軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リアム様は止まらない

勝利して当たり前の戦いだった。

だが、ブライアンを始め、多くの者が俺の勝利に驚いている。

ライナスなんて、俺に背中を向けてカルヴァンと喧嘩をしていただけの男だ。

その背中を狙って後ろから刺す俺が、どうして負けると思うのか?

ただ――今後も部下たちには頑張ってもらうため、俺は自領に戻ってきていた。

頑張った部下たちにねぎらいの言葉をかけてやるくらいの度量はあるつもりだ。

そもそも、お礼を言うのはタダだ。

積極的にお礼は言おう。

屋敷にある謁見の間にて、俺はまるで王様が座るような椅子に腰掛けていた。

太々しく、脚を組んで――となると、皆の気分も良くないので姿勢正しく座っている。

居並ぶ文武百官――いや、多いな。

百人どころの話じゃない。いったいどれだけいるんだ?

気が付けば部下が増えすぎていた。

騎士、軍人たちだけではない。

役人たちも増えている。

最初の頃は本当に大変だったが、俺がこの世界で第二の人生をスタートさせてもうすぐ百年という節目も見えて来た。

当時は貧乏だったが、今は金持ちだ。

部下たちも多く、頼りに――頼りになるかな?

筆頭と次席の地位を奪った俺の騎士であるティアもマリーも、正直微妙だ。

仕事は出来るが、残念な性格をしている。

人材面では質がまだ足りていないようだ。

さて、今回の式典だが――司会進行は、俺の護衛も務めていた騎士のクラウスに任せている。

何でもそつなくこなす便利な部下だ。

今後も積極的に使っていこう。

「リアム様」

名前を呼ばれたので、俺は椅子から立ち上がった。

「皆、ご苦労だった。ここ数年は随分と苦労をさせてきたが、無事にライナスを蹴落としてクレオ殿下を帝位へと一歩押し上げることが出来た。礼を言う」

全員が膝をついている光景は、いつ見ても気分がいい。

俺が偉いのだと実感できる。

クラウスが何故か微妙な顔をして式典を進行する。

「続いては――」

「クラウス、次は褒美だったな? 今回の功績第一位は誰だ? 俺が直々に褒美をくれてやる」

表彰する者も多いため、後で勲章でも配ることになっている。

ただ、その中でもずば抜けた功績を持つ人間を、この場で俺が直々に褒め称えるのだ。

クラウスが緊張した様子だった。

「チェンシー・セラ・トウレイ――前へ」

「はい」

妖しい色気を放つ女が俺の前に出てきた。

皆の視線がその女に注がれていた。

ティアもマリーも、苦虫をかみ潰したような顔をしてその女を見ている。

何というか――中華風の美女だ。

そういえば、見た目で俺の護衛に選んだ騎士じゃないか?

クラウスがチェンシーの功績について語り出した。

「今回の一件に加え、これまでの功績もあっての第一位となっております。撃墜数は六百を超えており、バンフィールド家ではリアム様に続いて二番目の撃墜数となっております」

「六百?」

俺が首をかしげると、ティアやマリーの悔しそうな声が聞こえてきた。

「単独での撃破数に何の意味があるのか」

「同じ数だけ戦場を用意されたら、私なら倍は撃破できる」

負け犬共が吼えていた。

だが、こうして見ると――中華風の美女というのはいいな。

神秘的な感じがする。

クラウスが補足した。

「短期間でこれだけの戦果を上げたのは、バンフィールド家では彼女のみです。ですが、その――」

困っているクラウスを無視して、俺の前に出たチェンシーがねだってくる。

「リアム様――私はどうしても欲しいものがございます」

褒美をねだってくるとは、恐れ知らずな奴だ。

だが、嫌いじゃない。

有能な部下は大好きだ。

「ほう、言ってみろ」

チェンシーがゆったりとした袖口から、筒状の隠し武器を手に取るとそれは槍になった。

騎士たちがざわつく前に、チェンシーが構えて一歩踏み込む。

「お前の首が欲しい!」

笑顔でそんなことを言ってきた。

――どうして俺の部下たちは、こんなにも駄目な者が多いのか。

有能だが、皆が何か問題を抱えている。

踏み込んだチェンシーが俺の前に飛び出してくる。

距離を一瞬で詰めてくるのだが、そのスピードが速かった。

「剣聖を殺した実力を見せてみろ!」

時折いるのだ――戦うことしか出来ない、馬鹿な騎士というのが。

ただ、チェンシーは前に戦った剣聖と違って――面白かった。

「お前にはガッカリした。だが――そのスピードは褒めてやる」

チェンシーが目を見開き、身を捩ると槍を持った右腕が斬り飛ばされた。

空中を蹴って後ろへと飛ぶと、すぐに左手に隠し武器を握る。

「何もない空中を足場にして蹴った? おいおい、本当に面白いな」

剣聖よりも興味が出てくる。

刃が出現して青竜刀になった。

「いくつも仕込んでいたのか? いっそしっかりした武器を持ってこい。おい、誰かこいつに武器を渡してやれ」

ニヤニヤしながら、階段を降りてやる。

チェンシーの奴、俺の斬撃を避けやがった。

本気で斬り殺してやろうとしたのに、こいつは避けた――間違いなく、強い。

腕一本を失ったが、それでもこうして戦おうとしているのもいいな。

ただ、クラウスをはじめとした騎士たちが俺の前に出て、他はチェンシーを囲った。

ティアが激怒している。

「大事な式典でリアム様の顔に泥を塗りやがって――簡単に死ねると思うなよ!」

大鉈のような剣を両手にそれぞれ持ったマリーは、目が血走っていた。

「挽肉にしてやる」

お前たちは本当に主人の気持ちを察しないな。

俺は呆れて全員に命令を出す。

「下がれ。俺の楽しみを奪うな」

クラウスが俺に振り返った。

「し、しかし!」

「――二度も言わせるな、全員下がってみていろ。ティア、マリー、お前らもだ。そうだ、お前ら二人はこいつの武器を持ってきてやれ。仕切り直しだ」

懐から取り出したのは、万が一のために用意されているエリクサーだ。

それをチェンシーに投げて渡すと、近くにいた騎士たちに命令する。

「おい、俺が斬り飛ばした腕を持って来い。繋げてやれ」

騎士たちが狼狽えている。

「よ、よろしいのですか? この者はリアム様の命を狙いましたが?」

「それがどうした。俺と戦いたいんだろ? 褒美に戦わせてやるよ。だが、首は駄目だ。俺の首はこいつにやるほど安くないからな」

怒気を放っていたティアとマリーが、俺のもとへとやって来る。

その手にはチェンシーの武器が握られていた。

それを俺は手に持った。

「それなりか。まぁ、いい。ほら、受け取れ」

投げてやると、チェンシーは腕を取り付けていた。

やや呼吸が荒いが、自分の武器を手に取ると構える。

冷や汗をかいていたが、笑っている。

「その豪胆さ、嫌いではありませんよ」

「豪胆? お前、俺が豪胆な人間に見えるのか? なら、お前は見る目がないな。期待外れだ」

俺のような人間を豪胆と言う辺り、こいつも残念娘だ。

外見は好みだったのに――俺のハーレムには入れられない。

周囲が警戒を強める中、チェンシーが斬りかかってくる。

それを刀で弾くと、剣速が加速していく。

「面白い剣術だな。剣聖よりも参考になる」

褒めてやると、チェンシーが蹴りを放ってきた。

ピンヒールの蹴りは凶器であり、後ろに下がると今度は床を踏みしめて体をねじ込んで肘を入れてくる。

体術を織り交ぜているのが面白い。

まぁ、珍しくもない。

それに、一閃流にも同じ事が出来る。

「こうだったかな?」

久しぶりに繰り出すのは、刀が折れた際に使用する体術だった。

相手の力を利用して投げる技で、気持ちがいいくらいにチェンシーが空中で回転して床に叩き付けられる。

背中を打ち、口から唾を吐いていた。

苦しんでいる姿を見下ろして、ニヤニヤしてやった。

「どうした? 俺の首が欲しいのだろう? チャンスをやったのに、お前の刃は俺に少しも届かないぞ」

チェンシーがゆっくりと立ち上がる。

息が上がっていた。

「実力差が理解できたか?」

刀を担いで隙を見せてやると、すぐに斬りかかってくる。

それを刀で受け止めようとすると、チェンシーの刃がまるで布のようにゆらりと動いて俺の体に迫ってきた。

ティアが叫ぶ。

「リアム様!」

飛び出そうとしてくるティアとマリーを目で制した。

俺の体に届こうとした刃は――左手で掴んだ。

「今の技にはヒヤッとしたよ。面白い技だな」

チェンシーが目を見開いている。

「――まさか、初見で防がれるなんて」

「信じられないか? だが、この程度を防ぐ事など、一閃流には容易い」

以前、師匠が俺に鞭で攻撃してきたことがある。

特殊な鞭は動きが読みづらく、防ぐのに苦労したものだ。

だが、おかげですぐに反応が出来た。

指先に力を入れて刃を折ると、隠し武器を取り出したチェンシーが次の技を繰り出してくる。

回転して斬りつけてくるような技で、普通に斬りかかれば弾かれてカウンターを決められるような技だった。

だが、つまらない。

「なんだ、もうネタ切れか?」

刀を振るうと、チェンシーがまたしても避けた。

二度も避けられた俺は――ちょっと悔しい。

日々の鍛錬の時間が短かったか? 鍛え直す必要がありそうだ。

回転が止まったチェンシーは、そのまま左手と左脚を失って床に倒れる。

その状態でもめげないのか、武器を噛んで俺の首を狙ってきた。

右手、右脚を使って床から飛び上がってきたのだ。

飛びかかってきたチェンシーの腹に刀を突き刺して持ち上げる。

チェンシーは苦しそうな顔をして、刃を落とした。

口から血を吐いている。

「――正直、二度も避けられるとは思わなかった。お前は優秀だな」

感心していると、チェンシーの後ろで目を血走らせた騎士たちが武器を手に取っている。

これからチェンシーを殺そうとしていた。

ティアが興奮している。

「リアム様、勝負はつきました。さぁ、早くその愚か者の処分をご命令ください!」

マリーも同様だ。

「死ぬ直前で治療を繰り返して、殺してくれと泣き叫ぶまでズタズタにしてやる!」

――本当にこいつらは。

「誰が殺すと言った? 俺はこいつが気に入った」

「そ、そんな!」「リアム様、こいつは危険です!」

お前ら二人も危険だろうが! ――色んな意味で。

チェンシーが俺を睨み付けてくる。

こんな状態になっても、まだ挑もうとしてくる根性がいい。

あと、俺を殺せない実力ながら――優秀なのがいい。

刀を抜いて床にチェンシーを転がした俺は、そのまま見下ろす。

「今回の褒美はここまでだ。次に挑む時は、もっと功績を積み上げるんだな。また相手をしてやる」

クラウスが俺に確認してくる。

「本当によろしいのですか? この者は、リアム様の命を狙いました。しかも、大事な式典の場で」

「それがどうした? 俺のお気に入りだ。殺すなよ。さっさと治療を受けさせてやれ。さて、式典の続きだ。ほら、司会進行のクラウス君、さっさと進めないか」

「は、はい!」

床に倒れたチェンシーが運ばれ、そのまま式典が再開された。

ただ、休憩を挟んだ方が良かったな。

床についた血くらい、掃除させれば良かった。

「リアム様! どうして、あのような狂犬を側におくのですか!?」

式典中の騒ぎを聞いたブライアンが、俺の前で泣いていた。

五月蠅いだけなら追い返せるが、泣いているブライアンは――苦手だ。

あと、俺をジト目で見てくる天城も――苦手だ。

「旦那様、あの手の騎士は同じ事を繰り返します。戦うことが好きなタイプで、また命を狙われますよ」

「その時は返り討ちにしてやる。それに、あの手のタイプは強い奴と戦いたいんだろ? 卑劣な手段で挑んでこないだけマシだ」

ブライアンが首を横に振っている。

「式典中に命を狙うなど、卑劣ではないのですか? それはそうと、お耳に入れておきたい話がございます」

「何か問題でも起きたか?」

「問題と言えば、問題ですね。軍の人手が足りません。新しく手に入れた領地の護衛と、パトロールに海賊退治。それに、クレオ殿下への兵力の派兵――整備中のため動けない艦艇以外は、全て出撃している状態です」

天城も軍の稼働率を問題視していた。

「領内に軍学校を用意し、人員を確保していますが足りません。軍部からは学生の早期育成と、一部徴兵も提案されています」

「――徴兵だと?」

俺の雰囲気が変わったと思ったのか、ブライアンが汗をハンカチで拭っていた。

「い、一部でございます。既に予備役もかき集めてこの事態に対処しております。リアム様、今が大事な局面であるのは十分に承知しております。ですので、ここは領民たちにも負担を――」

「馬鹿野郎!」

俺が机を叩くと、二人とも口を閉じてしまった。

「領民を徴兵するだと? そんなの俺が許すと思ったのか!」

ブライアンが感動している。

「リアム様――領民たちのことを思って」

ただ、天城はどこか呆れているようだった。

「旦那様、本心では何を考えているのですか?」

本心も何も、俺の方針は今も昔も変わらない。

「俺の領民を苦しめていいのは、俺だけだ!」

俺が本格的に領地に戻ってくる前に、領民たちから搾取するなんて許さない。

搾取するのは俺の楽しみだ! 他の誰にも譲るつもりはない。

ブライアンが項垂れる。

「――やっぱり、そっちでしたか。ま、まぁ、領民たちを苦しめたくないのなら、このブライアンも何も言えません」

天城が俺に解決策を求めてくる。

「ですが、軍の人手不足は深刻です。リアム様、この問題はいつまでも保留に出来ません」

自前で用意しようと思うから大変なのだ。

あるところから持ってくればいい。

「また帝国軍から引き抜けばいいだろ」

「それにも限界があります。また、今後はスパイへの対処も必要になります」

カルヴァンと本格的に争うことになる。

俺のところにスパイを送り込んでくる可能性が高い、か。

「――結構な問題だな」

さて、どうしたものかと悩んでいると、執務室にマリーがやって来る。

「リアム様、トーマス殿がお見えです。緊急で話があるそうです」

「トーマスが? この忙しい時に」

渋々俺はトーマスの相手をすることにした。