軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

こじれた初恋

「後はなんか話し合いがあるんだよね?」

ヴォルデさんがそういってジェズさんを伴い隣の部屋に移動して行った。どちらにしろ今日はこの宿で部屋を取ったし、そうなると時間があるわけだ。彼らが出て行ってから別の緊張感が漂ってきた。

「それでは何があったのか、お話しいただけますか?王妃陛下。」

口火を切ったのは今まであまり口を挟まず、王妃様の隣でソファに腰かけていたローファス伯爵だった。

「だから、貴方からの手紙を見て、わたくしも離婚してやろうと思って、飛び出してきたのよ。」

圧倒的に情報量が少ない中で、ローファス伯爵は頭を抱えていた。

「だって城にいても仕事はほとんど第二妃がしているし、何かしようにも国王陛下の監視があってうっとうしいし。もう嫌になったの。わたくしが教会に行って誰に会ってどんな話をしたとか把握してるのよ、気持ち悪いったらないわ。」

「それは私たちもですから・・・。」

まあまあとなだめていたのは意外にも、クリス殿下だった。王妃様は第三王子殿下擁立派なため、監視も厳しかったのだろう。

「しかし国王陛下がそれだけで諦めるとは考えにくいですね。ということは、第三王子殿下はそのためにこちらに?」

そういってローファス伯爵は第三王子殿下に目を向けた。

「ああ、それからモニカを王都に連れて行くためにな。」

ローファス伯爵は首を巡らせ、息子で止めた。二人の顔は無表情に近い。こういうところに血筋を感じた。

「それはなぜです?」

端的にローファス伯爵が聞いた。

「私にくれたクッキーが、王太子妃の作ったものだったんだ。そのクッキーについて王都にて話を聞きたい。」

私はため息だけついた。いったいどうしたらいいのだろう。

「お言葉ですが、リチャード殿下。」

そこでレオン様が一歩前に出た。

「当時モニカ嬢はリチャード殿下に、帰ってから祈力検査を受け、ケイト卿に報告してから食べるようにと助言しています。それは一緒にいたミランダ嬢もそう証言しており、またこちらにいるロイ卿もその発言を聞いたと記憶しております。」

「そうですね、モニカ嬢は再三、そう言っていました。」

ロイ様がにこりと笑いながら答えた。私も必死に首を肯定に振った。当時の私は確かに、馬車で第三王子殿下がお菓子を食べているのを知っていた。それに付け込んだとい言われると苦しいのだが、それでも検査をするようにとは言った。

「つまり、王太子妃殿下の作ったものであってもそうでなかったとしても、検査をしていれば防げた事故だったと処理されています。」

レオン様はじっと、第三王子殿下を見た。当の殿下は少し目を見開き、驚いた顔をしていた。

「ちょっと無理やりなんじゃないのリチャード。検査をせずに食べたのはあなたが悪いんだから。だから前から言っていたんじゃない、買い食いはやめなさいって。それともどうしても馬車で食べなければならない理由でもあったの?」

母親からの言葉に、第三王子殿下は珍しくうなだれていた。もしやこれって王都行きを回避できたのでは?!レオン様にやり込められる姿など想像もしなかったし、リエッタ様が援護射撃をしてくれることも意外だった。

「・・・わかりました。」

そう呟いた第三王子殿下に私は思わず口を両手でふさいだ。うれし過ぎてベッドの上で飛び跳ねそうになったのを、必死に止めた。こんなメンツの前で素直にはしゃげるわけがない。口角が上がるのが止められないので、俯き加減に口をおさえることしかできなかった。先ほどまでどうしようとそればかりだったのに。やっとこれでローファス領に行ける。

「でも母上には帰ってきてもらいますよ。」

ああ、そうだった、リエッタ様も一緒にローファス領へ行きたい。こっちの問題はどうしたらいいのだろう。

「はあ~国王陛下もなんであんなにしつこいのかしらね~さっさと離婚してくれればいいのに。」

これまで一緒の馬車での移動で、国王陛下の話題が出たときは9割の確率で、ここから愚痴が始まった。きっとそうなるだろうと安易に考えていた。

「それは、王妃様が、国王陛下の初恋だから仕方ないんじゃないですか?」

な?

ローファス伯爵はすずしい顔で爆弾をこの部屋に落とした。もちろん二人の子息である、クリス殿下と第三王子殿下はもちろんのこと、ロイ様もレオン様も動きを止めた。視線はリエッタ様に注がれていた。

「は?何言ってんの?国王陛下はわたくしとローズとどっちと結婚したいかって前国王陛下に聞かれたとき、迷わずローズと答えたのよ。そんなわけないじゃない。」

「・・・、あの、もしや、国王陛下は王妃様に、何も話していらっしゃらない?」

そこそこ人数がいるのに、この部屋は二人以外のものは息を殺していた。聞いてはいけないものを聞いている、そういう確信があった。

「何エレン、どういうこと?」

そこで初めてローファス伯爵の顔色が青くなった。

「いえ、その、そういった昔話はされていないんですか?」

「話すわけないでしょ。だって国王陛下の顔も見たくないもの。ここ数年は離宮で暮らしていて、顔を合わせるのは行事の時に隣に座るときだけよ。その前も第二妃のところに入り浸っていたし。」

「ああ、そう、なん、ですね。」

視線を窓の外の空の雲にもっていったローファス伯爵は、しばしば口を閉じた。また部屋に沈黙が落ちた。

「王妃様、国王陛下はひねくれものだということはお分かりですよね。」

「ええ。昔から性格が悪いわよね。」

「それだけではありません。幼少からの教育により、好きなものは『隠す』それが染みついている方でもあります。王族としては致し方ないことだと・・・しかしそれがご結婚後もそうだったなんて。国王陛下なら誰よりも、あなたを大事にしてくれると思っていたんですが・・・。」

つまりは国王陛下がリエッタ様に第三王子殿下を差し向けたのは、ひとえに離婚したくないためだったと、そういうことか。しかし話を聞く限り国王陛下の婚約者はローズ様だったはずだ。婚約者を決めるという大事な時に、素直にリエッタ様と言えない理由でもあったのか?

「何言ってんのか全く分からないわよ。わたくしは昔から嫌われていたじゃない。」

「いえ、それは、断じて、違うと言い切れます。・・・昔国王陛下に、ケイオスと問い詰めたことがありましたから。リエッタ様と口げんかが多かったため、何かあったのかと。そうしたら陛下はその時、白状なさいました。ついつい意地悪な言い方をしてしまうと。思ってもいないことを言ってしまって困っていると。決して嫌っているわけじゃないと言っていました。数年後に学園に入ってからは物腰も柔らかくなったので、てっきりそれは治ったのかと。」

「はぁ~?!そういうのは直接私に言いなさいよ。甘えてんじゃないわよ。言わなくても分かるとでも思っているの?わたくしは今の今までずっと嫌われていると思って生きてきました。貴方が嘘をついていないのは百も承知だけど、今までの言葉、行動、態度を見て、そう判断したの。国王陛下がエレンに嘘をついているとしか思えないわ。」

ローファス伯爵も食い下がろうとして、しかしうまい言葉が出てこないようだった。

「あのねぇ、わたくしは数日前まで王妃だったの。その間に何年、話す機会があったと思う?食事の後に少しわたくしの離宮に来ればよかっただけ。行事の時に後ほど時間が欲しいと言えばよかっただけ、何なら離宮から話があるから来いと呼び付ければよかっただけ。たったそれだけの労力も、わたくしにかけることができなかった、それが国王陛下であり、今の状況よ。ないがしろにしてきたつけが回って来ただけだし、どんな言葉を言われてもその過ぎ去った時間は変わらない。その間にうまくやって行こうとしていた気持ちも消え失せたの。もう後戻りなんてできない、したくない。考える時間だけは腐るほどあったからね。」

言葉には棘はあったが投げやりではなかった。最後はすがすがしささえ感じる言葉の軽さだった。

「陛下を、お支えする気持ちはないと・・・?」

「ないわね、まったく。もう、ローファス領でアンバーとホットワインを飲むことしか考えてないわ。」

馬車の中の世間話で、私がホットワインを飲んだことがないと聞いたリエッタ様が、向こうに着いたら作ってあげるわと言ってくれたのだ。

ローファス伯爵は深いため息をついて、天井の木目を見上げた。

「わかりました、そこまでのお覚悟なら、私は何も言いません。ローファス領にお連れいたしましょう。」

パッと明るくなったリエッタ様は遠い目をしたままのローファス伯爵に抱き着いた。

「ありがとうエレン!やっぱり貴方って頼りになるわ!」