軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

112話「対ティアント領騎士団_04」

時間を少々遡る。

砦の外壁が完成した日のことだ。

◆◆◆

「これがクラリスの砦か! すげー面白くない見た目だな!」

完成した外壁を見上げて遠慮なく笑う獅子姫ラプス・クルーガの態度には、他意というものが感じられなかった。

飾り気のない『壁』を見て、面白くないと思ったからそう言った。そこに見下しもなければ嘲りもない。

「装飾とかは全部うっちゃらかしたからな。本当は外壁の外側に石を積み上げるようにくっつけて偽装したかったが、とりあえずはいいとしよう」

「あの『壁』の上にでかい弓を配置して、撃ちまくるんだな」

砦の外壁は、なんとなく六角形にした。真四角にしてもよかったのだが、あっちからこっちに駆けつけるとき、こちらの方が楽そうだったからだ。

この『外壁』が区切っている面積は、だいたい公立の中学校とそのグラウンドをすっぽり覆うくらいだろうか。内にあるのはいまのところ寄宿舎と食事広場と備蓄の倉庫、それに馬や牛を入れておくための厩舎で、ぶっちゃけると砦の中には強いて守るものはなにもない。

砦が守るべきは、私たちの生命なのだ。

たぶんちゃんとした『外壁』を造るのであれば、ちょっとした塔みたいな部分と壁の部分を連結させていくのだろうが、今回は鉄骨鉄筋コンクリート造なので、塔に当たる部分はドワーフ謹製の魔鉄骨が構造的役割を担っている。なので完成した『壁』は、マジで壁にしか見えないのだった。

言うなら、窓のないマンション、とでもいうような外観。

「投石機も使うけどな。とにかく防御のための施設だ。攻撃に関しては、こっちの反撃で敵を多少崩してから戦力を投入する。たぶん、人族の騎士団が相手なら、グロリアスの戦力で蹂躙できる」

明確に対魔族を想定して戦力を集めたエスカードでの戦いでさえ、人族側にはかなりの被害が出ていた。ティアント領の騎士団に魔人種と獣人の混成軍を相手にするための戦力など、あると考えるほうがおかしい。

「ふぅん。ところでクラリス。ウチはおまえの下につくことに決めたぞ」

そういえば近所のコンビニの新製品があんまり美味くなかったよ、というくらいの軽さで、ラプスがそんな科白を口にする。

本当にさらっと言ったので、うっかり聞き逃しそうになった。

ラプスは私の顔を見てちょっと楽しそうに微笑み、続けた。

「あれこれ考えたが、ウチは別に父様のようになりたかったわけじゃない。都に戻ってみれば兄様が獣王をやっていたが、ああいうふうになりたいわけでもない。あの女豹がクラリスを見に行けと言ったのも、今はなんとなく理由がわかる」

「理由?」

あの低身長巨乳女豹は、単にラプスの相手をするのが面倒だったのではないか……と、半分くらいは本気で思っていたのだが。

「ウチはおまえのようにできたらよかったのだと思う。だけどウチはおまえのようにはできない。たった五十日くらいでこんな砦を建てろと言われても、ウチには無理だ。父様にも無理だろう。たぶん女豹にも無理だな」

「五十日よりもっと前から準備していたに決まってるだろ。私だってそんな短期間を与えられても、無理なものは無理だ」

「父様の配下は――」

私の言葉を無視して、ラプスは言う。

「――たぶん、たくさんのやつが、嫌そうだった。そういうやつらは父様の力に平伏したし、だから従うけど、それが楽しいわけじゃなかったんだ。ウチはそれが結構、嫌だった。つまんねーことがどんどん増えていく気がしたからだ」

だから喧嘩になった。

ぶっ殺されそうになって逃げたけど。

獣王の娘は、本当にわずかだけ寂しそうに笑んだ。

「クラリス・グローリア。おまえのところは、楽しい。ウチの下にたくさんのやつを集めてもきっとこうはならない。それに、ウチも楽しかった。ゾンダと一緒に荷運びをしたり、なんだかよく判らん建築の手伝いをしたり、みんなと一緒に飯を食ったり、牛の女たちと笑い合ったり、マイアと手合わせをしたり……」

それは、私が楽しい場所を提供したということにはならない。

あんなふうになれ、こんなふうにしろ、なんて指示を私はしていないからだ。どのような何者になるかは、各々が決めればいい。

行きがかり上、一緒になったり誘ったり吸収したり従えたりしたが、ほとんど好き勝手やらせている。何故か誰もが私の言うことを聞くが、だからといって支配したいわけでもない。むしろ御免だ、そんなのは。

「ここにいたい。そう思った。そう思ったからには、おまえの上に立つことはできん。ウチは、おまえの場所にいたいと思ったんだ。だから、おまえの下につく。ウチをおまえの仲間に入れてくれ」

にっこりと――陽射しの中で咲き誇る 向日葵(ひまわり) みたいに笑う。

小さな子供が、公園で遊んでいる別の子供に「一緒に遊ぼう」というような、それはそういう笑い方だった。

◇◇◇

で、現在。

「あっはっはっは! なんだこれ! すげーなクラリス! 全然戦ってないのに敵がぶち殺されてるじゃないか! こりゃあひどいぞ!」

大急ぎで砦の中へ逃げ込み、そのままダッシュで外壁の上へ登ってきたラプス・クルーガは、これ以上ないほどの 呵々大笑(かかたいしょう) を見せた。

眼下には、外壁の最上段に取り付けた弩砲に射られて地面に縫い付けられた騎士団員。どうにか剣で弾いたりした者もいるようだが、射られた者の大半は致命傷か重傷を負っているだろう。

「いや、確かにひどいな。本当に無策で突っ込んで来た。あの剣士の剣撃は予想を超えて強力だったが……威力だけならランドール並かも知れんな」

微妙に眉根を寄せて呟くのはユーノスだ。

確かに、敵の中にいた金髪の剣士が放った『剣撃』は、かつてスペイド城壁を破壊したランドールの『爪』に劣らぬ一撃に思えたが、それでも砦の外壁を破壊できず、門扉に至っては無傷に近いだろう。

「おう、クラリス! おまえがくれたスコップ! こいつはいいな! 穴掘り道具を振り回して武器になるなんてな!」

がははと笑いながらラプスに遅れてやって来たのは猪獣人のゾンダ・パウガ。造ったのは私ではないので、賛辞は制作担当のラフトに送るべきだが、今はそういうやり取りは後回し。

「おい、あれを見ろ。最初に剣で矢を弾いたやつ。たぶんあれが部隊長だ。まだ連中にユーノスたちの姿を見せないほうがいいだろうから、ゾンダとラプスは、戻ってきて早々に悪いが、あいつを回収してくれ」

「ん? おー、あれか。最初に見合ったときになんか大声で叫んでたやつだな」

とかなんとかやっている間にも、オークたちがバリスタの弦を引き、トーラス族の男たちが狙って撃っている。

バゴッ、みたいな射撃音。

次の瞬間には眼下で誰かが射殺されている。

部隊長を失った騎士団の連中は明らかに戸惑っており、何人かの魔術師が壁門へ魔術を放っていたが、全くの無意味だった。門に使用しているのは当然だが魔鉄であり、頑丈さでいうなら壁よりずっと硬いのだ。

その分、開閉には滑車を使ったカラクリ機構が必要になったが。

重すぎて開けられないのだ。普通のやつには。

「あの金髪の剣士は――さすがに退くか。他の騎士団員とは毛色が違う。助っ人かなにかか? まあいい。それと一応、向こうの弓使いは警戒しておけ」

そういえばなんか対物ライフルをぶっ放したような威力の矢を放ってきたやつもいた。その狙撃はバリスタよりもよっぽど高火力だったが、壁をぶち抜くには相性が悪かったようだ。

魔鉄骨魔鉄筋コンクリートは、魔力への耐性が高いらしい。そしてこの世界において高火力を実現しようとすれば、魔力に頼るのが当然である。

たぶん、火薬で撃ち出す大砲を使った方が、外壁の破壊は叶うだろう。

大砲とか火薬とか、この世界ではあまりメジャーではないが。

「あ、そうそう、ラプスはちゃんと名乗ったんだろ。だったら連中に撤退を促してやれ。退却するなら攻撃を止めてやるとでも言えばいい」

ぶっちゃけ、皆殺しにしても死体の処理が面倒なだけだ。

「いいぞ。さすがに笑ってしまったが、こうなったらそんなに面白いもんでもないしな。クラリス、他に何人か捕虜を取るか?」

「いや、あの隊長だけでいい。あまりにもあんまりなんでちょっと驚いたが、こうなってしまえば敵の狙いも予想できる」

まずはティアント領騎士団が、獣人たちに突っ掛かった。

そしてあっさり敗走する。壊滅状態といっていい。

ラプスに説明した通り、これでティアント領は「王のモノを損なった」ということになる。その状況はこちらの思う通りではあるが、ここまであっさりこうなってしまえば、 他(・) の(・) 誰(・) か(・) の(・) 思(・) う(・) 通(・) り(・) で(・) も(・) あ(・) る(・) と考えるべきだ。

「ふぅん……? まあいいや。ゾンダ、ウチについてこい。バリスタを使ってるやつらは、ウチらを撃つなよ!」

言って、獅子姫はひょいと外壁の上から飛び降りた。

続いて身長二メートル半はあろうかという猪獣人も、同じように。

高さはだいたい七メートルほどだろうか。

獅子は軽やかに着地して一直線に敵隊長の元へ走り出す。猪は冗談めいた着地の衝撃を周囲へ巻き散らかしながら、スコップを振り回して手近にいた騎士たちをなにかのついでみたいにぶっ散らかしていた。

すぐにラプスが大声を上げ、騎士団に対して撤退勧告を告げる。

ああいう振る舞いは血の為せる業というべきか、ラプスが声を張り上げると、なんとなく聞き入ってしまう、そういうカリスマみたいなものがある。

そんな獅子姫が、私の下につきたがるというのは……なんだかなぁ、と思うが。

「隊長を捕らえてどうする?」

射手たちに射撃を止めさせ、ユーノスがなんだか楽しげに私に問う。

「そりゃあ、捕まえたなら話を聞くさ」

あんな恐るべき間抜けな突撃を敢行した部隊長がまともな人物であるとは考え難いが、それでも敵の内情を知れる分だけは知っておきたい。

「ユーノス。白兵戦に至らせなかったのは僥倖だぞ。こっちの手の内は砦とバリスタしか見せてない。カイラインを使って偵察をさせろ。たぶん敵の中に策士気取りがいる。そいつにとって、ティアント領騎士団は捨て駒だ」

「……その策士気取りの狙いはなんだ?」

「おそらくだが、レクス・アスカと似たようなもんだ」

負傷者を抱えて逃げていく騎士団――放置された死者もいたが――の背中を見下ろしながら、私は進化を望んだ女豹の名を口にした。

まったく、策士というやつはどうして他人を巻き込みたがるのか。

他人を巻き込みまくっている私に言えた義理ではないが……それでも言わせてもらうなら、私は他人を巻き込みたがったことなどないのだ。

いや、まあ、たぶん。