作品タイトル不明
その4 昭和の掟
昭和◯◯年◯月◯日
放課後――学校前にある橋の下で同級生たちと遊ぶ。
一緒に女の子たちもいた。
通常、女子と男子が一緒に遊ぶってのは、あまりなかったのだが、このときはなぜか一緒にいた。
みんなでワイワイとやっていると、橋の上に一台の車が止まる。
窓が開いて、そこからなにかが投げ捨てられた。
放物線を描いて、それが水面に叩きつけられると、「ミャアミャア」という鳴き声が聞こえて、流されていく。
「猫だ!」
俺を含めた男子たちが靴を脱ぐと、太ももまで浸かって、鳴き声の元へと向かう。
この頃の男子は、半ズボンがデフォだったので、濡れても平気だ。
手を伸ばしても届かず、川辺に転がっていた長い流木を使ってやっとたぐり寄せた。
袋がワサワサと動いていたので、結び目を解いてみれば――丸っこい犬。
おそらくは、生まれてから数日しかたっておらず、目も開いていない。
走っている車から動物が投げ捨てられる――ト◯とジ◯リーのアニメでも、なん回かこういうシーンがあったので、これは世界中で行われていたんだろうな。
「可愛い!」
女の子たちが声を上げる。
数を数えると4匹。
「どうする?」
話し合いの結果――皆で抱いて服の中に入れると、それぞれ家に持ち帰ることになった。
「捨ててきな!」
当然というか、家に帰ってすぐに親から言われた言葉だ。
まぁ、高圧的ではなく、言い含めるような感じだった。
犬を見て、可哀想だとは思っていたと思われる。
「……」
犬を抱えて黙っている俺に、親が続ける。
「まだ、目も開いてないだろ? 育てられないでしょ?」
生まれて数日なので、乳も必要だ。
村に動物病院があるわけでもない。
動物用の乳が手に入る、ペットショップやホムセンがあるわけでもない。
当時、犬猫の餌といえば、人間の残飯。
ペットフードなど見たことがなかった。
そういうものが普及し始めたのは、中学のころだったろうか?
猫まっしぐらとか、そういうCMがTVで流れてペットフードというものを知った。
そのCMを見て、「人間よりいいものを食っているんじゃないのか?」なんて会話をするぐらいだったし。
そう親に言われて、納得するしかなかった。
トボトボと犬を抱えて、また川に逆戻りする途中で、俺と同じように犬を持ち帰った同級生と出会う。
「◯◯も?」
「うん」
彼もまた、親から怒られて犬を捨てに行く途中だった。
すでに辺りは暗くなり始め、川に着いた俺たちは、大きな流木を持ってくると、そこに犬を乗せて川に流した。
当然、バランスが悪いので、すぐにひっくり返ってしまい、犬は川の中に放り出されてしまう。
目も開いていない子犬でも、水に浸かると犬かきをしていた。
これは本能的なものなのだろう。
どうしようもない俺たちは、犬が流れて見えなくなるのを見てるしかなかった。
――次の日。
他の子が持ち帰った犬がどうなったのか、尋ねた記憶がない。
まぁ、子どもが捨てなくても、親に捨てられてしまったと思われる。
女の子に捨てにいかせるのは、可哀想だろうし。
当時、野犬がたくさんいて、小屋の中とか縁の下で子犬を産んだりすることも度々。
「小遣いやるから、捨ててきてくれ」
みたいなことを頼まれることもあった。
捨てるのはいつも犬で、猫を捨てたことはない。
農村だし、ネズミ退治に使うということで、犬よりは大事にされていたと思われる。
同じように頼まれたのが、籠罠にかかったネズミの処分。
まだ生きているので、川や用水路にドブンと浸けて、息の根を止めてから、捨てる。
犬猫と違って、こちらには罪悪感がない。
ウチの縁の下に犬が住み着いて、子犬を産んだこともある。
そのときには、犬を欲しがっている人がいる――ということで、乳離れをしたタイミングで畳を剥がし、子犬を取り上げた。
突然、子犬がいなくなった親犬が、クンクンと必死で探していたようだが、すぐにいなくなった。
スマン、犬よ。
可哀想だが、コレも昭和の掟なのだ。