作品タイトル不明
外伝 第十三話 熊退治
「うぅ、寒い。やっぱ、まだ野宿には早かったよね」
まだ、くすぶっている焚火に枯草を入れ、弱まった火勢を強めると、冷えた身体を温めていく。
日は昇り始めたものの、気温はまだ上がってきてない。
今日も天気はよさそうだし、喧嘩しちゃったフィーンに謝罪用のお菓子つくるためのベリー集めしないと。
あんまり外で野宿してると、フィーンも先生たちも心配しちゃうだろうし、できれば今日中に集めて帰ろうっと。
でも、ベリーってこの時期だと麓のは村の人が採取しちゃってて、山の奥の方しか残ってないんだよねぇ。
チラリと奥に続く雪の残ったままの獣道を見た。
ベリー採ってくるだけだし、日が落ちる前に麓まで降りれれば問題ないよね。
焚火の熱で冷えていた身体も温まったし、そろそろ出発しよう。
あたしは土をかけて焚火の火をしっかり消すと、もう少しだけ山の奥に進むことにした。
雪の残る獣道をしばらく進むと、お目当てのだったベリーの群生地が見えた。
すぐに近寄って、一房ちぎると味見を兼ねて口に放り込む。
うん、ちょっと、酸っぱいかもしれないけど。甘みはちゃんとある。
このベリーをふんだんに使ったベリーパイにしたら、甘酸っぱいお菓子になりそう。
味の想像をしただけで、お腹がキュウと音を立てる。
味見は大事だし、もう一房くらいいいよね。
味見という言い訳をして、空腹を訴える身体に栄養を取り込んだ。
うんうん、美味しい。十分に熟してる。
味見を終えたあたしは、近くの草を引き抜くとベリーを入れておくカバンを編み始める。
これも孤児院の卒業生である冒険者の人に教えてもらったことだ。
冒険者を目指すためには、周囲にあるものをなんでも利用していけるようになった方が良いって言われて覚えた技術だった。
丁寧に編み込んでできた草のカバンへ採取したベリーを入れていく。
採りに来る者のいない山奥に生えていたベリーは大量で、すぐに草のカバンは満杯になった。
「よし、これだけあれば――」
カバン満杯になり、帰ろとした瞬間、背後の草むらが揺れて音を立てた。
生き物の気配がする!?
すぐに腰の木剣を握ると、息を潜めて相手の気配を探っていく。
人間ってわけじゃなさそう……動物だけど、すごい敵意を感じる。
けど、一つの気配しかしない。
肉食獣? 魔物? どっちだろうか。
群れからはぐれた狼くらいなら撃退できそうだけど……。
「ヴォォオオ!!」
揺れる草むらから立ち上がったのは、灰色の毛皮を持つ巨大な体躯をした熊だった。
く、熊!? 嘘、冬眠明けの熊!? こんな場所で出くわすなんて嘘でしょ!
辛うじて悲鳴を上げなかった自分を褒めてあげたいところだ。
自分の倍近い体長をしている巨大熊の登場に、木剣を持つ手が震える。
けれど、頭の中では次の熊の動きを猛烈に予測していた。
く、来る! まずは、避ける!
あの爪に当たったら、あたしは絶対に動けなくなる。そうなったら、終わりだ。
あたしを倒すべき敵と認識した巨大熊のデカい手が、空気を切り裂いてこちらに振り下ろされる。
その手の攻撃範囲から逃れるよう、屈んだまま相手の懐に走り込む。
ここなら、そうそう簡単にあたしを攻撃できないはずだ。
そして、あたしが攻撃できる範囲でもある。
木剣を握り直すと、熊のみぞおち部分を狙って刺突を連続して繰り出した。
「ヴォォオオ!!」
「嘘! 効いてない!?」
あたしが繰り出した木剣の刺突は、巨大熊の厚い毛皮と脂肪によって威力を発揮せず、悪戯に相手の怒りを買っただけであった。
怒りによって猛り狂った熊は爪で攻撃しようとせず、体当たりを狙って駆けてきた。
それは見切ってる! みぞおちがダメなら、頭をねらうっ!
熊の体当たりを身を翻してかわし、がら空きの脳天に木剣を叩き込む。
頭蓋骨の固い感触が木剣を通じて伝わってきた。
さすがにこれなら! って、まだ動いてる!?
脳天を叩かれた熊は痛みで狂乱し、鋭い爪のついた手をめちゃくちゃに振り回してくる。
不規則すぎて、読み切れない動き!
明確な敵意なき攻撃は、予測の想像が乱れ、身体の反応が遅くなった。
「嘘っ! 避けられない!」
不規則に振り回された手が身近に迫るが、かわすにはあまりにも余裕がない速度で近づいてくる。
少しでも攻撃の威力を下げるには――
迫る熊の手を木剣で受け止め、勢いを逸らすため受け流す。
受け流しは成功すように見えたけれど、木剣の強度が足りず半分のところで折れた。
「折れた……。けど、身体への攻撃は避けられたみたい」
致命傷こそ避けられたが、ずっと愛用してきた木剣が半分に折れたことで、熊から逃れられるのか不安が増す。
「ヴォォオオ!!」
脳天を叩かれ痛みで狂乱していた熊は、痛みが引いて冷静さを取り戻したようで、明確な敵意をこちらに向け吠えている。
相手の動きの想像が見える! 飛び込んで組み伏せ噛みつこうとする熊の口に突き立てるしかない!
「そこっ!」
一瞬で相手の動きを予測し、飛びかかってきた熊が大きく開けた口内に狙いを定め、折れた木剣を全力で突き入れる。
折れてささくれ立っていた木剣の先が、熊の飛びかかってきた勢いも借り、柔らかい口内を引き裂き、頭蓋骨を貫通した。
ボタボタと赤い血が、木剣を伝わり地面に落ちていく。
血が流れるたび、木剣で口内を貫かれた熊はビクン、ビクンと身体を震わせる。
やがて大きく身体を震わせると、自重を支えていた力が消えた。
おっもいっ! このままじゃ、あたしごと地面に押し倒される。
折れた木剣を口内から引き抜くと、熊に覆いかぶさられないよう後ろに避けた。
「ふぅふぅ、なんとかなった。まさか、冬眠明けの熊が出るなんて……。予想外だった」
ギリギリの戦いを制し、膝に手をあてて呼吸を整えていたら、背後から声がかけられた。
「ア、アルフィーネ! だ、大丈夫なのか! 血だらけじゃないか! く、熊!?」
振り向くとそこにはフィーンの姿があった。
とっさに考えていた謝罪の言葉を口にしようとしたが、謝罪用のお菓子が準備できてないため、口から出すことができない。
「問題ないよ。あたしが熊に後れを取るわけない。それより、何か用?」
きっと心配して探しに来てくれたんだと思うけど、つれない態度をとっちゃった。
あぁ、美味しいお菓子できてからがよかったのに……。
フィーンが探しに来てくれた安堵と、謝罪の機会を失ったことで自分がどうするべきか迷いが生まれた。
「うん、用事がある。あのさ、昨日のことごめん。僕がもっとちゃんとアルフィーネの話を聞いてればよかったんだよね。喧嘩になった原因は僕だったんだしさ。これからはもっとアルフィーネの話を聞くよ。それで許してくれる?」
どうするべきか迷っていたあたしに、フィーンが頭を下げて謝罪をしてくれていた。
自分で考え出した解決する方法が失われたことで迷っていたあたしは、彼が示してくれた歩み寄りに安堵する。
「フィーンがそう言うなら許してあげる。でも、今後はちゃんと事前に言ってね」
「ああ、そうするよ。先生たちも心配してたし、孤児院に戻ろう」
フィーンとの関係が壊れず、元に戻ることになって安堵感が全身を包む。
やっぱりフィーンは、あたしのそばにずっといてくれる。
「うん、戻ろう。ベリーいっぱい採ったから、フィーンにお菓子作るね」
「え? お菓子? あ、うん。楽しみしとくよ。それよりも、この熊どうする?」
地面に倒れ込んだ巨大な熊の死骸か。
これだけ大きいとみんなで食べても余るくらいだし、院長先生たちも喜んでくれるかも。
外で野宿したことできっと怒ってるから、お土産くらいあった方がいいよね。
「持って帰りたいかな。フィーン、手伝ってくれる?」
「この大きい熊を持って帰るの!? ま、まぁ、頑張るよ」
それから、フィーンと二人で仕留めた巨大熊を引きずりながら山を下り、途中で院長先生たちとも合流し、めちゃくちゃに怒られたけど、最終的には無傷であったため、奉仕作業倍増一か月で許してもらえることで話がついた。
持ち帰った熊はみんなで解体して、綺麗に剥いだ毛皮や熊の肝を売って孤児院の運営資金にしてもらった。
ただ一つ不満だったのは、フィーンのために作ったベリーパイが美味しくならなかったことだけだ。
フィーリア先生のレシピ通り作ってみたけど、甘くなくてエグみと酸っぱさだけが極まったのはなぜだろう。