作品タイトル不明
その8 魚
昭和◯◯年◯月◯日
友だちと魚釣りに行く。
場所は、農業に作られた堰堤――小さなダムみたいな場所。
まずは、駄菓子屋で20円の竹竿と釣り針、鉛の錘を買う。
浮きはなし。
テグスは、親父が海釣りをしていたので、そいつを拝借。
地元でテグスは、「すず糸」と呼ばれていた。
ネットでググってみると、仏具に使われる細い糸をすず糸と呼ぶらしいが、語源がそれなのか不明。
ずっと、テグスという呼び方を知らないで大人になった。
次に、店のすぐ近くにある、馬を飼っている家に向かうと、そこに馬糞が山積みになっている。
アンモニア臭の山をちょっと掘り返すと、大量のミミズが出てくるので、そいつを餌にするわけだ。
ミミズは普通のミミズだが、こいつはあまり食いつきがよろしくない。
川の向こうに、親戚の小屋があるのだが、そこにいた縞々のミミズのほうが、断然食いつきがよかった。
それは解っているが、そこまで行くのがかなり面倒。
川の向こうなので、橋があるところまで行ってぐるりと回り込まなければならない。
堰堤の管理用のはしごを上って小さな通路を通ると反対側にも行けるのだが、どの道自転車がないと、その場所まで行けない。
自転車で堰堤に到着すると、下流にたくさんの十字ブロックが敷き詰められている。
そこに魚がいるわけだ。
川が増水すると、堰堤から大量の水が流れてきて、その下にたくさんの魚が集まってくる。
その急流を遡って、次々と魚が上流に上っていく。
そのときには、釣りなどをする必要もなく、網で掬うだけで魚をゲットできた。
大量に取れる魚は、ウグイかマルタウグイだけ。
ごく稀に、ヤマメやニジマスがいた。
マスをゲットしたやつは、もちろんヒーロー ――「ポケモンゲットだぜ!」みたいな感じ。
魚を獲ってどうするかといえば、どうもしない。
ウグイは食えなくもないのだが、小骨が多くて食う気にもならないし、食うやつもいない。
ただ、生け簀を作って、魚を集めて、最後は逃がすだけ。
俺は、魚を穫ると、祖母の家に持ち込んでいた。
大きな鍋で煮て、犬や猫の餌にしていたからだ。
当時でも、犬や猫に人間の食い物はよろしくないと言われていたので、調味料を使わず煮込まれた餌をウチの犬にもやっていた。
川が増水すると、大人たちもやってくる。
彼らの目当てはマルタウグイなどではなくて、「ヤツメウナギ」。
長い竹竿に三叉の針を大量につけて、流れてくるヤツメウナギを引っ掛けるわけだ。
要らないマルタウグイが引っかかっても、そのまま放り投げられる。
川べりは、捨てられたマルタウグイでいっぱいになっていた。
大人たちが獲っているヤツメウナギは、当然食べられる。
たいした美味いものとも思えないのだが、栄養価は高く、強壮剤として人気だった。
マムシ酒みたいなものだと思われる。
ウチの親父も、デカい鉄製の「ド」を作って一気に100匹ぐらいのヤツメを獲っていた。
この魚罠――地元では「ド」と呼ばれていたが、ぐぐると、ビンドウや 筌(ウケ) と呼ばれるものらしい。
もちろん、当時だったから見逃されていたわけで、今ならアウト。
最近は警察も巡回しているので、そんなの見つかったら即御用となってしまう。
そんなわけで、今は川で釣りをしたり魚を獲ったりする人もいなくなった。
夏に鮎が解禁になると、鮎釣りをしている人がいるぐらいか。
そんなにヤツメを獲ってどうするのか?
もちろん、自分でも食べていたが、そんなに大量に消費できるわけでもない。
大きな冷蔵庫がある家なんてなかったし。
ウチは農家ではなかったので、物々交換の元に使われていた。
そのうち、色々なものに形を変えて戻ってくるわけだ。
その前に、ウチの親父が、ただのええかっこしいだけだったのもあるのだが。
獲ってきたヤツメは、まずは熱湯をぶっかけて、ヌメリを取る。
それから板に打ち付けて、皮を剥ぎ、内臓を取ったあと、ぶつ切りにして味噌で煮込む。
少し食べたことがあるが、ゴリゴリしてて、正直美味くはない。
巨大なミミズがいるとすれば、こんな味かと思う。
ただ、栄養はめちゃあるので、薬みたいなものだと思えば食えなくもない。
そんなわけで、当時はたくさんの子どもや村人が川にいたのだが、今は遊んでいる子どもも見かけないので、ちょっと寂しくもある。
あれだけ大量にいたやヤツメウナギも、みなくなってしまったしな~。