軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

117話「戦と戦の間隙_01」

「そういえばクラリス。シムリカのやつらが話したいことがあると言ってたぞ」

無事にヴォルト・クラウスを取り込み、それでは早速とばかりにヴォルトに砦の案内をしてくれとビアンテに任せたらレガロを探し出したので可哀想になぁと他人事のように思っていると、ふと獅子姫ラプス・クルーガが言った。

シムリカというのは、ラプスが連れていた三人の 土竜(モグラ) 獣人、モール族とかいう頭まですっぽりフードを被った連中だ。

「ふむ? 話したいことがあるなら聞くぞ、私は」

そういえばごたごたしていたので、ラプスの護衛の山猫獣人ネルヴァとも、ヌーの爺さんであるロッパ・ガラッハとも、そんなに喋っていなかった。

そんなことを言えば、これまでだって出会った全員と夜通し語り合ったわけではないのだが、話がしたいなら拒否する理由はない。時間が許せば。

というわけで、彼らがいつもいるという食事広場へ。

食事広場は――なんというか、デパートのフードコートみたいな感じになっている。飯をつくっている牛獣人の女たちを中心に、配膳をするやつら、飯を受け取るやつ、食べるやつ、誰も彼もが和気あいあいとしていて、人族の騎士団をぶち殺しまくった翌日にしてはあまりにも平和だった。

「あっ、クラリス様よ」

「まぁまぁまあ! やっぱりユーノス様がお隣に控えてるのね!」

「みんなで集まってどうしたのかしら?」

「きゃー! やっぱりカワイイわ! あんなに凄いのにね!」

などと、おっぱい獣人たちが黄色い声を出したりしているが、雑にクラリスマイルを振りまいておく。それでまた「きゃー!」なんて黄色い声が上がったりするのだが、楽しそうなのでよしとする。

ちなみに私の隣を歩いているユーノスはガン無視だ。塩対応ですらない無対応にて護身完了というわけだ。

ともあれ。

食事広場の端、並べられた長机の隅っこあたりに、土竜獣人の三名と山猫獣人、それに何故か陰キャ魔人種のカルローザが一緒に座っていた。ヌーのお爺ちゃんはと言えば、食事広場の真ん中あたりでいろんなやつと喋っている。

「あ! クラクラクラ……クラリス様じゃないですかぁ……ふへへ……」

集まっている中の誰もこっちに反応しなかったせいか、キョロキョロと周囲を見回してからカルローザが変な笑い方をした。

なかなか面白いやつなので、私はこの女が結構好きである。

私はちょっとばかり悪戯心が湧いてしまい、不必要にカルローザへずいずい近づき、彼女の頭を両手で左右から が(・) し(・) っ(・) と掴んだ。それから表情を半分くらい隠しているぼさぼさの長い髪を、ぐいっと掻き分けて顔を見つめて微笑んでみる。

「ヒョえ!? あっ、あっ、あっ! なに!? なんですかクラクラクラリス様!」

「いや、特に意味はないぞ。クラクラクラリスに用事があるのは、そっちの三人だって聞いたから、足を運んできたのだ」

めっちゃリアクションが面白かったので、クラクラクラリスはクラリス・満足・グローリアになった。

が、話が進まないのでカルローザの髪をさっと直して――乱して、というべきか――やり、土竜獣人たちに向き直る。

相変わらず、三人が三人とも、フードをすっぽり被っている上に無口なせいで、見た感じからは内側を推察できない。

ので、水を向けてやる。

「話があると聞いた。どんな話だ?」

「姫がクラリスの配下になったと聞いた。それならば、 己(おれ) たちも、クラリスの配下ということになる。構わないか?」

「そりゃあ、おまえたちが構わないならな。別に、ラプスの下にいるけど私の下にいたくないってんでも、私は構わないぞ」

「いや、それだとよく判らないことになる。こういうのは、判りやすい方がいい。己たちは、姫について行けば、別の何処かへ出られると思った。姫がおまえの下を選んだなら、己たちが辿り着くべき場所はここだったということ」

「ふぅん?」

よく判らないので首を傾げる。

土竜獣人たちは三人が三人、それぞれ顔を見合わせてからフードを取り払い、白目のない真っ黒な眼球を私へ向けた。

印象としては――擬人化したモグラを、ちょっとデフォルメしたらこんな感じだろうか。濃灰色の体毛は短く、つやつやしている。イオタ・ポロみたいなコボルト族よりはヒトに近いが、犬獣人のアルト・ヤマトよりはぬいぐるみに近い。身長も、コボルトよりちょっと高いくらいだろうか。

「己たちモール族は、精霊種に近い獣人。土と石の固有魔法が使える。クラリスのつくった壁、その中を走らせている魔鉄筋は、とても見事。すごい」

「あれは、すごい」

「そう、とても、すごい」

ぺちぺちぺち、と柔らかそうな手を叩くモグラたち。なんとなく私もぱちぱちと手を叩いておいたが、特に誰も反応しなかった。

「クラリスたちが『神の迷宮』から鉄を持ち出して、ドワーフが鍛冶をしていることは、なんとなく知っている」

「誰も隠してない」

「でも場所は知らない。判らない」

「まあ、仲間以外に教えるようなものでもないからな」

ある意味、最高機密ではある。例のダンジョンに関してはレクス・アスカでさえ知らない――はずだ。私たちの内側に女豹のスパイが混じっていればその限りではないが、とりあえず表向きは知らないことになっている。

「己たちを、迷宮と鍛冶場に連れて行って欲しい」

「己たちは、土と石の魔法を使える」

「己たちは、鉄や魔石を加工できる」

「鉄の加工?」

「例えば、獣人たちの使う剣。そこのネルヴァが使う山刀は、己たち土竜獣人がつくってやったもの」

「悪くない出来」

「だけど魔鉄筋の方がいい」

「ほうほう」

ちょっとした謎が解けた瞬間だった。獣人たちの中に鍛冶師がいたというより、魔法で武器を創り出すような獣人がいたということか。

「もしかして、手伝いたいのか?」

という私の問いに、モグラたちは三人そろってこくりと首を縦に振った。

「己たち、ここにいても、暇だ」

「己たち、できることがある」

「己たち、ドワーフの鍛冶に、興味ある」

「迷宮にも興味ある」

「迷宮について判るかも知れない」

「己たちは、精霊に近いから」

あっ、この輪唱みたいに話す感じ、ちょっと懐かしさがある。

しかし『双子のギレット』に対して抱いていたような不快感は、モグラたちからは感じない。私がギレット姉弟に感じていた、ある種の心配に――おそらくモール族は到達しないだろうという奇妙な確信があった。

空高く、天を貫き、月へ届け……みたいな感じでは、彼らはない。

ギレット姉弟には、たぶん際限というものがなかった。

「じゃあ、まあいいか。案内しよう」

と私は言って、ユーノスをチラ見する。

「判った。ジェイドとアルトを手配する。カタリナも連れて行け。ラプスは残して……そうだな、せいぜい四日といったところか?」

「連中が極めて有能であった場合でも、まあそんなもんだろう。軍を組織し直すには手間も時間もかかるはずだ。ヴォルトはこっちに引き込んだしな」

敵――ティアント領騎士団はもはやまともな部隊を編成できないだろう、という予測があった。であれば、ヴォルトがいうところの『陣所』にあるだけの戦力で砦をもう一度攻めてみよう、なんて話になるわけがない。

なにしろ持っている戦力のほとんどを投入して突撃し、まったく損害を与えることなく敗走したのだ。たぶん六十人くらいは重軽傷を負わせたはずで、報告によれば十三人は死んでいる。

仮に『放蕩王子』が自分の戦力を魔境の陣所へ予め呼んでいたとしても――たぶんそれはないと思うが――その場で部隊を編成したりなんだりで、時間というものが必要になるはずだ。

つまり、今は間隙なのだ。

こちらとあちら、お互いにとっての。

もちろんここで私たちの全戦力を魔境の『陣所』へ向かわせれば、問題なく殲滅できるだろう。しかしそれをしては、おそらくあちらが引くに引けなくなる。

重要なのは、落とし所だ。

これは大抵の問題に共通する要点である。

「他になにかあるか?」

「カイラインが戻って来たら岩山地帯まで寄越せ。直接報告を聞くし、聞きたいこともある。万が一にも連中が押し寄せたら、どうにかしてこっちに連絡を取れ。迎撃に専念すればまず抜かれないとは思うが、隙を見せたら打って出てもいいぞ」

「敵の偵察はどうする?」

「丘を越えてグロリアスの領域に近づこうとしてきたら殺せ。単独で砦の周辺を探るようなら、これも殺していい。丘の稜線あたりからこっちを窺っているようなら、それは放っておけ。ただ、人数が多かったらゾンダたちを使って威嚇しろ。なんなら殺していい」

「判った。それじゃあ、ちょっと待ってろ」

言葉少なに答え、ユーノスはさっと踵を返して歩き出した。

本当に頼りになるやつになったなぁ、なんて感慨と共にグロリアスの長の背中を眺めていると、

「――ふひひ! ク、クラリス様とユーノスって、ふふ、夫婦みたいですね! なんて! なんちゃって……あっ、あっ、ぁ……ごめんなさい! えへへ……ちょっと言ってみたかっただけですぅ……ふひひ」

と、カルローザが一人でテンションを上げ下げしながら変な笑い方をした。

やっぱりこいつ、結構好きだな。面白くて。