軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

コーネリアス

コーネリアス・セレ・クランシーは、久しぶりに心が躍っていた。

ブリッジから暴れ回る敵総旗艦の姿をモニターで眺めながら、整えられたアゴ髭を撫でる。

「覇王国の連中を相手にしているような感覚があるな。いや、もっと狡猾か?」

コーネリアス率いる本隊は、たった数隻のために内部に問題を抱えてしまった。

接近してくるバンフィールド家の本隊に対し、有効な手が打てていない。

遠距離から攻撃するにしても、リアムが暴れ回っているため空白地たちが生まれていた。

そこを利用して敵艦隊の接近を許してしまっている。

しかし、だ。

「これが普通の相手であれば通用しただろうに……ただ、我らは帝国の三騎士だぞ」

コーネリアスがそう言うと、両翼の艦隊も動きを見せる。

本隊を支援するために広がりを見せたバンフィールド家の艦隊を、阿吽の呼吸で近付けさせないように展開する。

近付きたいティアやマリーの艦隊に対して、リアムたちを背にするように迎え撃っていた。

コーネリアスは右手をゆっくりと前に出して言う。

「自ら飛び込んできた愚か者たちを丁寧に持てなしてやれ……十万隻だ。その数で囲んで丁寧に焼くといい。光学兵器に焼かれる敵は、さぞ良い声を出して鳴くだろう」

愚か者たち、とリアムたちを評しながらも、コーネリアスは楽しそうにしている。

本隊がコーネリアスの命令で艦列を変えると、アルゴスと護衛艦の全周囲を取り囲んで船首を向けた。

取り囲んで球状になったそれの前に、残りの三十万隻が前に出てバンフィールド家本隊の相手をする。

コーネリアスはリアムとクラウスを閉じ込め、そして本隊の相手をするという選択肢を選んだ。

「私が敵本隊を始末しても生き残っていたのなら、また相手をしてやろう」

コーネリアスはリアムたちから意識を目の前のバンフィールド家本隊に向けた。

敵右翼……ティアに対するエルジンは、背を丸めて眠そうな姿で専用のシートに座っていた。

彼の目の前には簡易三次元映像が展開され、戦場の様子を常に魅入っている。

簡易と言っても他のものよりも精密で、情報量が多い。

常人であれば把握しきれない情報を、エルジンは常に頭に叩き込んで作戦を考えていた。

だからこそ、バンフィールド家の異常さに気付いた。

「敵本隊が阿呆な真似をしたかと思えば、両翼がほとんど同じタイミングで動き出したか……打ち合わせをしたようなタイムラグもない。精強でいて、主従がまとまり意思統一が出来ている……今代では最強の艦隊だろうな」

自分たちがいなければ、と前置きはつくとしてもエルジンは敵を高く評価していた。

「……だが、俺を前にその動きは駄目だ」

リアムを救うため、そして本隊を支援するため、作戦を変えたティアにエルジンの艦隊は攻撃を行う。

両者が激しく光学兵器を撃ち合っているのだが、敵の数の方が減りは早い。

エルジンは簡易三次元映像に向かって、聞こえていないだろうティアに語りかけるように喋る。

「君たちの不運は、俺たちの敵に回ったことだ。今代最強だろうとも、歴代最強には及ばないと証明されたね」

その頃、ティアはブリッジで声を張り上げていた。

大量に流れてくる情報を処理しながら、目を血走らせている。

「ネチネチしつこい戦い方しやがって! てめぇ、絶対に嫌な奴だろ! 私にはわかるからな!」

聞こえていないだろう敵の左翼指揮艦に、罵声を放った。

お前も宇宙海賊に対しては嫌な奴を通り越して、最悪な奴だろうに……とは、ブリッジクルーたちも言えない様子だった。

副官のクローディアが慌てて駆け寄ると、ティアに飲み物を渡す。

「ティア様、落ち着いてください! それから、栄養補給に飲み物をどうぞ」

ティアが受け取った飲み物は、これ一本で騎士になった超人に必要な栄養素やカロリー、それら一日分を摂取できる優れた飲み物だ。

ただし、不味い。

非常に不味い。

それを一息に飲み干したティアは、パックをクローディアに返却すると口元を手で拭う。

少し落ち着いたのか、冷静に敵の指揮官について考察し始める。

「……ありがとう。それはそうと、敵の指揮官は随分と手強いわね」

「帝国ともなるとこれ程の人材が隠されているのですね」

「首都星防衛の切り札か……一体、誰を連れて来たのやら」

ティアは考えつつも、味方へと指示を出す。

「数十隻単位の小規模集団を作りなさい。敵艦隊が防御に徹するなら、こちらも戦い方を変えるわよ」

シールド艦を前に出し、その両側に戦艦や巡洋艦……駆逐艦などは後方に下げ、小規模な集団が敵の猛攻を凌ぎつつ反撃する。

下手な艦隊なら自分たちの有効射程外から敵が攻撃を仕掛け、命中して破壊されていく時点で崩れていたはずだ。

しかし、鍛え上げたバンフィールド家の艦隊は揺るがない。

その様子を見て、ティアは見えない敵の指揮官に向かって言う。

「そちらも精鋭でしょうけど、こちらも精鋭なのよ」

敵右翼を指揮するディーディーは、コーネリアスが敵総旗艦を十万隻で取り囲んだと知ると呆れた様子を見せていた。

「筆頭騎士様もやることがえげつないというか、徹底しているというべきか……これ、もう終わったようなものでしょ」

コールドスリープから目覚めてからの初戦闘が、まさか敵総大将の自爆に近い行為で終わりを迎えようとしている。

肩透かし感を味わうディーディーは、目の前の艦隊に意識を向ける。

「それにしても、マリーは相変わらず見る目がないわね。どちらに着いた方が得かを考えられない頭だから、いつまでもあたしに負け続けるのよ」

今もリアムを救うために艦隊を指揮しているだろう元同僚に、ディーディーは薄らと笑みを浮かべていた。

「捕まえたら、また石にして保存してやってもいいわね。昔から、あいつのこと気に入らなかったのよねぇ」

既に勝ちを確信しつつも、ディーディーは無闇に仕掛けることはない。

リアムが討たれたという情報を待ってから、行動を起こすつもりでいた。

それまでは、マリーを本隊に近付けさせなければいいだけだ。

ディーディーと対するマリーは、我慢の限界を超えていた。

激高する領域を超えて、今は冷静に相手を殺すことだけを考えている。

「あの腐れ女ぁ……あたくしをリアム様のもとに行かせないために、徹底して防御の構えかよ」

殺気を放っているマリーに、ブリッジクルーたちは顔を背けて見ないようにしていた。

いつ暴走して暴れるかわからない状態で、既に爆弾扱いだ。

しかし、そんな状態のマリーの相手をするのが副官のヘイディだ。

彼には逃げるという選択肢が与えられていない。

怯えつつもマリーに話しかける。

「リアムの大将も十万の敵に囲まれているのはきついから助けたいよな」

「当たり前だろうが!」

「ひっ!? だ、だが、敵本隊から十万隻が消えたと思えば悪くないんじゃないか? 本隊の連中も動き出したし、この差は大きいと思うぜ」

味方の本隊が敵本隊を数の差を利用して押し勝てば、リアム救助に間に合う……というヘイディに予想にマリーは冷静に否定する。

「ディーディーが右翼に配置されているとなれば、中央はもっと強い騎士がいてもおかしくないでしょ」

「名誉職が置かれているかもしれないぞ」

「そんな奴は、十万隻も使ってリアム様を囲もうとしないわ」

「それもそうか」

マリーは腕を組むと思案する。

(何か一手……きっかけでもあればいい。目の前のディーディーはこの際どうでもいいとして、リアム様だけは救わなければ……だが、あたくしの手持ちではディーディー相手が精一杯だわ)

マリーはこのままの状況が続くのは不味いと思いながらも、動けずにいた。

十万隻の艦隊に囲まれたアルゴスのブリッジでは、クラウスの表情も普段より苦々しいものになっていた。

周囲もその様子に現状がクラウスでも危機を感じているのだと判断し、焦りが出始めている。

通信たちの声もどこか焦り気味だ。

「護衛艦の防御フィールドが限界に迫りつつあります!」

「アルゴス護衛一番艦、被弾! 損傷軽微ながらも防御フィールドが限界を迎えつつあります!」

「三番艦、敵艦隊への突撃を希望しています」

クラウスは内心では、胃が痛いと床にうずくまりたい気持ちだが耐えていた。

「突撃など却下だ。護衛艦たちをアルゴスに接近させろ。アルゴスの防御フィールドを拡大し、しばらく休ませてやれ」

(もう限界だから、撃破される前に味方の撤退路を確保するつもりか? いや、無謀すぎるから止めてくれ!!)

それを聞いたブリッジクルーたちの何名かは驚いた顔で振り返った。

「それではアルゴスの負担が何倍にも膨れ上げります!?」

確かにそうなのだが、このまま護衛艦たちが撃破されれば士気に関わる。

また、アルゴスならば耐えきれるという可能性があった。

それと同時に、クラウスは時間稼ぎをしたかった。

「……味方が来るまで耐えてくれればいい。リアム様とチェンシーたちの様子はどうか?」

ブリッジクルーに問い掛けるが、反応は悪い。

「この状況ではどちらの反応も追えません。ただ、リアム様の方は敵艦隊へ攻撃を続けており無事であるのは確認しています」

アルゴスを取り囲む敵艦隊に、アヴィドが襲いかかり破壊しまくっている……だが、それでもたった一機の機動騎士では十万隻の相手は厳しい。

アルゴスが味方艦を守るように防御フィールドを広げると、護衛艦たちの様子をクラウスは確認して眉をひそめる。

(超弩級戦艦……それも防御に特化した第七自慢の戦艦がボロボロか)

第七自慢の超弩級戦艦でなければ、耐えきれなかっただろう。

今は応急修理を急いでいるようだが、アルゴスの負担が大きくなり続ける。

「アルゴスの出力が限界に迫りつつあります!」

「防御フィールドの維持、このままでは数時間が限界です!」

「敵艦隊の攻撃、更に増えています!」

自分たちが限界に近付いていると知り、攻撃を更に強める敵艦隊を前にクラウスは言う。

「味方が必ず来る。それまで耐えればいい」

(もうそれしか出来ないよぉぉぉ!!)

その時だった。

通信士が目を大きく見開き、何かに聞き入っていた。

聞き終わると、クラウスに向かって笑みを浮かべて声を張り上げる。

「クラウス閣下の言う通りでした! 味方が来てくれました!」

それを聞いてブリッジクルーたちから歓喜の声が上がる中、クラウスは普段通りの無表情で言う。

「……そうか」

(え? 本隊は敵本隊と向かい合っているはずでは?)

戦場を一時的に離れていた艦隊……ナイトナンバー「3」のエレンは、五万隻の艦隊で敵艦隊の裏側に回り込んでいた。

ブリッジではシートに座らず立ちながら指揮を執っている。

目の前には自分の師であり、主君であるリアムを取り囲む十万隻の敵艦隊。

そして、エレン率いる艦隊の隣には――。

「まさか、同じ行動を取るとは思わなかったわね」

――ナイトナンバー「4」のエマ率いる艦隊が、敵艦隊の後方に回り込んでいた。

作戦会議をしたわけでも、示し合わせたわけでもない。

リアムが無謀な突撃をした時には、エレンは自分の権限をフル活用して艦隊を動かしていた。

味方を取り囲んだ敵艦隊に向け、エレンは言い放つ。

「師匠……リアム様を救出します。攻撃開始!」

その命令を受けて艦隊が攻撃を開始すると、またも同じタイミングでエマたちの艦隊も攻撃を開始するのだった。

リアムたちを取り囲んでいる敵艦隊は、不意打ちを食らって次々に撃破されていくのだった。