軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

混乱するバンフィールド軍

リアムが乗艦としているアルゴスが敵陣に突入した、という報せはバンフィールド全軍に届いていた。

超弩級戦艦のブリッジでその報せを聞いたティアなど、卒倒しかけた程だ。

両手で頭を抱えて、血の気の引いた顔で頬を引きつらせている。

「リアム様駄目ぇぇぇ……何十万の敵艦隊に囲まれに行くなんて正気じゃないですぅぅぅ……」

リアムが戦死しないかと気が気でないティアの側で、クローディアが必死になだめている。

「だ、大丈夫です、ティア様! リアム様ですよ? きっと生還されますし、あそこにはクラウス殿もいますから!」

常勝不敗、神算鬼謀、冷血漢、帝国最強……様々な呼び名を持つクラウスがいるのだから、大丈夫と言うクローディアにティアが言い返す。

「そのクラウスが止めなさいよ! こういう時のための筆頭騎士でしょ!!」

全く以てその通りである。

ティアもクローディアも、こんな作戦を実行に移すのはリアムだと断定していた。

そんなリアムの決断を止める立場にあるのが、筆頭騎士のクラウスである。

クローディアもこれには反論できない。

「やはり、あいつには荷が勝ち過ぎていましたかね?」

今にも倒れてしまいそうにフラフラしているティアは、そんな状態でも頭をフル回転させる。

騎士として強化した頭脳が、騎士の中でも希に見る頭脳が、リアムの危機を打開すべく全能力を発揮する。

だが、どうやっても目の前の敵……敵左翼の艦隊が邪魔だった。

「……速攻に切り替えます。敵左翼に時間をかけてはいられません。艦隊を右方向へ広げなさい」

ティア率いる艦隊は、敵左翼の艦隊を包み込むように動き出す。

その頃、マリーもブリッジで叫び声を上げていた。

頭を抱えて仰け反り、頭部が床にギリギリ着かない状態でマリーは叫んでいる。

「誰かリアム様を止め手差し上げて、馬鹿野郎!」

似非お嬢様言葉が混ざった叫び声は、リアムの行動を誰も止めなかったことに対する怒りの表れなのだろうか?

副官のヘイディは、今のマリーに話しかけたくないな~……と思いながらも仕事であるから話しかける。

「護衛艦として用意した超弩級戦艦八隻と突撃かよ。本隊の連中も驚きすぎて浮き足立っているが、動くなと命令されては助けにも行けないか」

ヘイディは可哀想な本隊の連中に同情する。

本来ならば彼らはリアムの盾になり守るはずだった。

それなのに、リアムが敵陣に飛び込んでしまったのだ。

自分たちの役目を果たせていないし、動くなと命令されては助けにも行けない。

「まぁ、クラウスが側にいるから大丈夫だとは思うんだが……今回ばかりはちょっと厳しいか?」

自らリアムの首を差し出しているに等しい行為に、ヘイディも庇いきれないようだ。

マリーが立ち上がって命令を出す。

「左翼艦隊は左に膨らむように敵右翼の艦隊を取り囲みなさい! 今すぐ!」

ディーディー相手に色々と考えていたがマリーだが、リアムのピンチを救出するために作戦を変更した。

奇しくも反対側で戦っているとティアと同じ結論に達しており、両翼の艦隊が示し合わせていないのに同じ動きをしていた。

ヘイディが味方右翼の艦隊の動きを見て言う。

「あ、反対側も同じ動きをしているみたいだぞ」

その報告にマリーは興味を示さない。

「あんなミンチ女なんてどうでもいいのよ! どうせ小賢しく上手いことやるに決まっているんだから、とにかく目の前の敵を倒しやがりましてよ!」

言葉が不安定になっているマリーを見て、ヘイディは言う。

「マリーが壊れたな。それだけ危機的状況ってわけか」

敵陣深くに突入したアルゴスと、超弩級戦艦たち。

アルゴスのブリッジから指揮執るクラウスは、周囲には顔色一つ変えずに淡々と命令を出しているように見えていた。

だが、お察しの通り内心は焦りまくっている。

(自ら敵陣に飛び込んで囲まれるとか正気じゃないが、かといって他に方法も思い付かない!? こうなれば後続の本隊が私たちの切り開いた道を使って突入してくるまで時間を稼ぐしか思い付かないぞ!!)

有効射程距離は相手の方が優れており、これによる被害を減らすための突撃だった。

クラウスは誰にも内心が気付かれぬまま命令を出し続ける。

「機動騎士部隊による奇襲攻撃が成功したならば、次は本隊に我らが斬り込んだ航路から突撃するように命令を出せ」

通信士たちがすぐさま、本隊に行動を開始するように命令を伝えていく。

周囲を見渡せば敵ばかり。

しかも、敵は徐々に混乱から立ち直りつつあった。

敵艦隊が突入したアルゴスを囲むように艦列を整え、主砲を向けて攻撃を開始しようとしていた。

敵は戦艦やシールド艦を前に配置し、巡洋艦や駆逐艦クラスの戦闘艦を下げて被害を減らしている。

加えて、機動騎士も続々と出撃していた。

機動騎士部隊同士の戦闘も開始される。

状況を確認していた戦況予報士が、機動騎士部隊が苦戦していることを報せてくる。

「敵機動騎士部隊と交戦中の我が軍の機動騎士部隊ですが、苦戦を強いられています。このままですと多くが帰還できません」

それを聞いてくクラウスが呟く。

「騎士の実力も機体性能も相手の方が上か……」

(この乱れの少なさ、それに強さ……本物の精鋭だな。味方が間に合わなければ我々が袋叩きにされて終わる可能性もあるが……)

クラウスが無意識に、チラリと視線を向けた先にいたのはリアムだった。

専用のシートに腰掛けて戦況を見守っていたが、クラウスの視線を受けるとニッと笑みを浮かべて席を立った。

「俺の出番が回ってきたようだな」

楽しそうにしているリアムを前に、クラウスは返事をする。

「……このままですと、リアム様に出撃をお願いすることになります」

(本当は出撃させたくない! させたくないけども! ……この状況を切り抜ける手段が私には思い付かないよぉぉぉ!!)

クラウスだってリアムに頼りたくなかったが、この状況では頼らざるを得なかった。

そもそも、この作戦を思い付いたのはリアムである。

本人もやはり気にしている様子で。

「このまま俺の護衛機が減り続けるのも気が滅入るからな。……アヴィドの出撃準備をさせろ」

クラウスは部下たちに指示を出す。

「はっ! リアム様のアヴィドの出撃準備を急がせろ。それから、機動騎士部隊への援護射撃を増やしてやれ。被害の多い部隊はすぐに撤退させ、回収させろ」

(胃、胃が痛い。だが、ここで負けるわけには……耐えてくれ、私の胃よ!)

アヴィドが保管されている専用の格納庫に来た俺は、左手首のキンのブレスレットに触れると瞬時に服装が変化する。

普段着からパイロットスーツへと切り替わり、そして地面を蹴ってアヴィドのコックピットに飛ぶ。

文字通り飛ぶ、だ。

無重力状態にされた格納庫では、整備兵たちがコックピットに俺が乗り込むまで敬礼をしていた。

出撃になれば、整備兵たちは格納庫から出て行かないと危ないからだ。

軽く同じ仕草をして返礼して薄暗いコックピットに入ると、俺はヘルメットを脱ぐ。

操縦桿を握れば、アヴィドが本格機動を開始してモニターが一斉に機動。

周囲の景色を映していた。

見れば、整備兵たちが退避していた。

「うちの精鋭がここまで苦戦させられるとは思わなかった。一度全機を下げさせて、次の出撃に備えさせるべきか?」

想定していたよりも被害が大きいのを気にしている間に、格納庫内のアームがアヴィドをカタパルトまで運んでいた。

カタパルトはまるで砲身の中のような構造になっており、機動騎士を弾丸代わりに撃ち出すようになっているトンネルのような構造だ。

内部が電気と魔法の力で発光し、放電が起きて発射態勢が整った。

『リアム様、発艦準備が整いました。カウントダウンを開始します。発艦まで10……9……8……7…………3……2……』

「撃ち出せ!」

直後に俺の体は激しい重圧に襲われ、そしてシートに押さえつけられる。

そのままアルゴスをアヴィドが飛び出すと、目の前には戦場が広がっていた。

撃ち出された場所は敵戦艦の真横……アヴィドが右手を向けると、魔法陣が周囲に展開されてそこから武器を構えた機動騎士たちの上半身が出現する。

急に現われたアヴィドに慌てることなく、敵艦も迎撃を開始。

そして、敵の機動騎士たちも群がってくる。

「ここから先は俺が相手をしてやる。光栄に思うといい」

トリガーを引けば、一斉に機動騎士たちが周囲へと攻撃を開始した。

周囲の敵艦、機動騎士たちが一斉に爆発し、周囲が明るく照らされる。

「お前ら全員、このリアム・セラ・バンフィールド様の踏み台にしてやるよ!」

いくら精強な騎士と質の良い兵器を揃えようとも、アヴィドという最高の機体には及ばない。

それを敵も理解しているのだろうが、物量で押し潰すように攻撃が降り注いだ。

「……邪魔だ」

アヴィドが左手の平に発生させた小さな魔法陣から、刀を模したブレードを引き抜くと同時に加減した一閃を周囲にはなった。

全周囲……三百六十度、一斉に爆発の光が発生した。

アヴィドが出撃すると、一部の帝国軍の艦隊が急速に数を減らしていた。

もっとも、全体から見れば僅かな数であるが、たった一機の起動騎士の戦果としては破格としかいいようがない。

また、その僅かな敵の損失が今のクラウスにはありがたかった。

「機動騎士部隊の回収は終わったな? 艦の直衛機を残して整備と補給を急がせろ。また出撃してもらうことになる」

(想定していたよりも被害は少ないが、その負担がリアム様に向かうのは問題だな)

機動騎士部隊を無事に回収してきて安堵しても、また次の問題が出てきてしまう。

クラウスはすぐに指示を出す。

「アヴィドの援護を忘れるなよ。アルゴスならば多少被弾しても耐えてくれる。今はリアム様の援護に集中しろ」

通信士が振り返ってクラウスに尋ねる。

「護衛艦たちがリアム様の援護を申し出てきていますが?」

「駄目だ。今は自分たちの守りに専念させればいい。すぐに嫌でも働いてもらうと返しておきなさい」

アルゴスならば無茶かも可能だが、護衛艦たちはそうではない。

超弩級戦艦であるため今も耐え切れているが、アルゴスほど耐久性があるわけでもなかった。

リアムが暴れ回っているおかげで敵の攻撃が緩んでいるように感じるが、全体を見れば敵に与えている損害は少ないままだ。

クラウスは次の手を打つべく思案する。

「周辺の艦隊をまとめている指揮官を叩きたいところだが……」

(回りを索敵させても、それらしい艦艇はすぐにこの場を離れていた。指揮官を叩かれるのを警戒しているな)

敵の混乱を誘いたいのだが、そう上手くいかない。

そこに、一人の女性騎士がやって来る。

「……クラウス、私たちの出撃はまだかしら?」

クラウスが振り返ると、そこに立っていたのはチェンシー・セラ・トウレイだった。

「先程帰還したばかりだろう? まだ休むといい」

チェンシーは小さくため息を吐く。

「こんな楽しい戦争で我慢をさせないで欲しいわね。補給と整備が終わったら、さっさと出撃したいわ。次はもっと過酷な戦場をお願いするわ。今回の敵は強くていつもより楽しいの。もっと遊んでいたいのよ」

戦場を楽しむタイプの騎士であるチェンシーに、クラウスは頭を悩ませる。

そもそもどこも過酷で、簡単な戦場などないのだから。

ただ、一つだけ思い付く。

「それならば、周辺の艦隊をまとめる敵艦の撃破を頼めるか? 姿をくらませているため、どこにいるかも不明だ。探している間は敵に狙われて相当な危険が予想されるぞ」

他の者が聞けばチェンシーを厄介払いしようとしている、と思われるかもしれない。

しかし、クラウスには僅かな勝算もあった。

「嫌ならば断ってくれて構わない。その時は、リアム様の支援に回ってもらうだけだ」

(チェンシーならば……戦場での直感に優れるチェンシーならば、この状況を打開してくれるかもしれない)

クラウスが選択を迫ると、チェンシーは恍惚とした表情をする。

「いいわね。厄介払いではなく、ちゃんと勝機があると思っている……だから、クラウスは好きよ」

好き、というチェンシーの発言にブリッジクルーたちがギョッとしていた。

クラウスは言う。

「……周囲に勘違いをされるから、その発言は訂正して欲しいのだが?」

(私は妻帯者だから、変な誤解が生まれるのは勘弁して欲しいのに……)