軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

俺は帝国の悪徳領主!

地下深くに用意された玉座の間では、グレアムが消え去ると悪神の盃を構築する装置がバチバチと放電をしていた。

俺の真の敵であった皇帝は消え去り、そして助けに来てくれた案内人もいつの間にか姿を消してしまっていた。

もし、グレアムの目的が達成されていたとしたら? ……俺が勝てたかどうか危うかった、かもしれない。

そんな状況をフォローすべく奔走していただろう案内人は、片腕を失ってボロボロの状態だった。

満身創痍という姿になりながらも、俺のために頑張ってくれた案内人には感謝しかない。

今日も念入りに感謝の気持ちを祈りとして捧げようと思う。

胸に手を当てて案内人への感謝の念を送っていると、クラウスが俺を避難させようとする。

「リアム様、このような結果となってしまいましたが無事に皇帝を討ち取りました。今はこの場からすぐに退避するべきかと」

「……そうだな」

目を開けてクラウスの進言を受け入れようとすると、ティアが血走った目で倒れているクレオへと駆け寄っていた。

そして、クレオの赤い髪の毛を掴んで乱暴に持ち上げると、俺に処遇を問う。

「リアム様、こいつの扱いを決めておきませんか? グレアムとやらに乗っ取られていた経緯は広まっていませんでしょうから、こいつはまだ皇太子として使い道があります」

クレオの奴、どうしてここまでティアを激怒させたのだろうか?

目つきが宇宙海賊たちを相手にしている時の顔になっているじゃないか。

マリーとククリは、クレオを見て薄らと笑っていた。

「生温いですわよ。そいつにはありとあらゆる苦痛を与えるべきではないかしら?」

「我々に任せて頂ければ、首から下を使ってこの世の地獄を見せてやりますよ……クヒヒッ」

既に亡国の皇太子となったクレオには、公開処刑されるだけの価値しか残されていない。

こいつらの憂さ晴らしにくれてやるのもやぶさかではないのだが、問題はクレオの体はただの抜け殻になっている点だ。

そこにクレオの魂は感じられない。

「好きに……」

好きにしろ、そう言い終わる前にクラウスが俺を庇うように前に出た。

直後、装置の一部が爆発して周囲に破片が散らばる。

クラウスは周囲に指示を出す。

「全員今すぐに退避! 今後のことは安全な場所にて幾らでも話し合えばよろしい!」

ごもっとも、として全員が退避しようとした時だ。

爆発した装置から光があふれ出し、閃光手榴弾が爆発したように視界が奪われる。

僅かな一瞬の出来事だったが、師匠に鍛えられた俺には感覚として理解できた。

爆発した装置から解放されるのは、これまでグレアムが体を奪って追い出してきた皇太子たちの魂だった。

クラウスが周囲に指示を出して叫んでいる中で、彼らの声が聞こえてくる。

『あぁ……ようやく解放される』

『ありがとう、解放者』

『これからの帝国をよろしく頼む』

悪神の盃に捕らわれて苦しめられてきただろう皇太子たちは、口々にそう言って解放されてどこかに消えて行く。

俺のように転生するのだろうか? だが、案内人がいないのでどこに転生するかは不明だろう。

解放された魂の中には、本物のバグラーダの魂もあった。

『本当にありがとう。君なら問題なく帝国を……いや、この星間国家を任せられる。君のような若者が誕生してくれたことに感謝を……ありがとう、異界の魂よ』

勝手に色々と押し付けようとする皇太子たちに辟易した俺は言う。

「何でもかんでも押し付けるな。それに、俺は悪徳領主リアム様だ。俺に押し付けたら帝国は大変なことになるぞ……そう思わないか、クレオ」

目を閉じて顔だけを向けた先には、解放されても動けずにいるクレオの魂がいた。

まぶた越しに戸惑っているクレオの姿が見えるようだ。

『お、お前は本当に何者なんだ? 帝国どころか、あんな化け物の父上……いや、皇帝グレアムを倒すなんて普通じゃない』

装置に取り込まれたばかりのクレオは、他の魂たちと違って感覚が鈍いままのようだ。

「その姿になってもまだ理解できないのか? もっと感覚を研ぎ澄ませよ。お前の先輩たちは、俺の存在に気が付いていたぞ」

俺に煽られたクレオはムッとするとが……魂だけの存在となった今、俺の本当の姿を視認できるようになったらしい。

『お、お前……前世の記憶を持っていたのか? だから……いや、それよりも、お前が望んでいたのは……』

納得しきれない様子のクレオに俺は言う。

「あぁ、そうだ。悪徳領主として振る舞えれば十分だった。お前を勝たせてやったのも、これまで帝国に貢献してきたのも、全ては俺が、俺の惑星で自由に振る舞うためだ」

徹頭徹尾俺のためだけに行動してきた。

別に帝国を采配したかったわけでも、クレオを傀儡として扱いたかったわけでもない。

ただ、俺の領分に手を出さないと誓わせるだけで十分だった。

クレオは体から解き放たれ、そして俺の気持ちを理解したようだった。

そして、同時に自分がどれだけ愚かだったのかも。

『なら、俺は……私は……何のために戦ってきたんだ』

「全部無駄だったな。俺と敵対しなければ、お前は今でも皇太子だった……いや、グレアムを協力して倒して、この帝国を手に入れていただろうに。お前が判断を間違えたから、全て奪われたんだぞ」

嘲笑ってやっていると、閃光により奪われた視界が戻ってくる。

周囲を見ていると、クレオの頭部を掴んで振り回しているティアの姿が見えた。

何やら誰かと揉めているらしい。

「離せ! 既にお前は皇女殿下という立場ではないのだぞ、リシテア!」

騒ぎの中、この場にやって来たのはリシテア皇女殿下だった。

クレオのために騎士となったのに、最後は邪魔者扱いを受けて遠ざけられた人物だ。

血を分け、もっとも近しい親族である彼女は、抜け殻となったクレオの体にしがみついている。

「お願いだ。もう、これ以上……弟を……妹を苦しめないでやってくれ。いえ、お願いします。どうか、どうか!」

妹を守ろうと必死の姿を見せるリシテアに、魂となったクレオが近付いて手を伸ばすが触れることが出来なかった。

クレオは魂となっても泣いている。

今になって大事な人に気付いたらしいが、全ては手遅れだった。

『姉上……姉上……触れない。声が届かない……私はどうして……』

地位や名誉に惑わされてしまったクレオの姿は実に憐れだった。

しかし、俺以外には誰も見えない。

ティアがぶち切れて、リシテアに蹴りを放っている。

「調子に乗るなよ、敗北者が! こいつがどれだけリアム様や我々を愚弄してきたと思っている! 温情で見逃してやっただけの分際で、指図をするな!!」

激高するティアはまだいい方だろう。

マリーは武器を構えて俺の方を見ているし、ククリも同様だ。

許しがあれば即座に斬り殺すという明確な殺意を持って控えていた。

ティアに蹴られて骨を折り、内臓を傷付けたのか、リシテアは口から血を吐いていた。

その姿を見てクレオは泣き喚いているが、誰にも……リシテアにすら声が届かない。

『止めて! もう止めてくれ! 姉上まで死んじゃう。私はどうなってもいいから、止めてくれ、リアム!』

振り返って助けを求めて来るクレオを俺は鼻で笑った。

「助けて下さい、リアム様……無様に頭を垂れてそう言え」

俺の言葉にティアは動きを止めた。

見えないクレオではなく、リシテアに向かって発言したと思っているようだ。

リシテアは俺の言葉を聞いて土下座をすると、額を床に押し付けていた。

「助けて下さい、リアム様! どうか、妹の命ばかりはお助けを! 代わりに私が全ての責任を負います! どんな責め苦でも……受けますから」

これを聞いていたククリが、不気味に笑っている。

「どんな責め苦も? 無知とは恐ろしいですね。数時間もあれば、あなたは今の発言を後悔して、きっとそこにいる愚物を呪うでしょうに……リアム様、あれの扱いは是非とも我々にお任せ下さい」

これを聞いていたクレオは、リシテアの横で同じように土下座をしていた。

『……お願いします、リアム様。リシテア姉上を助けて下さい。これまでのことは、全て私の責任です。この通り、謝罪しますから……あなたに逆らったのは間違いだったと認めますから……だから、どうかリシテア姉上だけは……』

既に死んでしまって大事な人すら助けることすら出来ないクレオは、実に惨めで悲しい存在である。

だが、正直に言えば……飽きた。

真なる敵である皇帝グレアムを討ち、帝国に上出来な勝利を収めた今ではクレオなどどうでもいい存在である。

また、既に抜け殻となった体など俺にとっては何の価値もない。

困った顔をしたティアが、俺の判断を待っていた。

「そんな抜け殻が欲しければリシテアにくれてやれ。お前たち、さっさと戻るぞ。アルゴスで戦勝パーティーの準備をさせているから、今日は楽しめ」

戻ってパーティーを楽しむぞ! そう言うと、ティアは困惑しながらもクレオの抜け殻を放り投げた。

「リアム様、お待ちを! このクリスティアナ、リアム様のお側で給仕をいたします!」

「参加しろって言っただろうが。お前は持てなす側じゃねーよ」

マリーは武器を納め、そしてクレオの抜け殻に抱きついて泣いているリシテアを一瞥してから俺に駆け寄ってくる。

「それでは、このあたくしはリアム様の隣で参加いたしますわ! ロゼッタ様にも戦勝報告をいたしませんとね。……あと、リアム様のお側に余計な虫が近付かぬように見張ります! あっ、痛い!?」

ロゼッタのために俺を見張るというマリーにデコピンをした。

「パーティーで誰を侍らすかは俺が決める! あと、ロゼッタに変な報告をしたらその番号を取り上げるからな!」

「ひえん」

変な鳴き声を出すマリーを見て、ククリは肩をすくめていた。

「やれやれ、リアム様はお優しすぎる……もっとも、我らは帝国を滅ぼし、元凶が消え去ったので不満はありませんけどね」

そして、最後尾に付いてくるのはクラウスだ。

こんな時でも控えめな奴であるのだが、とんでもない話題を振ってくる。

「今後も抵抗勢力は出て来るでしょうが、首都星を制圧した意味は大きいでしょう。リアム様が新しき星間国家の王……を仮で自称されても問題ないかと」

これに俺は足を止めた。

既に玉座の間からは出ているが、振り返ればクレオの抜け殻を抱き締めているリシテアの姿が見える。

そんなリシテアに、魂だけの存在になったクレオが抱きつき、今にも消えそうになっていた。

そんなことはどうでもいいのだが、問題はクラウスの発言だ。

「……俺が王?」

「いえ、皇帝が良いのならば呼称はそちらでも構いません。とにかく、新しい君主として他の星間国家に知らしめる必要がございます。早急に動かなければ、旧帝国の領土は削られるばかりですからね」

「……君主? 俺が?」

首を傾げる俺に、クラウスばかりかティアやマリーも目を丸くしている。

ティアが俺に確認してくる。

「リアム様が新しき国家の君主になられるのですよね? ねっ!?」

周りが俺に頷いて欲しいという期待を込めた視線を向けてくるが、そこまでは考えていなかった。

何しろ俺は悪徳領主を目指しているのであって、皇帝になりたいとは思っていない。

「俺は今の立場で十分満足しているから帝国の新たな君主に興味はない」

ティア、マリー、そしてククリばかりかクラウスまでもが天を仰いだ。