冒険者たちをちゃんと頼るように」
「ダントン院長先生、心遣いありがとうございます。ほら、アルフィーネもお礼を言わないと」
孤児院を卒業となり、王都で冒険者になるため、村を出る日をあたしたちは迎えた。
大襲来直後に生まれた同じ年代の卒業生たちは人数的に少なく、皆が村で仕事を見つけて新生活を始めているため、王都で冒険者を目指すのはあたしとフィーンの二人だけだった。
「分かってるって。ダントン院長先生、今までお世話になりました。心遣い感謝します」
フィーリア先生が不意に挨拶をしていたあたしを抱き締めてくる。
「アルフィーネ、私たちの手伝いとしてフィーン君と孤児院に残ってくれない?やはり、貴方を外に出すのは心配でしょうがないわ」
これまでに何度も繰り返したフィーリア先生とのやり取りが、最後の最後でも繰り返される。
「あたしは、剣で身を立てたいと思ってます。フィーリア先生の心配は重々承知してますけど、フィーンもいるし、あたしも成人した大人なのできっと何とかなります」
「大人……。じゃあ、フィーン君なしで一人で夜寝られるようになった?」
「う!」
「ご飯は一人で作れる?」
「うう!?」
「全然知らない人にちゃんと自分で挨拶できるの?」
「うううう!?」
全部できない……。
けど、村ではお金をいっぱい稼げないし、せっかくの剣の腕を持て余してしまう。
冒険者であれば、自分の剣の腕一つあれば、十分にお金は稼げるはず。
そうすれば、フィーンと一緒に暮らすお金も用意できるし、孤児院だってもう少し綺麗な建物にできたりもする。
あたしは自分の中に描いた夢を実現させるため、どうしても王都で冒険者になりたかった。
「全部まだできないけど、頑張ってみます。どうしても、ダメだったら孤児院に帰ってきて、フィーリア先生たちのお手伝いをするということで許してもらえませんか?」
心配そうにあたしを抱き締めてくれたフィーリア先生に、自分が納得する妥協点を伝えた。
フィーリア先生とダントン院長はみんなに平等に接してくれているけど、その中でもあたしとフィーンには特に目をかけてくれていて、将来的に養子として孤児院を継ぐ話もされた。
でも、あたしは冒険者になりたい一心から二人の申し出を断っていたのだ。
フィーリア先生は心配でたまらないといった瞳であたしを見つめる。
しばらくの無言の時間がすぎると、ふぅとため息を吐いてあたしから離れた。
「本当にダメだったら帰ってきてくれるのね?」
「はい!」
「一〇年で白金等級。ここに至らなければ、帰ってお手伝いでどう?」
「はい! 分かりました!」
あたしはフィーリア先生の申し出に元気よく答えた。
「え? え? アルフィーネ、ちょっと待って! 一〇年で白金等級!? フィーリア先生、白金等級が冒険者の最高峰の等級だって知らないわけないですよね?」
あたしの返事を聞いたフィーンが困惑した顔を浮かべる。
「ええ、知ってるわよ。大襲来でベテラン白金等級冒険者が多数亡くなり、その補充の意味を込めて査定を甘くしても、一〇年で白金等級まで到達できるのは、ごく一部らしいって話は聞いてるわね」
…………しまった! 謀られた!
剣に自信はあるけど、冒険者の依頼は色々とあるし、一〇年で白金等級まで上れるかな……。
「アルフィーネ、無理だと思ったらいつでも帰ってきていいからね。最長一〇年は社会勉強をしてきていいわ。帰ってきたら二五歳、ちょっと所帯を持つには遅いかもしれないけど、相手はいるし大丈夫ね」
「あと一〇年か、わたしも二人が帰ってくるまで頑張らないとな」
ダントン院長先生もニコニコと笑いながら、こちらを見て頷いた。
「だ、大丈夫です! 白金等級になってみせますし! フィーン、頑張ろうねっ!」
「え! ええっ! が、頑張るけど、白金等級かぁー」
フィーンは、うろたえた姿を見せるが、フィーリア先生も一〇年間の修行は認めてくれたようだし、あとは自分たちが頑張るしかない。
「ダントン院長先生、フィーリア先生! 行ってきます! フィーン行くよ!」
「あ、ああ、行ってきます!」
あたしは、うろたえ困惑した顔を浮かべているフィーンの手を引き、村の出入り口となっている山をくり抜いたトンネルに向かうことにした。
トンネルで警備についてる村の人に別れの挨拶をすませ、ダントン院長先生からもらったランタンを灯し、暗いトンネルの中をフィーンと二人で進む。
やっぱり、暗いところは怖いや……。
冒険者になると、遺跡や洞窟での依頼もあるって話だけど、できれば明るい日中の依頼とかがいいな。
暗い世界は無駄に怖い想像力が働いて、心臓がドキドキするから子供の時から好きじゃない。
明かり持って隣を一緒に歩くフィーンの手をギュッと握りしめる。
「アルフィーネ、大丈夫か? 今なら、まだ引き返せるけど」
さすがのフィーンも、王都での冒険者生活に一抹の不安を感じているようで、ランタンに照らされる顔には不安な表情が浮かでいた。
「だ、大丈夫。ほら、ランタンの明かりもあるし! はやく、王都まで行こう!」
「ちょっと、危ないから走らない方がいいって!」
握っていたフィーンの手を引っ張り、駆け足くらいの速さで暗いトンネルを抜け、リスバーン村をあとにし、冒険者としての生活を始めるため一路王都へ向かうことにした。