軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第085話 実験

俺は非常に気まずい思いをしながら会計を終えると、ギルドに向かい、サツキさんにヨシノさんへアイテム袋を売ったことを報告した。

そして、その日はそのまま帰り、家でゴロゴロすることにした。

夕方になると、カエデちゃんが帰ってきたため、2人でご飯を食べる。

ご飯を食べ終えると、ソファーでのまったりタイムが始まった。

「取引は無事に終わりました?」

隣に座っているカエデちゃんがビールを片手に聞いてくる。

「終わった。予定通り4250万円で売れたよ」

午後から数えたけど、ちゃんとあった。

絶対にちょろまかしていると思ったのに……

「良かったですねー」

「着々とお金が貯まっていくね」

「ですねー…………ところで、先輩はなんでまだエレノアさんなんです?」

俺は家に帰ってからも、カエデちゃんが帰ってからもずっとエレノアさんのままだ。

もちろん、理由がある。

「カエデちゃん、ちょっと実験に付き合ってよ」

「実験?」

「そうそう…………じゃーん!」

俺はカバンから強化ポーション(防)を取り出す。

「ポーション? 見たことがない色ですし、それが強化ポーションですか?」

「だねー」

俺はそう答えると、強化ポーション(防)を飲みだす。

「あー、チェイサーだわー」

俺は強化ポーション(防)を飲み干すと、口直しに缶ビールを飲んだ。

「贅沢なチェイサーですねー」

まあね。

いくらで売れるかはわからないけど、軽く何十万にはなるだろう。

「よし! まずはカエデちゃん、叩いてみて」

「えー……先輩をですかー? 自分でやってくださいよ」

カエデちゃんは嫌そうだ。

「実はさ、この強化ポーションの効果がよくわかんないんだよね。自分でつねっても痛かったし、剣で指を軽く切ってみたら切れた」

痛かったけど、すぐに回復ポーションをかけたので問題ない。

「よく自分で切れますね…………でも、言われてみると、防御力アップって何でしょうね?」

「だよね。当然だけど、肌は柔らかいまま」

俺はお腹を出し、つねってみる。

「確かにぷにぷにですねー」

カエデちゃんが俺の柔らかいお腹をつついてきた。

「でしょー。効果がわかんないんだよ。だからカエデちゃんに攻撃してほしいんだわ」

「なるほど……それで叩いてほしい、と…………いや、それでなんでエレノアさん? 叩きにくいですよ」

「沖田君だと嫌じゃん。カエデちゃんに殴られると泣きそうになるわ」

心のオアシスであるカエデちゃんが暴力的になったら死ぬ。

「えー……エレノアさんは良いんです?」

「この人は沖田君じゃないから」

「その線引きがよくわからないですけど、じゃあ…………」

カエデちゃんはそう言うと、俺の頭をぺちんと叩いた。

「いや、よえーよ」

「えー……」

「強くお願い。日頃のストレスをぶつけて」

働かないサツキさんへのうっぷんを込めよう!

「わかりましたー…………私がお風呂に入っている時に廊下をウロチョロすんな!」

カエデちゃんが俺の頭をばしーんと叩いてきた。

「仕事のストレスを込めてほしかったなー……」

別に他意はないのに……

カエデちゃんが着替えを忘れて、バスタオル一枚で出てくるのを待っているだけなのに……

「いや、先輩が悪いでしょ。それよりかダメージはどうです?」

俺はそう言われて、頭をさする。

「痛くないね。うーん、じゃあ、次はこれ」

俺はカバンから昔使っていた竹刀を取り出した。

「マジです? ガチで折檻じゃないですか」

カエデちゃんがちょっと引いている。

「よろしく。失敗しても回復ポーションがあるから」

「ものすごくやりたくないんですけど…………」

「ナナポンのためを思って。試しておかないと危ない」

使うにしても、どのレベルまで耐えられるかを知っておかないといけないのだ。

「ハァ……? じゃあ、やります」

「次は俺への不満はなしね」

「わかりました…………人の胸ばっか見んな!」

カエデちゃんはそう言うと、結構な振りで竹刀を振り下ろし、俺の頭を叩いてくる。

すると、頭に衝撃が走ったものの痛くもなく、ダメージはなかった。

「カエデちゃんさー、不満はやめてよ」

俺は頭をさすりながら文句を言う。

「別に不満ではないです。一度も注意したことないでしょ」

「ふーん……ところで、女子は見られていることがわかるってホントなの?」

「エレノアさんも男性の方と話せばわかりますよ。視線が不自然に下に落ちますもん。先輩は特にわかりやすいです」

「へー……」

気を付けよう。

カエデちゃんは優しいし、許してくれるだろうけど、危険な女がいる。

あの人は金を請求してきそうだ。

「それでダメージはどうです? まあ、なさそうですけど」

「だねー。普通は竹刀で殴られるとかなり痛いんだけど、ダメージゼロ。防御力強化は他人からの攻撃時に発動するっぽいね。しかも、強力」

「先輩、私にもそのポーションを1つください」

カエデちゃんが手を出してきたので、カバンから強化ポーション(防)を取り出し、カエデちゃんに渡す。

すると、カエデちゃんが強化ポーション(防)を一気飲みした。

「チェイサーです!」

「贅沢だねー」

カエデちゃんは空になったペットフラスコをテーブルに置くと、自分で腕をつねったり、頬をぺちんぺちんと叩いたりする。

「わからない…………先輩、叩いてください」

「やだ!」

絶対に嫌だわ。

なんでカエデちゃんを叩かなあかんねん。

「いや、叩かれないとわからないじゃないですか。ほら、普段の不満と共にどーんと!」

カエデちゃんがそう言って、頭を差し出してきたのでとりあえず、撫でておく。

「うーん、不満ねー……」

カエデちゃんに不満?

ねーよ。

「何かあるでしょ?」

「えー……ないよー。部屋の鍵を閉めるくらい?」

「それは普通です。開けてほしかったら役所に紙を取りに行け」

今度、役所に行こ。

「不満もないし、殴れんなー」

なでなで。

「じゃあ、前職の不満をぶつけてください」

「カエデちゃんがバラバラ死体になっちゃうよ」

「怖っ……撫で方がヘタクソになってきてるし、マジだ…………じゃあ、ナナカちゃんへの不満」

俺はそう言われて、撫でるのをやめた。

「良いところは全部、エレノアさんで悪いところは沖田君のせいにするのをやめろ!」

カエデちゃんの頭からすぱーんといい音が出た。

「気持ちはわかります」

カエデちゃんが頭をさすりながら頷く。

「チェンジっていう言葉がすげー傷つく」

夜のお店のお姉さん達の気持ちがすごくわかった。

「エレノアさんを慕っているんですよ」

それはわかるが、だからといって沖田君を蔑むなや。

差別だ。

「ちなみに、痛かった?」

「全然。すごいですね」

「だよね。カエデちゃん、包丁で俺の腕を切ってみてよ」

「それはさすがに嫌です」

やっぱりそうだわな。

この辺を実験したいんだが、難しい。

「これ以上はダメかー。フライパンとかトンカチも考えていたんだけど」

「下手すれば、死んじゃいますよ。他の強化ポーションを作ってみて、推測するしかありませんね。速さと攻撃力アップはわかりやすいでしょ」

確かにそっちで確認した方がいいな。

「そうするわ。あと、カエデちゃんさー、フワフワ草の採取の依頼ってできない? 取りにいくのめんどい」

「できますよ。やっておきましょうか?」

「おねがい。数は問わないから」

効果時間が1時間だし、大量に作っておきたい。

「依頼料はどのくらいにしましょう?」

「相場ってある?」

俺は依頼をしたこともないし、受けたこともないのでそのへんがわからない。

「ないですねー。じゃあ、500円にしておきましょうか」

「安くない?」

「指名依頼ではないですし、そのくらいで十分ですよ。ウチのギルドは初心者さんが多いですし、冒険のついでに小金稼ぎって感じで持って帰ってくれると思います。草ですし、持ち運びが簡単ですもん」

ねこじゃらしを2束でも採取したら昼飯代が浮くと考えればいいかもしれんな。

「じゃあ、それでおねがい。エレノアさんと沖田君のどっちの名義にしよう?」

「匿名でできますよ」

「じゃあ、それで。あ、これをあげるからこれで払って」

俺はカエデちゃんに4250万円が入ったカバンを渡す。

「先輩、前から思ってたんですけど、私がこのお金を勝手に使うとは思わないんですか?」

「使えばいいじゃん。何のために性別を変えてまで何十億も稼いでると思ってんだよ。全部あげる」

散財しろ。

俺も使いまくるから。

問題は使い道が思い浮かばないこと。

「先輩、大好きー!」

カエデちゃんがそう言って、抱きついてきた。

かわいいヤツめ!

「チッ! エレノアさんになるんじゃなかったわ」

「早く戻ってくださいよ。一緒に飲みましょうよー」

さっさと着替えてチェイサーを飲むか……