作品タイトル不明
亜人と魔人
リエッタ様が落ち着いてから集合場所の宿屋についた。今夜分の宿を取り、一番大きな6人部屋に話し合いのため集まることとなった。メンバーはリエッタ様とローファス伯爵、ヴォルデさんと第三王子殿下、クリス王太子殿下とレオン様とロイ様と私だ。一応盗聴対策で両隣の部屋を私たちで取った。今そこにはフィナとイーリス夫人、第三王子殿下の護衛たちと、御者たちが固めていた。
このメンツでの話し合いは気が重い。ローファス領に行きたい私とリエッタ様。それを阻止したい国王陛下の代理の第三王子殿下。賛成なのか反対なのか分からないローファス伯爵と、魔王陛下の使いのヴォルデさん。正直状況はカオスだ。第三王子殿下が本気を出せば、私など丸め込まれるのは目に見えていた。
「レオンから、少しリチャードと話したと聞いたけど、大丈夫だった?」
クリス殿下が抑えた声で話しかけてきた。レオン様はローファス伯爵と一緒にリエッタ様を支えて階段を上がって二階の部屋に行ったので、私が一人で行こうとしたときに、クリス殿下がスマートにエスコートしてくれた。
「はい。わたくしもちゃんと顔をあげてお話ししようと思いまして、きちんと出来たと思います。交渉は決裂いたしましたが。」
そうなんだ、と穏やかに笑った彼は、それでも第一歩だよね、と柔らかく言ってくれた。クリス殿下は昔から、春の日差しのような人だ。その場にいるだけで空気が温かくなる。不思議な人だった。
「クリス殿下はいい馬はいましたか?」
ガタン。
角を曲がったところに、扉を開けて立っている第三王子殿下と、ロイ様がいた。
「モニカ、今、クリス殿下と・・・。」
ひどく顔色の悪い第三王子殿下に指摘されて、はっとした。
「あら、わたくしとしたことが、失礼いたしました。若様。」
「あ、それまだ続けるの?」
くすくすと笑い出したクリス殿下のほうを向いた。
「そりゃあ、もちろんです。どこから情報が洩れるか分かりません。最後までやり切りましょう。」
「真面目だね~。」
あまりにクリス殿下が笑うから、私も何となく楽しくなってきた。私に兄はいなかったが、いたらこんな感じかもしれない。
扉を開けたままにしてくれた第三王子殿下の前を横切って、部屋の中に入った。ヴォルデさんにレオン様が、何か飲めるものを持ってきますと言っていた。食べられる果実や菓子、適温など聞くところが、さすが気づかい上手。私もお手伝いするべくレオン様に指示をもらいに行った。
「モニカ嬢はヴォルデ殿とお知り合いなんですよね?でしたら席はお隣に。他国からいらした方のお話を聞くのも立派なおもてなしですよ。」
そうさらっと言って自分はお茶くみに行ってしまった。さすが第三王子殿下の従者だっただけある。私がベッドに座っているヴォルデさんの隣に行くと、彼は私の耳元に口の先を持って来た。もうちょっとでモフモフのお顔に触れそうだ。
「モニカさんの彼氏っていい人すぎない?気遣いが鬼レベルだったよ?最初部屋の温度から聞いてきたからね?種族の違いがありますのでって。」
(彼・・・?!違います違います!とんでもないです。)
ちょっと聞き捨てならない言葉があった。とたんに顔が真っ赤になった自覚があった。とっさに声をおさえて反論した。
(え、ええ?違うの?へ~違うの?ふーん、さっき馬車に乗る前なんかあの、 白髪(はくはつ) の子と二人でくっ付いていたからさ、てっきりそうなのかと。そっか~まだ違うんだ~じゃあお兄さんに恋バナ言っちゃいなよ。話聞くよ?こっそりね。)
ごにょごにょと小声で話していた。ピコっと耳を立てたりしているヴォルデさんは、身長2メートル超えている大きなオオカミだが、今、目が1.5倍くらい大きくなって可愛らしい。興味津々だ。
そんなんじゃ全然ないのに・・・。そう思って少し哀しくなった。
レオン様に、私はどう思われているのだろう?嫌われてはいない、とは思う。自領に呼んでくださるくらいなのだから、能力については高く評価してくださっているだろう。それに生徒会での3年間でかなり気楽に話せる仲になったと自負していた。いい友人には、なれている筈だ。少し下を向いた。
「そんなんじゃありません。親しい友人ですよ。」
「ふ~ん、友人ねぇ。」
その時部屋にレオン様が戻ってきた。ドアの外にいた第三王子殿下とロイ様が入ってきて、これで全員がそろった。さすがにこの人数が一部屋に集まると窮屈に思えた。特に私の隣に座っているのは身長2メートルの大男だ。
「それよりヴォルデさんはずっと狼の姿なんですか?」
「狼の姿?」
第三王子殿下が私の言葉に反応した。ヴォルデさんは第三王子殿下をちらりとみてから、頭の上についたモフモフの耳をピコピコ動かした。
「ああ、俺は人狼だからね。こっちのほうが魔王陛下の使者って感じだろ?」
「狼男ではないんですか。」
今度はレオン様が皆に飲み物を配りながら首をかしげた。
「狼男は亜人だけど、俺は人狼で魔人だからね~。」
その時馬の空気が一気に固まったのを感じた。しかし私にはその理由が全く分からなかった。
「不勉強で申し訳ないのですが、亜人と魔人の違いとは何でしょう?」
「うん、難しいよね。亜人も魔人も魔族なんだけど、人間とのハーフが亜人。生まれながらの魔族が魔人だね、簡単に言うと。俺の場合は両親とも人狼で魔人だったから、俺も人狼で魔人。」
「なるほど、そうなんですね。」
私が感心していると、ローファス伯爵が口を開いた。
「今、ヴォルデ殿は100年ぶりの協定の更新に来てくださったんだ。」
「協定、ですか?」
魔王国との間に協定があったなんて知らなかった。しかし第三王子殿下やリエッタ様が驚いていないところを見ると、国としては知っていることなのだろう。
「そう。ローファス領と100年前に締結した協定なんだけどさ、ちょっと改定したいから交渉に来たんだ。それから、もう一つ。」
おもむろに立ち上がったヴォルデさんは、窓を開け放って手を外に出した。ひらひらと手招きすると黒い塊が私が座っているベッドに乗っかり、私の体が少し浮いた。
「紹介するぜ、俺の相棒のジェズ。吸血鬼だ。」