軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

襲来②

「タイミングがいいとはこのことですね。」

食事の下げられた食堂には独特の緊張感が漂っていた。相反する派閥に属す、王妃様と王太子殿下がいるからだ。

「それで、王太子殿下はどうして本日こちらへ?」

「モニカ嬢と、バージェス公爵とこれからのことについて、ちょっと相談しようと思って来たっていうのは、実は口実なんだ。」

私は小首を傾げた。

「口実ですか?」

王太子殿下は私を見てから、レオン様のほうを見て、そしてにこりと笑った。

「卒業式にね、来賓として出る予定だったんだけど、私も父も出れなかったでしょう?だからケイトを派遣したんだけどね、卒業パーティのひと騒動。報告を受けたよ。」

そこで私は思わず押し黙った。肩口まで短くなった髪は、確かに扱いやすくなったが、貴族令嬢としてはみっともない長さだ。今日も後ろでお団子にしてバレッタで止め、まとめている風になっていた。

とたんにバージェス夫婦とレオン様の顔が曇った。何があったの?と王妃様が王太子殿下に聞くと、かいつまんで事情を話しだした。ケイト卿からずいぶん詳細な報告が上がったようだ。

「な、んですって?」

髪型で隠されていたため気が付かなかったのだろう、王妃様が驚いていた。まあ、前世の記憶のある私としては、短い髪に抵抗はないが、貴族女性としては長い髪はステータスなわけだから、フィナが大事にしてくれていた。

「動きやすくなって、個人的には気に入っております。」

「・・・、本当は謝りたかったんだけど、モニカ嬢がそう言うなら、なんというのが正解かな?ああ、髪の長さで君のかわいらしさが減るわけでは、けしてないけどね。」

そんなお世辞をにこやかに、さらっと言ってしまえるあたり本物の王子様だ。自分の言葉が国民にどう受け取られるか、常に考えていらっしゃるのだろう。

「しかし、よくそんなに詳しくご存知ですね。」

「ケイトを卒業パーティに行かせてたからね、そしたら、レオンとモニカ嬢が何やら内緒話をしていたらしいね。レオンは前に、モニカ嬢をローファス領に文官として誘っていたって聞いていたし、それなら『卒業式に間に合わなかったのに、レオンが卒業式当日に王都に来たこと』って、もしかしてモニカ嬢を連れて領地に帰るのかなって。」

そして今度はレオン様の顔をじっと見てからにこりと笑った。

「きっとリチャードはそれに気が付いてないよ。気が付いていたら王都を封鎖して、モニカ嬢を捕まえる。」

「え、なんでそんな・・・。わたくしを捕まえても何もないですが。」

王都封鎖なんて物騒な。国王陛下が王妃様を捕らえるならいざ知らず、なんで私なんて?

「最近の第三王子殿下は何か、おかしいですわ。」

以前だったら、王族の、それも王妃様と王太子殿下の前でこんなことは言えなかった。しかし今は肯定の意なのか、二人とも黙ってしまった。

今、第三王子殿下のお隣には我らがヒロイン・シエナ様がいるというのに、私なんて追いかけている暇はないだろう。来年シエナ様が卒業されたら、ついに二人の結婚式で、その準備が始まっているはずなのに。それともほかに何か私を捕まえてメリットでもあるのだろうか?シエナ様の侍女とか?

「・・・それでね、今日私が来たのは、どうしても、グリーン領に行きたいんだ。」

王太子殿下の突拍子もない発言に、しばし唖然としてしまった。その間にバージェス公爵閣下が問いかけた。

「殿下、なぜグリーン領に行きたいと?それもご自身で?」

頷いてから紙をテーブルに広げた。どこかの屋敷の図面だ。

「これは以前『静かの海商会』の荷物置きの倉庫から見つかった、ラペットに譲渡された屋敷だ。この図面にははっきり、地下の独房が描かれている。そして王太子妃の予算からここで人を雇ったり、買い物したりしているようだった。ここで何が行われていたのか。それを私は知らなければならない。」

王太子妃の予算を使っているとなると、確かに王太子も無関係ではない。そこで行われていたことがもし、不正行為だったとしたら、知らなかったでは済まされない。

「これはこの間グリーン領を調べたときに、騎士団を派遣しなかったんですか?」

「この時はまだラペットの持ち物ということで、特に調査はされなかった。しかし今は違う。ラペットのものだからこそちゃんと調査しなくてはならない。・・・後悔先に立たずだけど。」

ふうとため息をついて下を向いてしまった。

「それで、貴方がグリーン領に行ったら、きっとその間にリチャード派が大勢になるんじゃないの。」

ここまで黙って聞いていた王妃様が口を開いた。パッと顔をあげた殿下は思わず母親のほうを見た。

「・・・、正直、この地下牢の図面を見たとき、私はいやな予感がしたんです。その時すぐに調査していれば、リチャードは毒を盛られることもなかったかもしれません。私はここで何が行われていたか、知る必要があると思います。」

「ふうん。わたくしはあの子が王太子妃になるのは反対していたって覚えておいて頂戴ね。もっと、まともな娘にしてって貴方にも国王陛下にも何度も言ったから。」

冷たい物言いだが、王妃様は確かに王太子妃殿下を嫌っていた。あまりかかわりのない私にも愚痴を言うほどだ。

「わかっています。今年リチャードは卒業しました。もう子供とは扱えなくなります。そこで、私よりもリチャードが王に相応しいという話は必ず出てくるでしょう。王妃様はそれを分かっていて今まで静観なさっていたのでしょう?」

「・・・、リチャードなら実力を発揮すればおのずと王に押されるでしょう。それだけの技量がある。その第一歩の時に王太子が席を外すなんて、リチャードに席を譲ったようなものよ。国王陛下の許可なんて取ってないでしょ。私だったら反対するわ。」

「それは、覚悟しております。時間があったのに日々の業務にかまけて、対処を怠った私の責任です。私がグリーン領に行っている間にリチャードが王宮を掌握していたら、リチャードが王太子になればいいし、間に合ったら私が続投します。どちらにしても出奔と王太子妃の監督責任によって廃嫡されそうではありますが。」

それは捨て身の、無謀な賭けに思えた。王太子派に組さない最大勢力のグリーン侯爵家の陥落が先か、第三王子殿下派閥が大勢になるか。王妃様もいない、王太子殿下もいない王宮がどういう動きになるのか読めない。

「まあ、なるようになるでしょう。バージェス公爵家としてはリチャードとシエナが無事に結婚してくれれば問題ありません。後継者問題だって次の世代に持ち越したっていいですし。わたくしたちはシエナとモニカが二人の思い通りの生き方ができれば、それでいいのですわ。」

公爵夫人がのんびり言った。公爵閣下もそうだね、と少し笑った。

「バージェス公爵家にはまた、尻拭いばかりさせてしまって申し訳ないです。」

すまなそうに小さくなった王太子殿下は、下を向いた。公爵閣下は夫人の肩を抱き寄せて、そんなのまったく思ったことはないよ、と笑って言った。

「そこで、王太子殿下がグリーン領に行きたいのは分かりました。国王陛下には相談されていないということも。そこでうちに来た理由というのは?」

「ああ、うん。一緒に出発してほしいんだ。国王陛下に許可を取っていないから、私にも近衛兵を送られる可能性がある。グリーン領は西の街道だろうし、ローファス領は北のヴィヴィエ領を通っていくからそっちにも兵を出さなきゃだよね?分散できたら止められることなくグリーン領に行けるかな、と思ってね。」

なるほど分散作戦か、確かにこちらもそのほうが都合がいい。レオン様を見ると何やら考え込んでいる様子だった。

「お兄様は王妃様を優先しそうだと思うわ。問題はリチャードね。単騎でグリーン領に行くか、北の街道でモニカのほうに行くか。」

「とにかく荷物だけは積み込んで準備でき次第出発したほうがいいね。」

公爵閣下がそう言って席を立った。