軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

真なる敵と真なる味方

一閃にて斬り落としてやったクレオ――グレアムの頭部だが、床に落ちても薄ら笑いを浮かべて非常に不気味だった。

しかし、俺がはなった言葉に反応して真顔になる。

「……は? 何だって? 聞き間違いかもしれないから、もう一度言ってくれるかな?」

口調は丁寧であるが、クレオの体から、そして頭部から発せられるのは醜悪な気配だった。

どす黒く、ドロドロして、更には何年も放置した汚れのようにこびりついた何か……。

後ろに控えているティアが、武器を構えて前に出ようとするが足が竦んでいる。

「リアム様、お下がりください。奴は……何かが変です」

クラウスはロングソードを構えて俺の前に出て、盾となるようだ。

「既に人間とは呼べない存在に成り果てています。お下がりを!」

二人の見立ては正しい。

マリーとククリも歯を食いしばって立ち上がり、そして俺の前に出ようとする。

その様子を見ていると、悪党であっても少しばかり心が動かされるな。

「お前らの献身には感謝してもいいが、これは一閃流の剣士としての勤めみたいなものだ。――何度も言わせるな、下がって後ろで見ていろ」

有無を言わさず下がれと命令を出すと、クラウスが振り返って目を見開き……そして、諦めて俺の後ろに下がった。

俺が本気であると察してくれたようで何よりだ。

俺はグレアムを名乗るクレオの姿を見る。

本人は自分の頭部を拾い上げ、体にくっつけようとしているが時間がかかっていた。

「長く生きてきたが、一閃流など聞いたこともなかった。まさか、ここまで厄介な剣術だとは思わなかったよ。首がうまく繋がらないじゃないか」

そうはいいつつも、何とかして首を繋げていた。

だから……遊びでもう一度斬り飛ばしてやった。

左手の親指で鯉口を切って右手で柄頭を押さえて納刀させると、再びグレアムの首が飛ぶ。

後方に吹き飛んだ頭部は、一瞬目を丸くした後に煩わしそうな顔をしていた。

「人の話を聞かない奴だな。僕が会話を楽しんでいる間だけは生きながらえられるのに、それを無為にするつもりか?」

苛立ちを募らせていくグレアムに、俺は口角をあげて笑って見せた。

「自分が上位者と勘違いした奴は滑稽極まりないな。二千年以上も生きながらえてきて、自分より強い強者も判断出来ないのか?」

「……随分と生意気だな。アリスターとは大違いだよ」

曾祖父の名前が何度も出て来るのだが、俺にとっては名前しか知らない他人と同じだ。

ただ、ブライアンが何かにつけて曾祖父の名前を出してくるのでうんざりしている。

そんなブライアンが、グレアムがバンフィールド家を衰退させる原因を作ったと知れば何と思うのか? ……どうせ泣くのだろうが、ウザさが増すので勘弁願いたい。

「無駄話に付き合うついでに、さっきの質問にも答えてやるよ。悪党の才能がないって話だったよな? そんなの単純だ。二千年以上も生きている癖に、よくも飽きずに続けられるものだと感心したからだ」

二千年以上も悪党を続けるとか馬鹿なのか? この世界はただでさえ寿命が長いのに、飽きずに続けているのは凝り性を通り越している。

生きている間に悪事をやり切れずに、悪の限りを尽くしたと実感できず、ただ無意味に過ごしているようなものだ。

「無駄に延命してやっていることはただの悪戯か? 悪の美学もなければ、才能もないお前は二流以下の存在だよ」

悪党としては俺の方が後輩かもしれないが、俺も悪徳領主として今世を生きてきたプライドがある! だからこそ、目の前のこいつが二流の馬鹿にしか見えない。

グレアムは無様に頭部を拾い上げると、強引に体に繋げて俺を睨んでいた。

「……ふざけるなよ。バンフィールド家なんて簡単に潰せたんだよ。普通に潰してはつまらないから、弄んでやったんだ。それも理解できない癖に、僕を二流呼ばわりだと?」

「二流以下のゴミだろう? 何しろ、こうして俺に追い詰められているんだからな」

三度、グレアムの頭部を斬り飛ばしてやった。

グレアムもわざわざ拾うのが面倒になったのか、手を伸ばして頭部を掴む。

そして、気が付けばクレオの頭部は白目の部分が黒く染まっていた。

「たかが人間の分際で、超越者である僕を愚弄するとは愚か過ぎる! 遊んでやろうと思ったが、お前はもう絶対に許さない。お前を殺した跡は、バンフィールド家など徹底的に弄んで歴史からも抹消して――」

言い終わる前にまたも首を斬り飛ばしてやると、グレアムの――クレオの体から人の目にも見えるだろう黒い煙が吹き出した。

腐臭を伴うそれを吸い込むのは危険と判断し、一閃にて薙ぎ払う。

一閃にて黒い煙が払われると、床にクレオの体が倒れていた。

抜け殻となったクレオの体……その後ろには、グレアム本人と思われる人の姿をした半透明の存在が激しい怒りを抱いた顔をしてこちらを睨んでいた。

「……もう入れ物の体など不要だ。今日をもって、僕は本物の超越者となる。そうなった時、僕はお前たち人間を弄ぶ邪神となるだろう。人間……お前たちが踏み込めない領域があると知れ!」

怒りで人の形が保てなくなったのか、グレアムの姿はすぐに揺らめいて炎が人の姿を真似たような形となった。

グレアムが両腕を天井に向ける。

「この真の玉座に配置したのは悪神の盃と呼ばれた道具だ! この首都星自体が、帝国中の負の感情を二千年以上も貯め込んできた失われた遺産なのさ!」

外郭で覆われた首都星は、とても歪な惑星であると思っていた。

まさか、首都星自体がグレアムのいう道具であったとは流石に予想していなかった。

「小悪党の癖に面倒なことをしてくれる」

どれだけのエネルギーを貯め込んでいるのだろうか? 以前に屠ったタコの化け物以上の相手になるのは間違いない。

もしかしたら、ファラバル以上の相手になるのか?

今の俺で相手に出来るのか?

僅かな不安を感じ、不本意ながらも足を広げて居合いの構えを取った。

グレアムは高笑いをしている。

「ははははっ! この日のために帝国中に負の感情が集まるよう、ずっと細工をしてきたんだ! 全ては今日、この日のために! ……ために……」

悪神の盃と呼ばれた天井のガラス杯から、グレアムに降り注ぐ赤黒い液体……それは呪星毒と呼ばれる呪われた液体のようだが、どうにも様子がおかしい。

グレアムが自分の体を見て困惑している。

先程よりもグレアムの姿は安定して人の姿を取り戻し、半透明だった体は実体を取り戻したらしい。

しかし、グレアムは呆然としていた。

「何故……何故なんだ? 二千年も時間をかけてきたのに、どうしてこれだけしか貯まっていない? どれだけ戦争を起こしてきたと思っている? どれだけ不平等な国にしたと思っている? どうしてこんなにも少ないんだ!?」

理解できないと頭を抱えるグレアムは隙だらけだった。

今ならば、と真の一閃を放とうとした瞬間だった。

「お前、それを先に言えよ!」

懐かしい声がした。

「……案内人っ!?」

ボロボロに成り俺の前に現われた案内人は、グレアムに怒っているようだ。

案内人は現状を受け止められないグレアムに、つい叫んでしまった。

首都星に負の感情が貯まりやすかったのは、グレアムがそのように設計していたとなれば案内人も納得だ。

妙に居心地がいいし、負の感情を吸ってもすぐに回復するので怪しいと思っていたのだ。

怪しいと思っていたかは、これまた怪しいのだが。

グレアムは、突如現われた案内人を見る。

自分と同じ存在であると負の感情を好む同族同士の感覚で気付いたらしいが、グレアムは案内人を格下であると判断したらしい。

「……どうやら羽虫が紛れ込んでいるようだな。吹き飛ばしてやるのは容易いが、その前にさっきの言葉の意味を教えろ」

羽虫呼ばわりされた案内人は激しい怒りを抱くが、それよりもリアムを何とかするべきという思いも強い。

しかし、羽虫呼ばわりされたのでグレアムも嫌いになった。

だから、対応が悪くなる。

「お前が貯め込んでいると知らなくて、首都星にあった負の感情は私が全部吸い上げたんだよ、ばーか!!」

もしかしたら……グレアムだったらリアムに勝てるかもしれない! そんな期待が裏切られてしまった案内人は、酷く落ち込んでいた。

「何が超越者だ、間抜け……そんなんだからリアムに勝てないんだ」

案内人からすれば、既に勝ちの目はなかった。

何しろ、案内人自らが、ここ百年でグレアムから負の感情を奪い続けていたのだから。

リアムに痛めつけられる度に、首都星で体を癒して負の感情を補給していた日々……更に、今回の戦いのために根こそぎ負の感情を奪い尽くしていた。

グレアムは、案内人のせいで負けるのだ。

それに気付いたグレアムが、リアムよりも先に案内人を始末するべく動き出す。

「貴様が僕の邪魔をしたのかぁぁぁ!!」

弱りに弱った案内人は、超越者になりかけたグレアムですら脅威だった。

「ひっ!?」

グレアムの衝撃波に襲われて吹き飛ばされそうになる案内人……すると、その姿に激しく怒りを覚えた人間がいた。

リアムだ。

「てめぇ、俺の案内人に何してくれてんだ、糞野郎が!!」

先程の会話に聞き入っていたリアムだったが、もう我慢の限界を迎えたのか怒りを力に変えて真の一閃を放とうとしている。

リアムの後ろに武者の面を被った光の巨人が出現し、胸を張って腕を組んでいた。

金色に輝くその巨人は、人には見えないリアムの力を具現化した姿。

その巨人がグレアムに鋭い視線を向けると、リアムが言う。

「――奥義、一閃」

リアムから放たれる一閃は黄金の光をまとっていた。

それは案内人とグレアムにすれば毒である。

そして、弱り切った案内人はその光に近付くだけで……。

「あっ……」

体がボロボロに崩れ、そして帽子だけとなって吹き飛ばされてしまった。

真なる玉座がリアムの一閃により払われ、負の感情が消え去っていた。

グレアムは斬られた胴体を必死に繋ごうとするのだが、負のエネルギーとは正反対の力により邪魔されて繋がらない。

赤黒い体液が腹からこぼれ出て、力が失われていく。

「い、嫌だ。死にたくない。まだ死ねない! 僕はまだ、やりたいことが沢山あるんだ。もっと、もっと、人を痛めつけて遊んでやるんだ」

何とか命を取り留めている状況のグレアムは、既にリアムたちに手出しが出来ない状況だった。

その様子を見ていたリアムが、薄ら笑いを浮かべていた。

「……クラウス、ククリ、ティア、マリー。一緒にゲームをしよう」

ゲームをしようと言い出すリアムに、四人は困惑している。

リアムはゲーム内容を説明する。

「この部屋は失われた技術で造られた悪神の杯だったか? その装置らしい。見るからに悪趣味な置物が多いと思ったが、それらは装置の一部だろう……だったら、こいつの体を……いや、魂を保管していた部分もあるんじゃないのか?」

リアムは正確にグレアムの弱点を見抜いていた。

体を移り変わって延命してきたグレアムの魂を保管、そして手助けしている部分がある、と。

それを聞いたマリーがすぐに動き出す。

「この部屋を破壊して回り、グレアムが消えれば勝者ということですわね!」

周囲の装置を破壊して回るマリーに負けじと、ククリも動き出す。

「楽しいゲームになりそうですねぇ!」

グレアムは暴れる二人を見ながら、腹を押さえて叫ぶ。

「止めろ……止めてくれ! この状態で装置を失えば、僕は! 僕は!」

叫んでいるグレアムを見て、ティアは視線の動きから重要装置を判断したらしい。

「あら、もしかしてこれですかね?」

レイピアで装置を貫いてグレアムをチラリと見るが、消えていないため舌打ちをしていた。

だが、それはグレアムにとっては大きな痛手となる。

「それは記録装置だ! 早く修理しないと僕が僕でなくなる……早く! 宰相はどこだ! 人を呼べ! すぐに!」

この場にはいない宰相を呼び出そうとするグレアムが見たのは、あまり乗り気ではなさそうなクラウスだった。

クラウスの心の声が聞こえてくる。

(周りのノリについて行けないが、何もしないと雰囲気を悪くするからな。この小さな玉を破壊しておくか)

クラウスが選んだのは小さなビー玉のような玉だった。

グレアムが目を見開いた。

「それに触るなぁぁぁ!!」

「……え?」

叫んだ拍子にクラウスは驚き、玉を落として足で踏みつけて割ってしまった。

すると、グレアムは姿を維持できずに徐々に崩れていく。

「ぼ、僕の魂……僕が消える……消滅しちゃう……嫌だ……消えたく……ないよぉ……ママァ……」

グレアムは消えていく中で、リアムが拍手をしていた。

「どうやらクラウスが大当たりらしい。おめでとう、クラウス! 文句なしの第一功だ」

「……え!?」

既にリアムは、消えゆくグレアムに興味を失っていたらしい。

グレアムはそんなリアムを見ながら後悔する。

「お前さえいなければ……お前にさえ、手を出さなければ……僕は超越者に……」

燃えるように消えていくグレアムは、最後に灰すら残らなかった。