軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

卒業パーティ1

卒業式の後は夕方から夜にかけてパーティ開かれる。煌びやかな会場にはおのおの着飾った貴族子女が、パートナーと談笑していた。ファーストダンスはやはり爵位順もあり、第三王子殿下とシエナ様が務めていた。相変わらず激しくも美しい、息ぴったりのダンスだ。辞退して本当によかった。

「モニカ先輩!なんでドレスじゃないんですか?」

焦ったような口調のミランダさんが、小走りでこちらにやって来た。そう、私は今制服だった。本来公爵令嬢という立場ならドレスが妥当ではあるが、数日前に第三王子殿下に誘われた件で、少し嫌な予感がした。制服の生徒はドレスを持っていない方たちや、着替えるのが面倒だったと思われる騎士科の男子生徒など、少なくない数の生徒がいた。要するに任意なので、制服にしたのだ。

「今日で最後なんですから、良いではないですか。それにミランダさんだって制服でしょう。」

「私は本日は生徒会ですから!・・・なにかあったの?」

いぶかしげなミランダさんはさすが、勘が鋭い。少し手持ち無沙汰になってしまって、ポーチに手を伸ばした。

「実は・・・。」

そう言いかけたとき、歓声があがり、第三王子殿下とシエナ様終わったらしく、二人がお辞儀をしていた。

「さあ皆も今日は思いっきり踊ろう!」

第三王子殿下のその掛け声で仕切り直しになった音楽がかかり、生徒たちがパートナーと笑顔でホールにかける姿が続いた。先ほどからあった厳かな雰囲気は一気に、親しみやすいダンスパーティに変貌を遂げたのだ。まったく、空気を作るのは本当に第三王子殿下にかなう人はいない。私は空気を凍らせることは出来ても、解きほぐすことはできないのだ。これは天性の物といっても過言ではない。

「すごいですね、相変わらず。」

その呟きは歓声に消えた。やはり、住む世界の違う住人という認識が増した。

「なんて言ったんです?先輩。」

「いえ、レオン様は間に合いませんでしたね。」

「そうですね、ずっと待っていたんですけどね。どうしたんでしょうか。何か聞いてます?」

「いいえ。まったく。」

「モニカ、なんで制服で来たんだ?」

後ろから気軽に声をかけられた。第三王子殿下がシエナ様の手を引いてやってきた。ぞくりと背筋に冷たいものが落ちた。小さく息を吐きだして、背中に力を込めて振りむいた。

照明に照らされてヒロイン、シエナ様と一緒にやって来た攻略対象である第三王子殿下は、まるでスチルのごとくさまになっていた。

私はそんな光景にも、ただただ冷や汗を流しながらすまし顔で答えることにした。

「はい、最後ですので、制服で参加しようと思いまして。」

不満そうな顔を見て、作戦の成功を確信した。第三王子殿下はこういう時のための礼服を着ている。実に煌びやかだ。ゲームの卒業式はもちろん、シエナ様とのイベントがある。つまりドレスでも着なければ釣り合いの取れない格好をしているということだ。卒業式であるから本当は最後に着飾りたい気持ちもあったが、まあいい。ダンスを踊ることを回避するほうを全力で優先した。

それに、ドレスを着たって、レオン様もいないのだし。

チラリと出入り口を見たが、やはり待ち人は来ていなかった。

視線を第三王子殿下から離した時、少しだけ皮肉気に笑ったような気がした。そんな笑い方は久しぶりだった。

「そうか、では、モニカ私と踊ってくれないか?」

手を差し出した第三王子殿下に、私は絶句してしまった。事前に何度も断って、当日服装の落差もあるにもかかわらず、また誘うの?

「学生のダンスパーティなんだから、服装なんて気にしなくていいだろう?」

そうして指をさした先には、壁の花になっていた制服を着ている平民出身の生徒たちだった。ダンスフロアには制服の生徒は行きづらいのか、みんな友人と固まっておしゃべりをしていた。

確かに第三王子殿下が制服を着た生徒と踊れば、彼らもダンスを楽しめるだろう。それは確かにそうだ。ここは第三王子殿下の誘いに乗るべきだ。生徒会という身分も、ここではプラスになるだろう。先ほど第三王子殿下が作った、カジュアルな雰囲気はダンスフロアへの踏み出す勇気を後押ししていた。

しかしそれを上回るほど、絶対に踊りたくなかった。

昔どれほど、振り回されたことか。第三王子殿下のダンスに、全くついて行けずにフロアを1周するのだけでも大変だった。もちろん第三王子殿下に一部の非もなく、全部すべて私の技量不足のせいだ。頭では分かっているし、あれから私だって練習した。人目に耐えうるくらいになったと自負していた。

でも、でも、体は上手く動かない。差し出された手さえ怖い。顔をあげるのが怖い。頭がぼんやりして何も考えられなかった。

どうしよう、踊らないためには何と言ったらいい?この会場から逃げ出すのはどうしたらいい?どうしよう。ああ制服が裏目に出るなんて。

そこで無意味に手を動かせば、ウエストポーチに手がいった。

私の右手はハサミを持ち、左手は目の前にあった黒髪を鷲掴みしていた。

ジャキン。ジョキジョキジョキジョキ・・・

足元に私の髪がパラパラと落ちていた。

「モニカ・・・。」

誰の声か息を呑む音がした。ざわめきが遠くに聞こえる。

「何しているんです?!モニカ嬢!」

声に顔をあげた。ずっと待ち望んでいた、レオン様だ。

せわしなく視線を動かし、こちらへ大股でやって来た彼に、私は心からホッとした。そして手のハサミを取り上げられた。私の手は驚くほど冷たく震えていた。

「どういうことです?」

顔を覗きこまれ、しかしレオン様の顔はよく見えなかった。眼鏡が曇ったんだろうか。

「ちょっとこっちに来なさい。殿下、御前失礼いたします。」

手を肩を、レオン様にしては強めに握られて、ミランダ嬢、と声をかけていた。頷く気配だけを感じて歩き出した。

「じゃあ、私が踊って差し上げますよ!殿下。私も制服ですから。」

わざとらしくおどけたようなミランダさんの声が後ろから聞こえた。

迷惑をかけてしまった。