軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

石化と氷漬け

右翼にてティアが砲撃戦を開始した頃、左翼ではマリーが敵の威嚇攻撃を前に黙って腕組みをして立っていた。

ブリッジでは普段と違うマリーの様子に、副官のヘイディが困惑している。

「距離を取って散発的な威嚇攻撃をされているのに、今日のマリーは静かだな。あれか? この程度では怒りませんわ~的な?」

からかうような言動をするヘイディだったが、様子の違うマリーが気になっているらしい。

ブリッジクルーも威嚇攻撃を繰り返されたのに、声を荒げないマリーが珍しいようだ。

マリーは前を見据えながら口を開く。

「こちらが攻めれば距離を取り、引いてしまえば距離を詰めてくる……本当に昔からいやらしい戦い方が好きな奴ね」

普段は似非お嬢様言葉を使用しているマリーが、今日に限っては普通だった。

これにヘイディが目を丸くするが、すぐにマリーの言葉にハッとする。

「おい、嘘だろ? 俺たちの知り合いがいるわけでもあるまいし」

自分たちにとっての昔とは、石化される前の話だ。

マリーは相手の指揮官の戦い方に気付いた様子だが、ヘイディは信じられずにいた。

腕組みを説いたマリーが、通信士に近付いて指示を出す。

「本隊に知らせなさい。敵右翼の指揮官に心当たりがある、とね」

「は、はい。それで相手の名前は……」

緊張した通信士に、マリーは相手の名前を告げる。

「ディーディー・セラ・ドリュー……あたくしと同期の三騎士の一人よ」

通信士が一瞬膠着するが、上官の命令であるため本隊に知らせる。

マリーが定位置に戻って敵艦隊の様子を確認すると、そこにはかつての知り合いの癖のようなものが出ていた。

眉間に皺を作るマリーに、ヘイディが少しだけ焦りながら尋ねる。

「まさか相手も俺たちと同じような被害者なのか?」

しかし、マリーは即座に否定する。

相手が自分の知る女騎士であるならば、石化などされていないはずだ、と。

「あり得ないわね。あいつは即座に当時の皇帝に尻尾を振った奴よ」

ヘイディもディーディーを覚えており、マリーの言葉に納得する。

「そうだったな。あれだけ好き放題やっていたあの糞野郎に、忠言一つしないですり寄った恥知らずだった」

マリーは冷笑を浮かべながら言う。

「まさかこうして再会するとは思わなかったわよ、ディーディー。……必ずその顔に拳を叩き込んでやるよ」

対する帝国軍の右翼……マリーが相手をしている敵艦隊を率いているのは、ディーディーだった。

右翼旗艦はディーディーの趣味でパステルカラーのピンク調で、内装にも毛皮などが用いられていた。

ディーディーの座る司令官の席など、無駄に飾り付けられ豪華に仕上げられていた。

頬杖をつくディーディーが、まるでマリーと対峙しているかのように喋っている。

「まさか本当に二千年越しに出会えるとか運命を感じちゃうよね~」

ディーディーの側には容姿に優れた男性騎士たちが侍っていた。

身の回りの世話もする彼らは、ディーディーの話し相手も務めている。

「コールドスリープをしていた我々と違って、あちらは石化され二千年も放置されていたようですけどね」

「そこはほら、あたしたちとあいつらの違い、的な? あいつら忠義だとか義理だとか、そういう目に見えないものを信じる馬鹿だからさ~……だから、惨めな末路を迎えたわけよ」

コールドスリープされていたのは三騎士だけではない。

三騎士が率いる騎士や軍人たちも、コールドスリープされていた。

帝国が危機に陥った際は、目覚めさせて戦わせるために……どうして彼らはそんな条件を呑んだのか? それは、コールドスリープ中も給与が振り込まれるという条件があるためだ。

眠っている間に二千年分の給与が振り込まれる。

貨幣価値は現代換算で行われるなど、至れり尽くせりの状況だ。

ディーディーは男性騎士の一人が持ってきた飲み物に口をつける。

「……これ、あたしたちが眠る前と味が変わったわね」

お気に入りのジュースだったのだが、二千年の間に微妙に味が変わってしまっていた。

そこに寂しさを感じる……わけではない。

「まぁ、いいや」

ディーディーは気持ちを切り替える。

「バンフィールド公爵を担いで帝国に弓引くとか、マリーも焼きが回ったよね。帝国がどうして何万年と続いているのか理解していないわ……その程度でどうにかなると思っている内は、一生あたしに勝てないのにさ!」

ディーディーは席を立つと周囲に指示を飛ばす。

「あいつは速攻を得意とするから、距離を詰めてきたら気を付けなさい。腐ってもかつての三騎士の一角だった女よ。こっちもかなりの被害が出るのを覚悟して」

マリーを嘲笑っていたディーディーだが、それでも相手の実力は評価していた。

「さて、お手並み拝見といこうじゃない」

「右翼交戦を開始しました!」

「左翼も交戦開始!」

「味方に損害が出始めています!」

次々に入ってくる情報に耳を傾けていると、俺の側で戦況を見守っていたクラウスが話しかけてくる。

「敵艦隊の有効射程はこちらの一割増しでしょうか? 撃ち合う前から被害が出ています」

普段通り落ち着いた様子のクラウスを見ていると、俺が慌てるわけにもいかないのでこの状況を打開する手を思案する。

「アルゴスなら撃ち合えるが、たかが一隻だけが性能で勝っても意味はない、か……帝国工廠の技術は欲しいな」

「今から勝った後のことをお考えで?」

「勝っても何も得られない戦争なんて前の防衛戦だけで十分だ」

帝国が差し向けてきたバンフィールド家征伐軍に勝利したが、賠償を求められなかったので俺は被害を被っただけだ。

まぁ……ファラバルから宝は手に入れられたから、何の利益も得ていないとは言えないか?

それよりも今は、有効射程に入るまでが問題だ。

同数で戦っているのに、こちらが攻撃する前に数を大きく減らされたら面倒だ。

この状況を打開する手を考えるのだが、両翼が交戦を開始してしまった。

あまり時間をかけていれば、味方は減るばかりである。

「……クラウス、アルゴスを前に出すぞ」

「はっ」

総旗艦を前に出すと言っても、クラウスは顔色一つ変えずにいた。

少しは驚いて欲しいのに、主君の心を理解しない奴だな。

「反対しないのか?」

「反対したところで実行されるのがリアム様です。それに……アルゴスの驚異的な性能は、私自身も既に確認済みですから」

ファラバルの報酬は戦艦に取り付ける動力炉のようなものだった。

それを搭載した今のアルゴスならば、敵艦隊に突撃しても生き残れるとクラウスも理解している。

ただ、クラウスは俺に進言してくる。

「しかしながら、今回は護衛艦も伴うべきです」

クラウスが視線を向けるのはアルゴスの隣、と言っても数十キロ離れた場所にいる同じ超弩級戦艦たちだ。

俺はついに超弩級戦艦を護衛艦にするような立場にまで成り上がっていた。

「……アルゴスに続け、と護衛艦たちに伝えろ。敵艦隊の本隊に風穴を開けてやる」

俺が決定を下すと、クラウスが周囲に指示を出していく。

「聞いての通りだ。機動騎士部隊の出撃準備に入れ。それから護衛艦はアルゴスの防御フィールドの後ろに回るように伝えろ」

それを聞いたクラウスの部下である騎士が、驚いている。

「護衛艦を下げるのですか?」

「彼らに活躍してもらうのは、敵陣に突入してからだ。それまでに撃破されては意味がない。味方艦隊には我々が突撃しても慌てず待機するように伝えておけ。勝手についてこられてはかえって迷惑になるとな」

俺が細かな指示を出す必要はなかった。

バンフィールド家のやり方を熟知しているクラウスは、俺が何をしたいのか察して細部を整えてくれる。

準備が整うと、アルゴスが加速し始めた。

護衛官たちがアルゴスの後方にやって来ると、徐々に速度が上がってくる。

オペレーターが言う。

「敵艦隊の有効射程まで五……四……三……二……来ます!」

アルゴスが敵艦隊の有効射程圏に入った直後、目の前が明るくなるほどの発光が起きた。

小さな光が何十万と点滅する光景の直後、襲ってくるのは衝撃だ。

アルゴスの防御フィールドが展開されると、前が見えなくなるほどの光に包まれる。

絶え間なくレーザーやビームが防御フィールドに当たり、その光が多すぎて何も見えない。

「随分と狙いが正確だな。やっぱり精鋭が相手か」

「簡単には終わってくれそうにもありませんね」

この日のために他の星間国家に働きかけ、あの覇王国すら動かしてチャンスを作った。

上手くいけば帝国内の戦力は枯渇して楽に首都星を攻略できる……と、少しばかり期待していたのは事実である。

しかし、せっかく首都星を攻略するならこれくらいの方がいい。

「簡単に終わってはつまらないだろ?」

「そう思うのは少数ですよ」

素っ気ないクラウスに俺は肩をすくめつつ、アルゴスの現在位置を簡易三次元マップで確認する。

敵艦との距離を詰めれば詰めるほど、攻撃は苛烈になり、艦内の揺れも大きくなる。

しかし、ブリッジクルーに慌てた様子はない。

何度も無茶な作戦に付き合せた結果、慣れてしまったらしい。

いや、慣れというよりも度胸がついた……だろうか?

この状況に油断している奴はいないし、全員が緊張した様子だ。

オペレーターは計器を見てアルゴスが耐えきれるかどうか、慎重に確認している。

「敵艦隊へ突入まで五……」

カウントが開始されると、俺はニッと笑って見せた。

「二……突破!」

カウント終わると同時に敵艦隊からの攻撃が弱まる。

敵艦隊の懐に入り込んだため、簡単に主砲が撃てなくなったためだ。

同士討ちを避けるために敵の攻撃が緩み、ここでアルゴスが副砲を放ち周囲の敵艦を次々に破壊していく。

「さて、懐に入り込まれた敵の指揮官はどう出る?」

帝国軍側の総旗艦のブリッジでは、コーネリアスが敵の動きに注視していた。

「たった数隻で私の艦隊に突入してくるとは、余程の馬鹿か、あるいは自分たちの実力を過信している馬鹿か……本物の馬鹿のどれだろうな?」

普通ならあり得ない行動を取る敵に対して、馬鹿と言い続けるコーネリアスだが表情は少し嬉しそうにしている。

「時折いるのだ。その時代に突出し過ぎた才能を持つ者が……今まで本物の強者に出会って来なかったために、このような無法が通ると本気で信じる輩だな」

蔑んだ発言をしているコーネリアスだが、それでも表情は微笑みを浮かべている。

何故か?

それはリアムたちの行動が、コーネリアスにとって意外でも何でもないからだ。

「……私と同じようなことをする者たちがいるとは思わなかった。いい、実にいい。私はお前たちのような存在を待ち望んでいたぞ、リアム。そしてクラウス!」

先程の発言は昔の自分を見ているようで、嬉しくなってのものだった。

コーネリアスは敵の総旗艦を取り囲むように指示を出す。

「敵は自ら包囲の中に突入した馬鹿共だ。慌てず囲んで叩け」

周囲はその指示を冷静に実行していく。

味方艦隊の中で暴れ回っているアルゴスたち超弩級戦艦から距離を取り、囲むような動きをしていた。

しかし、そんな動きをしていた味方艦たちが、次々に撃破されてマーカーが消えていく。

「コーネリアス閣下、敵が機動騎士を出撃させたために被害が広がっています」

冷静に状況を報告してくる部下に、コーネリアスは小さく何度も頷いていた。

「私でも同じことをする。こちらも機動騎士を出撃させて相手をさせろ。そもそも、数の上ではこちらが勝っているのだ。負ける道理はない。そう……本来なら負ける道理はない」

どこかでこの道理を打ち破って欲しい、とコーネリアスは心の中で思っていた。

(お前たちの実力を私に見せてくれ。さぁ、もっとだ。この程度では死なぬのだろう? もっと私を興奮させてくれ)