作品タイトル不明
魔王陛下の使者
「紹介するぜ、俺の相棒のジェズ。吸血鬼だ。」
私の隣には黒くて大きい蝙蝠がいた。羽を広げれば5,6メートルはあるだろうか?モフモフの顔からピンと立った大きな耳がこちらに片方向いていた。目が意外と大きくてくりくりだ。可愛い。ヴォルデさんはジェズさんにベッドを譲り、窓辺に背を預けて立っていた。
「ジェズ、人間の国で流行っている薬について、話してくれ。」
彼はくりくりの目出回りをぐるっと見回すと、鋭い牙を持った口を開いた。
「最近人間の国で、媚薬なる薬が流行っている。魔王国ではコレの原料は大体決まっているんだ。夢魔の体液か、吸血鬼の唾液だ。」
そこでジェズさんがヴォルデさんのためのお茶を躊躇なく飲んだ。意外と器用だ。その間にヴォルデさんが話を引き継いだ。
「魔力が多い魔族には、これらはまあ、おまじない程度にしか効果が無いことが分かっている。俺には夢魔の体液は利かないし、吸血鬼の唾液は効果がない。魔力が少ない子供には効くこともあるから、注意するようにって法律はあるが。あー、人間の赤ちゃんに蜂蜜を食べさせてはいけないのと同じだな。成長したら平気になる。」
なるほど。お茶を飲み干したジェズさんがまた口を開いた。
「魔王国内ではあまり効かないが、人間にはよく効くんだ。だから魔王陛下が輸出禁止物に指定した。夢魔のほうは精力剤、吸血鬼のほうは強力な媚薬になってしまう可能性があるんだ。それが、最近クロス王国で売られているという話を聞いた。魔王国から流れていたら、これは違法薬物の輸出問題になるからな。」
そこでジェズさんはヴォルデさんを見た。彼はにこりと笑った。
「ジェズには手始めにグリーン領を回ってもらって噂を聞いてもらったんだが、興味深いことが分かった。いろいろ経路を見たんだが、どうやら魔王国から流れている薬ではないらしいようなんだ。」
ここまで黙っていたクリス殿下が、懐からピンクの小瓶を取り出した。
「もしや、出回っている薬とはこれのことですか?」
それは娼館街に行った時になぜか、クリス殿下が買っていたあの薬だった。ジェズさんがそれを受け取り、ふたを開け少しカギヅメで舐めていた。
「ああ、これだこれ。現物が入手できなかったんだ、助かった。やっぱりこれは、夢魔でも吸血鬼でもねえな。効果が薄すぎる。」
「やっぱし、蝙蝠男のか?」
「ああ。まずいな。」
そういってジェズさんは考え込んでしまったのか、瓶を見て難しい顔をしていた。
「何がまずいんですか?」
私がヴォルデさんに声をかけると、少し渋い顔で答えてくれた。
「うん、吸血鬼になるには、蝙蝠からスタートして、レベルアップして・・・、具体的には魔力だまりで修業したりしてある一定のレベルに達すると蝙蝠男になれるんだ。その時蝙蝠男はまだ亜人なんだ。そこからさらに魔法レベルだとか経験値を積んでそしてようやく一部の蝙蝠男が、吸血鬼に・・・そうだな、進化する。」
「では、コウモリ男とは、その吸血鬼になる前の亜人、という理解でいいでしょうか?」
彼らは一様に頷いてくれた。何だかとてもゲームっぽい話だ。
「蝙蝠男は羽根を広げると3メートルほど、吸血鬼の俺より一回り小さい。普通のコウモリよりはだいぶ大きいが、筋力は人間と同程度で、小さい蝙蝠になってバラバラに移動することなど、吸血鬼の能力がまだ使えないんだ。」
「そうそう、意外とか弱いんだよな。」
「もし、人間に捕まっていたら、きっと逃げられない。ただ・・・。生息区域がだいぶ違う。蝙蝠男になるコウモリは魔物で、魔王国にしか生息していない。あまり強くないから洞窟の魔力だまりから出ようとしない個体が多い。」
「じゃあ、どうやって・・・?」
私は当然の疑問を投げかけたつもりだったが、あたりが静まり返ってしまった。そういえば魔族とのハーフが亜人、とも言っていた。
「どこかの吸血鬼が人間との間に子供を作ったなら、コウモリ男が生まれるな。他にも方法が無きにしも非ずだが。」
そこでヴォルデさんが言葉を濁した。
「どちらにしろ、魔王国から遠く離れた場所で蝙蝠男になってしまった、同胞がいるってことだな。薬の件もあるし、このまま放置しておけない。そしてこの、薄い薬はこのグリーン領を中心に出荷されているんだ。製造もここで行っているだろうと踏んで調査をしていたんだ。ちょうど魔王陛下から協定のために使者の証明書があるから、堂々とグリーン領内で調査できるってこいつが言い出して・・・。」
そういってジェズさんはヴォルデさんを指さした。今のところ魔王国との国交はなく、交渉などは各領地の領分とされていた。道すがらに魔王国から禁止薬物の流通経路を調べたいと申し出がグリーン領にあったとすれば、グリーン領は突っぱねることなどできないだろう。
「そう、んでもう一つ調べたいことがあったからこの領に来たんだよね~。」
彼はポケットから紙を取り出した。四つ折りになっていたそれには丸い線に幾何学模様と文字が書かれていた。所謂、魔方陣だ。すごくゲームっぽい!
「俺とモニカさんが攫われたじゃん?その時にこれが使われたんだよねぇ。これは魔王陛下が開発して魔力を込めた移動用魔方陣。魔王国内には地方都市を結ぶために整備はされているけど、使える人は限られている、緊急手段ってとこかな。もちろん国外への持ち出しは厳禁。」
ここで口を開いたのは第三王子殿下だった。
「モニカをさらったやつらはその後、どこに?」
「ああ、魔王陛下に魔法陣を見てもらったら、ちょっと手を加えられていて、魔王国の郊外の森に移動するようになっていてね、その森をさ迷っていた所を捕まえて、魔法陣持ち出しの罪だけで懲役230年になったから、今牧場で労役についてるよ。」
アメリカの刑務所みたいに、死んでも牢につないでいるのかしら?しかし捕まったのならよかった。
「こちらでも彼らは罪を犯したから、取り調べがしたいのだが、そういった事はできるのだろうか?」
「それは国交ないから無理じゃない?」
ここで没交渉だったことが裏目に出ていた。犯罪者引き渡し協定を先に整備していればこういう事態になった時スムーズに行ったのだが。魔王国との交渉などは不浄が移ると考えている人間も多く、積極的に行われなかった。ローファス領の協定も100年更新ということから、開国からの協定ということで続けているのだろう。
「ん~一応結構つらい目に遭っているし、それで留飲下げてくれるといいんだけど。あ、調査団を組んで魔王国に話を聞きに来るっていうんなら多分大丈夫だと思うけど、人間には魔王国って辛いだろうし、おすすめはしないかな。ご飯合わないし、異形の魔族が多いし。」
これは元人間だったヴォルデさんならではの視点だと感じた。
「なんか聞きたいことあるなら俺が聞いて来てもいいけど。ま、俺が信用できるならね。」
「なるほど、考えておく。」
「それで、また魔法陣の話に戻るけど、この魔方陣を、魔王陛下が魔力の痕跡を詳しく調べたところによると、クロス王国のグリーン領にもう一つ魔法陣の書かれたものがありそうだという結果になったんだ。また犯罪に使われてもしゃくだし、回収してきてほしいって言われてさ。大体地図にしるしをもらってきたから、それも調べようと思って。」
地図にはグリーン領からローファス領への街道近くに丸印がついていた。クリス殿下が地図を覗き込んでいた。
「ここは・・・、ラペットの屋敷に近いね。」
一緒に地図を見ていた第三王子殿下が兄の方を向いた。
「もともと『静かの海』商会が持っていた建物ですから、魔法陣が置かれていても不思議ではないですね。」
「じゃあ、みんなでとりあえずその屋敷に向かう?」
ここまでローファス伯爵の隣で静かに座っていたリエッタ様が口を開いた。
「そうですね、一度王都に戻ったら調査なんてできないでしょうから。」
第三王子殿下が頷いた。どうやら屋敷への興味が勝ったらしい。そのまま何事もなく逃がしてくれたらいいのに。