軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

三本の剣

「ライナス? あんなの敵じゃない。前にも言っただろう?」

ホテルにあるバーで酒を飲む俺の隣には、唖然としているウォーレスの姿があった。

最近妙にやつれていたのだが、暗殺の件を聞いて目が覚めたようだ。

「嘘だろ。あのライナス兄上に勝てるなんて」

そのライナスだが、クレオ暗殺を焦って失敗した間抜け扱いを受けている。

世の中、失敗した者には冷たいのだ。

だが、ウォーレスはライナスのことを高く評価していた。

「ライナス兄上は、自ら派閥を立ち上げて継承権第二位を実力で得た人だ。そんな兄上が、こんな終わり方をするなんて」

困惑しているウォーレスを横目に見ながら、俺はグラスを傾けた。

「だから言っただろうが。心配するな、って」

「いや、言ったけどさ! 普通勝てると思わないよ!」

「最初から勝てる見込みはあった。俺が負ける勝負を挑むと思うのか?」

「え、いや、だって継承権第二位の兄上だよ!」

勝てるから勝負したのだ。

確かにライナスが動かせる戦力は俺よりも多いし、手札もまだあっただろう。

だが、ライナスは本命であるカルヴァンとも争っていた。

そこを狙っただけだ。

十分に勝てる戦いだ。

何しろ、ライナスは俺たちを相手に全力を出せなかったのだから。

正々堂々と戦うのは悪徳領主のやることではない。

敵が力を出せないように動くのが、正しい悪徳領主だ。

そして、ライナスを倒したことでクレオの評判はうなぎ登りだ。

おいしいところは全て奪う――それも悪徳領主である。

ただ、ボーナスステージもここまで――俺は次の相手を思い浮かべる。

「だが、次はカルヴァンだ。こいつは厄介だぞ」

ウォーレスもそれには同意のようだ。

「皇太子だからね。味方をする貴族も多いし、宮殿だって大勢がカルヴァン兄上の味方だろうさ。ライナス兄上を倒せたのは驚いたけど、これからどうするつもりだい?」

「――奇策はない」

「ないのかよ!」

カルヴァンという男は皇太子の地位にいて、盤石に近い。

ライナスのようになりふり構わない戦いはしない男だ。

言ってしまえば隙がない。

奴の周りに集まっている貴族たちは多く、人材面でも質がいい。

ウォーレスは頭を抱えている。

「どうするのさ! カルヴァン兄上の方が、厄介なのに!」

「気にするな。長期戦になるだけだ。最後に勝つのは、幸運が味方をする俺だ」

負けるなどあり得ない。

それに、俺には案内人がついている――負けはない。

俺はこの戦いを楽しめばいい。

クレオを帝位に就けた後は、好き勝手にさせてもらおう。

おっと、大事な話を忘れるところだった。

「ところでウォーレス、合コンの件はどうなっている?」

ウォーレスが俺を見て、何も言わずに酒を一気に飲み干した。

「おい、俺にとってはそっちの方が大事なんだぞ!」

くそ! 大学生として遊び回りたいのに、帝位争いに時間を取られてまともに遊べていない。

もっと貴族として豪遊したいのに!

首都星は大騒ぎだった。

「聞いたか? ライナス殿下が病気で倒れ、継承権第二位が空位になったぞ」

「第三位の皇子が繰り上がるんじゃないのか?」

「いや、空位らしい。だが、第三皇子は無理じゃないか?」

第二皇子ライナスが死去。

これにより、継承権第二位を争うために、後宮が騒がしくなると誰もが予想した。

事実、クレオを差し置いて第二位の継承権を得るために四位以下の皇子たちが後ろ盾をしている貴族たちと共に暗躍している。

ここから更に、消えていく皇子や皇女が増えるだろう――誰もがそう予想した。

理由は、今までにも似たようなことが何度も起きているからだ。

そして、首都星を――帝国を賑わせる話題がもう一つ。

首都星から遠く離れた惑星。

電子新聞を握りしめる安士は震えていた。

そこには記者会見を開いているリアムの姿が映し出され、紙の上で動画が再生されている。

安士は震えていた。

「あ、あの野郎ぉぉぉ! やりやがった。ついにやりやがった!」

安士は泣いた。

嬉しくて、ではない。

腹立たしくて、そして怖くて泣いた。

動画内のリアムが、記者たちを前に堂々と宣言している。

『剣聖? あぁ、俺が倒した。一閃流の免許皆伝を持つ、この俺が、な』

記者たちが困惑している。

『四天王の一角を倒したというのですか? 本当に?』

『だから何度も言わせるな。俺が斬った。だが、剣聖を斬ったのに、剣聖を名乗れないのはシステムとしておかしいから、宮殿には俺を剣聖と認めるように申請してある』

『み、自ら剣聖を名乗ると? 普通は推薦を受け、皇帝陛下が吟味する前に数多くの審査を突破する必要が――』

『馬鹿なのか? そいつらが選んだ剣聖が負けたんだ。そいつらに見る目はない。俺が最強だ。俺が剣聖だ。認められないなら、残り三人を今すぐここに連れて来い! 全員斬り伏せてやる』

ざわつく現場の様子が、動画から伝わってくる。

そしてリアムがハッと思い出したように言うのだ。

『おっと、失礼した。最強は俺じゃない。師匠だった』

『師匠というと、一閃流の師範でしょうか? そもそも、師範はどうして無名なのでしょうか? そこまで強い剣術ならば、もっと名が売れていても――』

『てめぇ、安士師匠を馬鹿にするつもりか!』

リアムが安士の画像を表示した。

キリリとしたいい感じの安士の顔だ。

以前、リアムに剣を教えている時に撮影されたものだった。

そんなものを大画面で記者たちの前で表示している。

「馬鹿ぁぁぁ!!」

安士は止めたかったが、この動画を見ている時点で過去の話だ。止めようがない。

リアムは綺麗な目をして安士を褒め称える。

『この宇宙で最強の男だ。俺が今も追いかけている最強の剣士――だが、未だに師匠を追い越せるイメージがわかない。剣聖なんかよりも、師匠と戦う方が怖いくらいだ』

記者たちが驚いている。

『そんなにですか!』

『剣聖を倒した方より強いとなると――』

『宇宙最強の剣士――安士! いや、剣聖を超えた剣神!?』

『剣神安士!』

『宇宙最強の剣神!』

『安士――いったい何もんなんだ!?』

記事の見出しは「宇宙最強の男、剣神! ――その名は安士!」と、大々的に取り上げられている。

首都星から遠く離れた惑星にまで、こんなニュースが届いているのが安士は怖かった。

安士は震える。

(ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい、ヤバい――こ、ここにいたら、俺は絶対に殺される。逃げないと――帝国から逃げないと!?)

リアムの善意が安士を追い詰める。

薄暗いあばら屋のような家で、安士は今後について考えていた。

すると、玄関が騒がしくなった。

『おい、安士を出せ。宇宙一強い男を出せよ!』

聞こえてくるのは男の声だ。

きっとニュースで安士を知り、倒して宇宙一になろうとしている男だろう。

腕に自信があるのが、声からも伝わってくる。

「ひっ! ひぃぃぃ!!」

安士が逃げようと窓を見ると、その男と争う弟子たちの声がした。

『あ? てめぇみてぇな雑魚が、何でうちの師匠と戦えると思っているわけ?』

『とんだ勘違い野郎ですね』

二人の弟子が丁度玄関にいたらしく、男の相手をしているようだ。

『――てめぇらみたいなガキが、この極意無限大流開祖である俺を馬鹿にするのか? 俺はもう、名のある騎士を五人は斬った男だ!』

五人も斬っているとか、普通に危ない男である。

安士はそんな男に弟子たちが勝てるとは思えず、逃げだそうと窓の縁に足をかけた。

すると――ボゴッ! という音が聞こえてきた。

木刀で人体を叩いたような音だが、音が大きすぎる。

少し間が空いてから、男の叫び声が聞こえてくる。

『ぎゃぁぁぁ! 俺の腕が! 俺の腕が!』

弟子たちが笑っていた。

『ギャアギャア喚くな。近所迷惑になるだろうが。隣のおばさんは口うるさいんだよ』

『次は右脚を潰してあげるよ』

また肉を潰す音が聞こえ、男が喚いていた。

ガタガタ震えていると、男の仲間たちが何か叫んでいた。

『や、止めてくれ!』

『帰る! もう二度と来ないから!』

『た、頼む、許してくれ!』

しかし、弟子たちは許さない。

『てめぇ、本当に名のある騎士を五人斬ったのか? 弱い、弱すぎて欠伸が出るぞ』

粗暴な方の弟子は、男が少しは強いのかも知れないと期待していたようだ。

期待外れに終わり、苛立っている。

『はぁ? こいつらの嘘を信じたの? ば~か』

クスクス笑っている子は、粗暴な弟子すら馬鹿にする。

そして、その子が笑っている間にまた肉を叩き潰す音が聞こえてきた。

安士は冷や汗が止まらない。

粗暴な弟子が、ノンビリしながらも人を責めるのが好きなドSな弟子に言う。

『てめぇから殺してやる』

『――同門の殺し合いには師匠の許可がいるって、覚えてないの? あ~あ、師匠にいいつけてやろう』

『て、てめぇ!』

同門同士の殺し合いは禁止――これは、安士がリアムに戦いを挑まれた際の保険とした嘘だ。しっかり、二人の弟子にも伝えているのは、弟子二人が既に安士よりも強いからだ。

安士は窓から降りて、そして男たちが逃げ去ったのを確認してから玄関へと向かった。

玄関がとても酷い状態だったが、眉一つ動かさないように注意する。

二人の前で威厳を保つためだ。

(何て凶悪なガキ共だ。だが、こいつらならリアムだって倒せる。俺に向かってくる馬鹿共も倒してくれる。いや、もう帝国から出ていく方がいいか)

安士は血だらけの二人を見て、溜息を吐いて見せた。

「お前たち、またそのようなことをしているのか」

二人が慌てて安士の前で姿勢を正した。

「だ、だって師匠!」

「僕は止めたんだよ」

安士は心の中で叫んだ。

(止めてねーじゃねーか! お前のその態度が怖いわ!)

二人の面倒を見ている中で、何とか師匠の威厳を保ってきた。

今では、二人とも安士を師匠と呼ぶ。

「二人とも、ここを掃除してシャワーを浴びたら奥の部屋に来なさい」

そして二人がシャワーを浴びて奥の部屋に来ると、安士は二人にリアムを殺すための道具を渡す。

粗暴な子には二振りの刀だ。

性格の悪い子には普通の物よりも長い刀を。

それぞれ、安士が購入できた中では、最上級の代物だ。

資金の出所は、リアムからもらったお金だった。

二人が刀を受け取り、目を輝かせている。

「凄ぇ! 師匠、これをもらっていいの!」

「僕の刀だ!」

二人のためにあつらえた服も用意していた。

旅に出るために道具も揃えている。

理由は――リアムを殺してきてもらうためだ。

(二人もいれば、一人くらい成功するだろ。二人が出ていったら、俺は帝国から逃げ出せばいいし)

安士は真剣な顔を二人に向けた。

「――二人には免許皆伝を言い渡す」

二人が顔を見合わせた。

「え? 師匠、どうしてだよ? だって、まだ修行が」

「そ、そうですよ、師匠!」

安士は微笑むが、内心では冷や汗が止まらなかった。

(教えることなんてもうねーよ! リアムもそうだったが、こいつらも相当ヤバい)

そもそも教えられることが少ない。

いつまでも側に置けば、いつかボロを出してしまいそうだ。

安士は、二人をさっさと追い出したかった。

「外の世界に旅立ち、己の剣を磨け。お前たち二人の一閃流を見つけるのだ」

二人が泣きそうな顔をしている。

でも、刀は抱きしめている。

それが安士には理解できない。

(何で感動して刀を抱きしめるの? 怖いよ)

ただ、本当の目的は二人には伝えない。

「旅をして腕を磨きなさい。きっと命懸けの戦いもあるだろう。時に二人の道が分かれるかもしれない。だが、これだけは覚えておきなさい。――お前たちの 兄弟子(あにでし) が、お前たちの剣を仕上げてくれる」

粗暴な子が涙を拭っていた。

「兄弟子――リアムか? あいつも一閃流なんだよな?」

「そうだ。今のお前たちでは相手にもならない。だから、外の世界で腕を磨け。そして、兄弟子に挑むのだ」

性格の悪い子が鼻をすすっていた。

「そんなに強いのかな? 僕たちだって強いのに」

安士は心の中で頷いた。

(正直、どっちが強いかなんて知るかよ。俺から見れば、お前ら全員化け物だし。化け物同士で殺し合え)

安士は言う。

「強い。お前たち二人は、兄弟子を殺すつもりで――いや、殺せ。それくらいの気概がなければ、逆に命を落とすのはお前たち二人だ。――二人で挑みなさい。それだけ、兄弟子との力量差がある」

(まぁ、二人で挑めば勝てるだろ)

二人が泣きながら頷くと、安士は旅支度が済んでいることを伝えて二人に服を用意した。

上質な服だ。わざわざ二人のために用意したのは、安士なりの負い目があったからだろう。

そして、電子マネーも数百万相当の金額を用意した。

これだけあればしばらく生きていけるし、二人なら賞金稼ぎでもして稼ぐだろうと考えていた。

「二人がここを出れば、拙者もここを引き払う」

「師匠!?」

「な、何でですか!?」

「お前たちの覚悟が鈍らぬためだ。そして拙者も旅に出る。一閃流を磨き続ける。再び出会うことはもう無いかも知れないが、お前たちの無事を祈っている」

(リアムに勝ったら呼び戻して、俺の護衛に――やっぱ駄目だな。こんな化け物共と一緒にいたくない。心が落ち着かないし。そもそも、今のリアムを殺したら、こいつらお尋ね者だからな)

二人が泣くので、その後も優しく語りかける。

そして、二人が服を着替えると腰に刀を提げて、安士の前に出てきた。

「――大きくなったな」

そう言うと、二人が照れていた。

二人が安士にお礼を言う。

「師匠――今までありがとう。俺、兄弟子を倒して一人前になったら、また師匠に会いに来るよ!」

「師匠の一番弟子が僕だって証明しますよ。それでは、師匠――また会う日まで」

二人が去って行く姿を見て、安士はニヤニヤする。

(はぁ~、やっと二人が出ていってくれたぜ。あの二人を育てるのに、何十年もかかったな。これでようやく解放された)

安士が二人の出ていった家を見る。

(――ちょ、ちょっと寂しいな)

二人を育てる中で情が芽生えたようだ。

だが、もうここにはいられない。

(俺みたいな男が、子供を育てるとは思わなかったぜ。まぁ、あいつらも俺に育てられて可哀想な奴らだったよな)

安士もさっさと帝国領から逃げようと、逃げ支度を始めようとする。

すると、隣のおばちゃんが乗り込んできた。

「安士さん! あんたのところの子供らが、また騒いでいたんですけど?」

「お、お隣さん! こ、これは失礼しました」

「剣術か何だか知らないけど、こんなところで将来性のないことを頑張って意味あるの? それに、あんた強そうに見えないよ」

おばちゃんにズバズバ言われ、安士は苦笑いをしていた。

「あははは――面目ない」

(くそ、言いたい放題言いやがって! 俺だって剣術なんて二度と手を出すかよ! これでリアムに怯える日々も終わりだ。帝国から出るのは少し怖いが、最初からこうしておけば良かったぜ)

自分を誰も知らない土地に行こう。

安士はそう思うと、清々しく――いや、少し寂しかった。

巣立っていった二人のことが妙に気に掛かる安士だった。