軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

我こそは真なる皇帝なり

外郭に守られた帝国の首都星に、地上部隊を満載した輸送艦たちが降下していく。

既に内部にはククリたち暗部や特殊部隊が投入済みで、外郭の制御はバンフィールド側が制圧していた。

「一度も敵の侵入を許したことのない惑星に突入するのか……」

俺は感慨にふけっていた。

修業時代に首都星で過ごした日々を思い返したのではなく、前世の後輩との思い出が蘇ったからだ。

彼は言っていた「先輩、処女を童貞が攻略するのは難攻不落の城を新兵だけで攻略するのに等しいそうですよ」と。

一体何の話をしているの? というか、職場で処女とか言うの止めてよ。ほら、女性の社員たちがこっちを睨んでいるよ。……当時の俺は彼の暴走を止めようと必死だったな。

ある意味、これは彼が言っていた状況なのだろう。

しかし、こちらは百戦錬磨の強者たち……新兵だけで攻略したわけではない。

流石に新兵だけで攻略は無理だったよ。

難攻不落どころか攻められた経験すらない首都星に、アルゴスが突入している最中に呟いた言葉に反応するのはクラウスだ。

「リアム様も感慨にふけるのですね」

「……俺を何だと思っている? 少しくらい感傷にひたることもあるさ」

まぁ、懐かしんでいるのは前世の後輩であって、首都星などあまり気にしていないけども。

俺は専用シートから腰を上げ、そして全軍に向けて声を発する。

「さぁ、皇帝陛下に面会するとしようじゃないか」

外郭を突破したバンフィールド軍の輸送艦たちが、次々に地上部隊を降下させていた。

降下したのは宮殿のある大陸や、主要施設のある場所だ。

中でも宮殿には八割以上の戦力が投入されている。

理由は、一つの大陸が宮殿と一括りにされているためだ。

帝国の中枢だけあって、様々な施設や組織が存在している。

今後のためにも重要な施設は全て制圧し、組織なども幹部クラスを拘束するのが求められているのだろう。

各地で地上部隊同士の激しい戦闘が開始され、首都星が火の海になりつつある。

その状況を見ていたのは、小型艇に押し込められたセリーナたちだ。

案内役はクナイが務めている。

クナイもククリたちと同じく加虐的な性格をしており、メイドたちが破壊される宮殿を見て小さな悲鳴を上げているのが楽しいらしい。

そして、一際大きな超弩級戦艦のアルゴスが外郭を突破して現われると、クナイが楽しそうにセリーナに話しかける。

「どうやら事後処理を任せて自ら首都星に乗り込まれたらしいな。地上部隊たちも張り切っているようだ。見てみろ、実戦経験の乏しいエリート気取りの帝国の地上部隊が狩られているぞ」

小型艇の窓をモニター代わりに、地上で行われている戦闘映像を表示した。

それはバンフィールド家に所属する地上部隊……その一兵士の視点で、帝国側の兵士に銃口を向けて引き金を引いている場面だ。

頭部が吹き飛ぶ映像に、見習いメイドたちが震える体で抱き合って小さな悲鳴を上げている。

だが、セリーナやカトレアを始め、正規のメイドたちは静かに座って映像を見ていた。

セリーナが帝国軍の兵士たちについて語る。

「ここまで攻め込まれた意味を兵士たちも理解しているのさ。腰が引けても降伏せず戦っているだけ、見上げて忠誠心じゃないか」

その反応がクナイには面白くないらしい。

「……流石は宰相の抱えているスパイだな。いや、宰相の女というべきか?」

「そこまで調べたのかい」

「我々はお前について徹底的に調べ上げたからな。ここにいるお前の血縁者たちは、宰相にとっても家族というのも知っているぞ」

「宰相閣下を相手に人質にするなら無意味だよ。あの方はそこまで愚かではないさ。帝国を支えるという意味を一番理解している方だ」

セリーナが折れないと判断したのか、クナイは諦めたようだ。

保護対象なのでこれ以上の脅しも出来ず、つまらなそうにしている。

ただ、そんなセリーナたちもアルゴスが宮殿……しかも皇帝がいる重要区画に迫ると腰が浮き、そして焦りを見せた。

それがクナイには面白かったのか、声が弾む。

「おやおや、リアム様は自ら乗り込んで皇帝陛下の首を取るつもりらしい。私も側で護衛に付きたかったものだな」

帝国軍の地上戦力がアルゴスに攻撃を仕掛けるが、宇宙戦艦の対宙迎撃のレーザーがそれらを焼き払っていた。

機動騎士たちが出撃し、整列して騎士礼を取っていた。

リアムが降りてくるための準備だろう。

クナイの声は興奮もあって先程よりも弾み、そして歓喜している。

「見ろ! リアム様が首都星に降り立つぞ! 皇帝の首を取ってくだされば、我らの悲願も達成される!」

オープンカーのような開放感のある小型艇にて、首都星に降り立った俺を待っていたのは傷だらけになったククリだった。

膝をつき頭を垂れていた。

他にもトレジャーと呼ばれている特務陸戦隊の隊員たちが整列し、敬礼を行っている。

周囲ではそんなククリの部下たちや、陸戦隊が厳重に警戒を行っていた。

代表してククリが俺の到着を喜ぶ。

「宇宙での勝利、我ら一同お祝い申し上げます」

「大義である。お前らが事前に外郭の制御を奪ってくれたおかげで、何事もなく降下できた。さて、こうしている時間も惜しい。……皇帝はどこだ?」

皇帝の居場所を尋ねると、ククリが頭を上げないまま答える。

「……その件ですが、皇帝バグラーダは発見できておりません」

これを聞いて、俺の側にいたクラウスが動く。

「それはつまり、取り逃がしたと? 宇宙艦隊に連絡を取れ。首都星から脱出した戦艦でも小型宇宙船でもいいから徹底的に捜索させろ」

ここでバグラーダに逃げられては面倒になる。

クラウスが宇宙艦隊を動かすのも無理はない。

だが、ククリは言う。

「逃げた形跡もないのです」

「……ククリ、立て。事情を知っているなら説明しろ」

ククリが立ち上がる。

「バグラーダの姿は見当たりませんでしたが、クレオが皇帝を自称しております。我らを挑発するように、リアム様の到着を待っていると場所まで指定してきました」

クレオが皇帝を名乗っている? この状況に乗じてバグラーダを殺害し、皇帝を自称しているのだろうか?

「あいつがバグラーダを殺害する度胸があるとは思えないな。……まぁ、いい。呼び出しに応えてやるとするか。その場所に案内しろ」

すると、クラウスが待ったをかけてくる。

「いけません! リアム様を巻き込み自爆する可能性もあります。先に専門部隊を突入させましょう」

あのクレオが俺と一緒に自爆などするだろうか? そう思っていると、空からティアとマリーが降りてくる。

先に口を開くのはマリーだ。

「それならば、是非ともこのマリーを突入部隊に配置して頂きたいですわ。クレオの首はあたくしが取ってリアム様に献上いたします」

ティアの方は先を越されてご機嫌斜めである。

「話を聞いていない化石女は黙りなさい! リアム様、このクリスティアナにクレオの捕縛をご命じ下さい。必ず、リアム様の前に引っ張りだし、罪を償わせます!」

やる気のある二人を見ながら、俺は小さくため息を吐く。

「……お前らも付いてこい。クラウス、ククリ、行くぞ」

俺が先を歩くと、後から家臣たちが慌てて付いて来る。

クラウスなど普段は見せない焦り顔をしていたいから面白い。

「リアム様、危険です!」

真なる玉座にて、クレオの体を奪ったグレアムはつまらなそうにしていた。

周囲にはバンフィールド家の兵士たちが転がり、中にはククリの部下たちの姿もある。

生き残って銃撃を行うバンフィールド家の兵士は、グレアムを見て怯えていた。

「何で死なないんだよ、この化け物が!?」

光学兵器、爆弾、ロケットランチャー、様々な武器で攻撃されても、クレオの体は傷一つ付かなかった。

正確には、被弾してもすぐに再生されて元通りである。

吹き飛ばされた頭部が、衣装ごと元に戻る様子を見て兵士は尻餅をついていた。

そんな兵士にグレアムは言う。

「化け物、か……君は正しい認識をしているようだ。ご褒美に、僕自らが君の命と負の感情を吸い上げてあげよう」

そうしてグレアムが手を伸ばすと、兵士の様子がおかしくなる。

武器を床に落とし、そしてガクガクと震え……糸が切れた操り人形のように床に倒れ込んだ。

グレアムは伸ばした手を引っ込める。

「僕を前にした恐怖心は、なかなかにおいしかったよ。だけど、残念ながら駄菓子程度かな? 美食には遠く及ばないね」

生き残った兵士たちが攻撃することも忘れ、震えていた。

ククリの部下たちですら、グレアムの放つ禍々しいオーラを本能的に察しているのか竦んでいる。

すると、真なる玉座の入り口から集団の足音が聞こえた。

「こんな奥深くで皇帝ごっこか、クレオ?」

奥から聞こえてくる声に、兵士たちはハッとした。

慌てて武器を構えるのだが、入ってきた人物に命令を受ける。

「全員下がれ。こいつの相手は俺がする」

現われたのは、バンフィールド家の主要人物たちを引き連れたリアムだった。

グレアムはクレオの顔でニヤリと笑う。

「久しぶりだね、リアム君」

クレオの声でそう言うと、リアムは眉根を寄せた。

どうやら一瞬で気付いたらしい。

「随分と禍々しい気配を放つようになったと思えば、中身は別人か?」

禍々しい気配を感知したばかりか、中身が別人だと言い当てたリアムにグレアムは手を叩いて褒める。

「正解だ! 僕の名前はグレアム・ノーア・アルバレイト! 二千年以上もの間、ずっと皇帝を演じてきた!」

グレアムの言葉を聞いて前に出るのは、殺気を放ったマリーとククリだった。

「てめぇ、このドグサレ野郎がぁぁぁ! てめぇだけは何十年と斬り刻んでいたぶりながら殺してやらぁぁぁ!!」

激高したマリーのダブルブレードが、クレオの体をズタズタに斬り裂いた。

ククリの方はクレオの胸を……心臓を貫いていた。

目を見開き、興奮しているらしい。

「その名前を冗談でも口にされたら、殺すしかありませんねぇ」

しかし、クレオは口から血を吐きながら笑っている。

二人が異変を感じて下がろうとすると、衝撃波により吹き飛ばされた。

斬り裂かれ、貫かれた肉体が再生していく。

それは負の感情をエネルギーとした再生であり、クレオの綺麗な肌に黒く禍々しい模様が浮かび上がっていた。

「昔は皇帝陛下と頭を垂れていたのに、ちょっと石化させて遊んだだけで攻撃してくるなんて酷いじゃないか」

立ち上がったマリーが、急いでリアムの前に出る。

「リアム様、こいつはグレアムです! 間違いありません!」

ククリも同様に、クレオの中にグレアムの人格を確認したらしい。

「どのような手段か不明ですが、人格がグレアムと同じであるのは間違いありません。リアム様、お下がりください」

二人に下がるように言われたリアムは、煩わしそうに二人を押し退けて前に出て来る。

「お前らが下がれ。こいつは俺にとっての真の敵だぞ。こいつを殺すのは俺の役目だ。それに……一閃流の剣士としても、こいつを屠る理由が出来たからな」

グレアムを前にして、リアムは少しも恐怖を感じていなかった。

その様子にグレアムはつまらなそうにする。

「本当に君は嫌な奴だ。まとっているオーラも僕が嫌いなものだし、正義感が強いのも気に入らないね。ずっと前から君をいたぶって殺してやりたかったよ」

リアムのまとうのは、グレアムとは正反対のエネルギーだ。

金色の粒子がリアムを守るように揺らめき、負の感情で満たされた空間で輝いている。

……気に入らない。

それがグレアムの素直な気持ちだった。

そして、グレアムは一つ思い出す。

「……そういえば、君の曾祖父であるアリスター君も同じような男だったよ。帝国を良くしようと奔走する彼は、僕の目的に合わないから実に邪魔な男だった」

リアムの片眉がピクリと動く。

「お前が何かしたのか?」

「色々と邪魔をしたかな? でも、一番傑作だったのは彼の息子や孫を籠絡した時さ! 首都星に来た時にあの手この手で堕落させてやった時は、面白かったよ。あの正義感ぶった馬鹿野郎の子供たちは、実に簡単に転んでくれた! ……あっ、孫は君の父親だったね。随分と帝国の貴族らしい愚か者に仕上がっていただろ?」

リアムが左手に持つ刀の鞘を強く握りしめているのが見えて、グレアムは愉悦する。

平静を装っているが、怒りを感じているのは間違いないからだ。

リアムが言う。

「曾祖父など会ったこともないから興味もないが、この話を聞いたらブライアンがさぞ悲しむだろうな。だから、この話を広めないためにも……お前はここで完全に消滅させてやる」

「ブライアン? 誰のことだい?」

グレアムがそう言った瞬間に首が斬り飛ばされた。

頭部が床に落ちた時、リアムが言う。

「……お前、悪党の才能がないな」