作品タイトル不明
第500話 契約延長
早速だけど、【超越する愛】と【ドランクバンク】のところに向かい、契約延長の話をしてこようと思う。
レティシアさんにはしっかりとお礼を伝えてから、デザートの差し入れを受け取ってもらい、私は『ニールマート』を後にした。
アポを取った方がいいのは分かっているけど、時間がないため、冒険者ギルドに行き、拠点のない【超越する愛】の皆さんには連絡を取ってもらいつつ、私は【ドランクバンク】が取り仕切っている建物へと向かった。
アランさんがいてくれたらいいんだけど、いなくても子供たちが覚えていてくれたら何とかなるはず。
そんな希望を持ちながら、建物のベルを鳴らした。
ベルを鳴らすと、中から飛び出してきたのは、見覚えのある犬獣人の男の子。
「アランさん! おかえ――って、あんた誰だ!?」
「ジョシュ君、お久しぶりです。私のことを覚えていますか?」
「な、なんで俺の名前を知っているんだよ!」
私は名前を覚えていたんだけど、どうやら顔は覚えられていなかったみたい。
少しだけ悲しいけど、漫画のことを伝えれば、きっと思い出してもらえるはず。
「以前、漫画を持ってきたんだけど……覚えていないかな?」
「漫画? あーっ! あの面白い本のおじさんだ! お菓子も美味しかった!」
「思い出してくれたみたいで良かったです。今、アランさんはいますか?」
「アランさんはいない! 今日も漫画とお菓子を持ってきてくれたの?」
キラキラとした目を向けてくるジョシュ君だけど、残念ながらまだ漫画は完成していない。
お菓子も今日は渡すつもりはなかったんだけど、ここまで期待されてしまったら渡さずにはいられないな。
「漫画はありませんが、お菓子はありますよ。アランさんがいないのであれば、レイチェルさんはいますか?」
「レイチェルはいる! やったー! おっかし! おっかし!」
「お菓子の前に、レイチェルさんを呼んできてください。ちゃんと帰りにお渡ししますので」
「分かった! ちょっと待ってて、すぐに呼んでくるから!」
ウッキウキのジョシュ君は、駆け足でレイチェルさんを呼びに行ってくれた。
お菓子で釣っている形だけど、素直に動いてくれるのは助かる。
「おい、ジョシュ! 引っ張るな! 一体なんだってんだよ……って、ああー! 佐藤さんじゃん」
「レイチェルさん、お久しぶりです。いきなりやってきてすみません」
「やはり急な来訪だったよね? アポがあったのを忘れちゃっていたのかと思った」
「時間がなく、アポなしで来てしまいました。今から少しだけお時間をもらうことってできますか?」
「アランはいないけど大丈夫? 私だけなら話を聞くことができるけど」
「はい。あとでレイチェルさんの方から、アランさんに話していただけたら大丈夫です」
「分かった。じゃあ、中に入って」
レイチェルさんに案内され、私は応接室へと通された。
ジョシュ君はすぐにでもお菓子をもらうため、私の傍を離れなかったんだけど、レイチェルさんに怒られてしまっている。
「ジョシュ! ちょっとだけ外で待ってて!」
「やだ! 俺も一緒に話をするんだ!」
「駄目! わがまま言うと、アランに言いつけるからね!」
「アランさんを出すのはずるいぞ! レイチェルのばかー!」
ジョシュ君は捨て台詞を吐きながら、応接室から飛び出していった。
私からすると可愛いという感想しか出てこないけど、レイチェルさんは大変そうだなぁ。
「佐藤さん、迷惑かけてごめんね。本当に言うことを聞かなくて困る」
「あのぐらいの年齢なら仕方ないですよ。ただ、そう考えるとアランさんは凄いですね」
「うん、アランは別格。子供でも凄いって分かるんだからね。っと、アランの話は置いておいて、今日は何の用で来たの? もしかして……契約を早めに切りたいってこと?」
何か覚悟が決まったような表情でそう言ってきたレイチェルさん。
その真逆なんだけど、レイチェルさん的には手ごたえを感じていないのだろうか?
「いえ、違いますよ。何ならその逆で、契約の延長と報酬の増額を提案しに来たんです」
「……えっ!? 報酬の増額!? なんで? あの本、売れてるの!?」
「お陰様でかなりの売れ行きになっています。レイチェルさん的には手ごたえはないんですか?」
「精力的に宣伝をしているつもりだけど、手ごたえは一切感じていないかも。それは私だけでなく、アランもそう言ってたからさ」
まぁ私たちですら、宣伝に効果があるか確信を持ててはいないもんなぁ。
実際に売っていないレイチェルさんやアランさんが、疑問を持ってもおかしくないと思う。
「私としても確信的なものはないのですが、ちゃんと売れている上に冒険者のお客さんも多いみたいですからね。引き続き、【ドランクバンク】さんたちにお願いしようと決めたんです。アランさんにどうするかを聞いてもらえないでしょうか?」
「アランに尋ねるまでもないって。もちろん引き受けさせてもらうよ。こんなに割のいい仕事はないくらいだし。というか、報酬の増額がなくても引き受けるよ?」
「いいんですか? ありがとうございます。報酬も引き上げさせていただきますので」
「こっちこそ本当にありがとう。アランにもしっかり伝えておくから」
私はレイチェルさんと握手を交わしてから、応接室を出た。
そして、帰り際には心待ちにしていたような表情をしていたジョシュ君にしっかりとお菓子を渡し、喜んでくれている獣人族の子供たちを見てから、気分よく後にしたのだった。